ヴァンドレッド


VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 11 -DEAD END-






Action44−連絡−






   通路を急いで駆け抜けながら周りを見るが、現状艦内に動揺は広がっていない。

カイは安堵しつつも、その落ち着き振りには多少の不思議を感じた。

ニル・ヴァーナなら、警備班が走り回っているであろう轟音だったのだ。

敵襲ではないとはいえ、気になる。

――その敵襲ではないという確信も、一人の少女の明言によるものなのだが。


「地球人達じゃないのは確かなんだな?」

『ぶー、違うもん』


 敵の正体は発覚した。

"刈り取り"という曖昧な呼称では呼ばず、敵意をこめてカイは地球人と呼ぶ。

襲い掛かってくるのが人ではなく無人兵器だというのは、彼にとって救いか否か――

人を殺した経験の無いパイロットには重い命題である。

今のカイには、それよりも慕ってくれる少女の御機嫌が気にかかっていた。


「・・・何だよ、機嫌悪いな」

『何でもないもん。ますたぁーの馬鹿』


 拗ねているというより、甘えている仕草。

表面上怒っているが、かまってほしそうに頬を膨らませて見上げている。

少女の可愛らしさに目を細めて、カイは先へ進む。


「ユメ、さっきの爆音の場所は分かるか?」

『まかせて!』


 何か頼まれるのが嬉しいのか、あっさり機嫌を直して手をかざす。

次々と空間に浮かぶ画面――

モニターが空中で乱舞するのかのように、鮮やかな彩りの光を放って映像を映し出す。

検索作業は数秒にも満たない。

瞬時に画面が消えて、ユメは手を上げる。


『はーい、第七格納庫でぇーす。
この道まっすぐ行けばあるよ、ますたぁー』

「さすがユメ、ナイスだ」

『えへへへ、えらい? えらい? わーい』


 頬を染めてはしゃぐ姿は、人間そのもの。

立体映像だと頭の中で理解していても、やはり信じられない。

血と死体に狂った世界で出逢ったのが、嘘のように思える。

少女は明るい世界が良く似合う気がした。

場違いな感慨を抱きながら、カイは歩を早める。 


「ユメ、もし他の連中が居たら――」

『隠れて見てるね。
浮気しちゃ駄目だよ、ますたぁー』


 ユメさえ望めば紹介を、と考えたが無駄な気遣いだったようだ。

笑顔で関わりを拒否するユメを説得しても無駄だろう。

強制するつもりはカイにはなかった。

ソラの時は結局存在を知られて大騒ぎになったが、望まぬ形で会わせても亀裂は走っていただろう。

人間関係はデリケートだ。

結局のところ、正しい答えなんて存在しないのかもしれない。

マグノ海賊団は理解出来ないと、見限った。

ソラの事は重い教訓と受け止めながらも、カイは諦めるつもりは無かった。

見苦しくても、試行錯誤を繰り返す。

ユメはソラ以上に扱いが難しく、一般常識に欠けた女の子である。

理性ではなく感情、論理ではなく本能で行動して、その気になれば躊躇いなく人を殺せる。

実行に移さないのは、カイの意思に反する為。

人間側に手助けする形に今なっているのも、カイに喜ばれたい一心である。

万が一カイが地球人に味方をすれば、ユメは積極的に刈り取り側へ回るだろう。

人々が畏怖する精神構造だが、カイにはどうしても憎めない。

愛情を向けられている為か、ユメ本人を好んでいるのか――

あの暗い牢獄で沈んだ心を癒してくれた明るい声を、カイは生涯忘れることは無いだろう。

スキップしてついて来るユメを隣に、カイは目的地へ辿り着いた。

その場に立って耳をすますと――


「・・・変な音が聞こえるな・・・」


 歯車が軋んでいるような、布を引き裂いているような、不気味な音。

寝る前にあまり聞きたくない不快な物音だった。

明らかに、中で作業か何かをしている。

ただの作業なら見過ごせるが、派手な爆音を鳴らされたら寝るに寝れない。


「・・・そういえば、目が覚めた時も妙な音がしたな。
バタバタしてて、すっかり忘れてた」


 セランや艦長、仲間達との打ち合わせ。

今日一日で知り過ぎた事実は、日常の些細な出来事を埋めてしまっていた。

カイは独り言のように疑問を呟く。


「何やってんだろうな、中で」

『ますたぁーのホフヌングを取り外してるよぉー』

「・・・は?」


 簡単に疑問に答える少女を、カイは唖然とした顔で見る。

ユメは茶目っ気たっぷりの表情で扉を指差して、


『この中に、ますたぁーの機体が倒れてるの。
ますたぁーになれなれしーあの女が、兵器を外して真っ青な顔で立たせようとしてるよ』

「うぉいっ!」


ニル・ヴァーナから唯一持ち出せた機体と、カイだけの遠距離兵器。

海賊戦では使用しなかった、強力無比な武器。

ペークシスの力を利用した兵器が壊されたら非常にまずい。

反射的に、中へと突撃する。


『いけいけぇー、ころしちゃえー』


 弾んだ声で声援をかけて、ユメは空気のように溶けて消える。

映像が消えただけで、明確な意思はそのままに。

勢いこむ主に続いて、中へと入っていった。















「・・・何だ、あんたまだ起きてたの?」

「金髪!? それに――」

「お、起きてたんだ・・・や、やっほー」


