VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 12 -Collapse- <後編>
LastAction<後編> −メジェール−
――惑星メジェール、太陽系から遠く離れた宙域に在る船団国家。
衛星として存在する軍事国家タラークと長年に渡って対立する、女性のみで構成された国。
同一の星系の惑星にありながら、両星は性別という生まれながらの宿命で隔てている。
男性国家タラークとの大きな違いは性別、そして何より惑星の環境――
生命が芽吹かない死の大地、第二の故郷と定めた惑星は女性が生きるには残酷な世界であった。
ゆえに、彼女達は男性に負けない強さを求めた。
不遇な環境に目を背けない不屈の精神が、枯れた大地に生きる力を与えたのである。
祖先の星地球より伝えられた技術を磨き、現在ではタラークの軍事技術を大きく凌駕する力となった。
一度こそ失敗したものの、現在でも惑星メジェールを理想郷とするテラフォーミングが行われている。
その為彼女達は一時宇宙へと床を移し、植民時の宇宙船団を中心とした船団国家を形成した。
移民船を繋ぎ合わせて構成された、女性だけの船団国家――
男を必要としない、女達の楽園。彼女達は自らの在り方を律し、ただ強く美しく在るように生き続けた。
意気統合した女性同士で遺伝子を掛け合わせて作った子供が子孫となり、男子禁制の女人国として成立している。
――その矜持が、皮肉にも彼女達を腐敗させた。
男達に負けまいとする気概が不遜となり、傲慢に見下ろす結果と成り果ててしまった。
彼女達は決して間違えていない。強さを求める気持ちに嘘は無い。
ただ、男という存在を知らない。知ろうともしない。必要ではないと、生まれたその瞬間から切り捨てる。
強欲で愚かな存在だと頭から決めてかかり、排除する。その意識が、彼女達の強さから気品を奪いつつあった。
女性だけの船団国家メジェール、その指導者グラン・マ。
地球より出立した植民船の生き残り、第一世代の女傑が国家の現実を唯一人痛感している。
出産を担当する女性ファーマ、卵子を提供する女性オーマ――
女性だけの夫婦から生み出されていない、男性を父とする地球の民。
祖先の血を宿す古の指導者が、太古の船に作られた神聖なる王室で嘆いていた。
「……テラフォーミング計画は遅延するばかり――我らだけでは自然は変えられないというのか?
このままでは民を徒に疑心へ駆り立ててしまう……大事な時期じゃというのに――」
記憶に新しい悲劇、重要度の低いユニットの閉鎖。
惑星軌道上に位置する船団国家は、幾つかのユニットに分かれて存在している。
テラフォーミング中の為惑星に住まいを形成出来ない彼女達は、ユニット内の居住エリアで生活を送っていた。
進歩した技術が生み出した生活空間、優れた自然環境が再現された世界だが問題もあった。
――エネルギーの浪費である。
科学で生み出された人工環境は人々に豊かな生活をもたらしたが、人工物である以上自然からの供給は無い。
生命を持たぬ偽りの自然環境には維持するエネルギーが必要であり、エネルギーの生成では資源が必要となる。
その肝心の資源が惑星より与えられない。惑星は民が根を下ろした時には、既に死に絶えていたのだから。
強さを勝ち得た彼女達は豊かさを求めた。勝ち取った者達だけが持つプライドが貧窮を許さなかった。
人間達の傲慢な態度を自然は許さず――エネルギー不足という、当然の結末だけが残された。
政府が選んだ決断は、今在るエネルギーのみで構成される国。容量を超えたものへの、一方的な削除――
重要度の低いユニットを閉鎖し、居住者を一方的に追い出した。何も知らぬ、哀れな民を切り捨てた。
無知は罪、浪費した彼女達にも責任はあった。心の傲慢が隙を生み、死神を招き寄せてしまった。
――だが、そんな民を導く事が王の責務。民の罪を嘲笑うだけでは、国家そのものは維持できない。
指導者グラン・マもその愚かさを知りながら、苦渋の決断を行った。
船団国家メジェールはそれほどまでに追い込まれていたのだ――
「そして、マグノ海賊団より国家存亡の危機――
罪深き我らに手を差し伸べようというのですか、マグノ・ビバン」
遠い銀河の果てより届いた知らせ、痛烈な皮肉という他は無い。
メジェール国家を脅かすマグノ海賊団、今では敵対するタラークより厄介な集団。
政府の頭痛の種を構成する大半が、政府の決断で排除された者達なのだ。
政府を憎み、国に裏切られた者達が今、メジェールを救う為に戦おうとしている。
火急で送られて来た知らせは、冷徹な意思で国を維持する指導者の度肝を抜いた。
「この知らせは恐らく、タラークにも届いている。男と女が手を取り合って、両国家を救おうというのか――
運命とは何処までも皮肉なのですね……」
メモリーチップに収められたデータは、刈り取りを目的とする敵の詳細と調査内容だった。
敵はタラーク・メジェールにも触手を伸ばし、両国家の民を食らおうとしている。
本来なら海賊如きと一笑する妄想じみたデータだが――実質、指導者グラン・マの元まで届けられている。
政治を担う者達が切り捨てられなかったマグノからの情報、その影響は恐ろしく強いらしい。
同じ第一世代の人間として敬意を覚える。彼女もまた、別のやり方で民を救ったのだから。
「けれど、我々は同じ道を歩む事は出来ないのです」
船団国家メジェールの指導者グラン・マの下した決断は、破棄――
メモリーチップの一切を公表せず、マグノ海賊団が命懸けで届けたデータを闇に葬った。
何も知らぬ民をあくまで混乱させまいと、今を守り続けようとする意思なのか? それとも――
同じ女性でありながら、同じ祖先から旅立った仲間でありながら、グラン・マはマグノと同じテーブルにはつかない。
彼女はあくまでメジェールであり、海賊ではなかった。
「私はこの道を往く――私が率いた民と共に、最後まで"メジェール"で在り続ける。
……我が子一人守れなかった愚かな女は、亡骸と共に死んだのです。
だから、せめてあの子だけは……アイだけは守って下さい。
賢しきあの子なら、私とは違う道を選ぶはず。あの子だけは運命の外でいてほしいのです」
全ての母は瞼を震わせる。為政者は涙を見せない。枯れた涙を流す事も無い。
彼女の悲しみは全て、死んだ子供に捧げている。
"ヒビキ・トカイ"の為に――
「私はメジェールの指導者、アンリ。全ての民を導く母――
向かう先は地獄であっても、私は最後までこの道を歩み続けましょう。
祖先を救う為に、あの子が生まれた星を守る為に。
運命はもう、変わらない」
民は知らず、ただ王の責任を責める。王は知らず、ただ民の愚かさを嘆く。
男性だけの惑星国家タラークと、女性だけの船団国家メジェール――
互いの存在を嫌悪し激しく憎み合いながら、今日もまた戦争を続ける。
運命の外で抗う者達には見向きもせず、運命が訪れる瞬間まで――
ただ、戦い続ける。
<END>
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