ヴァンドレッド
VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 11 -DEAD END-
Action41−純慕−
頭が鈍く重い。
数日間昏睡に陥った反動か、真実の重みに疲弊しているのか。
いずれにせよ、寝起きの頭には辛過ぎる話だった。
「・・・何でこんな事になっちまったんだろうな・・・」
男女共同生活開始から、半年。
騒動と戦乱の嵐だったが、実りの多い日々だった。
戦士として、人間として、未熟だった自分に沢山の事を教えてくれた。
彼女達との生活は日々騒がしく疎まれていたが――充実していた。
このまま何とか、旅は続けられるのではないかと思っていた。
――全てが終わった、あの日までは。
所詮、不本意な共同生活。
厳しい環境に押し付けられた関係。
少しでも揺れれば壊れる、ヒビ割れた絆。
揺らしたのは、自分。
壊したのも、自分。
終わりにしたのも――自分。
皮肉にも彼女達との旅で手にした沢山の想いが、自分の背中を力強く押した。
マグノ海賊団との、戦場へ。
――気分が、滅入る。
この旅がなければ、彼女達と知り合えなかった。
この旅がなければ、彼女達と戦う事はなかった。
夢を叶える為にタラークを出る決意をしたのは――正しかったのだろうか?
それとも、間違えていたのだろうか?
今はまだ、分からない。
タラークは自分が育った地。
愛着や望郷の念はあるが、国家への忠誠はまるでない。
居心地は良くも悪くもなかった。
故郷に居た頃は養父との酒場生活で、概ね平凡だった。
むしろ最下級にして労働階級の三等民からすれば、穏やかな日々ではあっただろう。
通常三等民は国家の名の下に厳しい労働が課せられ、貧困に喘ぐ毎日。
娯楽や享楽は無縁、懸命に生きるだけの辛い生活の繰り返しだ。
カイは身寄りの無い捨て子であり、身元不明者。
重労働の義務は免れてはいたが、酒場から一歩出れば奴隷同然に見られていた。
夢も希望も無い、ただ消費するだけの人生――
それでも、生きる権利は持っている。
階級に関係なく、命在る者全員が共有出来る当然の権利だ。
例え親でも――国でも、それを奪う事は決して許されない。
この旅に出て、真実を知った。
自分が生まれた理由。
国家より求められた義務。
不変の敵と定められた異性。
――その全てが、一つの目的に集約される。
祖先に捧げる生贄。
人として愛されているのではなく、臓器として愛でられているだけの存在理由。
奪われ、消え逝くだけの命。
生まれた時から死を義務付けられ、心も身体も値札がつけられていた。
国民全員を地球に捧げようとする指導者達に、狂おしいまでの怒りを覚える。
彼らを前にすれば、どのような罵倒を飛ばすか正直予想もつかない。
地球人を盲信し、自らが開拓して育て上げた惑星を血に染める彼らを心から罵ってやりたい。
自分はまだいい。
所詮記憶もなければ、教育も受けていない。
国家の義務に従う義理もなく、最低階級で細々と暮らしてた身だ。
――マグノ海賊団は、別。
彼女達は個性あれど、平凡な生活を営み、平和な子供時代を送っていた。
純真に国を愛し、国家の教えにも忠実に従ってきた。
そんな彼女達は一度国に裏切られ、見捨てられた。
財政難に貧窮し、国家が維持出来なくなり――彼女達は切り捨てられたのだ。
親や姉妹、恋人や友人を喪った人達も大勢いる。
国に捨てられた悲しみに、心をズタズタに切り裂かれたであろう。
そんな彼女達が集い、海賊となり――
――それでも忠実に、故郷の教えには従っていた。
国家の逆賊として恐れられ、タラーク・メジェール両国家を敵に回しても、故郷には特別な想いはあったのだろう。
故郷を簡単に切り捨てられる人は、少ない。
離れても、離れても――思い出してしまう。
懐かしさを感じてしまう。
――マグノ海賊団はまだ何も知らない。
今でも故郷を救うべく、旅を続けているだろう。
他の皆も同じだろう。
真実を知れば彼女達はどれほど傷つくだろうか…?
カイは、嘆息する。
最早、敵同士。
憎まれるだけの存在なのに、まだ自分は彼女達を気にしている。
マグノ・ビバンは故郷に義理はないと言ったが、彼女達もまた自分と同じ。
一度好きになった想いは簡単に――捨てられない。
思いを馳せて歩いている内に、医務室の前へ辿り着く。
ノックをするが返事はなく、中には誰もいないようだ。
カイはポケットから紙片を取り出す。
『お話があります。医務室で待っていて下さい』
――セルティックより握らされた言伝。
考えてみれば、彼女とは最近まるで話していない。
彼女が死んだとユメに聞かされた戦慄は、今でも肌に実感として残っているのに――
手の平に、汗が滲む。
彼女は、マグノ海賊団の人間。
特別に自分に賛同せず、気絶していたところをアマローネに頼まれて連れて来ただけだ。
さぞ、文句のし甲斐があるだろう。
どうやら就寝前に、もう一つ負うべき責任を果たさなければいけないようだ。
着替えて待とうとドアを開けて――
「彼女が来る前に――って、うおわあああぁぁっ!?」
誰もいない筈の医務室で、カイの絶叫が高らかに木霊した。
ドゥエロ・マクファイルには、日誌を書き留める習慣がある。
趣味ではなく、実務。
日記ではなく、記録。
医療に携わる者として、日々怠る事無く医療的観点から記述する。
そんな彼が――その日の事を、こう記していた。
『医療日誌、監房よりドゥエロ・マクファイル記録。
…カイ・ピュアウインドが旅立って、早二日が経過した。
艦に残った我々はその日の内に捕縛。
厳しい取調べと尋問・拷問に近い追及を受け、投獄。
自室として利用していた監房に、再び幽閉される事となった。
処罰は無かったが、罪を許されたのではない。
我々の罪を追求する余力が、彼女達には残されていなかった。
先導したバーネット・オランジェロは自殺を図った。
生死は不明、幼い助手の苦労が懸念される。
カイ・ピュアウインドとの激戦で、怪我人は多数。
パルフェより伝え聞いた話ではドレッドの半数が使用不能、パイロットの半数が入院。
死傷者・重傷者0なのは幸いと言うべきか、我が友人を褒め称えるべきか。
にも関わらず、入院患者は続出。
体調不良・精神的失墜を利用に、職務を放棄する人間が後を絶たないと言う。
理由は、はっきりしている。
彼の、言葉。
彼の意思が、届いたのだ。
真実を前に、虚飾は意味を持たない――そういう事だろう。
ペークシス・プラグマは沈黙。
操舵手と動力源を失った船は、巨大な模型でしかない。
二日。
我々は――
――明日を失った』
<to be continued>
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