VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 13 "Road where we live"
Action1 −友軍−
人は何故争うのか――その答えは人それぞれであろう。
理由があって争う者もいれば、理由もなく争う者もいる。
争いそのものを望む人間がいれば、争いを止めるために争う人間もいる。
争いは本能から生まれるのか、理性から生まれるのか――その根源は誰にも分からない。
唯一確かなのは、今この瞬間にも人は争い続けるのだという事。
そして――永遠に続く争いは存在しない。
人には始まりがあり、やがて終わりを迎える。それが絶対の法則。
そして、その法則を捻じ曲げる為に争うのもまた人間。
命終わるその時まで、人は争い続ける。
タラークの新型主力量産機「九十九式蛮型撲撃機」、カイ機の原型である蛮型。
ペークシスとメジェールの恩恵を受けて生まれ変わった機体は国を超え、宇宙の危機に勇猛果敢に立ち向かっていた。
機体各所に取り付けられたクリスタルパーツが紅と蒼の光を放ち、戦場を美しく染めている。
「ゼェッ、ゼェッ……」
シールドから十字型に伸ばす手裏剣が、高速で飛び回るトリ型に突き刺さる。
追撃を仕掛ける敵は次第に数を減らし、獰猛に暴れ回る機体を標的に変えた。
プログラムで動く無人兵器は疲れ知らずで厄介だが、脅威と認識する知性があった事には感謝した。
お陰で当初の目的通り、仲間達を無事逃がす事に成功しつつある。
「そろそろ潮時か……」
膨大な数の地球軍に単機で挑み、今も尚生き延びている事実に思い上がるつもりは微塵もなかった。
無人兵器とはいえ馬鹿ではない。経験をデータに変えて蓄積、千差万別に戦闘手段を変えていくのだ。
単調に向かってくる敵などおらず、軍事訓練や実戦経験を豊富に積み重ねた同盟軍を敗退させた。
脅威のバージョンアップを果たした機体でも、単機では戦争には勝てない。
疲労もさる事ながら、殿役のパイロットは怪我の状態も酷かった。
『ますたぁー、大丈夫? 痛そう……死んじゃったりしないよね……!?』
「この程度じゃ死なねえよ。唾でもぬっとけば治る」
『ユメが傷を舐めてあげる!』
『――マスタ、あまり御無理をなさらずに。私達も御力添えしますので、御身体を休めて下さい』
青の双眸と紅の瞳、対なる二人の少女がコックピットで主を優しく労わる。
人とは異なる存在が一人の人間を支えている。奇妙な信頼関係に、我知らず苦笑してしまう。
男と女――同じ人間同士が、今も憎しみ合っているというのに。
ソラとユメ、立体映像の美少女。コックピットの中では声だけが響き渡っている。
この二人が居なければ、疾の昔に膝を屈していただろう。
マグノ海賊団との決定的な決裂から始まった、過去最悪の危難。泣きたくなるほどの、非情な現実。
孤立無援の戦いは身体に深い傷を刻み、未成熟な精神を蝕んだ。
献身的な理性の少女、愛情溢れる本能の女の子――理は違えど、彼女達は一人の人間を救った。
たとえ生まれや性別が違っても、きっと分かり合える事が出来る。
圧倒的な暴虐に晒されても尚、少年は希望を抱いている。魂は不屈に燃えている。
二人の少女に導かれた少年の決意に――紅と蒼、二つのペークシスが呼応していた。
「俺は本当に大丈夫。お前達が応援してくれているんだ、天下無敵だよ」
『身に余る光栄です、マスター』
『これからもず〜と、ず〜〜と助けてあげるね、ますたぁー!』
「それに、ペークシスも順調に起動しているからまだ戦えるよ。
ペークシス・プラグマ二基の同時起動――ぶっつけ本番で正直冷や冷やしたけど、反発もなくて安心したよ。
一つの機体に二つのエネルギー結晶体、自爆の危険も合ったのに驚くほど見事に共鳴している。
アイの言う通り、地球人もビックリの奇跡だよ。ありがとう、ペークシス。
……うん? どうした、急に黙り込んで」
『――マスター、良い機会です。貴方に是非聞いて頂きたい、お話があります』
『うんうん、毎回毎回邪魔ばっかり入るもん! 今は三人だけだから、ますたぁーも聞いてくれるよね!?』
「話……?
