VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 13 "Road where we live"






Action8 −元来−






 ドレッドチーム全機とカイ機、融合戦艦ニル・ヴァーナに収容完了。

刈り取り兵器の大群を率いる地球母艦に大敗したが、どうにか死傷者を出さずに撤退する事が出来た。

殿役を自ら申し出て敵を足止めしたカイ、半壊したニル・ヴァーナを復活させたバート、負傷を負ったクルーを治療したドゥエロ――

袂を分かった男達の活躍が、女性陣を救ったのはまぎれもない事実だった。

重力と電磁波の世界――ガス星雲に篭城した男女。逃げ場のない状況は、否が応にも両者を向かい合わせる。


「宇宙人さ〜〜〜ん、おかえりなさ――痛っ!? どうして殴るのぉ?」

「……俺達を悩ませた張本人に、気軽に笑顔向けられると腹が立つ」


 今も負傷した頭に包帯を巻くディータに拳骨は酷いが、同じく帰艦したバーネット達も全員頷いている。

男女決裂の最初のきっかけとなった張本人は、訳が分からないといった顔で涙ぐんでいる。

その様子を見ていた彼女の主治医は苦笑気味でとりなした。


「どうやら精神退行していた時の記憶はないようだ。
出来ればまだ入院していて貰いたいが――本人たっての強い希望でね、出撃を要請された。
記憶の無い時の出来事を全て聞いて、静かに休んでいられなかったらしい」

「ドゥエロ……お前がディータを救ってくれたのか。ありがとう……本当に、ありがとう」

「――私は自分の職務を全うしたまでだ。
それに、ディータ・リーベライ。彼女の純粋で強い想いが無ければ、元には戻らなかっただろう。

彼女は良い仲間を持った。この厳しい現実に敢えて戻ろうとするほどの、大切な友人達を」


 不慮の事故で頭を負傷し、精神退行したディータ・リーベライ。彼女を救わない限り、男女の溝は決して埋まらない。

ドゥエロ・マクファイルもまた、地球母艦打倒には男女の共闘が不可欠だと確信を得ていた。

また彼はこの艦の船医を任せている身、心身に痛手を負った者をそのままになど出来なかった。

彼の取った治療とは一種の催眠療法――意識を催眠状態にして、暗示やイメージによって精神の病を治す治療法である。

幼心に戻ってでもカイを慕う強い気持ち、仲間を案ずる優しい心。

専門外の分野で下手をすれば悪化する危険性もあったが、ドゥエロはディータの純粋な想いにかけてみた。


失敗すれば腹を切る覚悟はあったが……第三世代エリートによる心の"手術"は見事、成功したのである。


「ドクター、私からもお礼を言わせてくれ。
ディータを救ってくれた事――そして、パイウェイを命懸けで助けてくれた事を。

……私は……」

「患者を救う事が、私の仕事だ。気にしなくていい……と、責任感の強い君に言うのは酷だな。
君に――君達に感謝の気持ちがあるのなら、私の指示に大人しく従ってもらおう。

