VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 11 -DEAD END-
Action19 −激震−
ニル・ヴァーナを襲う激震。
艦そのものがへし折れかねない衝撃が秒単位で襲い掛かり、激しく揺さぶる。
流石のマグノ海賊団も、その原因が一人の少女が泣いている為とは思わないだろう。
我が身が危ないこの状況下で、笑えない冗談である。
各部署や部屋からは悲鳴や絶叫が絶え間なく上がり、船内は大パニック。
もはや、カイと密航者の捜索どころの話ではなかった。
「・・・な? 今がチャンスだろ」
「カイ、お前にこの称号を与えるピョロ――
――この火事場泥棒!」
「俺の荷物だろうが、これは!?」
一時的に潜んでいた倉庫から出て、自室へ戻ったカイ。
幸いとも言うべきか、住処の監房には誰もおらず、激震に荷物類が散らばっているだけ。
部屋を片付ける暇も無いので、カイは急いで荷物をまとめる。
着替えや日常用品、これまでの旅で手に入れた品。
そして――
「・・・これも、持っていかないと」
――贈り物。
マグノ海賊団からプレゼントされた、沢山の思い出。
ちょっとした小物から、最近ではクリスマスカードまで――
一つ一つ丁寧に、鞄に入れていく。
震える指先で・・・
(――未練だな、俺・・・)
昨日まで――本当に、昨日まではそれなりに仲良く出来ていた。
話せる人間は確実に増えて、気の許せる友達もいた。
遊びに行っても嫌な顔をされる場所は減り、のんびり出来る場所が増えた。
笑い合える時間があり、警戒心は微塵も無くなった。
なのに――もう、全ては過去に。
カイは首を振る。
(俺の責任だろ! なら、俺が――取り戻さないと)
その為に、今は皆と距離を取る。
今のまま話し合いを求めても、捕まるか殺されるかだろう。
冷静に話し合う時間は、確実に必要だ。
皆には悪いが、この混乱はカイにとって猶予の時。
監視や追っ手のない今、絶好の空白の時間帯だ。
この機会を逃せば、広い船とはいえ限られたスペース。
いずれ発見されて終わりだ。
見付からないように遠回りするルートもあるが、時間が無い。
カイは怪我を押して人目につく覚悟で、真正面から通路を走って行動していた。
「――くそ、ない!」
「何を探してるんだピョロ?」
「通信機と十手!
――あいつら、どっかに持ち去ったな・・・」
捕縛された際、当たり前だがボディチェックされている。
その時に身に付けていた物――十手と通信機を取り上げられたのだ。
通信機はもとより、十手も武器と見なされたのだろう。
「女の手にあるとすれば・・・諦めるしかないピョロね・・・」
「冗談言うな! あの通信機が無いと、連絡が取れない。
アドレスとかだってあるんだぞ!
十手はもっと困る! 俺の記憶の手掛かりなんだ!?」
重傷を負って、タラークの路地裏で捨てられていたあの時――
手元にあったのが、銀色に鈍く光る十手だった。
カイは拾われてから毎日腰にぶら下げて、持ち歩いていた。
自分の身体の一部のように、自然と在ったのだ。
「でも誰が持ってる分からないし、第一返してもらえる筈無いピョロ」
「それはそうだけど――!」
このまま逃げれば、廃棄処分される可能性もある。
彼女達にとっては不要な品なのだ。
取り上げたのがマグノ海賊団なら、持っているのも彼女達。
取り返すには、自動的に彼女達に会いに行かねばならない。
それでは、捕まえてくれと言っているようなものだ。
ジレンマに陥るカイ、困り果てるピョロ――
「せめて誰が持っているかさえ分かれば・・・」
"十手はパイウェイ・ウンダーベルク。
通信機はセルティック・ミドリが持っています"
「――!」
船体の軋む音が鳴り響く監房に、密やかに届く声。
カイは咄嗟に辺りを見渡すが・・・誰もいない。
誰の声か、分からぬはずはない。
――ずっと、傍にいてくれたのだから。
「・・・。サンキュー、ソラ・・・」
"・・・"
返事は無い。
隔ててしまった関係は、そう簡単に元には戻せない。
――けれど、希望は残されている。
カイは静かに感謝の言葉を投げかけて、荷物を入れた鞄を背負う。
「行くぞ、ピョロ」
「・・・分かったピョロ」
ソラの声はピョロも聞こえただろうが――何も言わずに、いてくれる。
小さな気遣いに、カイも何も言わないまま通路へと出て行った。
ユメに関して――
泣き叫んだまま話を聞こうともしないので、ほとほと困り果てた二人。
人間なら強引に連れて行くか、抱きかかえて走る等出来るが、ユメは立体映像。
存在そのものは恐ろしく希薄なのに、ニル・ヴァーナに与える影響は果てしない。
結局、倉庫にそのまま置き去りにして逃げてしまった。
倉庫は人目にはつかない場所だ。
ユメも落ち着けば、泣き止んで追いかけてくる――
「――と思ってたんだが、微妙にはずれたな俺の予想・・・」
「だから、あのまま見捨てるのはまずいって言ったんだピョロ」
"うわあぁぁぁぁん、ますたぁーのばかばかばかばか!"
