ヴァンドレッド
VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 11 -DEAD END-
Action45−垣根−
ホフヌングは世界唯一の兵器。
ペークシス・プラグマの結晶をコーディングして、エネルギーの波長や出力を自在に調整出来る。
開発概念はカイが、設計と整備はパルフェとガスコーニュで行われた。
試験的な運用は成功し、実戦投備された遠距離兵器。
この武器には本質的な意味で未完成である。
エネルギーの源――ペークシス・プラグマが解明されていない。
現在の高度な科学技術でも、ペークシス・プラグマは制御出来ないのだ。
ワーム・ホールの発生や、ニル・ヴァーナやヴァンドレッドの誕生がいい例である。
不透明な部分は多いが、高出力で簡単に扱えるエネルギーの結晶体――
当然ホフヌングも現状制御出来ているが、何時何が起きても不思議ではない。
開発当時からカイも覚悟はしていた。
しかし、まさか――
「――声?」
「うん、男の人の声よ。聞いてみる?」
ソランの申し出を、困惑しながらも頷く。
初めて発生した現象である。
当然原因なんて分からないし、そもそも何故武器が喋るか理解出来ない。
音声機能なんて無意味な代物はつけていない。
考えられる原因はペークシスだが、仮にそうだとしても別の疑問が出る。
――ペークシスが喋った事例も無い。
超常現象である。
セランが興味を示すのは無理も無い。
幽霊を怖いと感じるより、面白そうと近づくタイプなのだろう。
カイもそうである。
逆にジュラは美貌を引き攣らせて、遠巻きに様子を伺っている。
彼女もまた、正常な反応だ。
セランの手招きに誘われて近づき、ホフヌングの表面を見つめる。
ペークシスの仄かな光は暗い格納庫内では幻想的で、溜息がこぼれる。
近づくにつれて、判明する。
――確かに、聞こえる・・・
男の声。
明瞭ではなく、むしろ雑音が混じっている。
「・・・危険は無いか?」
「何でも試したから平気、どうぞ」
音声を発する兵器を前に、躊躇無く実験出来るセランの行動力に脱帽。
感謝すべきか呆れるべきか、微妙に悩みながらカイは耳を近づける――
『――当に、届――』
『――試してみる価値――』
「・・・?」
ノイズが酷い。
壊れた通信機が発する割れた音のように、正常な発音ではなかった。
とはいえ、確かに声が聞こえる。
聞こえるのだが・・・カイは首を傾げる。
話し声は明らかに二つ。
辛抱強く、カイは耳を傾け続けた――
『――ら――ィータ、話し――』
『――にーちゃん』
「・・・え」
息を呑む。
今度は、男ではない。
音が飛んでいて内容が分からないが、女の子の声だった。
カイが驚いたのは声ではない。
声の、主――
落ち着いた口調と、舌足らずな声。
懐かしくも苦い思い出が、頭の中で情景として浮かぶ。
馬鹿な――カイは驚愕に声を震わせる。
「・・・青髪・・・赤髪かっ、おい!?」
『――えた・・・今確――に、聞こえ――!』
この能天気な声はもう間違いない。
明るい笑顔とトークが売りの操舵手――
カイはホフヌングを叩いて、何度も呼びかける。
少しでも、自分の意思を伝える為に。
――己が存在を、主張する為に。
「俺だ! カイだ! 応答してくれーー!」
『――イだ! やっぱりあいつ、生きてたぞ!』
悲しい別れを伴ったかつての同胞達が、声だけを集わせる。
セランとジュラは唖然とした顔のまま。
現実の中の非現実に、戸惑いだけを見せていた。
――ニル・ヴァーナからの離脱。
それぞれの意思を胸に、カイとドゥエロ達は別々の道を選んだ。
カイは旅立つ道を、ドゥエロ達は残る道を――
やり方や目的・意思は違えど、ゴールは同じ。
互いの無事だけを祈って、笑顔で別れた。
――そして、死闘の幕開け。
カイはマグノ海賊団ドレッドチームと、ドゥエロ達は反対派と。
安全な道は最早無い。
互いに知りながらも、戦う道を選んだ――
「無事だったか、お前ら!」
『お前こそしぶとく生きてるみたいだな!』
悪態こそついているが、安堵に満ちている。
戦友への信頼はあれど、不安や心配は簡単に消えない。
抹殺許可まで出ていたカイからすれば、残してきたドゥエロ達の安否が気掛かりにもなる。
マグノ海賊団の男への不信感は、憎悪にまで膨れ上がっている。
カイにいたっては突然発砲までされたのだ。
賛成派のミカ達が居ても、身を案じてしまう。
ドゥエロ達も同じ。
出て行った途端、カイは国家を脅かす最強戦力たるドレッドチームに包囲。
宣戦布告して、激しい攻防戦を繰り広げた。
無残な結果と残酷な傷跡を残して――
蛮型はボロボロ、パイロットは重傷。
その上救助船一隻で、故郷を目指してあての無い旅に出て行ってしまった。
食料や物資を豊富に積み込んでも、不自由かつ困難な旅になるのは想像に難くない。
お互い、声を聞いただけで嬉しさが溢れてくるというものだ。
「で、でも、どうして何でこんなとこからお前らの声が――」
『ほー、知りたいかねカイ君』
得意げなバートの台詞。
無事を喜んだのも束の間、カイは頬を引き攣らせた。
「何だよ・・・? その含んだ物言いは」
『うーん、どうしよっかなー、教えてあげようかなー?
でも苦労したしなー』
「な、殴りてえ・・・!」
もったいぶった言い方に、カイは悔しさに歯軋りする。
知りたくて仕方ないが、バートに教えてもらうのも癪だ。
しかし原理を知らなければ、今後気になって夜も眠れない。
悶々とした気持ちで悩むカイ。
姿が見えなくても気持ちは伝わるのか、バートの声は楽しげだった。
『そうだな・・・どうしても教えて欲しいなら、僕に土下座を――』
『私が協力しました、マスター』
「ソラっ!?」
意外な人物、第二段。
変わらず姿は見えないが、無感情なこの声を一時も忘れた事は無い。
『おい!? 折角いいところだったのに――』
『黙っていて下さい』
『は、はい…』
――上下関係も理解した。
頼もしい従者に、カイは微笑みを浮かべる。
『あの娘が御世話になっております。
御面倒をおかけしておりませんか?』
「っ! ああ。
相変わらず元気だぜ、あいつは」
――ユメの存在は公にされていない。
明確に名前を言えば背後のジュラやバート――あちら側の人達に伝わってしまう。
ソラはこの船にユメが遊びに来ている事を知った上で、曖昧な尋ね方をしたのだ。
ユメは当然何も返事しない。
二人の関係は特に気になるが、仲が悪いという事は決してない。
はてさて。
ユメの事はともかくとして、カイは何より尋ねたい事があった。
「えーと…どこから聞けばいいのか、分からんが…
どういう事になってるんだ、一体?」
遠距離兵器ホフヌングが、何故離れたニル・ヴァーナと交信出来ているのか?
ニル・ヴァーナの様子はどうなのか?
ドゥエロ達はどうして無事だったのか?
ソラが何故――バート達と行動しているのか?
主の問いに、実に端的にソラが答えた。
『現在、交戦中です』
「交…戦?」
キナ臭い匂いが、突然漂ってくる。
肯定するように、ソラが言葉を重ねる。
『人権問題を巡って、反乱が勃発しました』
「え…えぇぇぇぇっ!?」
――垣根の向こうも、決して平和ではないらしい。
<to be continued>
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