ヴァンドレッド


VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 12 -Collapse- <前編>






Action16 −反逆−






 思えば常に他人任せであったと、バートは痛感する。

人生を振り返るほど老成されていないが、物心ついた頃から自分で生きた実感は皆無だった。


軍事国家タラーク有数の大富豪の長男として生まれ、安泰の人生が約束されていた自分。


士官学校候補生としてエリートコースを歩んでいたが、家系の財力と権力があってこそだ。

ドゥエロのように、自身の能力で積み上げた実績では断じてない。

困った事があれば誰かを頼り、手に負えなくなれば押し付けた。


親が敷いたレールの上を、呑気な顔で歩き続けていた――


考える事を怠ったツケが、追い詰められた形で浮き彫りとなる。


(・・・・・・どうしよう・・・・・・)


 悩む時間すら限られた硬直状態。

不思議な力を持つ結晶体の向こう側では、戦友が今か今かと答えを待っている。

間を開ければ、流石に不審に思うだろう。

バートは冷や汗を流して尚、考え続ける。


(・・・・・・べ、別に悩む事はないだろ・・・・・・
あの娘の言葉を否定して、素直にどうすればいいのか聞けばいいんだ。

ドゥエロ君たちに相談してもいい。

僕が別にわざわざ判断しなくたって――)


 思い浮かぶのは、否定の言葉ばかり。

逃げ道を常に考える自分と、一向に行動に移さない弱者の論理。

歯止めもかからなかった生き方に、何故か生じるのは言い様のない焦りだった。

不甲斐なさと言い切ってもいい。


(カイに、聞くのは簡単だ・・・・・・最初は本当にそうしようとした。
こいつに頼ってしまえば楽だし、間違えていた事なんてなかった。


悔しいけど、他の皆だってこいつを意識してて・・・・・・)


 悔しい? ――そう、悔しかった。

問題行動ばかり繰り返していたカイだが、理想に向けて頑張り続ける情熱が合った。

誰一人味方が居なかった環境下で、血肉を削って戦い続けていた。

誰もが無駄だと笑っても、悔し涙を飲んで汗水流して奔走していた姿を幾度となく見ている。


――その姿を追う、女性が増えていた事も。


今回の男女戦争も主軸の流れを生み出したのは、れっきとしたあの男だ。

自らの意思で自分も行動に移したが、カイが事件を起こさなければ現実に甘んじていただろう。

この脱獄もドゥエロの力になるべく一心に励まし続けたが、自分が先頭に立っていない。

証拠に、こうして意見を求められれば簡単に動揺している。

責任を少しでも感じれば焦燥に我を忘れて、容易くメッキを晒す。

こんな調子で何時までも誰かの背中に縋り付いていていいのだろうか?


