VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 13 "Road where we live"






Action21 −船出−






 ペークシス・プラグマの完全復活により、ニル・ヴァーナの動力は回復。エネルギーの最大出力が可能となり、システムも立ち上がる。

全部署の主な施設にエネルギーが供給され、ようやく目が覚めたように動き始めた。

照明や空調は勿論の事、ニル・ヴァーナに搭載されている武装やシールドもこれで万全な状態で使用出来る。

機関部のパルフェより伝えられた朗報は、マグノ海賊団全員にようやく明るい兆しを見せた。


「……何とか、なりましたわね……」

「疲れた」


 黒の三角巾に白のエプロンの少女と、エステシャンの制服を着る女性。

清潔の象徴である白もドス黒い汚れに染まり、綺麗な顔にも疲労の汗に滲んでしまっている。

ペークシス・プラグマを復旧させるには、排出用のバイパスより反転させたエネルギーを放出して不純物を吐き出さなければならない。

その瞬間圧力バランスは崩壊し、ガス惑星の重力による外圧は一気にニル・ヴァーナに襲いかかる事になってしまう。

敵の攻撃で半壊したニル・ヴァーナでは、強大な圧力に耐える術などない。支えを失った家は倒壊するのみだ。


代わりに、人が支えとならなければならない。


「こんな心臓に悪いイベント、今回限りにして欲しいわ」

「ぼやかないの。次は楽しいイベントを計画するから、ね?
三人の男も加わって……今度こそ全員が仲良く盛り上がれる祝賀会なんていいかしら」


 明晰に計算された策などない。泥臭くとも一生懸命、働くだけだ。力いっぱい、自分の出せる全力で船を修理する。

各部署の幹部達が先頭に立ち、被害状況を確認。呑気に構えている面々を叱咤して、尻を叩いて作業をさせる。

崖っぷちに追い詰められて、ようやく自分の過ちを知った者達。誰かに責任を押し付ける暇もなく。


人生を諦めるには、若すぎて。絶望の中に、救いを求めて。


「はい、お水です。ごめんなさい、簡単に食べられるものも作りたかったのですが、時間がなくて」

「ははは、こんな美味しい水初めて飲んだ気がするよ。ありがとう、料理長。
……そういえば毎日の警備にも夜食を用意してくれていたよね、アンタ。きちんと礼を言ってなかった。

感謝していたのに、何時しか当たり前のように思って……馬鹿だね、こんな時にようやく気づくなんて」


 考え方は人それぞれ。立場もなにもかもが違う、別の人間。同じ生活を共にしていても、生き方はまるで異なって。

生きる為に一致団結し、同じ屋根の下で生活していた者達。男という別の要素が加わって、ようやく一人一人の違いに気づけて。

揉めに揉めた。荒れに荒れた。自分の生き方を変えてしまう因子を、何がなんでも拒絶しなければならない。


そんな余裕ある選択肢も、結局は断たれた。選択は一つ、生きるか死ぬか。


「他人に命運を託すというのも、生きた心地がしないものじゃな。己の手の届かないところで、自分の生死が決まる。
儂もまだまだ未熟じゃな……お主のようにドッシリ構えておれん、ガスコーニュ」

「アタシは信じていただけさ。自分の可愛い部下と頼もしい仲間を、ね」


 一人では無理だから、二つの手を繋いで。二人では不可能だから、仲間で輪になって手を結んだ。

それは、マグノ海賊団が結束された理由。国家を脅かす義賊の根源だった。

何故、忘れていたのだろう……? 何故、思い出せなかったのだろう……?


