ヴァンドレッド
VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 11 -DEAD END-
Action46−赤子−
何事かと作業員が集まってくるのを、慌てて静止。
必死で弁解して持ち場へ戻ってもらい、カイはホフヌングへ向き直る。
未知の能力を秘めた武器の向こう側に、懐かしき仲間達の声が響く。
『いや、まあ・・・ほら。こっちにも色々あってさ、あはは』
「笑い事じゃ済まない事態になっている気がするぞ、おい」
――反乱を起こしました。
事実のみを告げるソラの声が、脳内に重く届いた。
メラナスや故郷の問題も具体的に解決策が出ていないこの現状で、新しい問題が発生。
いい加減、頭が痛くなってくるカイだった。
「何があったのか、説明しろ。最早さっぱり分からん」
『・・・ちょっと、待ってろ』
いつになく慎重なバートの端的な一言で、一時的に連絡は終了。
彼が離れる気配を察して、カイは首を傾げる。
追求するのも憚られるので、待つしかない。
遠くからボソボソ複数の話し声――
事情説明に話し合いを行う意味がよく分からず、カイは困惑。
若干の待ち時間の後、再びバートが出て来てあっさりと言った。
『ドゥエロ君達と相談したんだけど』
「おう」
『君には教えないって事で、全員の意見が一致した』
「おおい!?」
冗談にしては笑えないし、からかっているならタイミングを考えろと言いたい。
猶予ある状況とはとても思えない。
カイが勢い込んで尋ねる。
「どういう事だ!? 人権問題云々って、明らかに俺とのいざこざが原因だろ。
教えてくれ。
自分のやった事で、手前らに迷惑かけるつもりはねえ」
バートやドゥエロが面白半分に問題を起こす筈がない。
しかもこの時期に反乱を起こしたとすれば、全面戦争に発展する。
男と女の、人権を賭けた闘争――
人数的な比率で見れば、ドゥエロやバートが圧倒的に不利だ。
『・・・じゃあ、反対に聞くけどさ――
事情を聞いて、君はどうするつもりなんだい?』
「どうするって・・・
お前らがピンチなら助けに行くに決まってるだろ」
マグノ海賊団との全面戦争の発端は自分だ。
ディータやソラを傷付け、彼女達に恨まれる原因を作ったのは自分。
海賊としてのやり方に異議を唱え、真っ向から対立する道を選んだ。
マグノ海賊団の怨恨が彼らに向いているなら、軌道修正する必要がある。
ドゥエロやバートは大切な戦友だ。
マグノ海賊団は反発しているが、憎しみや恨みはない。
両者の争いは出来る限り避けたかった。
――カイのそんな心境を汲み取ったのか、
『君の気持ちは嬉しい。だからこそ、頼る訳にはいかない』
「頼るって、これはそもそも――」
『これは僕達の問題だ!』
――絶句する。
怒鳴り声は小さいが、迫力に満ちている。
思わず息を呑むカイに、バートは一言一言ハッキリと伝える。
自分の意思を。
皆の、決断を――
『確かに僕達は、君に賛同した。
男と女は分かり合える――君は僕達にそれを教えてくれたからだ。
だけど勘違いするなよ、カイ。
僕は――僕達は君の味方だが、君の家来じゃない』
バートが、これほど自分の意思を強く相手に伝えた事があっただろうか?
