VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 11 -DEAD END-
Action1 −依頼−
その日、一件の依頼メールが舞い降りた。
業務開始時間から少し過ぎた時刻、自室で寝起きのカイが発見する。
非凡な旅の、平凡な日。
クリスマスが終わってからというもの、大した事件も無く穏やかに日常を過ごしている。
カイは軽く欠伸をして、隣の部屋を見る。
すっかり自室として定着した監房。
連なった監房内は三つを除いて、軒並み放置されたままである。
カイとドゥエロとバート。
監房内を縫う様に洗濯物が干してあるのが笑いを誘うが、生活空間として染まった証拠でもある。
三人が住むそれぞれの部屋は個人の特徴が出ており、室内も変化している。
ニル・ヴァーナ艦内から集めた本が山積みしているドゥエロの部屋。
カラフルで奇抜なペレット類と衣類が散乱するバートの部屋。
ディータの好意とソラの監視で整理整頓されたカイの部屋。
カイを除く二人の部屋は主がおらず、空っぽのままであった。
「…仕事か。忙しいもんなー、あいつらって」
何気ない独り言に、ほんの少し羨ましさが出ている。
――クリスマスから、一ヶ月。
波乱と騒動に満ちたパーティも終わってしまえば、あっという間だった。
準備と実施には激しい反対と苦労があったのだが、終焉は呆気ない。
楽しい時間は早く終わる――カイは身に染みて実感出来た。
結局パーティそのものは参加出来ず、後で主だった面々に散々怒られた。
肩の怪我は包帯ごと服で隠し、疲れたので寝てたと言い訳したのが余計まずかった。
メイアに正座で説教され、ジュラには酒の相手に付き合わされる。
無断出撃の件でアイに拗ねられて、SP蛮型は凍結。
ディータに手製のプレゼントを無理やり渡されて、今も部屋の天井に自分に似せたサンタ(?)人形がふわふわ浮いている。
積み上げた実績は崩した信頼でプラスマイナスゼロとなり、マグノ海賊団との関係も平行線のままである。
賛成派と反対派の諍いは沈静化したが、解消はされず。
チーフ達とはその後の関係は続いているが、貸し借りなしの結びつきのまま。
クリスマスは大成功に終わったが、カイは楽しみにしていたパーティに参加出来ずで幕を閉じた。
主催者の任は達成され、関係者達は解散。
皆それぞれの職場へ戻り、自らの任を全う中。
ドゥエロとバートも医者と操舵手として毎日を励んでおり――カイだけが残された。
刈り取りの襲撃は無し――
彗星での戦いの後、何一つ仕掛けて来ずに平和に旅は続いている。
もっともクモ型との戦闘は誰にも知られていない為、マグノ海賊団からすればアンパトス以降の戦闘は皆無となっている。
――前もって彗星について相談したブザムと、蛮型を整備するアイには疑われているのだが。
カイはマグノ海賊団ではない。
与えられた任務などありはせず、通常業務の任も無い。
組織に縛られない自由の立場と言えば聞こえはいいが、無所属の風来坊でしかない。
集団生活より離れているからには、マグノ海賊団の庇護や援助を一切受けられない。
毎日は全て自分の責任で、生活の全てを自分一人で支えなければいけない。
その為の"何でも屋"家業なのだが、男に仕事を頼む女はいない。
正確に言えば依頼はあるのだが、身内連中が殆ど。
クリスマス関連で親しくなったチーフの面々が、カイを呼びつける。
大体冷やかしや雑用が大半で、クリーニングチーフのルカなどは食事一回分でこき使わされるほどだ。
とにかくパイロットとしての出番は無く、毎日を女達との生活で過ごしている。
女達へのエリアは通常立ち入り禁止なのだが、仕事や遊びで立ち寄る度に解除されるので意味が無くなりつつある。
カイを嫌う女性達も出入りするカイに最初は非難や文句の目を向けていたが、最近は麻痺してきているのか慣れてきていた。
相手にしなければ良い、嫌う側の認識。
彼女達からすれば譲歩でしかないかもしれないが、最初と比較すれば十分な進展だった。
目すら合わせなかった関係が、すれ違えば挨拶や軽い会話をする。
好きでも嫌いでもない――それが現状の最低ラインとも言えた。
生温い一進一退、曖昧な男女関係。
カイとマグノ海賊団、両者の関係を示す天秤は右にも左にも傾いていた。
明確に言えるのは、変わって来ているということ。
良くも悪くも、互いの立場はそれぞれに変化を見せてきている。
微妙なバランスで保たれたニル・ヴァーナ。
このまま少しずつ歩み寄れば、やがて良好な関係を築けそうな予感のする毎日。