故郷を追い出されて、一人では生きていけなかったから、仲間を必要としたあの頃を。


どの人間も例外ではない。賛成派や反対派なんて関係ない。

マグノ海賊団に所属している者は、誰であれ同じだ。この厳しい世の中で、一人で生きていけない人達が集まっている。

男だとか、女だとか、より好み出来る身分ではない。誰もが皆欠陥品、不完全に生きている。

自分の欠点を忘れたところから、崩壊は始まった。組織が成り立っていた理由を除外すれば当然だ。

危機的状況に陥った、今のニル・ヴァーナと同じ。マグノ海賊団を支えていた柱を失えば、倒れるだけ。

生きる理由を取り戻して、彼女達はマグノ海賊団となった・・・・・・・・・・


「……後は頼んだわよ、カイ……失敗したら許さないから」


 疲労困憊の女性達。短時間でニル・ヴァーナを完全とはいかなくても、修繕に成功した。

マグノ海賊団だからこそ出来た、偉業。彼女達だから起こせた、奇跡。

ペークシスとニル・ヴァーナの復旧で、圧壊の危機は去った。当面の危機は去った。


だが、今も彼女達は重力と電磁波の檻の中。篭城する惑星の外は、無人兵器の大群と地球母艦。


船を支える人員に、船の外の脅威を取り去る手段はない。彼女たちの仕事は終わった。

束の間、彼女達は休息を取る。自分のやるべき事をやった満足感と、作戦の成功を祈って。
バトンは、託された。 
















 ニル・ヴァーナの危機は去ったが、肝心要の作戦が完了していない。ガス惑星の恒星化である。

ヴァンドレッド・ジュラがシールドを最大範囲で展開、惑星の圧縮を進めている。

メイアにバーネット、ディータが三方位からビームを発射、中心核に向けて休まずに攻撃を続けている。

だが、惑星は一向に変化しない。人間がどれほど手を加えても、自然は変えられない。


「惑星軌道上に、敵艦が続々と集結していきます!」

「ヴァンドレッド・ジュラ、ダメージ増大!」

「っ……」


 アマローネとベルヴェデールの報告に、マグノも表情を硬くする。気を呑むが、メインブリッジからはどうにも出来ない。

セルティック・ミドリのコンソール操作により、メイア達とカイ達の様子が赤裸々に公開されている。


惑星軌道上で無人兵器の集中攻撃を浴びせられているヴァンドレッドは、酷い状況だった。


シールドによる惑星の圧縮に集中して、敵への攻撃は一切行えない状態。

ただ黙って攻撃を受けるのみ、最低限のシールドは張っているが無傷とはいかない。

艦とリンクするカイは血を流し、傷を増やし――それでも泣き言の一つも言わずに、ただ耐えている。


作業の遅いメイア達に、一切文句を言わない。ニル・ヴァーナのマグノ達に愚痴も泣き言も零さない。


彼はただ一途に、仲間を信じていた。自分に再びバトンを渡してくれると、疑いすら持たずに耐えていた。

あくまで信頼する様子を、仲間達は皆見ている。彼の気持ちを、彼女達も疑っていない。


彼の流す血が証明している。彼の発した言葉が真実を訴えている。


だからこそ、彼女達もまた泣き言はいわない。一番傍にいるジュラも、血と汗に染まる彼に嫌悪なぞ微塵も抱かない。

本来なら自分も負うべき負傷を、今彼は一心に浴びている。善意ではない、責任だ。

仲間を苦境に陥れた自分の未熟を恥じ、今度こそ守るのだと固く心に誓いを立てている。その責任が、苦痛を耐える力となっている。


「カイ、もうちょっとだからね。バーネットはね、ジュラの最高の親友なの。
リーダーはこのジュラの上司だし、ディータだって新人のくせに随分強くなってる。

あの娘達ならきっと、やってくれる。それまで頑張って」

「ああ」


 ジュラは気付いていない。その励ましが、その涙混じりの笑顔が、どれほど少年を救ってくれているか。

自分は一人ではない。自分が倒れれば、目の前の女性が血に染まる。それは絶対に、許されない。

誰が許そうと、自分が許さない。初めて見惚れたこの綺麗な笑顔を、守りぬく。


カイとジュラが真に一体となったその時こそ――ヴァンドレッド・ジュラ、この融合機は力を発揮する。

"守りたい"、その想いが死神の鎌すら砕く鉄壁の防御力を生み出す!


ガス惑星を包囲するシールドが蒼碧の光に輝き、重力すら屈服させる力を発揮する。


カイとジュラが仲間を信じたように、メイア達もまたカイやジュラを信頼していた。

惑星の重力にドレッドが押し潰されようと、張っていたシールドが悲鳴を上げようと。

彼女達は微動だにせず、恐怖に操縦桿を震わせずに、一点集中。中心核に向けて、微塵の狂いもない攻撃を続けたのだ。


その恐るべき集中力こそが、仲間への信頼の証。


固くなに信じ続けた気持ちが、三方位からの一点集中を可能とした。

絶望的な環境下での精密な射撃――パイロットとしての一つの境地に、メイア達は辿り着けた。


それは、二つの力が生んだ奇跡。

ジュラとカイの想い、男と女がお互いを信じたからこそ切り開いた未来。



「やった! 中心核、点火しました!!」



 男と女の一途な力が効果を発揮して、惑星の中心を打ち砕いた。人間の想いの力が、自然の法則を変えたのだ。

破壊された中心核は爆発を起こし、惑星内部を高熱の炎で染め上げる。

苦境を目を逸らす事なく見届けたマグノの決断は早い。


「一気にずらかるよ。バート、急速転舵!!」

『了解!』


 守から攻へ。耐え忍んでいた人間が、ようやく立ち上がった。

絶望から這い上がった人間達が、反撃に出る。



苦境からの船出――彼女たちの進む航路は、赤く燃えている。






























<to be continued>







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