VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 13 "Road where we live"
Action18 −星核−
『リスクを分散させればいい』
地球母艦破壊を目的とした、男と女の組み立てた大戦略。その作戦の第一段階について、副長は語る。
犠牲者を一人も出さない為に。無謀で無茶な、けれど気高い目標を立てる若者達に。
自分の知識と経験を総動員して、彼女はこの場に集った戦士達を厳しく諭す。
『データによると、この惑星は恒星に成りかけの星だ。現在の不安定な状態が、質量不足によるものだろう。
その不足する質量を加えてやれば、惑星は恒星へと変化する筈だ』
『恒星化を早める事は、中心核の破壊に向かう赤髪がやばいんじゃねえか?』
『星全体が燃焼する前に、ヴァンドレッド・メイアで回収すればいい。問題は、その燃焼へ至る時間だ。
最早隠せる事ではないので言うが、現在ニル・ヴァーナは圧壊の危機に陥っている。
ペークシス・プラグマの出力が安定していないのもあるが、一番の理由はこの惑星の重力だ。
惑星の中心核付近は、最も磁場が荒れ狂っているだろう。中心核の破壊に時間をかけ過ぎれば、ドレッドのシールドがもたない。
お前の立てた作戦を皆が危険視する理由が少しは飲み込めたか、カイ』
決死隊に志願したディータが死を覚悟したのは、二つの理由からである。
一つ目は言わずと知れた恒星化の爆発、惑星から恒星に変化する際星全体が火の海と化す。
少しでも逃げ遅れれば、中心にいるディータはドレッドごと灰となる。
もう一つの理由はブザムが指摘したように、中心核破壊に費やす時間である。
重力場の世界の中では、強固なシールドと装甲を持つニル・ヴァーナでも長時間もたない。
ましてドレッド程度の小さな機体では、シールドを張っても危険だろう。中心核への精密攻撃ともなれば、時間もかかってしまう。
逃がせばいいというものではない。作戦が成功しなければ、全員が死ぬのだ。
一人一人に目を向けるのもいいが、仲間全員を助けるならば全体的な視野を持たなければならない。
経験不足、未熟であるがゆえに、ブザムはカイを叱咤した。
「カイ・ピュアウインド、出撃する」
整備班が改修してくれたSP蛮型"ヴァンドレッド"を駆りだして、カイはいよいよ戦場へと飛び出した。
味方のペークシスと敵のペークシス、二つの結晶を搭載した機体が輝かしい光を発する。
ペークシス・プラグマの同時起動、相反する二つの力は驚くほどの適合を見せた。
「二度目の出撃だけど、調子はいいな。敵さんから奪ったペークシスだから、暴走の危険もあったのだけど」
『マスター、御安心下さい』
『ユメがいるから、絶対に大丈夫! ますたぁーを応援するんだもん、ガンバレー!』
一つのモニターに映る二人の少女が理性的に、感情的に激励を送る。
危険度の高い作戦だが、綺麗な女の子の笑顔を見ると力が湧いてくる気がした。
恐れていた惑星の重力による影響も少なく、確かに守られているようだ。
『カイ、我々は発射ポイントへ向かう。無理はするなとは言わないが、無茶だけはするな』
「どう違うんだよ、それは……?」
『宇宙人さん、気をつけてね。すごい怪我なんだから」
激戦による疲労と怪我――この戦いに負ければ、今度こそ死ぬだろう。
篭城中少しは休めたが、こんな事態でなければ友人のドゥエロでも出撃の許可は出さなかった。
遠距離兵器ホフヌングの臨界突破で、カイは一度死んでいる。生還出来たのは、天文学的な可能性が生んだ奇跡でしかない。
