ヴァンドレッド


VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 11 -DEAD END-






Action26 −示威−






『何で黙ってたのよ!』


 一字一句間違えず、怒鳴り散らす女性陣。

平均を遥かに超える容姿の持ち主達ゆえに、その迫力は尋常ではなかった。

四方を取り囲まれて、カイは半ば平伏していた。


「何処から!」

「さ、さあ・・・」

「本名は!」

「さ、さあ・・・」

「年齢は!」

「さ、さあ・・・」

『少しは怪しみなさいよ!』

「あ、あう・・・」


 最早黙っていられる状況ではない。

マグノ海賊団とカイとの関係は完全に決裂し、共同生活は幕を下ろした。

今やカイは追われる身、捕まれば殺される。

そんな彼を見捨てず、集まってくれた女性達。

マグノ海賊団に組みしながらも、彼の身を案じてくれて駆けつけてくれたのだ。

今この状況下でカイに味方をする事は、仲間達にどのように思われるか――

楽観的な結末などありえないと知りながら、彼女達はカイの無実を信じた。

かけがえのない友人――

カイは今日一日の顛末、ソラとの出会いに至るまで全てを話した。

訥々と話すカイの不思議な体験を耳にして、彼女達が発した第一声がこれである。


「夢の中で話した女の子が、現実に出てきたぁー?
あんたね・・・物語じゃないんだから、そんな事が現実にあるわけないでしょ!」


 ジュラがごく当たり前の事を言った。

話だけ聞いていれば、良識ある大人のみならず子供でも話し手の精神を疑うだろう。

カイは身内にも打ち明けなかった理由の一つでもある。


「でも、本当の事なんだよ!
アンパトスでの戦いで負傷した時、確かに夢の中で出てたんだ!」

「そのアンパトスで拾ってきたんでしょ!」

「違うって言ってるだろ!
何で現地の女なんぞ連れて来ないといけないんだよ!」

「・・・あの娘、映像でしか見てないけど綺麗だったじゃない。
ああいうのがカイの好みなの?」

「連れ込んだみたいな言い方をするな!?
自分が何言っているのか、分かってるのか!
男が女を好むって、俺達の世界じゃ異常だろうが!?」

「あんたの場合、怪しいのよ!
タラークやメジェールの常識なんか、無視してるじゃない!
平気な顔で、ジュラ達に話しかけてくるし」


 そう――普通に考えれば、男が女と生活を共にする事はありえない。

男の星タラークは女を、女の星メジェールは男を極端に嫌っている。

両者は対立状態にあり、国家誕生時から幾つもの戦争を繰り広げてきた。

今現在でも軍備を強化し続けて、互いの星を滅すべく国力を増強させている。

タラークが軍艦イカヅチを建造した経緯も、対メジェール戦への強大な戦力を期待されての事である。

恋愛感情も一つの性別のみ生存する星ゆえに、男は男を、女は女を愛した。

男は女を、女は男を、異性どころか人間とすら認識していない。

マグノ海賊団とカイ達男三人の共同生活は、困難な故郷への旅路と壮絶な危機を憂いて成立していたに過ぎない。

当然女達は男を露骨に嫌い、男達は女を敬遠してきた。

そんな中、カイだけが垣根を平気な顔で越えて男女共に自分流に接してきたのである。

彼をよく知る人間から見れば、女を愛してもなんら不思議ではなかった。

ジュラの憤然とした追求に、カイは頬を引き攣らせる。


「い、いや、俺だって男とか女とかの違いは気にするぞ」

「ふーん・・・じゃああんたも、恋人にするなら男の方がいいんだ」


 男を恋人に・・・?

