VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 10 -Christmas that becomes it faintly-






Action9 −洗浄−










 扱いの難しい娘だが、素直に耳を傾けるのが可愛いところだと思う。

妙な感慨を胸に、カイは自室へと帰っていく。

まだまだクリスマス前の準備と話し合いをしなければいけないのだが、その前に自室を見ておきたかった。

ソラとマグノ海賊団との協調はまだまだ先になりそうだが、我ながら良い案ではないかと思っている。

自らの思い付きをソラに話した時怪訝な顔をされたが、きちんと承諾はしてくれた。

後は彼女が見て、聞いて、知って、心に何を残すか、だ。

息を一つ吐いて、カイは監房へ戻る。

住み慣れた我が家。

本来罪人を閉じ込める為の部屋なのだが、カイは元々労働階級の三等民。

通常監房には何もなくて当たり前だが、パルフェの気遣いで空調だけは完備されている。

贅沢とは程遠い生活をしていたので、全く気にしてはいなかった。

とはいえアンパトスでの戦闘から入院と、なかなか自分の部屋へ戻れなかったのは事実。

洗濯物も溜まっているし、掃除も満足に出来ていない。

ドゥエロやバ−トが整理してくれたとは思えないし、埃も積もっているかもしれない。

退院早々掃除なんて気が滅入るが、殺風景な部屋をさらに汚したくもなかった。

カイは部屋に入り――



「……は?」



 ――呆然とした。

思わず目を擦って、もう一度部屋を見回す。


「・・・・・・」


 部屋を間違えたのかと出たり入ったりを繰り返すが、間違いなくここは自分の部屋だった。


「な――っ!?」


 其処は――異世界だった。

時代遅れの薄暗い光源は撤去工事が完了しており、最新の照明設備が明るい光を称えている。

フレームと鉄板だけの簡易ベットは影も形も見えず、使用者に負担をかけない木造のベット。

敷かれている布団と枕は干した後のようにふかふかで、ディータ製の宇宙人(?)模様が微笑みを誘う。

無骨な手洗い場が枠組みから外されており、新品の洗面所とお手洗いが別設置されている。

洗面所には見舞いで貰った花が飾られ、華やかな色のタオルが用意されていた。

部屋の脇には新品の机と椅子。

見た事もない本棚には、ご丁寧に辞書や参考書が並んでいる。

机の横にはスライド式のラックとコンピューター。

コンソール型のデジタルパネル形式で、大規模な演算能力とネットワーク完備の最新式。

剥き出しだった床のコンクリートは絨毯が敷かれて、落ち着きに満ちた色を見せている。

無論壁や家具、天井に至るまで埃一つ無く綺麗にされている。

服もきちんと折りたたんでおり、アイロンがけまでされていた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 生涯最長の無言。

一人呆然とする事十分、カイはようやく我に帰った。


(え・・・・・・・・・とぉ・・・・・・・・・)