――おー、そういえば説明したい事があるとか何とか言ってたな」
姿こそ見せないが、何度も首肯する気配。理性的な従者のソラですら、この機を逃さぬと勢い込んでいる様子であった。
びっくり箱を引っ繰り返したような日々が続いていて、落ち着いて話す暇もなかった。
カイ本人も何度も殺されかけた上に、時空を吹き飛ばして過去へ飛んだ身である。覚えている方が至難だった。
おぼろげではあるが、彼女達が過去真剣な顔で何か打ち明けようとしていたのをようやく思い出す。
何度も救われた恩もあり、カイは既に身元も知らぬ少女達を心から信頼している。
壮絶な激戦中ではあるが、彼女達の為に耳を傾ける事は出来た。
『あのね、あのね、ますたぁー!』
『今までお話出来ず、心苦しく思っておりました。貴方様に名付けて頂いた私達ですが、実はペ――』
「――やべえっ!?」
健常者の人間が取得する外部情報の中で、最も比重の大きいものは目である。
聴覚器官も脳の延長と言えるが、目ほど表面には出ていない。
脳の一部が外部情報を手に入れる為に発達した器官が、少女達からの説明より優先して伝えた。
――外部モニターを染め上げる、閃光。
単純にして明白、破壊だけを目的とした光が一直線に襲来する。
聴覚の情報の一切を「遮断して」、少年は視覚情報を頼りに操縦桿を倒した。
無茶な機動を命じる主に、天才エンジニアが改良した機体は忠実に応えてくれた。
急速転換、一瞬の回避行動――それが命を救った。
次の瞬間機体の真横を膨大な質量の光が通り過ぎて、次々と無人兵器を貫いたのだ。
まさに容赦のない、破壊。敵味方問わず消滅させる、悪魔の力――
肝を冷やしたが、殿役に命を賭ける少年の研ぎ澄まされた感覚が伝えた。
力の正体、暴力のエネルギーの源を。
「希望を絶望に変えやがったのか、地球人!!」
ペークシス・プラグマの力を使った新型遠距離兵器――"ホフヌング"。
その威力は充電時間に応じて増していき、臨界突破は時空間の壁すら突き破る。
カイを過去へ飛ばし、地球母艦に痛手を負わせた兵器が敵の手中にある。
――かつての自分が、其処にいた。
「話には聞いていたが、俺の機体すら真似やがったのか。アイの推察は確かだったようだな……
俺の蛮型にホフヌング、そして――ヴァンドレッドシリーズか」
先の一撃が世界を割り、無人兵器の群れを葬列の如く分けている。
その中からゆっくり姿を見せたのは、忘れようにも忘れられない四つの機体。
火力重視のヴァンドレッド・ディータ。
速度重視のヴァンドレッド・メイア。
防御重視のヴァンドレッド・ジュラ。
単独にして無双、最前線を駆け抜けるSP蛮型。弓を背に抱く人型兵器――
勇猛果敢なマグノ海賊団を絶望に叩き落し、メラナス軍を徹底的に追い詰めた贋作戦力。
ペークシスが作り上げた悪夢が、死より蘇った亡者にまで牙を向く。
「雑魚共では埒が明かないと踏んだか。随分余裕がないようだな。
無人兵器の分際で俺の粘りに焦りでも覚えたのか、なあ?
……あれ、どうしたんだお前ら? 元気がないぞ」
『――いえ、何でもありません。マスターが御忙しい事は、よく分かりました』
『……わざとだ、絶対わざとだ、くすん……』
メジェールの女性達から本格的に嫌われた時でも、味方のままで居てくれた二人。
絶対の忠誠と深い愛情を向けてくれた少女達が、この時ばかりは恨みがましい声を発する。
些か気後れしてしまうが、今は悠長に話し合っている場合じゃない。
「悪い、話は後で聞くよ。
逃げるにせよ何にせよ、よそ見していて勝てる奴らじゃないからな」
『……承知致しました。
何時聞いて頂けるのか甚だ不明ですが、マスターの仰る事は絶対ですので従います』
『今度聞かなかったら、大音量で流すからね!』
情報量豊かな彼女達、当然戦況も把握出来ている。
殿を務めた主がどれほど苦しい立場に立たされているのか、世界中の誰よりも知っている。
その為に彼女達が存在する――もう二度と、大切な主を喪わない為に。
「今度の事を考えると、奴等だけは叩いておきたい。
ただ、ここで倒したところでまた生み出されるだけだろうしな……」
この戦いは既にカイ達の敗北である。男と女の決裂が、勝敗まで分けてしまった。
既に同盟軍は撤退中。メラナス軍は母星に、マグノ海賊団もお頭やブザムの指示で付近の惑星へ避難。
死に物狂いの逃走劇、けれどまだ完全ではない。
被害をいかに最小限に抑えるか、そして次の戦いに向けてどう繋げるか――
敗北をただ敗北のままで終わらせていては、勝利は望めない。生還も危うい。
男女関係は崩れたまま、戦力は大肌に激減、戦士達は心身共に傷付いている。
こちらの立ち上がりが困難なのに、相手が無傷のままでは一方的に追撃されて終わる。
かといって、ここで一生懸命敵を倒してもまた生み出されるだけだ。
無尽蔵に無人兵器を製造する母艦を直接叩かねばならない。しかし自分一人で不可能、ジレンマである。
「――待てよ、敵母艦はペークシス・プラグマを使って兵器を造り出しているんだろう?
