VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 13 "Road where we live"
Action19 −大嵐−
マグノ海賊団頭目、マグノ・ビバン直々の作戦開始の号令。
老僧の女傑からの言葉を聞いた戦士達は、自分の役目を果たす為に行動に移す。
ガス惑星外へと飛び出したヴァンドレッド・ジュラは、八つのクリスタルを惑星の軌道上へと配置。
見事な操作で円盤を適所に展開させて、男と女のパイロットは頷き合った後に同時起動させる。
八つのクリスタルより放たれた光はシールドを発生、ガス惑星を完全に包み込んだ。
星一個分を覆うシールドの強大なエネルギー波が内側に働き、質量不足の惑星を圧縮する。
恐るべき圧力を突如かけられた惑星は急速に歪み、惑星の重力も手伝って圧縮されていく。
急速に高まり続けるこの内圧こそ、作戦第一段階の合図――
同時刻、惑星の最深部へ到着した決死隊。
外部からの急激な圧力を機体を通じて感じ取ったメイア達は、三方向へ展開。
ガス惑星の最秘奥である、中心核。流体金属状の重水に守られた核を、三機のドレッドが包囲する。
メイア、バーネット、ディータ。三人に確認の合図は必要なかった。命懸けの任務、言葉が無くても通じ合える。
惑星の心臓目掛けて――ビームの槍を突き刺した。
「惑星中心部、密度上昇中!」
「圧縮効果によりガス惑星内の圧力、上昇!」
作戦開始と共に行動に出たカイ達の戦果を、アマローネとベルヴェデールが報告する。
彼女達より届けられる状況報告はメインブリッジのみならず、ニル・ヴァーナ全域に伝えられていた。
地球母艦破壊を目標とした、大戦略。男女関係の集大成とも言うべき、この作戦。全員が主役であり、要である。
宇宙という大きな舞台に命懸けに立つ役者達に、ナレーションを入れるのは当然の義務だった。
無論、この男も主役の一人である。
「っ――まだなのか!?」
ニル・ヴァーナの操舵手、バート・ガルサス。舵取り役が、傷だらけの顔に汗を滲ませている。
作戦の第一段階である恒星への進化には、不足している質量を補わなければならない。
その為惑星全体を掛けて内圧を高め、質量を増加させる必要がある。
当然ガス惑星全土に圧力が掛かれば、内部で篭城しているニル・ヴァーナにも強い圧力が加えられる。
ヴァンドレッド・ジュラのシールドが惑星を通じて、本艦を握り潰している形である。
先の敗戦で甚大な被害を被った融合戦艦では、圧力と重力の相乗効果に耐えられない。
ニル・ヴァーナ本艦、のみでは。
『のんきに言わないでよ!?
圧力が高まっても着火に失敗すれば、元も子もなくなっちゃうんだから!』
弱音を吐きそうになった男に、アマローネがハッパかける。優しく慰めるより、熱く励ました方がよいと理解した上で。
圧壊の危機に陥っているニル・ヴァーナを、バートが中心から必死で支えていた。
ニル・ヴァーナと密接にリンクする彼は融合戦艦の大黒柱、柱が折れれば家は崩れ落ちる。
「へいへい……分かりましたよ」
同僚からの辛口な激励に、バートは苦笑いを浮かべた。アマローネなりの心遣いが、とても嬉しかった。
四方八方から圧し掛かる重力と惑星の圧力、バート・ガルサスを支える背骨がギシギシ軋んでいる。
船の傷みは彼の痛み――惑星全体より伝わる圧力ともなれば、その圧迫感だけで肺まで握り潰される。
体が弱い人間ならば当の昔に圧死する力に、バートは歯を食い縛って耐えていた。
バートが、超人だからではない。タラークでは仕官候補生ではあるが、彼自身は普通の人間と断じていい。
そんな彼が巨大な戦艦を支えられているのは――
「――カイ、ちゃんとやれよ」
同じ痛みに耐えている、戦友がいるから。
「ぐうううぅぅぅ……!!」
ガス惑星の外、重力圏内より離脱した二つの機体。カイ機とジュラ機、合体したヴァンドレッド。
彼らはシールドでガス惑星をコーティング、シールドで圧力を加えている側である。当然、圧壊の危機とは無縁である。
だが安全圏に居るのかと言えば、答えはノーだ。彼らにも圧力が加えられている。
ガス惑星を包囲していた、地球艦隊。無人兵器の大群が、ヴァンドレッド・ジュラに集中攻撃を加えていた。
「キャッ!? くっ……こんな汚れ役、本当は嫌なんだけど――」
ヴァンドレッドを構成する要であるジュラが毒つくが、歯切れが悪い。愚痴なんて言えない。
――全身血に汚れている男が、顔を真っ赤に染めて耐えているのだから。
バート・ガルサス同様、カイ・ピュアウインドも機体とリンクしている。
ヴァンドレッド状態になれば繋がりは強くなり、操縦性を含めた性能が上がる分機体の状態とシンクロしてしまう。
今、ヴァンドレッド・ジュラは惑星の圧縮に全機能を費やしており、攻撃も防御も行えない。
ガス惑星が恒星化するまでは一切の手出しが出来ず、逃走も回避も許されない。
大きな惑星全体に圧力をかける作業だ、僅かな位置や操作のズレでコントロールが狂ってしまう。
そうすれば内部に居るニル・ヴァーナやメイア達に悪影響を及ぼし、作業も大幅に遅れる。
作業が遅れれば遅れるほど、決死隊の生存確率は低下する。逆に作業がはかどれば、安全に脱出する時間も増える。
カイはただ必死に耐えていた。愚かなまでに、無我夢中で。
血を流して耐えるカイを傍で見つめ、ジュラも悲鳴を噛み殺す。涙が出るのを必死で堪えていた。
――限界なんて、既に超えている。
ディータの記憶退行以降、カイは休息も許されずに戦い続けていた。
マグノ海賊団と戦い、地球母艦と戦い、無人兵器と戦い――悪夢のような現実と、戦って。
撃たれた傷から血は流れ、削られた傷からに汗が滲み、殴られた傷から痛みが生じる。
無事な箇所など、一つも無い。見るも無残な有様、死んでもおかしくはない。
疲労すら重い圧力となって、カイを蝕んでいる。海賊であるジュラでも、これほどの重傷者は見た事はない。
彼を支えているのは、何か――分からないほど、愚かではない。彼が命懸けで守ろうとしている、仲間の一員なのだから。
ジュラ・ベーシル・エルデンは、カイ・ピュアウインドの手を握る。
「カイ……スマイル、スマイル」
自分は、笑えているだろうか……? 否、笑わなければならない。
汚らわしい男の手? 血に染まった、酷い傷の手? それが、どうした!!
