VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 10 -Christmas that becomes it faintly-






Action51 −全速−







「ああ、間違いない。
彗星は確かに深夜十二時――後一時間ほどで彗星付近を通過する」

「今から発進すれば、往復何分ほどかかる?」

「お前の蛮型で往復だと――二十分程度だろう」

「はっや!? 一瞬で計算しやがった・・・」


 メインブリッジ。

クリスマスパーティまで残り僅かとなり、クルー達も最終的な準備を終えつつある。

パーティの内容はカイの新企画案も幾つか採用されているが、メインイベントは例年通り変更点なく実施される。

新しい発想が、新しい喜びに転化されるかは別問題。

特に今年のクリスマスは男を迎えた特別な日とあって、これ以上の問題を招く要素は前もって排除された。

当日に賛成派・反対派の争いの新たな火種を持ち込むべきではない。

カイは自分一人のクリスマスにするつもりはなかった。

男としての立場と意見は主張しても、女からの希望や意見も出来る限り受け入れる。

互いに妥協し合うのではなく、意見をぶつけ合ってより両者に最善へと導く――

メインイベントの無修正はその成果の賜物でもある。

カイは今年初めての参加なので、イベントを心から楽しみにしていた。

――現在、艦内全域の照明が落とされているのもその一つ。

パーティ開催時、ブリッジの階下にてパレードが催されるのだ。

静かな夜の世界の中で、カラフルなネオンが光っている。

クリスマス準備時に、皆が準備したクリスマスの装飾品。

艦内のあちこちに飾られた電飾が闇を焦がし、蛍のような光を放っている。

真っ暗なブリッジの中で、本日最後の来訪者は息せき切って尋ねる。


「俺の蛮型で二十分だと、アレじゃあ三十分はかかるな・・・

彗星の表面って氷で出来ているんだよな?」

「本当は偵察させるつもりだったのだが、パイロットのことごとくが休暇を申し出た。
――お頭が許可したなら、私は何も言わないが」

「――言ってるじゃねえか・・・大丈夫!
おふくろさんの観測では、人工物らしき物もなかったんだろ? 敵なんかいないって」

「楽観するのは危険だ。誰よりもお前が分かっているだろう」


 艦内一番の怪我人男に、艦内一番の指揮権を持つ副長が厳しい視線を向ける。

旅が始まって四ヶ月以上。

旅の先々で手痛い目にあっているこの船だが、その危機を乗り越える為にカイが被害を被っている。

マグノ海賊団の死闘からアンパトス――平穏に終わった事は一度としてない。

警戒しかるべき男が安穏としている有様に、ブザムが警告を発する。

カイは表情を変えず、簡単にだが頷く。


「このクリスマスだって、今の今まで散々な目にあったんだ。
フィナーレはきちんと飾るつもりさ。
だからこそ、あんたを訪ねに来たんだ」

「彗星のデータを探ってどうするつもりだ?
今までの話を総合すると、これから彗星へ向かうようだが――何をするつもりだ」


 カイがブリッジを訪れたのは十五分前。

ブリッジクルー全員が会場へ向かっている中で、ブザムは一人残務に勤しんでいた。

お頭や他の人員にも休むよう提言されたが、本人の強い責任感が許さなかった。

艦内の催しにも興味は無いが、カイのこれまでの努力は知っている。

職務を終えた後に、参加はするつもりだった。

その為に急ピッチで仕事に精を出す最中に、その本人が駆け込んできたのである。


「偵察が必要なんだろ? 俺が志願するよ。
こう見えても何と俺は――パイロットなんだぜ?」

「分りきっている事を公言するな、時間の無駄だ」

「シビアな返答、どうもありがとうよ!?