今度の人生で過去への回帰など、永遠にありえない。その過去で、カイは腹を括ったのだ。今と、心中する事を。
やり直す機会を棒に振り、厳しい現実を選んだ。ならば、新しい未来を自力で掴むしかない。
『バーネット、後は頼むわよ』
『――任せて』
過去に決着をつけたのは、この二人も同じ。単純な仲違いではなく、両者共に譲れない理由で一度は袂を分かつ。
消化しきれていない気持ちもある。顔を寄せ合えば、まだまだ気まずくなる。少なくとも、親友同士だった昔には戻れない。
ならば敢えて過去には目を向けず、やりきれない今と向き合う決心をした。新しい関係を築くべく。
言葉少なく、二人はそれぞれの役割を全うするべく出撃する。笑顔で、再会する為に。
『行くわよ、ジュラの見せ場!』
「こら、一人で行くな!?」
融合戦艦ニル・ヴァーナより発進した、メイア達のドレッドとカイのSP蛮型。
本作戦に置いて、ドレッドチームの出撃はない。彼女達はニル・ヴァーナの護衛役として、艦内で待機している。
前回の敗戦で、ドレッドもパイロットも半数近くが倒されている。死傷者こそ出ていないが、出撃不可能な人員も多い。
痛手を負ったまま無理に出撃しても、戦力にはならない。
海賊として故郷で暴れ回ってきた血の気も多い彼女達も、仲間の足を引っ張るほど愚かではない。
敵を倒すのではなく、味方を守るべく彼女達はカイ達を見送る。隣に立てなくとも、帰る場所だけは守れる。
――頼もしき仲間達に見送られ、カイとジュラは今一つとなる。
ヴァンドレッド・ジュラ。防御力に特化した、蟹型の合体兵器。マニピュレータ状のアームと、八つのクリスタル円盤を武器とする。
真っ赤なボディに彩られた機体を、クリスタルより放出した光が包み込む。この合体兵器自慢の、全方位シールドである。
鉄壁を誇るシールドが重力と電磁波から機体を守り、ヴァンドレッド・ジュラが惑星の外へ向けて発進する。
「全機、ポイントに向けて移動中です」
見送っているのは、パイロット達だけではない。メインブリッジでは、彼らの雄姿がメイン画面に大きく映し出されている。
ブリッジクルーは観測データから彼らの行動を割り出し、マグノ海賊団のお頭や副長に報告を行う。
出撃したカイ達を画面越しに見つめ、法衣を纏った老女は祈るように呟いた。
「急いでおくれ……時間がないよ」
目を伏せるマグノだが、その表情に心配こそあれど不安はない。
逆境に強い彼らを信じている事もあるが、ブリッジに戻ったブザムより作戦内容は聞かされているからだ。
カイ達の立てた作戦を、ブザムが助言して実現可能な段階に仕上げた事も――
『足りない質量を加えればと簡単に言うけど、どうやって補うんだ。星の質量だぞ?』
『ヴァンドレッド・ジュラの特化された機能を用いればいい』
『も、もしかしてジュラが大活躍出来る!?』
『お前は分かってないくせに、目を輝かせるな!? ヴァンドレッド・ジュラ……そうか!』BR>
『そう、ヴァンドレッド・ジュラのシールドだ』
誕生したヴァンドレッド・ジュラは星の重力をものともせずに、重力圏の外へと飛び出す。
戦場で、篭城する城から武将が迂闊に飛び出せばどうなるか――結果は、分かりきっている。
惑星全体を包囲していた無人兵器の大群が、一斉に襲い掛かって来た。
「あいつら……あれだけ倒したのに、もうこんなに数を増やしていやがる!?」
「アンタが居ない間に、ジュラ達だっていっぱい敵を倒したのよ!
