VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 10 -Christmas that becomes it faintly-






Action3 −苦慮−










 カイ=ピュアウインドという人間に男女差別の思考は無い。

タラークにいた頃は若干あったが、マグノ海賊団と出会ってすぐに消えてしまった。

元来より偏見や差別、強弱による不遇を嫌う人間である。

自由自適が彼なりの生き方であった。

そんな彼だが、タラーク・メジェール側の人間からすれば異端中の異端となる。

男も女も同じ人間だと断ずるカイは、双方の常識を無視しているゆえだ。

そんなカイに敵は多く、理解出来ない思考や常識外れの行動に疑問や警戒を抱く者は多い。

本人も――その事実は受け止めている。


「ちょ、ちょっと待て!? 俺がやるのはまずいだろ!
連中だって・・・・・・嫌がるに決まってる」


 カイが全体的に指揮した時も旅の間あったが、あくまで戦場でしかない。

プライベートでは立ち入りすら許されず、戦闘の場面でも全滅の危機にあった為に事後承諾の形で指揮権を得られたにすぎない。

比べて今回のイベントは男女共同生活という面から見れば、別にカイが取り仕切る意味は無い。

事によっては問題が発生する可能性もあり、推薦すべき案ではなかった。

寝巻き姿で猛然とカイが反対の意を唱えると、ミカはハァっと溜息を吐いた。


「そこなのよね、気になってたのは」

「あん……?」


 カイが怪訝な顔をすると、ぐっとミカは不満げな顔を寄せる。


「何かさ……最近のカイって卑屈になってない?」

「卑屈!? 俺が……?!」


 自慢ではないが、毎日やりたいようにやっている。

ミカの指摘に心当たりはカイには全く無かった。

うーんと人差し指で額をトントン叩き、言葉を選ぶようにして言う。


「気を使ってるって言うか、遠慮してるって言うか……
昔みたいに積極的にわたしらに関わろうとしないよね」

「え、いや、それは――」

「気に入らないのよね、そう言う態度って。
大人になったって言えば聞こえはいいけど、単にこれ以上嫌われないようにしている感じがするのよ」

「うう……」


 そんな事無いと断言出来る自信は、カイには全く無かった。
女達との確執は今に始まった事ではないが、ここ一・二ヶ月主だった面々以外とカイはまともに接触していない。

正確に言えば、マグノ海賊団を拒否した時からである。

仲間に誘われ、自らの意思で蹴って、明確に海賊入りを拒絶した。

その後ミッションやラバット、アンパトスでの事件が連続して続いてそれ所ではなかったとはいえ、会話の一つもしていない。

図星を指されてカイがどもると、横からディータが顔を出す。


「うんうん、チーフの言う通りだと思う。
ディータも全然お話してないもん」

「お前はずっと俺の傍をうろうろしてるだろうが!」

「むぐーー!! むぐぐーーーー!!」


 布団に顔を強引に押し付けて、とりあえず黙らせる。

うるさい外野がいなくなったところで、カイは話を続けた。


「お、俺はただ・・・・・・」

「疎まれるのは当然、拒絶されるのは当たり前。
確かにそれは本当だけど、だからってじゃあもういいやって投げやりになるのはどうかな……
カイとの付き合いはまだそこそこだけど、僻みなんて似合わないよ絶対。
どんな劣境でも立ち向かっていくのがカイだと、わたしは考えてるけど」

「むむむ……」


 思わず考え込んでしまう。

海賊達の間で溝が生じているのは今に始まった事ではない。

それこそイカヅチで対立していたあの時から、立場関係に殆ど変化はない。

女への偏見は既に無いが、偏見そのものを取り去ろうとそもそも考えただろうか?

変えようと思ったことはある。

不満に感じた事は数え切れない。

行動にだって出た事もある。

その結果――今、何が変わっただろうか?

変化した関係。

変化しない立場。

そして――何も変わっていない男と女の軋轢。

一部の人間とだけ懇意に出来ても、全体を何とかしない限り何時までたってもこの仲違いは続く。

タラーク・メジェール誕生から続いている対立は未来永劫続くだろう。

甘んじていていいのか?

嫌われたままで良いと納得出来るのか?

このままでいいと――本気で思っているのか?

