ヴァンドレッド
VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 11 -DEAD END-
Action40−消費−
目的は決まった。
刈り取りを阻止する――
今まで通りだが、深みはまるで異なっている。
刈り取りの正体、地球。
地球の手先となって、国民全員の犠牲を容認する故郷。
彼らの目的は、人間の臓器。
惑星規模の数で彼らは臓器を集め、人間を引き裂いて奪っている。
人類の歴史を比較しても類を見ない、大量虐殺。
阻止しなければ、大量の尊い命が犠牲になる。
カイはこの戦いにおける真実を知り、それでも戦う事を選んだ。
地球の企みを阻止し、侵略された星々の平和を取り戻す。
故郷一つに限定するつもりはなかった。
――宇宙に世界が広がっていると、知ったから。
「で、どうやって阻止するの」
賑やかな食事が終わって、食後のお茶の時間――
皆が落ち着くのを見計らったかのように、ルカが何気なく問い掛ける。
「どうやってってお前・・・奴等を倒せば解決だろ」
「どうやって倒すの」
「それは――」
「それは?」
苛めている様子はなく、ただ淡々と。
無感情に見つめられて、カイは胸を張る。
無意味に。
「俺が、この手で」
「死ね雑巾野郎」
「お前、容赦ないね!?」
「カ、カイさん一人では危ないですよぉ・・・」
「冗談だ、冗談。そこまで俺も馬鹿じゃない」
罵倒するルカと、心配顔のセレナ。
二人の素直な反応を見ると、余計に落ち込んだ気分になる。
実際、現実問題は山積み。
最終目標は明確だが、目標に辿り着くまで果てしない。
今は其処まで歩く道すら見えない。
「地球の戦力の詳細は不明だけど、惑星規模で刈り取りを進めてる。
砂の惑星、アンパトス、メラナス、そしてタラーク・メジェール。
砂の惑星は既に消滅、アンパトスは俺達が阻止したが一度来襲。
メラナスは世代前から戦争は始まっている――
ここから考えるだけでも、敵は幾つもの星を攻められる戦力を保有している。
無人兵器を調子こいて、バンバン地球から出撃させてるんだろ。
で、俺達の戦力は蛮型一機とドレッド一機。
俺の蛮型は旧式で、合体出来ない。
うーん…素敵な戦力差だな…」
「感心してる場合じゃないでしょう!」
コーヒーを優雅に飲んでいたジュラも、悲壮な表情でテーブルを叩く。
話を聞いていて怖くなったのか、アマローネも恐る恐る口出しする。
「どうするのよ、カイ…私達だけじゃ、絶対に勝てないわ。
あの救助船一隻で、故郷へ帰れるかも怪しいのよ」
蛮型・ドレッド一機だけでは、今まで戦った無人兵器にも勝てないだろう。
マグノ海賊団全戦力とヴァンドレッド、カイの戦略でどうにか勝てた相手――
無闇に戦っても、返り討ちにあって終わりだろう。
「故郷までって、まだまだ遠いんだよな?」
「大雑把に言えば、今用約半分くらいの距離よ。
ニル・ヴァーナで最低後半年、あの船だったら十ヶ月以上かかるわ」
ブリッジクルーのアマローネの計算だ、正確なのは間違いない。
十ヶ月――その年月は重い。
現在の故郷の様子が分からず、刈り取りが何時実行されるかも判明されていない現状。
一刻も早く帰らなければ、全てが手遅れになる。
「俺が喧嘩したから余計に遅れてるからな…」
「何を今更」
「歯に衣着せぬ言い方、どうもありがとう」
セレナが用意したお茶菓子をもぐもぐ食べるルカに、引き攣った顔でカイが睨む。
あの戦いは必然だったとする根拠は、あくまで今後のお互いの関係の為。
刈り取り阻止という観点から見れば、男女の諍いなど目標に遠のいているだけ。
メイアやブザムからすれば、あの戦いにはさぞ苛々させられたのではないだろうか?
