ヴァンドレッド


VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 11 -DEAD END-






Action43−動向−






  就寝前――ベットの上に転がって、カイは考え込む。

数日間の昏睡後とはいえ、衝撃的な話を聞かされて疲れてはいた。

完治していない怪我を癒すためにも早く休むべきだが、彼には考えなければ事が山ほどあった。


(――今後どうするか、だよな・・・)


 セルティック・ミドリ、彼女も旅の同行者となった。

見返りのない危険な旅だと承知の上で、彼女は自分の意志を伝えてくれた。

セルティックが味方となってくれた事は素直に嬉しく、心強く思う。

だからこそ、彼女を――彼女達を必ず生きて帰してあげたい。

マグノ海賊団に反旗を翻し、ニル・ヴァーナより下船した自分の義務だ。


(戦力が足りないのが、やっぱり致命的だよな・・・くそ。
故郷は敵側と知った以上、もう頼りには出来ない)


 以前刈り取り襲撃のメッセージをタラーク・メジェールへと送ったが、恐らく握り潰されているだろう。

故郷は地球に従っている。

男と女に区分けして生殖器を培養、来る日に刈り取る魂胆だ。

彼らへの救援要請は的外れでしかない。

かといって他に頼れる戦力はなく、自分達だけでは勝利は難しい。

可能性があるのは――


(――マグノ海賊団、か・・・)


 タラーク・メジェールが唯一恐れる海賊集団。

国家を脅かす戦力と、勇猛果敢な戦い振りで国を震撼させてきた。

ニル・ヴァーナに居る人達が全てではない。

故郷へ戻れば、アジトに残された人達も沢山居る筈だ。

緊急事態ならば、これ以上無いほど頼りになる集団はいない。


問題は――そんな彼女達と、カイが敵対している事。


カイは目を閉じて、嘆息する。

仮に真実を告げても、協力してくれるかどうかは非常に怪しい。

状況的な証拠はあるのだが、明確な判断材料が提供出来ない。

まして、自分は敵側だ。

敵の言う事など信用出来ないと一蹴されれば、後は水かけ論になる。

感情で責められれば、理論は通用しない。

マグノやブザム等の幹部達なら話を聞いてくれるだろうが、他沢山のクルーが怪しい。

協力しなければ生き残れないのだが、彼女達は自分達の強さに自信を持っている。

自らの力で手に入れた自由を誇り、己が正しさに胸を張っている。

――その正しさこそカイが否定すべき点で、譲れない部分でもある。

我の張り合いはお互い様だが、真実を知るカイには彼女達の主張は最早受け入れられない。


(アマローネ達に説得してもらうとか――いや、駄目だ。
これは俺とあいつらの問題だ)


 マグノ海賊団の協力は必須。

だが、故郷の為だけでは決して無い。

譲れない想いを抱く自分達に、決着は必ず必要だ。

地球との決戦は最終工程。

先延ばしには出来ないという意味では、皮肉にも刈り取りが自分達の背中を押した事になる。

故郷へ到着する前に、もう一度会いに行こう。

予定の一つが決定された。


(だけどあいつ等、今何処に居るんだろうな・・・)


 普通に考えれば、数日間眠っていた自分を追い抜いている事になる。

順調に旅を続けて、今頃は銀河の彼方だろう。

救助船とニル・ヴァーナの速度は違いすぎる。

今から慌てて追いかけても、追いつける可能性は薄い。


――通常の状態、ならば。


(バートをあいつらがどう扱っているか・・・)


 ドゥエロとバート、二人が殺されたとは思えない。

此度の騒動の原因は自分にある。

憎しみで理性を焼かれていても、その辺の道理は忘れたりしない。

第一二人を案じて残ってくれたミカやメイア、ガスコーニュ達が許さないだろう。

生きている、必ず。


――ただ、自由の身であるかどうかは怪しい。


監房へ逆戻りしている可能性は、残念ながら存在する。

自分の引き起こした結果だと思うと、胸が痛い。

バートが操舵手から降ろされれば、ニル・ヴァーナは動かない。

目的を優先するか、規則を優先するか。

目的を優先するならば、バートを操舵手として発進させている。

規則を優先するならば、バートは幽閉されて船は動かせない。

それに――


(――ソラが助力しない限り、船は動かせない)