バートの声は確信に満ちていた。
『僕達は僕達のやり方で行動する。自分の問題は、自分で解決する。
君の助力は必要ない』
そして最後だけ照れ臭く、
『僕達だって、ヒーローになる資格はあるんだ』
されど誉れ高く、バートはそう締め括った。
彼の背後から聞こえるのは感嘆と、苦笑。
ヒーロー宣言には同意はしなくても、自分達で解決する彼らの心境は同じらしい。
もしもバートの立場に立てば、自分だって助けを拒んだだろう。
――涙腺が緩む・・・
頼もしい友人の存在が、純粋に嬉しい。
輝かしい成長に、嫉妬なんて微塵もわかない。
同意と応援の言葉を無理やり隠して、励ましタップリの皮肉を贈る。
「・・・ヘ、なら助けに行かねえぞ。
後で土下座しても遅いからな」
『そっちこそ。連れてった仲間、死なせたら許さないからな』
お互い、呑気に話せる状況ではない。
情報交換は必須、助け合わなければ生き残れない。
分かっていながら、口出しも手出しもしない。
理屈では分かっているのに、感情が許さない。
余裕と見るべきか、試練と見るべきか――本人達でも分からない気持ちだった。
ただ、固く信頼が結ばれている。
その事実だけが、お互いの何よりの励みとなる。
「こっちは今のところ、全員無事だ。
そっちはソラの他に誰がいるんだ?」
『パルフェやミカさん、パイウェイが手伝ってくれてる。
ディータちゃんも放置するのはやばいから、メイアと一緒に連れて来た』
『無理やりに、な』
『あ、あはは…ま、まあそう目くじら立てずに』
冷たい怒りが凝縮された声に、バートは震え声だった。
自分が傍観者でいる事に無意識に安堵しながら、応答する。
「よ、よぉ・・・元気そうだな」
『元気そうだな、だと・・・?
ぬけぬけと、よくもそんな口が叩けるなお前は』
怖っ。
互いの距離は遥か彼方なのに、メイアの怒りが伝わってくるようだった。
心なしか、カイもご機嫌を取る顔になる。
「ま、まあ、落ち着けよ・・・俺も悪いな、とは思って――」
『ここまで事態を大きくしておいて、今頃何を言っている』
ホフヌングを吹き飛ばしかねない怒声。
直情的にならず、大声すら出さずにメイアは相手を叱責する。
それだけで並みの人間は萎縮して、しどろもどろになってしまう。
『我々は一刻も早く故郷へ戻らなければならない。
個々の感情はどうあれ、協力すべき時に滅茶苦茶にしてくれたな』
「そ、そうだ! その故郷の事でおまえ等に話さないといけない事が――」
『今度こそ誤魔化されないぞ、カイ』
「今度は本当だって!?」
メイアはまるで耳を貸さない。
日頃が日頃なので仕方ないのだが、カイはやきもきする。
「ぐうう・・・人の話を聞かない奴め・・・
そんなんじゃ相手に嫌われるぞ」
『お前が言うな』
メイアはおろか、バート達も背後から全力でつっこむ。
本来主の悪口を許さないソラや、今頃どこかで見ているユメも、困った顔。
真実を聞いてくれないカイに、彼女達が何度も歯痒い思いをしている。
『どうするつもりだ。逃げても物事は解決しないぞ』
手厳しいが、事実。
遠慮の無いメイアの指摘に、カイは小気味良さを覚える。
下手な慰めより、余程励まされる。
「分かってる。こっちも今、態勢を立て直してるんだ。
そっちは今どの辺を走ってる?