 入院でしばらく帰っていなかったが、懐かしの自室だ。

それを踏まえて誓って言うが、部屋の中をこんな内装にした覚えはない。

家具はおろか、コンピューターを室内に持ちこめる身分ではない。

欲しいとは確かに思っていた。

メイアに貰った通信機だけではおのずと機能に限界はあり、出来る範囲は限られる。

マグノ海賊団の設備は一切使えない身分。

今までの刈り取りの戦力データを用いたシミュレーションすら出来ず、戦闘訓練も行えない状況に逼迫していた。

充実した設備と環境を望んでいたのは事実だが――

みすぼらしい部屋が一転して、高級仕官待遇に生まれ変わっているこの現実はどうしたものだろう。


「――」


 一応、反対側の監房も見てみる。

彼らの部屋を確認すると、元の監房のままだった。

ドゥエロの部屋には本が沢山積んでおり、バートの部屋はペレットとパジャマが散らばっている。

つまりカイの部屋のみに、大規模なリフォームが行われていた。

事実を確認すると呆気ないが、前提が既に常識を粉々にしている。


「――これはまさか・・・・・・幻?」


 我ながら気づいていなかったが、入院時の疲労がまだ残っていたのかもしれない。

最近、青空の大地や真っ赤な地獄を見ている。

新しい世界が突如広がってもおかしくはない。

――異世界が見える時点で既におかしいのだが、カイの思考回路がエラーを認めなかった。


「そっか、そっか。ボクはあの温かい医務室のベットでぐっすりと寝ているに違いない。
なかなかリッチな部屋じゃないか、うふふふふ」

『そうだよね、アハハハハハ』

「やけにリアルだが、きっとあれだ。予知夢ってやつ?
さすが未来の英雄。
将来はこんな綺麗な部屋で贅沢三昧な日々を送るのだろう」

『うんうん、ますたぁーはかっこいいもんね』

「だろだろ? なかなか分かっているじゃないか、お前も。
わはははははは」

『でしょでしょ? ますたぁーの事は何でも分かってるもん。
あはははははは』

「――普通に部屋に入るな、お前は」

『慣れた反応だね、ますたぁー』


 ふかふかのベットの上で手を振るツインテールの女の子。

先ほど会議室で話し合っていたソラに似た容姿を持ち、違った内面を持つ少女。

無機質なソラの表情には決して浮かばない、艶やかな微笑みを浮かべて座っていた。


『えへへ、遊びに来ちゃった』

「えらくあっさりと言うな、お前は。 
もう会えそうにないって、前に言ってなかったか?」

『むー、ますたぁーはわたしに逢えて嬉しくないのぉー?』


 大人のように艶然と振舞うこともあれば、子供のように頬を膨らませる事もある。

ソラとは違った意味で、不思議な女の子だった。

拗ねた顔がとびっきりで、カイの胸に甘い痛みが走る。


「べ、別にそうはいってないだろ。
でもお前・・・・・・何で船の中に入れるんだ?」


 詳しい説明を受けていないので何とも言えないが、ソラとユメでは存在概念が違う気がしていた。

ソラはこの船の中枢を把握していて、まるで船の主のように堂々たる存在を見せている。

対して、ユメは別れ際の発言からこの船には居ない存在だとばかり思っていたのだが――


『あの娘にはちゃーんと話してきたよ』

「ソラに?」

『うん。今もわたしの監視をしてるよ。
うふふふ、見せつけてやろっか? ますたぁーとわたしがどれだけ愛し合ってるか』

《それ以上戯言を吐くのなら、すぐに追い出します。
用件だけ速やかに述べなさい》

『もう、お邪魔虫』


 背後から聞こえる音声に、カイは苦笑いを浮かべる。

気配も何もないが、元より実体のない女の子だ。

カイは室内へ入って、腰をおろす。


「アンパトスじゃドタバタが続いて、結局何にも話せないままだったからな。
もしかして、お前もこの船にはこれからも?」

『・・・・・・あ、えと・・・・・・』

「・・・そ、そっか・・・・・・・まあでも、無事だっただけでもよかった。うん」


 子供のようにはしゃいでいたユメに、初めて宿る暗い影。

その表情だけで何となく悟ったカイは、無理に明るい声を上げる。


『わたしも、ますたぁーとお話できて嬉しいよ。えへへー。
ソラと一緒じゃ疲れるでしょ、ますたぁーも』

《無理に"負の意識"に触れさせた貴方のような真似はしません。
私の決定権はマスターにあります》

『ふふん、良い子ちゃんなんだから。
ね、ますたぁー。あの時みたいにまたキスしよっか?』

「はぁっ!? お前、立体映像だろうが」

『いいの。ほらほら、早くぅ・・・・・・きゃっ!?』

《用件だけ速やかに、と言いました。
今度ふしだらな行為をすれば、全艦緊急警報を鳴らします》

『うー、この乱暴者!』


 プスプスと頭から煙を上げるユメ。

いつになく厳しい態度のソラ。

遠慮なく、ソラは気持ちをユメにぶつけている。

マグノ海賊団には抱いていない感情を、ユメには素直に向けている。

二人の繋がりは想像すら出来ないが、きっと他人に踏み込めない深い間柄なのだろう。

カイはほのぼのとした気持ちで見つめて――部屋の変貌に視野を向ける。


「そうだ、和んでいる場合じゃない!
この部屋はお前の仕業か!?」

『部屋? ううん、知らないよ。
わたしが来た時、もうこうなってた』


 ユメの顔にも動揺はない。

どうやら本当にユメの仕業ではないらしい。

そうなると――誰がこれを?

疑った事を謝りつつも、カイは犯人像がさっぱり見えなかった。


「悪戯――にしては手がこみまくってるからな。
誰だ、こんな嬉し恥ずかしな部屋にしやがったのは」

『ねえねえ、ますたぁー。
部屋なんてどうでもいいからさ、わたしとお話しよーよ』

「お前にはどうでもよくても、俺には切実なんだよ!
――よーし、折角だからお前も手伝え。ユメ」

『なにを?』

「家主の俺に黙ってこんな工事しやがった犯人を探す!」

『おー、何か面白そう!』


 ユメがこうして姿を見せている事に関して、深くは追求しない。

ソラと対になる女の子。

他の誰も知らない存在。

血に濡れた少女。

何かを追求すれば壊れてしまいそうで・・・・・・カイはただ何も聞かず、少女と戯れる。

ユメは嬉しそうな顔をして、部屋を見つめて、


『ねえねえ、ますたぁ−。あのドアってなーに?』

「ドア・・・・・・・? ドアぁっ!?」


 カイの部屋は元監房である。

常識以前の話だが、監房は人間を閉じ込める為に室内を密閉する。

唯一の出入り口をセキュリティシステムでシャットアウトして、罪人を閉じ込める。

その監房内の奥の壁に――ドアが一枚あった。

断言する。


入院前に、あんな扉は存在しなかった。


「く・・・・・・・凝った仕掛けを用意してくれるぜ、犯人め!」

『わなのにおいがぷんぷんだね!』


《・・・何故そんなに嬉しそうなのですか、貴方達は・・・》


 普段冷静なソラも、二人のテンションにはいたくご立腹のようだった。

























































<to be continues>







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