 正体は不明だが、ソラにはニル・ヴァーナのシステムを統括する力がある。

彼女の助力でこれまで多くの危機を救われたが、立場的に自分への手助けだ。

ソラの存在をはマグノ海賊団側に知られたが、それでも彼女自身が自ら姿を見せる事は無いだろう。

仲直りは何とか出来たが、カイもきちんと顔を合わせていない。

夢の中で少し出会えただけだ。


――考える。


やはり今後の為にも、ニル・ヴァーナとの間に連絡手段が必要だ。

共同生活は幕を閉じたが、関係の修復を諦めるつもりは無い。

彼女達との決着もついていない。

ペークシス・プラグマ、ヴァンドレッド、それにニル・ヴァーナ。

地球人との戦いに、彼女達との共同戦線は不可欠。

旅立った後のバートやドゥエロ、ガスコーニュ達の現状も気になる。

戦いを決意した事に後悔は無いが、あの船に未練はタップリあった。

マグノ海賊団の動向を探る上で、ニル・ヴァーナに何とか連絡が取りたい。


問題は、その手段。


今何処に居るか分からない限り、連絡なんて取りようが無い。

万が一居場所が判明しても、正面から呼びかけても無視されるだけだろう。


「青髪やガスコーニュにでも――無理か。
秘匿回線使っても、万が一バレるとあいつ等の立場がやばくなるし」


 心情面は別にしても、彼女達はマグノ海賊団である。

部下を指揮する立場にある以上、責任もある。

易々と敵に回った人間と秘匿で連絡を取れば、発覚後信頼を失う危険が高い。

反対派の人間は今だ健在なのだ。

弱みを握られれば、今度ますます関係は悪化する。

何とか連絡が取れそうなのが――


「ソラが無理なら――ユメか。
でもあいつ、今どうしているのか分からないからな・・・」



『はーい、ここにいまーすぅ』



「お、ナイスタイミング!


――て、タイミングが良すぎるわ!?」


 慌ててベットから顔を上げると、にこにこ顔でユメがベットに腰掛けていた。

相変わらず神出鬼没な女の子である。

紅いドレスを派手に着飾って、血のように紅い瞳を愛する主人に向けている。


「な、何でお前此処に――」

『ますたぁーとわたしは、心が繋がってるの。
何処に居ても、すぐに分かっちゃうんだから』


 逃がさないもんと、無邪気にカイに抱きつく。

立体映像なので通り抜けるだけなのだが、ユメは心から嬉しそうだった。

カイの疑問は無論その程度で晴れない。


「何で映像が出せるんだ? この船はニル・ヴァーナじゃないぞ」

『あー! ますたぁー、勘違いしてる。
うふふ、可愛いー』

「頬っぺたをつつくな!」


 実際はつつかれていないが、指の映像は可愛らしく映し出されている。

困惑するカイに、ユメは得意げに説明する。


『ペークシス・プラグマがあるお船には、自由にシステムにかいにゅー出来るの。
ソラのいるお船ほどじゃないけど、これくらい可能だよ』


 スカートを摘んで、愛らしくお辞儀する。

分かったような分からないような説明に、カイはあまり深く考えない事にした。

ソラやユメには謎が多すぎる。

ただ、一つだけ気になる点があった。


「お前らって、ペークシスと何か関わりがあるのか?」


 薄々と勘付いていた事を口にすると、ユメの表情が輝く。

そのまま主の膝元に飛び乗って、無防備な顔を向ける。


『うんうん、ますたぁーやっと聞いてくれたね!』

「やっとって、大袈裟な・・・」

『だってますたぁー、いっつも聞いてくれないもん。
教えてあげようとしてるのにぃ』


 ぷくっと頬を膨らませるユメ。

舌たらずな声と幼くも可憐な容姿で、あまり怖くは見えない。

微笑ましいお怒りの天使に、カイは苦笑してなだめる。

「ごめん、ごめん。なら、今教えてくれるかな」

『うふふ、あのね。
ユメとソラは、ペーク――』



 ――爆音。



医務室の壁を横殴りにする巨大な音が、室内に反響する。

カイは鼓膜を殴打されて、顔をしかめる。


「何だ、今の!? 耳いてー」

『もう! 
何でいっつも、邪魔が入るのよぉー!』


 両者全く噛みあわない理由で、それぞれ文句の声を上げる。

轟音は一度きりだが、気にならない筈は無い。

カイはベットから降りて、注意深く動向を探る。


「――敵が来たのか・・・?」

『ううん、ちがうよ』

「・・・? いやにはっきり断言するな」

『だって、この船に今ユメがいるもん』


 冗談かとカイは見やるが、ユメは当たり前の顔。

拗ねているように見えるのは、別の不満から。

信じていいのか悩むが、カイは次の瞬間首を振った。

疑っても意味が無い。


「敵じゃないにしても、気になる。船の様子を見に行こう。
行くぞ、ユメ」

『あーうー、やっぱりそうなるんだ・・・』



 ――こうして、真実は闇に葬られた。


































<to be continued>







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