タラークで生きる人間ならば、むしろ当然の領域だろう。

愛にまで発展はしなくても、友情関係の延長で子を設ける男はいる。

もっともその場合、クローンを利用した子作りになるのだが。

カイは想像して――鳥肌が立った。


「げー、やだよ。男なんぞ。
ずっと一緒って考えただけで、ぞっとする」

「ほら、見なさいよ! やっぱりあの娘を毒牙にかけようとしたのね!」

「立体映像だって何回言わせるんだ、お前は!
大体男は嫌いだっていったが、女が好きだなんて言ってないぞ!」

「え・・・? ジュ・・・ジュラの事も嫌いなの?」

「へ・・・? ば、馬鹿――そんな訳ないだろ!」

「そ、そうよね・・・

・・・。

・・・じゃあ、あの娘が好きなんじゃない!」

「どうしてそう極端なんだ、お前は!」


 言い合い続ける二人。

話が微妙にループしている事にも気付かず、互いに怒鳴り散らしている。

観衆としては面白い喜劇だが、心情的には呆れていたりもする。


「・・・緊張感がないね、あの二人」

「むしろジュラが何故あのように突っかかるのか、興味を覚える」


 座り込んだバートと、隣で立ったままのドゥエロ。

それぞれの思いは違うが、カイの話を聞いて安堵はしていた。

――やはり、裏切っていなかった。

ソラの話は奇妙で謎を多く孕んでいたが、彼がその存在を隠していたのは納得出来る。

打ち明けて欲しかったという不満は今でも残っているが、我が身になれば話し辛くもなる。

特にマグノ海賊団に話したところで、信じる信じない以前に彼女達は疑惑を深めて男への反発を強めていただろう。

存在の特異性を考えれば、男女の生活にも危うさが生じる。

話さなかった事で今決定的な破局を招いたが、このような事態を想定出来る人間などいないだろう。

今日ばかりは流石に、カイが運が悪かったとしか言いようがない。

最低のタイミングで発覚してしまった。

今頃になって皆にこの話をしても、無駄だろう。

徹底的な調査と追求が行われるのは必然として、カイが許される事はありえない。

だが、それでも――彼が無実だと知り、安心は出来た。

信じているといってもこの状況下だ、嘘か本当かを知るのは非常に大切だ。

女達よりソラの存在を突きつけられ、カイは裏切っていたのだと告げられた時は本当にショックだった。

日頃冷静なドゥエロでさえ動揺させられ、胸の内を揺さぶられた。

カイが自分達を欺いていた――信じたくないと一番に出た気持ちに気付いた時、二人は思い知った。

彼という存在の大切さ。

心から友だと、強く刻んでいる己が気持ちに。

信頼出来る者達と集い、カイを保護して話を聞けただけでも、この行動に意味はあったと思う。

最早、後戻りは出来ない。

カイ同様追われる身となったが、二人は何一つ後悔はしていなかった。

エリートと期待されても、浮き立つ気持ちがないまま沈んでいた男。

高貴な家柄で育ちながらも、やりたい事が見つからずに燻っていた男。

ようやく――胸を張れる事が出来た、そう思えるから。

鬱屈した気持ちを抱えて士官学校にいたあの頃より、何倍も生きている充実感があった。


「で――その娘は何処にいるの?」


 言い合いする二人を止めたのは、マイペースなクリーニング屋さんだった。

カイは少し困った顔をして、返答する。


「喧嘩して、そのままだ。誰かに見つかる事はないと思う」

「カイちゃんのお腹の中にいたもんね」

「え、妊娠!?」

「男が子供作れるはずないじゃん、ばっか」

「ぐがぁぁぁ、いつでもどこでもお前はむかつくな!
大体、どこからそんな知識を仕入れた!?」

「カイちゃんが寝言で言ってた」

「当たり前のように、人の寝床に侵入してたような発言をするな!」


 話していると気が狂うので、カイは話を切り替えた。

笑っている周りの皆に盛大な溜息を吐いて、


「とにかくあいつは少なくとも、俺より安心だと考えてくれていい。
あいつ個人に関しては――俺も聞いてない。
皆が不振に思って当然だと思う。

でも・・・俺はあいつを、信じたい。

誰からも嫌われても、俺だけは味方でいたいんだ。
あいつが何処の誰であろうと」


 幻想の風景で巡り会った、運命――

名前をつけてあげた時の、彼女の嬉しそうな顔は今でも忘れられない。

怪しんで当然だと思う。

常識ではありえない存在に、警戒すべきなのも分かっている。

でも、信じたい。

彼女はいつだって、自分の味方でいてくれたのだから。


「カイさんがそう仰るなら――私達だって、信じます。
ね、ジュラさん」

「ふん・・・ちゃんと紹介は、しなさいよ」


 ニコニコ顔のキッチンチーフに、ふて腐れた顔で――それでも反対はしないジュラ。

他の皆も同意見なのか、頷いてくれた。

本当に、良い仲間を持った。

カイは暖かい気持ちに包まれ、疲弊した身体に力が灯るのを感じた。


「それで脱出についてだが――何かプランとかあるのか?」

「うん。それについてなんだけど――

ごめんね、カイちゃん」

「へ・・・?



――おい、その手錠は何――ぐっ」



 後頭部に破裂する、強烈なインパクト。



目に火花が散り、カイは昏倒した。














































<to be continued>







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