――で、許可は出してくれるのか?」

「――目的を明確に話せ。何を企んでいる」


 ブザムは基本的にカイを信頼している。

普段お茶らけていて不真面目な印象はあるが、情に厚く物事に熱心な男である。

まだまだ未成熟な部分は沢山あるが、ブザムが期待を寄せている少年だ。

この船に――マグノ海賊団に新しい風を吹かせている。

ただ未成年特有の悪戯好きな面もあり、皆をびっくりさせる為だけに余計な労力も割く。

今回は来るなり彗星についてを聞き出し、出撃めいた話を持ち出している。

まさか物見遊山で向かう訳も無いだろうが、容認は出来ない。


「企むだなんて心外だな・・・
あんたの心配を取り除こうと、俺が――」

「理由を、説明しろ」


 怖――心の中で呟く。

メイアはある程度簡単に誤魔化せるが、ブザムに力づくは通用しない。

俺様ルールが通用する相手ではない。

カイも分かってはいるのだが――悩む。

今考えているこの作戦は話してしまうと、極端に鮮度が落ちる。

はっきり言って、何て事は無いのだ。

言葉で説明してその価値を理解してくれるかは、甚だ怪しい。

クリスマスプレゼント。

サンタクロースの贈り物は、朝まで待つからワクワクする。

ブザムに説明して理解を――得られはしないだろう。

通俗性より、現実性。

副長には相応しい職務姿勢だが、カイには全く有難くもない。

マグノ海賊団に所属していない以上正式な許可を得る必要はないのだが、出撃は一人では出来ない。

射出口を開放するにしても、外から操作する人員が必要となる。

許可を得なければ、カイが処罰されなくてもその者が厳重注意される。

アンパトスで痛感した事実だ。

こうなれば適当な理由をつけて――


「――分かった、もういい」


「は・・・?」


 思わずきょとんとするカイに、


「発進許可を出すと言っている。好きにしろ」

「で、でも、いいのか!? 理由も聞かずに――」


 勝手な出撃ばかり繰り返しているが、許可されると逆に不気味。

人間とは多かれ少なかれ矛盾なる感情を抱くが、カイは聞かずにはいられなかった。

ブザムは深く嘆息する。


「今日は休日、お前が決めた事だ。
副長としての職務はお前のルールに当て嵌まらないのか?」

「・・・ブザム・・・」


 聖なる夜。

誰もが神聖な時間に身を浸し、心を許す一時。

今日だけなのか、ブザムなりの気遣いか――

未来永劫分かる事はないだろうが、ただ一つだけ言える。

彼女は、許してくれた――

それだけで充分だった。


「――行って来る」


 ただ互いに一度視線を交えて、カイは踵を返す。

ブザムの言葉を借りれば、返事を待つ時間も無駄。

偉大なる副長の言葉を待たず、ブリッジからカイはそのまま出て行った。

遠ざかる足音に、開閉する扉。

ブザムは淡々と職務を続行するが・・・


――不意に、コンソールを閉ざした。


「息抜きも、たまには悪くはない――か」


 レベッカやヴァロアが聞けば目を丸くするだろうな。

故郷に残してきた仲間を思いつつ、ブザムはやんわりと目を閉じた。















 カイの愛機――SP蛮型は現在改良中。

格納庫内の堅く閉ざされたシャッターの向こうを覗ける者は、たった一人。

頼んでも、出撃は許してくれないだろう。

専属エンジニアたる小さな麗人を思い出し、カイは苦笑する。

一刻も早く出撃しなければいけない。

本当なら艦内全域にアクセス可能なソラに頼めば一番なのだが、今日の彼女には会いたくはなかった。

顔を合わせれば何を言われるか、大体は想像がつく。

人間的な感情に縁のない女の子だが、冷静に淡々と非難するだろう。

よって、カイは別の人間に依頼する事にした。


「オッケー、準備は出来た。一通りの装備は揃えておいたよ」

「悪いな、ガスコーニュ。助かったよ」


 ガスコーニュ・ラインガウ、レジの店長。

ドレッドの兵装全般を取り扱い、機器にも強い知識を備えている。

現場裏から支える頼りになる人物で、カイとは見習い時より友好的な関係を築いていた。

懐の広さは天下一品で初対面から分け隔てなく接してくれた、カイには数少ない理解ある人物である。

マグノ海賊団でも一廉の人物で、多くの指示と信頼を集めている。

