ヴァンドレッド
VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 11 -DEAD END-
Action28 −精巧−
主演:カイ・ピュアウインド。
脚本:ルカ・エネルベーラ
演出:ミカ・オーセンティック
道具:セレナ・ノンルコール
音楽:ジュラ・ベーシル・エルデン
監修:ドゥエロ・マクファイル
お手伝いさん:多数
イベントチーフのミカが、棺を用意。
この棺は構造に秘密があり、人一人分収納可能の二重底になっている。
宴会芸の手品として作られ、没になった作品を利用。
射出口への移動中にカイが発見される危険性を考えて、張本人の意思をあえて無視。
殴打して、詰め込む。
予定ではドレッド射出口を封鎖する警備員達を追い払う予定だが、都合良く事が運ぶとは限らない。
よって表底にカイに似せた死体役の人形を、裏底に本人を隠す。
ニセ人形はクリスマスに製作された人形。
お芝居で使用される予定だったが、本人が不参加だったのでお蔵入りされていた。
ただ、精巧とはいえ人形は人形。
遠目ならともかく、近くで確認されればすぐにばれる。
封鎖する人員は一人や二人ではないのだ。
そこで今回の仕掛けの目玉となる――脳味噌を用意。
本物である。
――ただし人間の、ではない。
脳味噌は、キッチンチーフのセレナが用意した。
『あのー・・・これって一体何の脳味噌・・・?』
『ご興味がおありですか、バートさん?』
『い、いえ! ボ、ボクは別に!』
『本物が必要なら、私が用意――』
『君達、怖すぎるから!?』
人間の臓器に詳しいお医者さんと、動物の食材に精通する料理人さん。
二人のどこか楽しそうな笑顔に、平凡な価値観を持つ操舵手さんは泣きながら拒否した。
人形の顔を破壊し、調理棒で叩いた脳味噌を格納。
血は輸血用の本物を用意し、生々しい食材の臭みをそのままに。
人形の不自然さを、エゲツない現実感を醸し出す頭部で完全にカバー。
人体の構造に詳しいドゥエロが最後に点検し、棺は台車に載せられる。
気絶するカイと人形の重量にズッシリの棺は、ピョロが運搬。
トドメに脚本家の不気味な演技力を加えて、作戦は実行された。
――結果は、ご覧の通りである。
猛烈な悪臭と生々しい空気、そして笑い声。
目が覚めすには充分すぎる状況で、カイは起き上がって計画立案者を殴る。
何も聞かされずに、いきなり気絶させられたのだ。
山ほど言いたいことはあったが、状況が許してくれない。
隠れていた皆を引き連れて、渋々カイは中へ入っていく。
現段階で唯一の逃げ道。
ドレッドが格納されている格納庫へ――
ドレッドチームの愛機が保管されている格納庫。
毎日の整備と兵装の確認で騒がしいこの場所も、今だけは閑散としている。
大勢の警備員達が入り口を厳重に封鎖していた為、人っ子一人おらず静まり返っている。
脱出するには、まさに好都合と言えた。
とはいえ、のんびりとしてもいられない。
反省会をふまえて、最後の現状確認が行われた。
「結局ジュラ、何も出来なかったじゃない!
何よ、音響って!」
「理由も話さずに、いきなり殴るか普通!?」
「あの脳味噌は結局なんだったんだー!」
「寒いわね、ここって」
「ちょ、ちょっと皆落ち着いて!」
「セルー、いい加減起きてよー」
「お腹すいた」
「食べると美味しいんですよ、うふふ」
「ふむ、興味深い」
――自己主張の激しい人達であった。
本当に騒がしい。
警備員達が追っ払ったが、事件そのものは何も解決していない。
カイの死を聞いた他のクルー達が疑問視して、死体を確認し直すかもしれない。
気まぐれに誰かが戻ってくるかもしれない。
あらゆる不確定要素が山のように積もっているこの状況。
危険に満ちたこの空気の中で――
――それでも賑やかに、叫び合って笑っている。
反省会なんて、ただの建前。
現状なんて確認するまでもなく、危険度はマックスだ。
誰も無事には終われない。
誰もが皆、この後の未来を知っている。
平和に終わるなんて、もうありえない。
傷つくだろう。
悲しむだろう。
嘆くだろう。
怯えるだろう。
――仲間同士で、傷付け合わなければいけない。
そして、何より。
彼らは知っている。
別れはもう――すぐ目の前。
良くも悪くも賑やかだったこの半年に。
今――お別れしなければいけない・・・
言葉が途絶えたのは、何時だっただろう。
笑顔が消えたのは、何時だっただろう。
いつしか皆――口を閉ざし、俯いていた。
少年は、立ち上がる。
言わなければ、いけない。
誰よりも先に。
それが――彼の責任である。
「――じゃあ・・・そろそろ行くわ」
カイは結局――同行については、保留していた。
気持ちは本当に、嬉しかった。
一人だとずっと思っていた。
嫌われてしまったと、心の底から落ち込んでいた。
孤独の闇を救ってくれた、大切な友達。
その好意を拒否するのは、本当に――辛い。
でも――
この戦いは、自分の戦い。
マグノ海賊団に戦いを挑んだあの日からの、因縁。
事の次第はどうあれ、決着をつけずに曖昧にしていたから、今度の騒動は起こった。
信頼関係を本当に結びたいのなら、仲間になるべきだった。
敵対するなら、船から出て行くべきだった。
仲間になりきれなかったから、ソラの存在を公に出来ずにいた。
敵として認識出来なかったから、ディータとの関係が切れずにいた。
本当の仲間になれたなら、ソラを紹介出来たかもしれない。
本当の敵だったなら、ディータと距離を置けたかもしれない。
密航者にさせずにすんだのに。
怪我をさせずにすんだのに――
カイは決めた。
あの牢獄の中で、決意した。
もう誤魔化さない。
――戦う道を、選んだ。
罪と罰、後悔と反省の現実の中で――理想を取り戻す戦いを。
カイは最後に、皆の意思を今一度問う。
どうする――?
「私はこの船に残る」
ドゥエロはそう答えを出した。
脱出には協力したが、彼は最初からそのつもりだった。
「君一人を、戦わせるつもりはない」
彼もまた、一人の男。
カイにはカイの生き方があるように、彼には彼の生き方がある。
ニル・ヴァーナに残って、ドゥエロは何かを成すつもりなのだろう。
カイは何も聞かず、ただ頭を下げた。
その何かに――きっとディ−タが入っているだろうから。
「僕も残るよ」
バートは最後に、そう決断した。
曖昧な生き方に悩んでいたのもまた、カイ一人ではなかった。
「正直怖いけど・・・
僕まで船から出て行ったら、ドゥエロ君や皆が――困ると思うし」
脱出に協力した関係者を、放ってはおかないだろう。
ならば一人でも多くカイの関係者が残り、潔白を訴え続けなければいけない。
カイを悪者にし続ける真似は――今のバートには出来なかった。
見捨てられない人間、それが友達だと思うから。
そして、別れの瞬間。
女性陣の決断は・・・
<to be continued>
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