答えは、否だ。


「……お前の言う通りかもしれないな」

「でしょ? いい事いったでしょ、わたし」


 えへへと得意げな顔を浮かべるミカに、カイは苦笑を禁じえない。

カイが女性に尻込みしていた理由は他にもある。



『変わってしまったその現実を――皆を祝福するとは限らない』



 痛切に語るバーネットの顔を、カイは今でも忘れられない。

どうでもいいと言うには余りにも哀しい出来事だった。

分かり合えないまま、今も尚顔を合わせられずにいる。

男女関係の改善を望むカイ。

女性だけの平穏なる関係を望むバーネット。

何が正しくて間違えているのか、簡単に分かるならタラーク・メジェールの確執など生まれたりはしない。

二つの星の価値観、国として成り立っている道徳観を覆しかねない問題だ。

築きあげてきた歴史を根本から崩すかもしれない禁忌。

一介の少年が取り扱える事項ではないのかもしれない。

容易く男女平等を口に出来るほど軽くなど無い。

バーネットとの事で、改めて思い知ってしまった。

そして思い知ったからこそ――


――諦めてしまうのは間違えている。


 絶対にそれは違う。

バーネットが、他の女達が何を言おうと、今の状況が正しいなんて認められない。

勿論、自身の能力や性格でも嫌われているのは分かっている。

女達に嫌われる理由を、メジェールの価値観だけに押し付けるつもりは無い。

好き嫌いは偏見だけで生まれ出でるモノでは決して無い。

でもそれを差し引いても、今のこの関係は健全ではない。

教え込まれた価値観で、与えられた色眼鏡だけで自分を見られてはたまらない。

誰かが変わり、誰かが変わらずにいるとかではなく。

正しいと信じた事を貫いて、間違えていると確信した事を頑なに否定する。

変化が平穏を損なう要素があるのは本当だ。

バーネットの言う事だって間違えてはいない。

――いないが、変わり行く日常が自分に恵みを与えてくれた。

この数ヶ月宇宙に旅立って、教えられた事は沢山ある。

口にした甘い果実は、己が世界を耕さなければ栽培出来なかった。

この事実は誰であろうと否定はさせない。


「・・・・・・なるほど、良い機会かもしれないな」

「じゃ、じゃあ!」


 ミカの期待に満ちた表情に、カイは力強く頷いた。


「オッケー、引き受ける」


 すんなりと言葉にして、カイは迷いを断ち切った。

承諾を得たミカは顔を輝かせる。


「本当に!? 途中で嫌になったは無しだよ」

「男は一度口にした事は最後までやりとおす。
クリスマスだろうがなんだろうが、俺がバッチリ盛り上げてやるぜ!」


 心が高揚するにつれて、カイは段々今までの事に腹が立ってくる。

そもそも、何故いちいち女の都合を考慮しなければいけないんだ。

始終顔色を伺ってご機嫌を取る必要なんてありはしない。

マグノ海賊団として生きていくのを拒否したのは何の為だったか――

カイは鼻を鳴らす。

男女云々を置いておいても、自分だけに非があるのだろうか?

迷惑をかけているのは確かだが、迷惑だってかけられている。

まるで自分一人が悪人になったようなこの立場も、元々味方の数が違いすぎているだけである。

バ−ネットには沢山の仲間がいて、自分には誰一人味方がいない。

力づくで勝利するのではなく、文字通り信頼を勝ち取らなければいけない。

その上で、もう一度自らの主張を唱えれば良い。

ただウジウジと卑屈に様子見するだけでは、負け犬になる一方だ。

何度も過ちに気づき、何度も気づき直すこの現実。

戦いを止めた戦士に、勝利の女神は決して微笑まない。


「よし」


 パンと両頬を叩いて気合を入れなおし、もう一度パンフレットを見やる。


「『男女初のクリスマスパーティ、全員参加願います』?
参加願いますって――普通こういうイベントって皆自主的に参加するだろ」

「それがそうもいかないのよね・・・・・・」


 顔をしかめて、ミカは力なくベットの横脇の椅子に座る。


「年に一度のイベントだから、大体皆喜んで参加はしてくれるわ。
でも、その――中には参加を嫌がる人もいて・・・・・・
実を言うと、このクイスマスイベント全員参加した事ってないの」


 マグノ海賊団が結成されたのは数年前。

クリスマスを行う機会は数度あったが、毎年失敗に終わっている。

その事実にカイが首を傾げ――ふと、ディータとジュラを見る。

二人の顔に浮かぶのは、気まずい微笑み。


――理解した。


「あー、なるほどなるほど。

――青髪だな」


「・・・・・・去年はパトロール。一昨年は緊急の打ち合わせとか言って」


 今でこそ少しカイとうちとけあっているが、他人との接触を拒む姿勢は変わらない。

他人を当てにせず、独力で生きていく事が強さへの最短になると信じているメイア。

日常的に仲間との深い付き合いを避けている彼女が、こんな賑やかなイベントに参加はしない。

毎年何か理由をつけて断っており、チーフの頭痛の種になっていた。


「ほら、メイアってチームリーダーで権限も高いでしょ?
正当な理由を言われたら、文句をつけられないのよ。
パンフレットにこう書いていても、多分今年も無理だと・・・・・・」

「何言ってんだ、お前」

「え?」


 困惑げなミカに、カイはちっちっちと人差し指を振る。


「俺様が仕切るからには全員参加だ。奴も例外じゃない」


 自信満々に宣言するカイを、ベットで寝ていたジュラが馬鹿にするように見る。


「どうするのよ。今までジュラ達が何言っても無理だったのよ。
お頭さえ誘っても断られるのに、あんたが何言ったって絶対不可能よ」

「お前ら・・・・・・長年付き合ってるくせに、あいつの事何にも知らないんだな。
あの根暗な引き篭もりに、普通に誘いをかけても無理に決まってるだろ。
ああいう奴は、もっと強引にやらないと駄目なの。


おい、ドゥエロ。パイウェイ、呼んできてくれ」

「パイウェイを?」


 意外な人選に、カイはにやっと笑った。

























































<to be continues>







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