繰り返すが、此処に居る全員・・・・・・・だ。物陰に隠れている君達も含めて」

「隠れている……? あっ、お前ら!?」



『あはは……お、お帰りなさい……』



 カイ機を筆頭にメイア達の改良型ドレッドが収容されている、主格納庫。

デリ機によるシールドの保護で無事ガス星雲内のニル・ヴァーナに帰ったカイ達を待っていたのは、ドゥエロやディータだけではない。

カイを心から待ち侘びていたのは、彼をよく知る女性達。


マグノ海賊団主力、ドレッドチームのパイロット達であった。


うら若き乙女達は皆、傷だらけ。無傷の人間など一人もおらず、中には明らかな深手を見せる者達もいる。

医務室を抜け出してまで一人残らず駆け付けたのは、仲間を迎える為。

男女決裂前からカイと共に戦い、時には命を預け、時にはその背中を守った者達。傷付いて尚気高く、美しい女性達。

一度は本気で戦い合っただけに気まずかったのか、皆物陰に隠れて様子を伺っていたようだ。

その緊張も――洞察力と場を読むのに長けた、ドクターの前には簡単に解かれる。


「何だ、お前ら。ボロボロじゃねえか、ご自慢のツラも台無しだぞ」

「人の事言えないでしょう、血だらけのくせに。相変わらず無茶しちゃってさ……」


「はは……ただいま、皆! 無事で良かった!」

「おかえり、カイ! アンタこそ、生きてて良かった!!」


 血も汗も涙もぐしゃぐしゃにして、パイロット達が抱き合い踊り狂う。

まだまだ危機が去っていないのに、心底ホッとした顔を並べて健闘を称え合う。

メジェールやタラークの常識など、最早彼らの間に何の関係も無かった。無事を喜び合う気持ちに、邪念など似合わない。

彼女達を率いるリーダーやサブリーダー、メイアやジュラも不謹慎とは言わない。

ほんの前まで自殺や発狂寸前だったとは思えないほど、二人の表情は安堵に満たされている。


「全員って――私もよね、当然」

「退院は一時的に許可したが、どうやら私も相当追い詰められていたらしい。誤診だったと認めよう、バーネット。
今のディータより、むしろ君に精神の療養は必要だ。彼らも医務室入りだ、気負わず安心して休めるだろう」

「……静かに寝れそうに無いけどね……」


 目の前で騒いでいる仲間達を前に、バーネットは小さく息を吐いた。男でありながら、この医者は本当に侮れない。

誤診などと自分の非のように言っているが、本当なら逆である。今の自分は一人休んでいる方が危うい。

パイロットを辞めてガスコーニュの下、レジクルーとして一生懸命働いている方が何も考えずに済む。

一度は舌を噛んで死のうとまでしたのだ。精神はまだまだ不安定、寝ているだけで悪夢を見て魘される。


ドゥエロもそれは分かっている筈なのに、入院を勧めるのは――この仲間達も一緒だからだろう。


全員傷だらけの、恥ずかしい格好。みっともない顔をしているのに、見ているだけで安心できる。

中心に囲まれている男――カイを見つめ、バーネットはようやく決心した。

今度こそ逃げず、向かい合う事を。新人のディータ・リーベライが、温かい過去を捨てて厳しい現実へ戻ってきたのだ。

最後は決裂するかもしれないが、話さなければ自分の生み出す悪夢は晴れない。


(ありがとう、ディータ……まさかアンタに教えられる日が来るなんて思わなかったわ)


 戦いはまだ続く。勝てたとしても、自分の未来はまだ見えていない。

考えなければならない事も沢山あるが、それは多分この場に居る全員がそれぞれに悩まなければならない問題でもある。

彼らと共に切磋琢磨すれば見えて来る事もあるはずだ。安心して一緒に戦える、貴重な仲間達なのだから。


「では此処に居る全員、私が許可するまで出撃禁止とする。医務室で私の治療を受けてもらう。
全員ベットで大人しく休むこと。
戦闘に抵触する行為は一切厳禁、諍いは私の心象を悪くするだけと言っておこう」