 第七格納庫とユメが呼んでいたその場所は、比較的狭い。

かつてSP蛮型や改良型ドレッドが保管されていた主格納庫に比べれば、半分程度の空間だった。

蔓延する油の匂いに、散らばる工具。

機材と廃材が床に散乱したその風景は、少しだけ懐かしさを覚える。

パイロットのカイにとって、馴染みある光景だった。


――目の前の光景を除いて。


豪快に倒れた人型兵器。

人間が躓いたのような横転に、シュールさを感じさせる。

言わずと知れた、カイの機体である。


「やっほー、じゃねえ!? 
何してるんだ、人様の機体に!」

「うーん・・・修理?」

「俺に聞くな!」


 この艦で知り合った少女――セランは、顔も手も真っ黒で苦笑いする。

多少なりとも気まずさを感じているのか、弁明じみた口調で話す。


「ほ、ほら、君達の戦闘機をウチで預かる事になったから、見てたのよ。
特に少年君の機体、ボロボロだったから」

「・・・豪快な物音が聞こえたんだが、まさか俺の大事な機体をこんな扱いにしているとは」

「あ、あはは・・・いえーい」

「Vサインで誤魔化すな!」


 機材やら何やらを豪快に巻き込んで、機体は横倒しになっていた。

相当な勢いで倒れたのだろう。

片腕が取れているのが見えて、頭を抱えたくなった。


「・・・寝起きにも似たような騒音が聞こえたんだが――」

「あんたの作った兵器を、間違えて落としたんだって」

「こらー!」

「ごめんなさい、事故なのー!」


 ジュラに冷静に指摘されて、観念したようにセランは平謝りする。

呆れたが、カイは怒る気にはなれなかった。

マグノ海賊団との激戦で機体はボロボロだった筈。

バーネットの攻撃で穴だらけにされ、フォーメーションとの激突で腕も足もズタズタにされた。

廃棄処分扱いされても抗議出来ない状態だった。
保管庫に眠りっぱなしだった機体であそこまで戦えたのは、間違いなくあの小さなエンジニアとパルフェ達あってのものだ。

――今派手に転んでいるが、目に映る機体はかなり修繕されていた。

装甲はいたるところに破損はあるが、決定的な亀裂はない。

腕は取れているが、形を保っている。

いい加減な整備や補修作業で、これほどの修繕は行えないだろう。

本来感謝すべきだが、事故があったのも事実なのでカイは対応に困っていた。

そんなカイの横顔を見て、ジュラもクスっと微笑んだ。


「許してあげなさいよ。
酷い状態だったあんたのヴァンガードを直してくれたんだから」

「まあ、元に戻してもらえるならいいけど…
ホフヌングだけは触らないでくれ」

「ホフヌングって、この兵器の名前?
へぇ…

HOFFNUNGホフヌング――貴方の"希望"なのね、この武器は」


 倒れた機体とは裏腹に、厳重な取り扱いをされている兵器。

仄かな光を放つ武器の表面を、セランは優しく撫でる。

ジュラは訝しげな顔をして、カイを見やる。


「…そういう意味なの、ホフヌングって?」

「一度教えた事があるだろ、お前には」


 カイとて、どうして知っていたかは分からない。

単語や意味を理解出来る頭脳はあるが、知識の源が消えてしまっている。

何故知っているのか、何処で覚えたのかが分からない。

二人の会話に、セランが解説を入れる。


「失われつつある言語よ。
ジュラさんが知らないのも無理はないと思うわ」

「ほら、見なさい。知ってるアンタが変なのよ」

「威張る事じゃねえだろ!?」


 セランの話によると、地球の還民語の一つらしい。

彼女が知っていた理由は単純で、地球の無人兵器を研究する上で古き資料の解読の為に覚えたのだそうだ。

艦長は会話も可能らしく、時代の名残を思わせる貫禄ぶりである。

話を聞いたジュラは、


「あんたって本当に記憶喪失なの?
余計な事知っている割に、肝心な事知らなかったりするじゃない。
どっちかはっきりしなさいよ」

「無理を言うな、無理を」


 記憶喪失に容態や加減はない。

記憶を失って数年、回復する見込みはまるでなかった。

本人は過去には最早あまり興味はなく、思い出せれば良い程度に思っている。

カイのそんな溌剌とした生き方が、記憶喪失という不幸を消しているのかもしれない。

自分の不幸に甘えるつもりはなかった。


「――で、話は逸れたけど、下手に触らないでくれ。
扱いが難しい兵器なんだ。
安定した出力を維持出来ないし、ペークシスを利用しているから何が起きるか――」

「うん、それで貴方にも御話を聞きたかったの。
黙って触ってごめんなさい。
つい好奇心をくすぐられちゃって…うふふ。

ジュラさんに質問しようと思ってたんだけど――」


 セランは自分で言うように、好奇心旺盛な表情を見せて、


「この兵器って、音声機能とかあるの?」

「音声…機能?」

「うん、だって耳を近づけると――

――男の人の話し声・・・が聞こえるわよ」

「はぁ!?」


 ホフヌングから――男の声?

開発者の知らない状態に、カイは目を白黒させて困惑した。


































<to be continued>







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