VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 12 -Collapse- <後編>
LastAction<前編> −タラーク−
――惑星タラーク、男達の汚れた楽園。赤土で埋め尽くされた理想郷。
銀河系の中心部に位置する古びた惑星で、塹壕のような地下に男性だけの軍事帝国を建設していた。
子供さえも男性同士が遺伝子を掛け合わせてプラントから誕生させており、異性の交わりを禁じている。
制度のみならず世界そのものが閉鎖されており、防衛用の砲座によって外的からの侵入に対する備えも万全だった。
地下に密集した男社会――八人の男達が作り上げた、男性遺伝子の閉鎖世界。
かつて祖国の星地球より旅立った植民船。長きに渡る航海を経て、後に「八聖翁」と呼ばれる第一世代が国家を建設した。
名高い第一世代の中で唯一認められた指導者――グラン・パ。
老いてなお健在、偉大なる老翁はこの軍事国家の頂点に君臨している。
八聖殿――軍事国家タラークを牛耳る八聖翁とグラン・パが住まう宮殿。
八聖殿御座所等行政機関が統括された建造物で、国民達は見上げる事すら畏れ多い。
仰々しく構えられた宮殿の中で、古き指導者は静かに世界の行く末を見つめていた。
「――グラン・パ様。畏れ多くも女海賊よりこのような物が届いております」
女達が住まう国メジェールとは現在、敵対関係にある。国交など以ての外、通信すら腹立たしい。
まして海賊と言えば、タラーク・メジェール両国家を脅かすマグノ海賊団に他ならない。
マグノ海賊団はタラークが建造した戦艦を強襲した国家の敵、彼女達による犠牲は計り知れない。
女である以上に憎き敵、出会えば討滅するだけの敵。話し合う余地はない。
忌まわしき女達より届けられた、贈り物――「メッセージチップ」を、側近は恭しく差し出した。
同類にすら恐れられる海賊達からの、正体不明の品。本当なら問答無用で破棄、怪しげな品をわざわざ受け取る理由はない。
それでも無碍に扱えないのは――他ならぬ海賊の頭目、マグノ・ビバンの存在。
グラン・パと同じく地球より旅立った第一世代、祖国を知る数少ない生き残り。
徹底した階級制が敷かれているタラークでは第一世代は絶対的な存在であり、尊敬の対象であった。
敵国の人間であっても、側近レベルの人間の独断で処分する事は出来ない。
――国家存亡の危機、火急の用件ともなれば尚の事だった。
「……」
香の煙が漂う室内に御簾に隠された玉座、広大だが暗い空間で老翁は一人鎮座している。
忠実な側近より差し出された贈り物に対して、主からの反応は取り立ててなかった。
皺だらけの手を伸ばして受け取り、メッセージチップをランプで照らし出す。
無機質な素材の無骨な贈り物――傷や汚れも目立つが、内容の価値は超一級品である。
宇宙の果てから贈られて来た品、修羅を生きる破戒僧が世界の危機を告げている――
マグノ海賊団と三人の男達、今も銀河の彼方で未知なる敵と戦い続ける若き戦士達。
彼らが命懸けで伝えた情報は苦しみと悲しみを超えて、一足先に故郷へと辿り着けたのだ。
カイ・ピュアウインドの戦略とマグノ・ビバンの知名度、海賊達の忌み名が偉大な指導者の手へメッセージを届けた。
男女共同の成果は、哀しき事に本人達の知らぬ場所で現れたのだ。
彼らは何も知らず……仲違いをして、全てを灰燼に帰し、絶望の海で溺れている。
「――」
「……直ちに」
男女の血と汗に濡れたチップ、命懸けの情報を検分したグラン・パ。
御簾の向こうで鋭く目を細めながらも、その表情に動揺や苦難の色はない。
無雑作とも言える手付きで側近へと手渡し、一言だけ伝える。
正しく命令を受け入れた側近はメッセージチップを受け取り――
――即座に、破壊した。
真っ二つになったチップは何も言わない。何一つ語らない。
確かな証拠に基づいた破滅の神託を受けても、偉大な指導者に迷いはない。
畏れ多き神殿の片隅で、国家の危機は処分されてしまった。
マグノ海賊団のみならず、同胞の死を予見されようとしていても関心を寄せない。
彼らの苦渋は、真っ暗な宇宙に瞬く星の光と同じ――次の日が来れば消える、記憶からも消去される。ただ、それだけの事。
宇宙の向こう側で起きている現実は、情報と共に破棄されてしまった。
軍事国家タラーク、メジェールの打倒を夢に男達は今日も生きる。女を倒す、ただそれだけを考えて――
「――我等は究極の決断を下し、その実現のために100年の歳月を費やした。
この国は、既に答えを出している……
ヒビキの死んだこの世界――もはや覆る事はない」
<LastAction<後編> −メジェール−に続く>
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