"皆に認められたい"――自分の望みは、これほど確かなのに。


望みを叶える為に必要な事だって、既に分かっているのに。

バートは震える拳を懸命に握り締めて、一度だけ背後に視線を向ける。


ドゥエロ、パルフェ、パイウェイ、メイア、ディータ。


共に肩を並べて歩く仲間達が、バートの様子を窺っている。

話し合う素振りはなく、自分の答えを静かに待っている。

尋ねれば、きっと答えてくれるだろう。

逃げれば、きっと助けてくれるだろう。



そして――今後は、彼らから助けを求められる事はないだろう。


頼りない人間と認識されたまま、これまで通り仲間の一人としてただ置かれるだけだ。

存在価値の少ない、置物として。

ドゥエロ達に軽蔑はない、けれど期待もない。

錯覚でしかないのかもしれないが、皆の自分を見る目が堪らなく悔しい。

表情が歪むのを自覚しながら、今度は前を見やる。


光が消えた結晶体と、感情の消えている少女――


優しく導く事はなく、厳しく諭す事もない。

バートの答えを純粋に待っており、その行く末のみに観察眼を向けている。

上等だ、と思った。

ここまで馬鹿にされて、黙っているほど自分は御人好しじゃない。

誰も振り向いてくれないのなら――


――強引に振り向かせてやる。


「ドゥエロ君達と相談したんだけど」

『おう』


 待ち望んでいたとばかりに、カイから返事が返ってくる。

不思議なほど胸が高鳴っているのを感じて、バートは我知らず微笑む。

相談なんて微塵もしていない。

自分だけの判断で――自分の責任で、自分の意思と役割を伝える。


「君には教えないって事で、全員の意見が一致した」

『おおい!?』


 驚いている、驚いている。

動揺して当然だが、あの生意気な友人の動揺を誘えた事が少しだけ誇らしい。

子供じみたプライドでしかないが、それでも一歩だ。


『どういう事だ!? 人権問題云々って、明らかに俺とのいざこざが原因だろ。
教えてくれ。
自分のやった事で、手前らに迷惑かけるつもりはねえ』


 ――少年の決意と責任。

ニル・ヴァーナで勃発した戦争の全てを、一人で背負っている。


何と重たい責務か。
何と辛い理想か――


何も考えず、何も背負わなかった自分がただ恥ずかしくなる。

敢えて聞くまでも無いが、バートはカイに尋ねる。


「・・・・・・じゃあ、反対に聞くけどさ――

事情を聞いて、君はどうするつもりなんだい?」

『どうするって・・・・・・

お前らがピンチなら助けに行くに決まってるだろ』


 当たり前のように、厄介な事を平然と言いのける。

ドレッドチームと抗戦を行った以上、カイは既にマグノ海賊団に敵対する立場にある。

誤解でも何でもなく、カイ自身の口からマグノ海賊団を真っ向から否定した。

ニル・ヴァーナに救援に駆けつけるという事は、再び彼女達と戦わなければならない。

並大抵の苦労ではない筈だ。

バートは沈痛に顔を俯かせて、


「君の気持ちは嬉しい。だからこそ、頼る訳にはいかない」

『頼るって、これはそもそも――』


 カイが救援に来てくれるのは、本当に頼もしい。

心の何処かで、まだ頼みにする自分はいる。


バートは――自分の未練を断ち切った。


「これは僕達の問題だ!」


 ――言い切った。

無慈悲に、容赦なく優しく差し伸べてくれている友人の手を振り払った。

自分の言った言葉に震えながらも、泣き言だけは言わない。


誰よりも、自分が許さない。


「確かに僕達は、君に賛同した。
男と女は分かり合える――君は僕達にそれを教えてくれたからだ。

だけど勘違いするなよ、カイ。

僕は――僕達は君の味方だが、君の家来じゃない」


 自分には、自分のやり方がある。

その中には――カイですら出来ない事もあるはずだ。

自分はまだ、足元すら危うい。

一人で何もかも成し遂げるのは不可能だろう。

後ろで見守ってくれている仲間達の手を借りなければ、何も出来ない。

事実だ。

人間なんて、そう簡単に変われない。


けれど――変えてみせる。


「僕達は僕達のやり方で行動する。自分の問題は、自分で解決する。
君の助力は必要ない」


 自分の事は自分で――当たり前の事だ。

一人前の大人になる、最初の一歩だ。

自分の手で行うからこそ責任が生まれ、責任を果たしてこそ一人前に近づける。

小さな芽でも育む事で、華が咲く。


その華を――他の人達が愛でてくれる。


「僕達だって、ヒーローになる資格はあるんだ」


 カイは沢山の敵と――味方がいる。

マグノ海賊団の多くが彼を憎み、愛している。

非業を背負いながらも、小さな祝福を受けて着実に栄光を築いている。

その光はまだまだ小さく、少しでも離れれば消えてしまう。

しかし光は仄かにも美しく輝き、誰かを照らし続けている。


自分もいつか、そうなりたい。


一人でも多くの人達に――少なくとも、自分が好きだと言える人達に認めて貰いたい。

誰かに愛される為に、誰かを愛する努力をする。

まずは、自分だ。

他者に胸を張って誇れる、輝かしい自分を目指す。

戦友のような危ういやり方とは違う、自分に出来る理想への道を刻む。

少年に足元を照らして貰う必要はない。

自分で照らし出されるようにならなければ、何も変えられない。


この手に光を掴む為に――責任という名の重い枷を背負う。


バートの克己を耳にして、結晶体から苦笑じみた声が届く。


『・・・・・・ヘ、なら助けに行かねえぞ。
後で土下座しても遅いからな』


 当然だ、今更引く道などあるものか。


「そっちこそ。連れてった仲間、死なせたら許さないからな」


 少年は笑う、バートもまた笑う。

お互い立場や意見は異なるが、志は同じくする仲間であると認めた上で。

深くは問わず、現状のみを伝える。


『こっちは今のところ、全員無事だ。
そっちはソラの他に誰がいるんだ?』


 振り返ると、皆一様に安堵した顔。

カイと共に出て行った仲間達の安否が分かり、少しずつ活気に満ちていく。

遠く離れていても、戦友の存在は強く頼もしい。

バートは今この場に居る面々と、影から支えてくれている人達の存在を伝える。


「パルフェやミカさん、パイウェイが手伝ってくれてる」


 ・・・・・・思えば、イベントチーフのミカには本当に迷惑をかけてしまった。

バートやドゥエロが心配で船に残り、立場が悪くなるのを承知で弁護してくれた。

自分達が脱獄した以上、彼女の立場はますます悪化するだろう。

一刻も早く、事態の改善に移らなければいけない。


「ディータちゃんも放置するのはやばいから、メイアと一緒に連れて来た」

「無理やりに、な」


 心臓が飛び上がる。

冷え切った声に寒気が走りながら、バートは慌てて後ろを見る。



――鬼が、居た。



「あ、あはは・・・・・・ま、まあそう目くじら立てずに」


 そう言いながら、ハイパーダッシュ。

鬼ヶ島に平然と上陸出来る神経を持っていない。

バートはようやく掴んだ矜持を簡単に捨てて、ドゥエロ達の下へ避難する。


「こ、怖かった・・・・・・ハァ・・・・・・」


 結晶体に向かって静かに叱責するメイアを見て、バートはへたりこむ。

パイウェイは傍らの自分の上司を見上げる。


「・・・・・・ドクター、こいつ本当に頼りになるの?」

「・・・・・・恐らく」


 何故か不確定な発言で、ドゥエロが締め括る。

人それぞれ、生き方や戦い方は違う。



何とも緊張感は無いが、バートらしいスタートでもあった。












































<to be continued>







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