――その延長の朝に訪れたのが、このメールだった。
『宇宙人さんにお手伝いをお願いしたいです。第一食料庫で待ってるね』
最新型の通信機に送られた簡単なメール内容。
差出人は確認しなくても丸分かりだった。
この艦で、自分を宇宙人と呼ぶ女は一人しかいない。
「…あいつの手伝いってろくな事じゃ無さそうだな…たく。
今度は何をする気だ、あの能天気女は」
問答無用で無視という選択もあるが、やめておいた。
ディータの行動力を考えれば、無視すれば迎えに来る可能性が高い。
その場で断れば、最悪泣き喚く。
ディータを泣かせるなんて今更なので周りも騒がないだろうが、対応に困る。
カイは舌打ちして、洗面所で顔を洗う。
結局、手伝ってやるしかない。
正式な依頼なら報酬を要求すればいい。
カイは寝起きの頭を水でシャキっとさせて、着替えをする。
アンパトスで補給した食料はまだあるが、今後を考えて少しでも多い蓄えは必要だった。
故郷まで物資が補給出来るアテはない。
生活の全てを自分でやりくりしている身として、仕事の依頼は放棄出来ないのだ。
何より、断ったところで他に何か用事があるわけでもない。
暇だから――それが一番の理由だった。
「ソラ、赤髪のところに行くけど来るか?」
『御供します、マスター』
当たり前のように傍に居る女の子。
主に忠実な立体映像の少女に、ディータは数少ない知り合いだった。
空いた時間に話を聞くと、ピョロとディータの三人で随分活躍したそうだ。
仲良しである証拠に、人間には無関心なソラが付き添いを拒否しない。
命令ではなく本人の意思を確認したのも彼女の意思を尊重する為で、ソラは拒まなかった。
ニル・ヴァーナ全域のシステムを統括する力の持つ娘だが、心は驚くほど繊細で潔癖。
無感情で黙々とつき従うソラの、自発的な意思を聞くのは新鮮だった。
カイは口元を緩めて、支度を整えて部屋を出る。
「仕事ね…あいつの手伝いって何だと思う?」
道すがら、聞いてみる。
何か意味があって振った話ではないが、ソラは几帳面に答えた。
「ディータ・リーベライの職務はパイロットです。
可能性は低いですが、同じパイロットのマスターの助力を求めているかもしれません。
…どうかなさいましたか?」
横から見上げるカイの表情は、意外さに満ちている。
カイは力なく頬を掻いて呟いた。
「いや…あいつってパイロットだったなって」
「――」
ディータは新人だが、ドレッドのパイロットである。
この旅で幾つかの修羅場を潜り抜け、経験を積んでいる。
カイとの初対面での経緯が原因で、カイ機との合体が可能な特殊パイロットだ。
――普段の様子さえ、見なければ。
いつもニコニコ笑っていて、ドジや勇み足の多い私生活を見ていると忘れてしまいがちになる。
血に汚れた戦場より、平和な世界が性に合う女の子だった。
容姿も将来が楽しみな可憐さがあり、笑顔の似合う少女。
料理が上手で女らしさの長所もあり、パイロットをしているのが不思議だった。
近頃は一緒に戦ってもいないので、カイも指摘されて思い出した。
返答がないところを見ると、ソラも内心は否定出来ないのだろう。
「青髪ならともかく、あいつがパイロットの話なんてしないだろ。
刈り取りが襲い掛かってきたなら、ともかく…
ドレッドについての相談なら、他の女連中に聞いた方が早いって」
ディータはメイアの部下である。
ドレッドの戦闘で何か悩みを抱えているなら、リーダーのメイアに直接聞いたほうが早い。
それに、ディータは戦いにそれほどのこだわりはないように見える。
戦場で手柄を立てても、誰かに譲るタイプだ。
「マスターに御話でしたら、個人的な御相談ではないでしょうか?」
「あいつの個人的な話って嫌だな…」
ディータに他意は無いのだろうが、対応に困るのが殆どだ。
一生懸命なのが分かるが、真っ直ぐすぎる気持ちは空回りもする。
結果として、トラブルを発生させてしまうのだ。
近頃は減ってきているが、たまに泣き言を言いに来る。
カイは嘆息して、
「…ま、適当に慰めてやるか」
「結論を急ぎすぎです、マスター」
二人は他愛の無い話をしながら、本日の依頼人に会いに行く。
ディータの頼み――彼らは楽観視していた。
また何か揉め事か些細な力仕事だろう、と。
カイは疑っていなかった。
昨日までの平和が、今日もまた同じく続くことを――
<to be continued>
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