このゴツゴツの手が、これまで力強く自分を支えてくれた。大切な仲間を、守ってくれた。
自分が汚れるのもかまわず、ジュラは強く握り締める。力を与えるために。
少しでも元気付けるために、必死に微笑みかけた。
見つめ返すカイの瞳に……優しい色が浮かぶ。
「金髪、お前……いい女だな」
痛みと疲労に震える手で、必死で握り返した。傷ついた体に力が漲ってくるようだった。
今初めて、心から――ジュラを綺麗だと思った。タラークが嫌う女とは、天使のように美しい存在だ。
女性からの最高の笑顔は、金銀の宝石よりもずっと価値がある。自分が命をかけて、守る価値が。
奪われてなるものか、死なせてなるものか。沈んでいた少年の瞳に、炎が灯る。
男と女は手を取り合って、お互いに支え合った。
想定の範囲内ではあるが、やはり惑星の恒星化ともなれば作業は難航した。
中心核への三方同時射撃、一億度のマッチの点火作業は継続されている。
外部からの圧力で渦巻く重力に翻弄されながらも、必死で機体を操作して。
『!? ディータ、ポイントがずれた!』
「えっ!? あ、あう……」
熟練のパイロットでも難航する作業、新人ならば尚更上手くはいかない。
どれほどの決意と覚悟があっても、持ち前の技量に大きな向上が見込める筈もなく。
ブリッジよりアマローネに指摘されて、不安定な磁場の中でディータは機体を操作するが、的確にポイントが定められない。
「……っ!」
衝動で操縦桿を叩き付けそうになり、何とか自制する。
今まで同僚からもグズだのノロマだの文句を言われた事があるが、この時ほど自分の未熟さを悔やんだ事はない。
頼もしい仲間が居るから平気、カイが居るから大丈夫――その甘えが、今日のミスを生んだ。
仲間から散々指摘されていたのに、どうしてきちんと訓練しなかったのだろう? 呑気な自分が、腹立たしくて仕方ない。
『ディータ! この馬鹿、落ち着きなさい!』
「バーネット!?」
『三方同時射撃は、三機の位置次第よ。ゆっくり立て直せばいいの』
バーネット・オランジェロ――常日頃ディータの愚鈍な面に苛立っていた女性の、一人。
陰口だけではなく、正面からディータによく怒鳴り散らしていた。
そんな彼女がこの極限下において、厳しくも優しく指南してくれている。
『ディータ、上へ0.3度修正』
そしてディータの駄目な部分をいつも改善しようとしてくれた、メイア。
部下の失敗をただ非難するだけでは、成長しない。失敗したのならどう修正すればいいのか、一緒に考えるのも彼女の役目。
メイアはディータにとって、理想の上司だった。こんな時でも、彼女は何も変わらない。
先輩と上司――共に死地へと旅立ってくれた二人に、ディータは心から感謝する。
「はい!」
いつの間にか、安定して機体を操縦出来ていた。パニック気味だった頭も冷える。
急ぐ必要はあるが、焦る事はない。気負わず、自分の作業に専念する。
メイアやバーネット、カイやジュラ――ドジな自分を生かそうとしてくれている仲間の為にも。
自分の仕事を、必ずやり遂げる。そして今度こそ、駄目な自分を直していこう。
『圧壊まで3分を切りました。シークエンス、移行してください!』
作戦の第一段階は終了、第二段階へと移行される。
第一段階は危険や不安こそあっても、心配はなかった。これまで苦境を共にした、戦士達が行っているのだから。
ここから先が、苦難――
シークエンスの移行に伴い、外へ出陣した戦士達よりバトンが手渡される。
――これまで仲違いして来た、反対派へ。
艦内で見ていただけの非戦闘員、彼女達の出番である。
男から手渡されたバトンをもし受け取らなければ、その時点で作戦は失敗。男女共同関係の決裂、この旅の終わりが待っている。
メジェールの常識を選ぶか、男を選ぶか――今こそ、問われる。
ここが、いわゆる正念場。
<to be continued>
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