泣きながら、通路を奔走するカイにしがみ付くユメ。
立体映像で器用に涙を流しながら、可憐な顔を涙で濡らしてグズっている。
置いてけぼりにされて、寂しさが募って追いかけて来るなり余計に泣いてしまったのだ。
馬鹿を繰り返す度に通路が上下に揺れて、カイは床や壁に激突しながら走っていた。
「だぁー! 悪かったから、泣き止めって!?
パイウェイの場所を知りたいんだ、何処にいるか分からないか?」
"グス、グス・・・あっち・・・"
泣き止まないが、意地悪はしない。
カイを拗ねた顔で睨みながら、きちんと案内はしてくれた。
ピョロの内部にあるデータにも艦内の通路図があり、鬼に金棒である。
彼方此方から悲鳴を上げるクルー達に見つからないように逃れながら、カイは走る。
十手を持つパイウェイ・ウンダーベルクの居る場所へ――
「・・・ハァ」
「何だよ、景気の悪い奴だな」
「あのね・・・ピョロは何でも知ってるんだピョロよ。
喧嘩したんだピョロ? パイウェイと――」
「――喧嘩じゃねえよ・・・」
そう――あれは喧嘩ではない。
正当なる糾弾、絶縁宣言。
自分の親友に重傷を負わせた憎い男への、抗議である。
何一つ、反論出来ない。
「・・・返してくれるわけないピョロ・・・
会ってどうするだピョロ?
カイもパイウェイも傷つくだけピョロ!」
必死に訴えかけるピョロ。
カイは走りながら彼の顔を見つめて――ふと、笑った。
「・・・。
お前って――」
「な、何だピョロ・・・? ピョロは間違った事なんか言って――」
「俺達の中で――
――誰よりも人間らしいのかもな・・・」
「・・・へ・・・?」
「――何でもねえよ」
自分で呟いた言葉が恥ずかしかったのか、カイは目を逸らす。
タラークの男三人と、メジェールの女百五十名――
半年という長くも短い月日を経て、幾度となく生の感情をぶつけ合った。
共に協力し、助け合い、時には諍いを起こし、分裂もした。
ピョロはロボットという傍観者の立場で、何の偏見もない透明な視点でそんな男女を観察してきた。
人間の美しさと醜さ――タラーク・メジェールに関係なく、一人一人の価値観を第三者として知った。
ピョロは誰とも仲良くならず、誰にも嫌われていない。
そんな彼が今、誰からも爪弾きされた少年の傍で案じている。
カイとピョロ。
路地裏に捨てられていた少年と、カビの生えた船内で放置されていたロボット。
旅の始まりは、この二人の出会いから。
誰からも必要とされなかった二人が今、再び肩を並べて走り出す――
「で、どうするんだピョロ?」
「二人仲良く土下座しようぜ」
「絶対、嫌だピョローーー!!」
<to be continued>
|
小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。
|