何よ、この理不尽――まとめて叩かないと駄目なのね、こいつらは」
「その為の作戦だ。行くぞ、金髪」
「分かっているわよ。シールド――」
「「展開!!」」
宇宙を埋め尽くす敵など、見向きもしない。カイもジュラも、雑兵には何の関心もない。
紆余曲折、自分自身の至らなさや過ちを認識し、現実から目を逸らす事を止めた彼らの瞳に濁りはない。
本当の敵を倒すために、男と女は今本当の意味で手を組んだ。
展開された、ヴァンドレッド・ジュラのシールド――その効果範囲は、雄大な空さえも覆い隠す。
巨大な惑星を完璧に包み込み、八つのクリスタルが各配置についた。
キューブ型を筆頭に無人兵器が怒涛の攻撃を行うが、ヴァンドレッド・ジュラのシールドは破れない。
360度のマルチスクリーンを前に、カイもジュラも急ピッチでコンソールを操作する。
彼らの操縦に従って、シールドが――ガス惑星を、圧縮する。
『シールドで惑星全体に圧力をかければ、急激に高まった内圧により質量が増大する』
『ヴァンドレッド・ジュラのシールドの防御力を、逆手に取る訳か……
外からの攻撃による力を跳ね返すのではなく、逆に内側へと力を向ける』
『そこにバーネット達が点火すれば、星が大爆発するという事ね! 凄い、凄いです副長!』
『――喜ぶのはいいが、惑星内に居るバーネット達にも負担がかかるという事を忘れるな』
第二医務室でブザムの話を聞いたバーネット達も、今惑星の中心部に辿り着いた。
惑星の外へ出たカイ達がシールドを張り、ガス惑星の圧縮を開始した事は分かっている。
メイアにバーネット、ディータの三機は作戦通りの配置に展開して、惑星の中心核を包囲する。
『お星様の中心に来れる日が来るなんて、思わなかったです』
『そんなロマンティックな場所でも無いけどね……』
『――確かに、人が踏み入る領域ではないな』
惑星の中心部では、重力に押し固められた流体金属状の核が存在している。
地上に居れば遠めにしか見えない星の最深部、その存在感は独特のものだ。
強力という言葉すら生温い重力がドレッドを蝕み、圧力で踏み潰そうとしている。長時間いれば、船も人も壊されてしまう。
ディータ一人ならば、作戦が成功しても確実に死んでいた――メイアの背に、冷や汗が流れる。
同時にブザムの見解に、改めて尊敬の念を抱いた。自分達だけでは、この任務は達成出来なかった。
大人達の強さを思い知るのと同時に、一人に拘っていた自分を恥じる。
絶対に生きて帰る、ディータやバーネットと一緒に――今度こそ守ると、胸に誓う。
「ヴァンドレッド・ジュラ、作戦ポイントに到着」
「ドレッド全機、配置につきました!」
アマローネとベルヴェデール、二人の報告がメインブリッジに響き渡る。
これで一安心ではない。作戦はまさに、これから始まる。危険なのはむしろここからなのだ。
ブザムが傍らにつき、マグノの号令を待つ。彼女の命令一つで、部下達が命を懸ける。
マグノは、瞑目する――
"絶望から顔を背けて何を見る! 厳しい現実を乗り越えないで何が語れる!!
生きる事にこそ理由がいるんだ……死ぬのに、言い訳なんか必要ない!!"
カイの言葉は、マグノ海賊団全員に伝わったであろう。
彼の意思が皆に響いた時、彼女達がどう行動するのか――こればかりは、一人一人にかかっている。
確かなのは、この戦いは全員が主役となる戦争。全ての者に、責任と覚悟が必要とされる。
ここで一致団結しなければ、全ては終わる。男と女が、心から協力し合わなければならない。
真価が問われる。この旅で学んだ事の、全てが。
半年間に意味がなかったというのであれば、此処で死ぬのは自明のこと。
マグノ・ビバンは克目する。迷う事すら、許されない。自分の孫を戦場へ送り出す、愚かな自分を恥じる事も。
地獄に落ちる覚悟は、当に出来ている。
死地へ旅立つ彼らの背を、心強く押してやらずして――何が、海賊のお頭か。
「作戦、開始!!」
<to be continued>
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