副長にも抜擢されてもおかしくはないが、表に出るのを嫌う本人の希望で現職に就いている。

今日もこうしてカイの突然の依頼に快諾し、二人は格納庫で話し合っていた。


「にしても珍しいね・・・
毎年出かけるメイアが来なくて、普段仕事なんてしない奴が偵察に出るなんて」

「――毎年やってんのか、あいつって。
話には聞いてたけど、暗い奴だな」

「はっはっは、まあああいうのに馴染める娘じゃないからね」


 今年はどういう風の吹き回しだか、と快活に笑う。

ブザムとは違って、ガスコーニュは理由を尋ねなかった。

クリスマス準備を終えて一休みしていた彼女を引っ張って、急遽発進準備を依頼する。

カイ機は凍結されたままなので、別の機体を用意しなければいけないのだ。

その為、彼女に願ったのだが――


「ホフヌングも換装してある。
ただペークシスによるコーティングがされていないから、正直安定性は不安だね」

「使い回しだからな、結局。
専用性が高い兵器だから無理もないけど」


 以前も、カイは別の機体で出撃した経験をもつ。

刈り取り側による自爆を防ぐべく、予備のドレッドに乗って退けたのだ。

ガスコーニュに今回お願いしたのも、当時協力してくれた敬意を持つからである。

今回は予備ドレッドは使えない。

あの時は船の危機だったので独断の使用は認められたが、今回は完全に自分の我侭。

万が一事故でも起こして破棄させてしまったら、多大な借りを作る結果となる。

予備のドレッドにしても、そう沢山ある訳でもない。

一度完全に破壊した過去を持つ為、二台目を借りるのは抵抗があった。

加えて、今回は時間がない。

ドレッドの操縦は以前痛い目にあっている。

ニル・ヴァーナに帰られなくなり、漂流して餓死しかけたのだ。

今回用意して貰ったのは、予備の蛮型。

旧イカヅチ格納庫に保管されたままの九十九式蛮型である。

砂の惑星上陸時メイア達が使用した以外、全く使わずに放置されている。

その中の一台を埃を払って取り出し、アイが整備した。

一ヶ月以上の長きに渡っての修繕と改良なので、急遽予備機としてリサイクルされたのだ。

タラークでは最新鋭の機体で、通常兵装は搭載されたままとなっている。

その上でカイが操縦出来るように手を加えて、遠距離兵器ホフヌングを装備させた。

とはいえ土台が九十九式蛮型なので、SP蛮型程の機能は予備機にはない。

予備はあくまで予備。

蛮型は専門外のアイが、その天才的な腕で使用可能なレベルにまで引き上げたのだ。

知識も何もない状態からポンコツを一人前に稼動出来ただけでも、その才能は伺える――

ガスコーニュには簡単な発進準備を頼んだ。


「パレードはいいのかい? 主催者なんだろ」


 午前零時、パーティ開催。

開催宣言は主催者が行う事になっている。

毎年イベントイーフが行っていたが、今年は男女クリスマスの意味をこめてカイが行う。

現場を離れるなんて言語道断だ。

今の行動はブザムや一部の人間を除いて、誰も知らない。

万が一間に合わなければ、無責任な主催者として汚名となる。

今でも嫌われ者なのに、今度の共同生活で更なる悪影響となるのは間違いない。

ガスコーニュの心配に、カイは毅然とした顔で答える。


「これを思いついた時――俺は宇宙に感謝した」

「感謝・・・?」

「俺に、一度しかないチャンスをくれた。
去年でも来年でも出来ない、今年だけの機会。

生涯ただ一度きりのクリスマスプレゼント――

宇宙が、俺に贈り物をくれたんだ。
俺はその箱を開けに行く」


 カイが何を考えているか、それは分からない。

理由も聞いていない。

ただ彼が向ける眼差しの向こうには――見えているのだろう。

まっすぐなその視線の先に。


「――分かった、しっかり頑張ってきな」


 何を聞いても無駄だろう。

そして、聞く意味もない。

自分をびっくりさせてくれる――その予感だけを胸に抱いて。

ガスコーニュは軽くハッパをかけてやった。



PM11:00。

クリスマス最後の戦いが、今此処に幕を開ける。

















































<to be continued>







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