「出撃禁止!? おいおい、ドゥエロ。俺達は今敵に囲まれているんだぞ!?」

「アタシ達が戦わなければ、全員死んじゃうんだよ!? 横暴だよ、横暴!」

「そんな身体で戦えば、どれほど立派な作戦があっても死ぬだけだ。
指示に従えない人間は医務室のベットに括りつけておく。

それでも出撃するというのであれば、すまないが腕ずくで対応させてもらう」


 白衣の上からでも分かる、鍛えられた体格。長身は決して伊達ではない。

文武両道な彼は知性面が先立って目立たないが、その実力は確かなものである。

彼から漂う強者のオーラに全員息を飲み、慌てて首を振った。怪我を負う自分達では、束になっても勝ち目がない。

渋々、承諾。追い詰められているのは確かだが、休むだけの時間は稼いでいる。

ガス星雲の重力圏内には、地球母艦でも侵入は困難だ。無人兵器では圧壊するのは実証済みである。

ニル・ヴァーナ本体も何時まで保つか分からないが、全員の傷の手当てぐらいは受けられるだろう。


「……さっきもラバットやウータンがいなかったらやばかったし、少し休むか。
その間に作戦考えないとな、このままじゃジリ貧だ」

「アタシらも手伝うよ、カイ。一緒に考えよう」

「やれやれ……私の医務室は、作成会議の場ではないのだがな……」


 暗い格納庫で一人悩むよりも、消毒液臭くても全員の居る医務室の方がいい。

パイロット全員が一丸となって戦う日が遂にやって来た。

全員医務室行きであるというのに、皆気概に満ちている。何よりの特効薬だと、ドゥエロは破顔した。















 ガス星雲の重力圏はニル・ヴァーナを都合良く守ってくれるものではない。自然の要塞は誰に対しても厳しい。

電磁波と重力の壁は外側からの脅威を退けてくれるが、侵入した内部のものを圧力で封じ込める。

ニル・ヴァーナは強固なシールドで守られているが、そのシールドを維持するのは謎の動力源――

未知なる結晶体、ペークシス・プラグマである。


『パルフェ! この音何とかならないの!?』


 そして、そのペークシス・プラグマを管理するのは機関室。パルフェ・バルブレアの部署である。

紆余曲折あったが、アイに強く戒められたパルフェは反省して自分の業務に集中していた。

カイの生存を知り、メイアの無事に励まされ、彼女もまた奮い立つ事が出来ている。


『圧懐の危険がある上に、ペークシスは内圧を高めてて今にもバーストしそうなの』


 彼女は現在復旧したシステムの動作検証と、ようやく再起動したペークシスの点検を行っている。

ニル・ヴァーナを支える二つの根幹が男女決裂と同時に、急停止して立ち往生していたのだ。

ようやくの復旧に我が事のように喜んだのだが、心配もしていた。


彼女にとっては機械は人間と同等――いや、それ以上の存在とも言える。


重い病気からようやく回復したばかりの我が子に無理をさせて、心配しない親などいない。

ペークシスもシステムも確かに立ち直ったが、その途端に船ごと危険な重力圏内に押し込んだのだ。

船体の軋む音すら彼らの悲鳴に聞こえて、パルフェは罪悪感に苦しむ。


『バランスでペークシスそのものは残るかもしれないけど、船体そのものは――』

『まさか――自爆!?』

『確かに今のままじゃ危ないけど、だからこそ皆で協力して……あ、コラ!』


 一方的に質問しながら、一方的に切られる。次から次へと来るクレームに、パルフェは頭を抱える。

ニル・ヴァーナの機関を任されている以上、この船の安全を守る責任がある。

そして船を支えるクルー達に説明を求められれば、嘘偽りなく答える義務もあった。


だからこそ事実を述べているのだが……クルー達は勝手に悲鳴を上げて、絶望していくのだ。


具体的な救助案はまだ思い浮かんでいないが、それは誰もが皆そうである。

全員で解決しなければならない問題なのに、自分が被害者のような顔で何もしようとしないのだ。

この傾向はまずい――パルフェは危機感をつのらせる。

この状況でパルフェにクレームを投げかける者達は、ほぼ共通している。


男達に否定的な人間だ。


カイ達と手を取り合う事を選んだ人間は、男と協力して何とか事を成そうとしている。

良い傾向にありそうなのに、まだ自分達だけで何とか出来ると考えている人間が少なからず居る。

どうにかしなければならないが、パルフェが一番に救わなければならないのは――


「――大丈夫だよ、ペークシス君。アンタは絶対、あたしが助けてみせるから」


 今度は捨て鉢にはならない、自分の職務を必ず果たしてみせる。

それが皆を救う一番の近道と信じて、パルフェは懸命にタスクをこなしていく。

厄介なバグは人間達の中に在る――機械が専門の自分ではどうしようもなかった。


彼女の懸念は、現実のものとなる。






























<to be continued>







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