VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 12 -Collapse- <後編>






Action13 −演出−








 有事の際、イベント企画者はつくづく役立たずだと思い知らされる。

祭り事の提案や構成力は自分に勝る女性は海賊団内にいないと自負しているが、いざ海賊業となれば無力なのも自分だ。

自分の弱さを自認しているからこそ、イベントチーフ――ミカ・オーセンティック――の行動は他のどの幹部よりも素早かった。


「エズラ、聞こえる!? ブリッジ、応答して下さい!
――あちゃ〜、やっぱりラインが途切れてる。連絡つかないなんてやばいな」

「チーフ。照明まで落ちたという事はもしかすると・・・・・・」

「うん、敵さんの攻撃を直で食らったっぽい。船の外を見るのも怖いね」


 落ち着いているように見えるのは、冷静かつ興奮している為。

相反する二つの感情がぶつかり合って、奇妙な静けさを心に生んでいた。

不謹慎ではあるが、日常から大きく飛び出した事件に遭遇すると血が騒ぐ。

火事場ではしゃぐ子供と同じだが、この衝動が無ければ変り種であるこの職業はやっていけない。

要は、如何に面白く出来るか――である。

大切な御客様を危険に晒すだけのお祭りなど、論外だった。


「どうしますか、チーフ。警戒態勢どころか、この船自体傾いているじゃないですか!?
早く避難所へ移動した方がいいですよ、絶対!」

「此処より頑丈というだけで、同じ船の中に変わりは無いんだけどね、仕方ないか。
全員撤収、緊急避難、企画室の封鎖。製作中の道具類だけ持って行って。命最優先で!」

『了解です!』


 驚き慌てているがパニックにはならず、迅速に行動に移せるだけで大したものである。

イベント部署を設立する上で、人選に力を入れた甲斐があった。

旅が始まって半年、イベントクルーとしてだけではなく、人間としても成長している。


(男との生活がいい刺激になったみたいだね。
う〜ん・・・・・・他の皆はどうしてあんなに嫌うかな? 皆ノリの良い、熱い連中なのに。
こんな事になるなら、男女の親睦を深めるイベントをやっておけばよかった)


「男グループと女グループを一堂に会し、異性の友人を獲得」、企画書に仕上げたいアイデアである。

もう二度と実現不可能なだけに、尚更悔やまれる。


――カイとバートの死はそれなりに仲良くやっていただけに、本気でショックを受けた。


焼け落ちたコックピットに凶弾による訃報、彼らの死を目の当たりにした瞬間泣いてしまった。

人前など関係なく、二人の無念を嘆いて目が腫れるまで涙を流した自分。

彼らの事が本当に好きだった。胸を張ってそう言える。

男と女は確かに違う生き物かもしれないが、友達になれる存在だった。

時期が早いだの何だのと、マグノ海賊団内の空気を呼んでイベントを控えたのが裏目に出た。

クリスマスで少しでも満足した自分が情けない。

是非男女親睦イベントを開催したいと思う、けれど――彼らはもういない。

ならばせめてこの戦いが終わったら、彼らを追悼するイベントは必ず行おう。

最低でも盛大に葬式は行う。許可が出なくても、周囲の顔色をうかがうのはもうヤメだ。

彼らの死を悲しむ女が此処に居るのだと、彼らを追い立てた連中に知らしめてやろう。


――決意を新たに手荷物をまとめて、自分の居場所であるイベントルームを退室。


システム関係は全滅しているので、物理的な手段で閉鎖を行った。

全員一丸となって行動すれば簡単に済み、避難所への最短ルートを進んでいく。


「チーフ。先程警備の人にコッソリ聞いたんですけど、ニル・ヴァーナが半壊したそうです。
連結部が敵の攻撃で折られて、お頭達の居るメインブリッジと切り離されたそうで」

「うわっちゃ・・・・・・それで連絡取れなくなったんだね。最悪だ。
お頭や副長の指示は仰げず、ガスコさんは最前線。
クリスマスメンバーも殆ど動けない状態だもんね・・・・・・どうしよう」


