VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 10 -Christmas that becomes it faintly-
Action10 −秘密−
一枚の扉。
鋼鉄の門は静かに閉ざされており、奥行きの空間を完全にシャットアウトしている。
家具や調度品で満たされた安らぎの空間。
今まで存在しなかったドア。
元監房で三等民の少年が住んでいたと言っても、誰も信じてくれないだろう。
「俺がいない間に勝手に侵入し、徹底的に改造していった犯人――」
『正体不明で気持ちわるいね、ますたぁー』
「・・・お前が言うなと全力でつっこみたいぞ、俺」
部屋の真ん中で顔を寄せ合う少年と少女。
野性的で、近頃凛々しく引き締まってきた少年。
見目麗しく、華やかな紅いドレスに身を包んだ少女。
少年と美少女は、共に怪奇な眼差しで互いを見つめている。
『きっと、あれだよ。犯人は女だよ』
真面目な表情で主に顔を寄せるが、愛らしさが際立っていて照れ臭さを誘う。
「ほう――その心は?」
『うん。だって、怪しいもん』
「なるほど、それは言えるな」
何が「うん」で、「なるほど」なのだろう?
子供でももう少しまともな意見の交換をする。
『――主観的に物事を判断しないで下さい』
本人達以外には謎だらけの推理をする少年と少女二人に、もう一人の少女が言葉を添える。
ドレスの少女に似た顔立ちだが、聡明な輝きが瞳に浮かんでいる少女ソラ。
簡単に意見を否定された少女――ユメはソラを不満げに見つめるが、本人は涼しげに見つめ返すのみだった。
うーんうーんと頭を悩ませて、ユメは表情を輝かせる。
『分かった、犯人は男だよ!』
「・・・一応聞くけど、何でだ?」
『だって女じゃないって、ソラが言ったもん』
ビシっと小さな指先をソラに向ける。
「あー、なるほど。ソラがそう言ったよな」
面白おかしい笑顔で、カイはソラに視線を向ける。
『・・・私に責任を押し付けるのはやめて下さい』
なーんだと残念がるユメに、ちぇーと口を尖らせるカイ。
幼い子供の仕草をする二人に、ソラは表情を少し和らげる。
『そもそも、マスターの部屋は日夜私がきちんと管理しております。
マスター不在時は特に警戒を強め、お留守を預かっておりました。
このような部屋にしたのは――』
「わー、バラすんじゃない!」
カイは慌ててソラの口を塞ぐ。
立体映像なので、限りなく無意味な行動なのだが。
『空気よみなさいよ、ばかばか!』
ぷんすかっと、頬を膨らませるユメ。
二人の必死な形相に、ソラは――滅多にないのだが――きょとんとした顔をする。
『――何故ですか? マスターは犯人をお知りになりたいのでは?』
「確かに知りたいけど――! ああ、もう!
お前には遊び心というのがないのか!」
『犯人はわたしたちで見つけるの! それが楽しいんじゃない!』
『イ、イエス・・・・・・マスター』
時間の無駄では? と口に出そうなのを閉ざす。
主が今の状況を楽しまれているのなら、わざわざ水を差す必要もない。
それに――
『ねえねえ、ますたぁー。早く開けてみようよぉ!』
「分かった、分かった。そう急かすなって。
こういうのは、ゆっくり焦らすのが最高にわくわくするんじゃないか!」
『うう・・・もう楽しみで胸がいっぱいだよ。
ますたぁー。私の胸、触ってみて・・・・・・ドキドキが止まらないの』
「えええっ!? いや、それは――おい、こら。
立体映像で、どうやって胸の鼓動を感じられるんだよ」
『・・・・・・ちぇっ』
「ちぇっとか言うな! 下品だぞ!」
『ますたぁーは清楚な路線が好きなんだね。わたし、がんばる』
「何を頑張るんだ、何を!!」
ムキになって詰め寄る主に、可愛らしく舌を出している少女。
二回目の出会いとは思えないくらい、二人は仲良く笑い合っている。
二人を見つめるソラは、悲しげに――
やがて、話し合っていても埒があかない事に気付いた二人。
変革した部屋の追求は後回しにして、最大の謎である扉の前に立つ。
ニル・ヴァーナ艦内の思い出せる限りの見取り図を、脳裏で思い浮かべるカイ。
監房の隣は特に使用されている区域ではなかった。
詳しく調べた訳ではないが、そもそも隣と言っても距離が離れていて使用しようとも思わなかった。
