VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 10 -Christmas that becomes it faintly-






Action2 −行事−










ニル・ヴァーナ艦内は人気が無かった。

長期休暇中であるマグノ海賊団内は交替勤務となり、艦を維持出来る人員のみしかいない。

殆どの女性達はアンパトスへ降りて、それぞれの休暇を楽しんでいた。

その為、医務室で男女が顔を合わせていても特に騒がれたりもしない。


「『聖なる夜にパーティ開催! 男と女の初クリスマス・パーティー!』?」

「そ、来月末クリスマスがあるの。
で、折角だしさ、男も一緒にどう?って話」


 細かな文章と彩りに満ちた模様が描かれたパンフレット。

ブリッジクルー・チーフのミカが持ち込んだその紙を手に、カイはベットの上に座っている。


「毎年いつもあたし達のアジトで女の子だけでやってたんだけど、こういう状況でしょ?
一ヶ月ちょっとで故郷に帰るのは無理っぽいし。
こうなったら、船の中で男と女で夜を過ごすのよ!」


 アイのように凛とした美しさはないが、勝気な微笑みは明るい魅力に満ちている。

良くも悪くも前向きな性格は、周りを活気に包み込んでしまう。

その影響を受けたのか、早速元気印満点の声が飛び出す。


「はい、はーい! 賛成賛成、大賛成でーす!」

「うんうん、支持をいただけて嬉しいわ。
――何でカイの布団の中からって所にはつっこまないであげる」

「それはどうもありがとよ」


 ひょっこり脇から顔を出してくるディータに、カイは頭痛がした。

その辺を聞かれると返事に困るので、ミカの配慮はありがたい。

――のだが、ミカの瞳が明らかに面白がっていて、カイは投げやりに礼だけ言ってパンフレットを見る。

会場は艦内全域とされているが、パレードは自然公園で行われるらしい。

メインブリッジ下にあるこの公園は憩いの場所とされており、会場にはピッタリの広さである。

参加者は全員。

女150名に男3名、男女初めてのイベントだった。

配慮の行き届いた会場の準備手順や当日のプログラムなど、実によく練られた企画である。

カイは隅々まできちんと読んで、手を挙げる。


「えーと、まず根本的な事を聞きたいんだが」

「ふむふむ、何でも聞きたまえ。君」

「何でそんな偉そうなのかはとりあえずシカトしておくとして、だ――


この"クリスマス"って、そもそも何なんだ?」


 医務室に静寂が訪れる。

凶悪な無言の空気に、カイはぎょっとした顔で周りに視線を向ける。


「なっ――何だよ、お前ら!?」

「ちょっとあんたね……
まさかとは思うけど、クリスマスを知らないっていうんじゃないでしょうね?」


 傷付いた身体を横たえつつも、切れ長の瞳を細めてジュラは問い詰める。

ミカも少し馬鹿にしたような顔で、カイにやれやれと視線を送る。


「ヒーローを目指すのもいいけど、もうちょっと世間に目を向けたほうがいいわよ。
夢を叶える場所はこの現実なんだから」

「言ってる事はもっともだが、そこはかとなくむかつくぞ!?
俺が知っている訳無いだろ。
タラークの祭り事に、そんな催しなんて行われなかったんだからよ。

――多分だけど。三等民は祭り事の積極的な参加を禁止されてたから」


 タラークにも祭りの風習は当然ある。

年に何回か国をあげて行われ、賑やかな祭りが展開される。

ただ軍事国家のタラークには厳しい階級があり、祭り事であっても例外は無い。

無礼講などもってのほかで、参加すら禁止される事もある。

三等民として育てられたカイには無縁だった。

そこまで考えてふと思い立ち、カイは同郷の者を見やる。


「思いっきり忘れてたけど、ドゥエロやバートは俺より階級が上だよな。
やっぱこういった祭り事とかには参加していたのか?」

「――やっぱり忘れてたんだな、お前……」


 身分も何も関係ないとばかりに、カイは常日頃から接してくる。

最早今更ではあるのだが、バートは嘆息するしかない。


「一応見に行った事はあるけど……正直、そんなに面白くも無かったよ。
お偉いさんや軍人が殆どだったからね。
汗臭いし、むさ苦しいだけだったからすぐ帰っちゃったよ。
ドゥエロ君は?」

「興味もなかった」


 二人の個性が良く出ている回答である。

タラークが労働階級の人間が半数以上を占めている為、祭りに参加出来るのは当然上の階級のみとなる。

お国柄からしてガチガチなイメージのあるタラークに、華やかさなんて程遠い。

軍事国家として古き伝統を重んじるので、文化や風習を重視した内容になってしまう為だ。

社交的なバートや人付き合いの少ないドゥエロの肌には合わなかった。


「ふーん、クリスマスってのもそんなに面白いもんでもないんだ」

「いや、そもそもタラークにそのような行事は無かった」

「へ……? じゃあ――」


 ドゥエロとバートは揃って頷く。


「僕も知らない」

「私もだ」


 ベットから豪快に落ちそうになった。


「こいつらが知らないのに、俺が知ってるわけ無いだろ!」


 思いっきり脱力した身体を必死で起こして、カイは叫ぶ。

話を聞いたミカは苦笑いして、頬を掻いた。


「あはは。ごめんごめん、タラークにはなかったんだ。
それじゃあ一からきちんと説明するね。
えーとね、クリスマスってのはそもそも――」



 クリスマスとは"クリストゥス・ミサ"の略で、Christ(キリスト)+mas(礼拝)を意味する。

クリストゥスは「油を注がれた者」という意味で、「救世主」「キリスト」を意味する。

クリスマスの由来は地球における「太陽神の誕生祭」や「農耕神への収穫祭」が、後にイエス・キリストの生誕祭と結びついた。
当時の地球では、太陽神を崇拝する異教が大きな力を持ち、12月25日を太陽神を祭る祝祭日としていた。

そこで初代キリスト教の指導者達が異教徒にキリスト教を広めるために、12月25日はクリスマスとされた。



 そんな概要から、メジェールで一般的に行われるクリスマスの夜についてを物語る。

男三人は感心した様子で、顔を見合わせる。


「七面鳥にケーキ。一年に一度のパーティ――
話を聞くだけでも、すごく楽しそうだな」

「装飾品をつけた樹をクリスマスツリーと称して飾るのか。
ふむ、興味深い」

「サンタクロースってお年寄りがやってるんだ。
子供にプレゼントをあげるって、親切で夢のある人だね」


 食事に行事内容、目上の人。

同じクリスマスでも観点の違いが如実に出ていた。

一枚のパンフレットを男三人で覗き込んでいるのが、周りの笑いを誘った。

カイは一項目ずつ確認して、


「なるほど。面白そうだけど・・・・・・どうしてこの話を俺に?」

「うふふ。そこが肝心なのよ」

 良い質問とばかりに、ピンと人差し指を立てる。



「カイ。あんたにこのパーティを取り仕切ってもらうわ」



「俺!?」


 男女初の供宴。

いきなりの嵐の前触れが吹き荒れようとしていた。
























































<to be continues>







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