座標教えてくれれば、アマローネやクマちゃんが補足出来る」
知りたい情報の一つ――ニル・ヴァーナの現在地。
後に合流の必要があり、現時点での居場所を知れば追跡はある程度可能だ。
メイアはしばし逡巡して、
『・・・動いていない』
「へ・・・? いや、だから現在地を――」
『お前が出て行って、ニル・ヴァーナは全鑑停止状態だ。
原因は調査中、ペークシスも出力20%未満。システムの制御で精一杯だ』
「20%って・・・空調とか大丈夫なのか?」
ペークシスは船の心臓部。
人体の血液の循環と同じで、エネルギーの供給源となっている。
心臓が止まれば人は死ぬように、ペークシスが停止すれば船は死んだも当然である。
船内の機能が全停止すれば、中の人間が生きられない。
『生活空間の維持は出来ているが、今後の保証は無い。
もっとも、それは今に限った事ではないが』
ペークシス・プラグマは未解明のエネルギー結晶体。
現状利用出来ていても、何時何が起きても不思議ではない。
多種多様に使用される便利なエネルギー源だが、制御法は今だ研究中だ。
どうやら、向こう側も楽観出来る状況ではないようだ。
「ソラ、いるか」
『イエス、マスター』
呼べばすぐに応答する女の子。
いつも通りの関係に戻れた事が、カイには心から嬉しかった。
「お前から見て――」
――言葉に詰まる。
ソラの存在が知られたのは仕方ないとして、彼女の能力を明らかにするのはまずい。
システム全般を統括する存在だと気付かれれば、悪用される事を彼らは恐れるかもしれない。
特に、今は男――カイの信頼は地に落ちている。
監視や盗聴、他あらゆるシステム犯罪を過去に渡って疑われるのは間違いない。
ソラやカイが悪用した事は一度も無いが、やっていないという証拠は無い。
言葉を切り替える。
「お前から見て、船の様子はどうだ?」
『芳しくありませんが、少なくとも今後人命が害われる傷害は発生しないでしょう』
「理由を言えるか」
『経験から導き出される予測です』
少しも悩む様子を見せず、主の意図する答えを用意する従者。
ソラが言うからには予想ではなく絶対なのだろうが、あえて断言はしない。
システムに詳しい素振りを見せて、確信には至らない物言いをする。
主の配慮を重んじての返答だろう。
自分にはもったいない女の子だと、カイはつくづく感心するばかりだった。
「艦内の様子はどうだ?」
これにはメイアが答える。
『最悪だな。
お前の所業で艦内は完全に分裂、ドレッドの半数は破損状態。
原因不明の揺れで怪我人も出ている上に、クルーの不安や恐怖も増大している』
「・・・俺が出て行って平和――とは、ならないか・・・」
恨まれている本人が出て行けば解決する話ではない。
分かっていても、悪影響が出ている事は胸に痛い。
『当たり前だ。我々はそれほど単純ではない。
――そして、愚かでもない。
お前の言葉は、皆に届いた。――私にもな」
『青髪・・・』
聞いていてくれた、それだけでも嬉しい。
たとえ、いずれ決着をつけるべき相手の一人でも。
『バートの言う通り、こちらの問題はこちらで対応する。
お前は、お前の責務を果たせ』
――メイアもまた、理解している。
完全なる決着は、戦いの舞台にある。
衝突が避けられないのなら、互いに精一杯出来る事をする。
悩み苦しんで、結論を出す。
カイとマグノ海賊団、その両者が再び相対した時――
――メイア達もまた、答えを出している。
『カイ。最後に、ディータがお前と話したがっている。
――ディータ、ほら』
『・・・おにーちゃん?』
「お、おう、赤――ディータか」
――感情が揺さぶられる。
自分の犯した罰だと、懐かしい声を聞く度に胸をえぐられる思いだ。
逃げ出す事は許されない。
真正面から向き合わない限り、この後悔は消えない。
『どこにいるのー? さびしいよー』
「・・・ごめんな。
おにーちゃん、まだやる事があるんだ・・・」
視界が、歪む。
――辛かった。
泣けるものなら、泣きたかった。
『ディータ、いい子にしてるよぉー
いい子にして、まってるの』
「そっか・・・偉いぞ、ディータ」
『えへへ、あのねあのね。
おねーちゃんが、いい子にしてたらおにーちゃんにあえるって』
「・・・あ、ああ・・・
絶対にまた、会える。会えるから・・・」
嗚咽を懸命に噛み殺す。
震えた声を出す自分を叱咤する。
――頬に触れる、温かな指先・・・
振り返ると、ジュラが優しい眼差しで涙を拭いてくれた。
もう、言葉にならない――
カイは無言のまま、潰れそうな胸の内を涙で流した。
<to be continued>
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