気に掛ける事もなく、狭い部屋で満足していたこの数ヶ月。
ニル・ヴァーナは融合戦艦で、メインブリッジを含む元イカヅチには植民船時代の名残が残っている。
解明されていない部屋が今もまだ沢山あり、データ上調査中とされている区域が存在する。
広大な船の中であえて調査に乗り出す者はおらず、謎は謎のまま放置されていた。
同船しているマグノ海賊団は生活区域や使用可能な施設を予め占有しており、新たに開発する必要がないからだ。
もしも、この扉がその謎とされていた空間に繋がるなら――
出現した扉を前に、また新しい世界が見えてくるかもしれない。
カイは浮ついた気分をそのままに、扉へと一歩歩み寄って、
『あれれ? 開かないよ、ますたぁー』
「おかしいな・・・・・・自動だろ?」
押しても引いてもびくともしない。
試しに扉の真ん中を掴んで力任せに左右に広げようとするが、ピクリとも動かなかった。
「はあ、はあ、はあ・・・・・・何なんだ、これ・・・・・・」
『セキュリティがかかっていますので』
「早く言えよ、それ!?」
『こういった事も、遊び心ではないかと』
「――学習能力高いな、お前って」
ソラなりの冗談に、カイはだるくなった腕を擦る。
なるほど、確かに扉の横には身元照会システムが搭載されていた。
指紋チェックとIDカードが必要なセキュリティ。
見覚えのあるシステムであった。
何しろほんの二ヶ月ほど前、散々苦しめられたマグノ海賊団の最新設備。
セキュリティ0の悪夢が蘇る。
「・・・・・・ふっふっふ・・・・・・」
『ますたぁー?』
「ふっふっふ、あっはっは・・・・・・」
『マスター?』
「あっはっはっはっはっはっは、あはははははははははは!
くくく、犯人は・・・・・・・・・あのクソばばあかぁぁぁっ!!!!」
ソラとユメは戦慄する。
高度な演算能力と計算力、人類未踏の領域に達する力を持つ少女達。
その二人が目に追えない速度で、カイは豪快に走り去っていった。
残された少女達は、呆然とした顔で互いを見つめる。
静寂――
静まり返った空間が置き去りにした意識を取り戻してくれたのか、ユメは目を伏せる。
『すぐわたしを置いてけぼりにするんだから。ますたぁーの馬鹿。
ふーんだ、もう帰るもん』
『ユメ・・・・・・』
怒ったような拗ねたような顔をして、ユメは両手を広げる。
途端――少女の身体は色を失っていく。
『ますたぁーに馬鹿って言っておいてね。ソラ』
消えていくユメ。
まるで初めからいなかったかのように――
『――もう行くのですか?』
『・・・・・・うん。だって』
空気に溶けこんでいくかのように、ユメは薄くなっていく。
楽しげな雰囲気は消えていき、残された感情も磨り減っていく。
ユメは声を漏らす。
『寂しくなるから』
本当に、楽しかったから。
ユメはただ眩しげに――笑っている。
笑っていて、心から笑っていて・・・・・・
『だから、もういいの』
ソラは問う。
問わずには、いられない。
『どうしても――マスターと一緒では駄目なの?
マスターならきっと、貴方を――』
『分かっているくせに――そんなの、無理だって』
ソラは俯く。
その動作が何よりの、真実を物語っている。
ユメは静かに語る。
『――アイツ、本気になってる。
ますたぁーを殺す気だよ』
ユメは、ソラに微笑みかける。
『次に会ったら――敵同士だね』
『――ユメ!』
ソラは手を伸ばす。
論理的に無意味だと、高い思考能力が無駄な動作だと教えても――
『ありがとう、ソラ』
楽しかった、夢は・・・・・
『ますたぁーと遊べて――嬉しかった』
・・・・・・終わりを迎える。
『バイバイ』
そして、何も残らない。
部屋の中、一人残された少女。
誰もいない。
誰も声をかけようともしない。
映像にも残らない、束の間の時間。
思い出すー―
入艦を許した、ただひとつの理由。
無邪気なあの娘の残影は――残された少女の胸を抉った。
『――あ・・・・・・』
ソラは認識する。
揺れ動く視界の中で、ぼんやりと。
(最後に――思い出が欲しいの)
私でも、泣けるのですね――
<to be continues>
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