 イベントで一緒に活動した仲間達は、ほぼ全員行動不能となっている。

カイとバートは死亡、ドゥエロはパイウェイと共に投獄中。

ドレッドチームはほぼ半数以上がカイと戦って負傷、残りも全員出撃している。

チームリーダーのメイアも投獄、サブリーダーのジュラは医務室で寝込んでいる。

全体的なサポート役のバーネットは自殺未遂後、レジで働いているが精神不安定。

保安部や機関部は長が投獄、部下は職務放棄。

エステにキッチン、クリーニングの部署とも連絡が取れず、不安は高まっていくばかり。


「密航者の捜索や船内のトラブル続きで、警備クルーの大半が今あっちにいるんだよね・・・・・・運悪く。
万が一にでもこちらを集中攻撃されたら、身を守る手段がないわ」


 マグノ海賊団150名に、捕虜3名。船の広さはともかく、男と女の人数の差は圧倒的。

主だった面々は向こうに出張っているとはいえ、こちら側の方が人数は多い。

ただ旧メジェール船側に残るクルーの大半は非戦闘員、船の生活を支えるバックヤードスタッフ。

荒事には不向きで、故郷での生活でもアジトの日常を守る役割だった。

役立たずではない、むしろ集団生活を担う必要不可欠な存在だ。

海賊は争い事と無縁ではいられず、危険な戦地から帰って来た戦士達をせめて温かく迎えるのが彼女達だ。

自分達イベントクルーもその一員。殺伐とした毎日を楽しくするのが御仕事。


「・・・・・・これから私達、どうなるんでしょう?」

「暗い顔をしちゃ駄目。お通夜気分でイベントなんて嫌でしょう」

「イベントとか言っている場合ですか! チーフだって、あの声聞いていましたよね!?」

「馬鹿馬鹿しい――カイが刈り取りに協力するとでも思う?」

クリスマスの事を思い出して。カイと一緒に頑張って作り上げたでしょう」

「だから、怖いんです!
もし刈り取りに捕まったら、どんな酷い目に遭わされるのか・・・・・・考えただけで、不安なんです」

「・・・・・・」


 刈り取り――地球が何を思ってカイの声で宣告したのか、それは分からない。

自分達の複雑な関係を知っているのか、先に戦死した仲間を残酷に晒したのか。

理解出来ないからこそ、恐ろしい――

生きたまま捕まって利用されているならまだしも、部品として弄ばれているのなら・・・・・・想像するだけで震えが走る。

演出としては大したものだと、皮肉をスパイスした拍手を送ってやりたい。

カイと一緒に仕事をして通じ合った自分達でも、これほど怯えている――

身近な仲間の死は辛く、敵への恐怖は増大する。

大丈夫などと気休め一つ言えない自分が歯痒い。

どれほど美辞麗句を並べ立てても、カイが敵に殺された事実は否定できない。

死は絶対の真実、虚構の世界で上書きは出来ない。

自分達を守る為に――他の惑星の人達を守る為でも、死んでしまった事実はただ重い。

いずれ元の鞘に納まると気軽に考えていた自分の甘さを、地球が笑っている気がした。

意気消沈する部下達に何も言えないまま、彼女達は避難所に辿り着いた。

同じ船の中完全な安全は保証されないが――収容スペースの広さと頑丈さは折り紙つき。

緊急時の物資や動力源を確保しているので、システム類も独自で稼動。

ペークシスの補助無しで動作可能で、医療機器も簡単ではあるが揃っている。


「そういえばあたし達の秘密基地も、此処を参考に作られたんだよね・・・・・・」


 クリスマスイベントで使用された、カイの監房の隣に作られた白亜の空間。

真っ白なだけの広大な部屋でしかなかったが、イベントが終わった後も何かあればあのスペースを利用していた。

何時の間にか気軽に集まれるたまり場となっており、よく遊びにも行ったものだ。

今や強制的に分断された男側の船を思い、ミカは重い足取りで避難所へ。


――入室した瞬間、あまりの空気の重さに吐き気がした。


船の異常を感じ取ったのか、非戦闘員が収容スペース内で所かまわず集まっている。

50名以上のクルー達がそれぞれの職場の制服や私服を着たまま、誰一人喋らず無言――

笑い声どころか笑顔の一つも無く、暗い顔で俯いていた。

中にはすすり泣く声や小さな悲鳴も聞こえて、避難所内を不安と恐怖に満たす。

入室したミカ達に話しかける人達はおらず、外の状況さえ聞こうとしなかった。

ミカは直感した。


目の前に押し寄せて来た敵に――彼女達は初めて・・・恐怖している。


ただ守られ続けた人達が剣たるドレッドチーム、盾となるニル・ヴァーナを失って丸裸となった。

未知の敵を鮮やかに倒した奇跡は存在しない――自分達で追っ払った。

目と鼻の先に敵が迫っている状況を肌で感じ取り、彼女達は半ば現実逃避しているのだ。

ミカは知っている。

この場に居る人達――戦わずに居たこの民間人達こそが、男を拒絶していた事を。

強い敵だけが障害ではない。

カイにとっては、この守るべき弱者達こそが・・・・・・一番の難敵だった。

決して倒せない敵、己の武器が通じない味方の中の敵。

命の危機を感じ取って、彼女達はようやく自分達に置かれた現実を知ったのだ。

マグノ海賊団お頭マグノ・ビバンの決定――


男と女の共同戦線こそが、現実を打破する唯一の武器だと。


「皆、準備して」

「準備・・・・・・? 何の準備ですか、チーフ」


 ミカは悩まなかった。

カイは友達であり味方、その事実は既に過去にて決定している。

自分の役目はただ、自分が望むままに存在していた。



「時間はもう限られているけど――今しか出来ない事。催し物をやるわ。

――英雄を目指した少年の物語、なんてどうかな?」



   この船に留まり続けた意味が、ようやく分かったのだ――





























<to be continued>







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