今まで母艦を倒す事だけに集中していたけど、敵の動力源なら狙えるかもしれないな。
母艦に積まれているペークシスを破壊すれば――」
『ダ、ダメーーーーーーー!!!!!』
「わっ!? 急に大きな声を出すな!」
『だってだって、ますたぁーがペークシスを壊すって言うから!』
「? 何が駄目なんだ?」
『母艦のはオリジナルじゃないけど、ますたぁーがペークシスを攻撃なんてヤダヤダヤダヤダヤダヤダーーー!!!』
「マスター、私からも御願い致します。どうか、どうか御考え直し下さい!』
これ以上ないほど強硬に反対されて、カイは渋々思い止まった。
今まで彼女達にどれほど助けられたか、身を持って理解している。反対して突撃するほど、自分本位ではなかった。
「分かった、分かった! この案は却下するよ。
ペークシスには今も助けられているからな、確かに無神経だった」
『グス、グス……ありがとう、ますたぁー』
『マスターの御温情に心から感謝致します』
どの道母艦そのものを破壊する戦力がない以上、ペークシスの破壊には母艦への突入が不可欠となる。
たった一機での突撃など自殺行為に等しい。命を張るのは今ではない、次の決戦だ。
無限なるエネルギーを持つペークシスを使った"ヴァンドレッド"システムは健在だが、パイロットは消耗品。
本人も自覚しているほど、カイは深く傷付いている。大切な仲間を守らんとする意思が、痛みを消しているだけに過ぎない。
「――『母艦のはオリジナルじゃない』?
それってつまり、ニル・ヴァーナに積まれているペークシスとは別物という事か」
『? うん、全然違うよ。力は強いけど、紛い物。オリジナルから力を受け取っているだけ』
「だったら、あのヴァンドレッドや俺のSP蛮型はどうやって生み出したんだ?
紛い物では作れないだろう、あんな強力な機体」
『母艦内に無人兵器の製造工場があるのでしょう。
あの機体もマグノ海賊団が名付けた"キュ−ブ型"を寄せ集めた、紛い物。データ上の産物です』
母艦に製造システムが存在するのは周知の事実だが、改めて聞かされると驚愕の技術力だった。
ペークシスはあくまで動力源として扱い、カイ達との戦闘データを元にヴァンドレッドを再現して見せたのだ。
高度な科学が生み出した怪物――人間が生み出した欲望の産物。
略奪と破壊を生み出す根源、それは等しくカイ・ピュアウインドの敵に他ならない。
「弱点は見えたな……敵の製造システムを割り出して、破壊すれば――うっ」
『マスター!?』
視界が暗転、思考が空回りし始める。操縦桿に額を落としたカイに、ソラが珍しく感情的な声を上げる。
不眠不休に生死のかかった戦闘の連続、少年はいよいよ限界に――
――否、限界を超えた無茶に身体どころか精神まで悲鳴を上げ始めた。
仲間を逃がす為に戦い続けた手が、一瞬止めてしまう。
"ヴァンドレッド"の突如の停止、この好機を逃す敵ではない。
抵抗を止めた無力な餌に、夥しい数の無人兵器が縦横無尽に襲い掛かった――
が。
「えっ……?」
真空の宇宙に木霊する、凶悪な爆撃音。
一心不乱と言う言葉が具現化したような一斉掃射が、集中豪雨となって降り注ぐ。
雨から逃れられる雀などいない――
儚い抵抗すら出来ず、次々と撃ち落されていくばかり。
あれほどまでに群がっていた無人兵器群が倒され……カイ機だけが取り残される形となった。
あまりにも、鮮やかな逆転劇。
空白地帯となった戦場に、悠々と無骨なデザインの機体が登場する。
――高らかな笑い声と共に。
「あれはまさか……ウータン、か?」
宇宙では聞こえようのない咆哮――勝利の雄叫び。
全身で勝利を表現する機体は、カイとは別種の人型兵器。
戦闘本能だけで戦う、世界最強のメスが姿を現した。
<to be continued>
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