こんな事をしている場合ではない――そう説教させられたかもしれない。
結局最後まで話す事もなかった二人を思って、カイは嘆息する。
メイアもブザムも、世話になりっぱなしで終わってしまった。
「現状手を打てるのは、メラナスの力を借りることだな。
アンパトスとは違って現実が見えてるし、敵の正体も目的も知ってる。
艦長と話をしたけど、理解のある人だったから話がしやすいだろう」
敵戦力は甚大。
比べてこちらはカイを筆頭に、サブドレッドリーダーのジュラ。
クリーニングチーフのルカに、キッチンチーフのセレナ。
ブリッジクルーのアマローネにセルティック。
おまけに、ピョロ。
無理に連れて来られたピョロやセルティックは始終不満顔で、お茶を飲んでいる。
戦力も人手も足りないカイ達が戦うには、メラナスの力が必須となる。
幸い艦長との第一面識は上々で、今後とも有効な付き合いを望めそうだった。
「でも何か、こっちもこっちで大変そうよ。
艦内案内して貰ったけど、怪我人も多かったわ。
協力してもらうのは無理なんじゃない?」
「艦長の話を聞く限り、今確かに切羽詰ってるみたいだからな。
俺達からも協力を申し出よう。
どの道、地球の無人兵器は片付けないといけないんだ。
目の前の敵を一つ一つ倒していけばいい」
「…あんたがそう言うと、簡単そうに聞こえるから不思議だわ」
綺麗に短く整えた髪を揺らして、ジュラは小さく笑った。
メラナスの問題を解決すれば、彼らもタラーク・メジェールの問題に協力して貰えるかもしれない。
安易な発想だが、可能性はありそうだった。
お茶のお代わりをそつなくこなしながら、セレナが――少し寂しそうに言う。
「本当は…皆さんと協力するのが一番なんですけれど…
もう、無理なのでしょうか…?」
「…」
皆さん――誰の事を指しているか、分からないカイではない。
マグノ海賊団。
分かり合える事無く両者は戦い、そして終わった。
戦力的な意味を省いても、彼女達は本当に頼りになる人達だった。
命を賭けても惜しくはなかった。
隔てた距離は埋まりようがないほど大きくなり、彼女達との共同生活も解消された。
カイは首を振る。
「――無理じゃない。
俺とあいつらとの戦いは、まだ終わっていない。
決着をつけるまで、この関係はまだ続いている。
それに――目的は同じなんだ。
あいつらだって、刈り取りそのものは阻止するつもりでいる。
話し合える余地は残されている」
カイが居なくなったからと言って、故郷へ帰るのをやめたりしないだろう。
一度決めた事を、覆すとは思えない。
カイは苦笑いして、御代わり分を飲む。
「案外俺が居なくなったから、平和に旅してるかもしれないぜ。
問題解決したって、喜んでるかも――」
「――馬鹿」
ジュラは深刻な顔で、否定する。
「そんな筈…ないじゃない…」
苦々しい表情で呟くジュラに、それまで黙ってたピョロが同意する。
「…きっと今頃、大変な事になってると思うピョロ。
カイのあの時の言葉は――皆の心に切り裂いたんだピョロ。
信じていたもの、信じたかったもの。
全てが否定されて――皆、自分の心の弱さに気付いたと思うピョロ…」
"海賊だったら、誰でも踏み潰していいって言うのか!"
"これからも、奪わなければ生きていけないのなら――
お前達は死んでいるのと、変わらない"
"…醜い男だ――お前らは…"
彼女達は、知っただろう。
偽り続けていた、自分を。
海賊という事場で飾っていた、己が内を。
男を、女を――人間を奪い続けていた、現実を。
華々しい戦果に隠れた、醜い犠牲の数々を。
真実を露呈されて、また平和な日々が戻るとはとても思えなかった。
カイはあの戦いで敗北したと考えている。
何も変えられなかったと、次なる戦いへの反省にしている。
本当にそうだろうか?
むしろ、あの戦いで――
「とにかく――しばらくは、メラナスに滞在。
此処を我が物顔で乗っ取ろうとしている、地球人共を倒す。
当面はそれでいいか?」
――反対の意見はなく、お茶会は終わった。
自分の使った食器類を片付けて、一度解散の形になる。
カイは大きく伸びをして、肩を叩く。
昏睡から解放された最初の一日にしては、重い事実が積み重なりすぎた。
今後の事を考えるのは、後。
まずはゆっくり寝て、怪我を癒さなければいけない。
欠伸混じりに椅子から立ち上がるカイの手に、
――カサっと、握らされる一枚の紙。
"お話があります。医務室で待っていて下さい"
広げた紙に書かれた、簡素な言葉。
慌てて振り返るカイに――セルティックの小さな背中が見えた。
<to be continued>
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