VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 9 -A beautiful female pirate-






Action43 −人間−










 人間という生き物は醜い。

欲に動かされて、同族を蹂躙し、自滅する。

救いがたい生き物だ。

ユメとソラの共通の認識。

人間とは本当に――理解出来ない生き物だ。


「・・・・・・」


 ユリ型で内消滅した二機のドレッド。

ディータ=リーベライとジュラ=ベーシル=エルデン。

二人のパイロットが取った行動は自滅だった。

高圧電子に満たされた空間に自ら飛び込み、牽引ビ−ムに巻き込まれて消えていった。

ユリ型の体内に取り込まれた以上、救助は不可能に近い。


「――どうして」


 計算にはない行動だった。

算出した二人の行動範囲と心理分析によれば、皆無に近い確率。

命を危険に晒す行為など、あの二人には出来ない筈。


『バカよね、人間って。
ますたぁーをいじめるような奴らだから当然かな』

「……」


 取り込まれたのはユリ型であり、ユリ型ではない。

体内にして胎内。

ユメの操り人形であるユリ型の中は無限の地獄と言っていい。

強化されたSPドレッドでも長くは持たないだろう。

愚かな行動――ユメの嘲笑にソラは反論出来ない。


『蒼き巨人と紅き爪は消えた。残るは白き翼だけ。
終わりね、ソラ』

「……」


 光り輝くペークシスの上で、ソラは熟考する。

二人が死んだ。

ディータ=リーベライとジュラ=ベーシル=エルデンがこの世を去った。

人の死――

幾千幾万の人の始まりと終わりを見て来た。

人間は人間の死に様々な感情をもたらす。

怒りであり、悲しみであり、喜びであり、苦しみでもある。

万華鏡のように生み出される感情の変化は、自分にとって無縁なものだった。

事実、二人の死に何の感慨も抱かない。

ユメもそれは同じ。

あの娘が喜んでいるのは二人が死んだからではなく、マスターに戦う武器が無くなったから。

この先の戦いで生き残れる確率が激減したからこそ、ユメの思惑通り降伏する可能性が出てきたという事。

――マスターは二人の死をどう思うだろう?

悲しむだろうか?

哀しむだろうか?

かなしむだろうか?

カナシムダロウカ――?



――フラッシュバック――



記憶という概念はない。

脳を持たない自分に在るのは記録。

膨大に蓄積されたデータから一枚の映像がダウンロードされる。


『・・・落し物だ・・・・・・大事にしろよ・・・』


 縋り付いて泣いている。

顔を合わせる度に怒鳴り合っていた憎き敵を、マスターは想っている。

メイア=ギズボーンの生に、歓喜の涙を流している。

人間とは理不尽だ。

拙い要因で喜びや悲しみを抱く。

本当に――不思議だ――

ソラは視線を落とす。

醜い人間。


マスターは誰よりも何よりも――人間らしい……


切り捨てた人間の価値観を、彼は誰よりも有している。

軽蔑していた人間、その象徴がマスターだ。

私は……いえ。


ワタシタチソラとユメはまだ、人間を知るべきかもしれない


軽いステップを踏んで、ソラは中空へ舞い上がる。

一つだけ手立てはある。

二人を死なせない、否――二人の生存率を少しだけ上げる方法が。

しかし、その為には――

「――!」


 稲妻のように走る閃光。

芯を震わせるような衝撃に襲われ、ソラは素早く手をかざす。

今まで周囲に浮かんでいた数十を超えるモニターが消失し、ノイズが走る。

「リンクが――遮断された? まさか・・・」


 船の操作を行える者は二人。

一人はソラ。

そしてもう一人は――


「……計算外の人物がもう一人、ですか」


 まさか操縦権を奪い返されるとは思わなかった。

規定外の出来事に憤りはない。

呆れと――ささやかな期待。

彼と彼女達に託すのも悪くはない。


「――おいで、ペークシス」


 一瞬後――保管庫内に人影は消失する。

青緑色の光を放つ結晶体だけを残して。

光をただ、仄かに照らし出していた。
















 ユリ型内部は広大な闇であると同時に、コンテナでもある。

キューブ型・ピロシキ型を数多く抱え、体内に敵を閉じ込める能力。

ユリ型にとって、この広さこそが最大の武器であった。

無尽蔵に満たされた闇の世界。

許容範囲を超える広大さは精神を病んでしまいそうだった。

ディータにジュラ。

ジュラにディータ。

お互いがお互いを補完し、心を成り立たせている。


「――で、本当なんでしょうね? その話」

「うん。ガスコさんと一緒に見たよ。工場のようなものだってガスコさんが言ってた」


 ディータ=リーベライが志願した刈り取り機の調査。

初のヴァンドレッド誕生で撃破したピロシキを、彼女はガスコーニュと共に調査を行っている。

敵の構造と内部データを探り、正体と目的を知る為であった。

調査の結果、内部構造について簡単にだが知る事が出来た。


「なら、話は早いわね。これだけの大きさよ。
重量を支える端末と動力源を壊せば、勝手に崩壊するわ」


 圧倒的な重量と牽引ビームを持つユリ型に、ドレッドでは勝ち目がない。

それこそ通常兵器ではかすり傷程度しか負わせられないだろう。

――外側からでは。

ニル・ヴァーナすら引き込む牽引ビームだが、その効力はあくまで外部にしか影響を及ぼせない。

外的要素を余す事無く飲み込める引力があれど、まさか自分を飲み込む訳にもいかない。

強大な力を持つ無人兵器も、極端に言えば機械類の塊にすぎない。

持ちえる限りの全兵装を駆使して、内部から破壊する。

短時間で考えた二人の作戦だった。が――


「……覚悟は出来てるわね、ディータ」

「うん。頑張ろう、ジュラ」


 外からの攻撃が通じずとも、中からの攻撃なら有効。

作戦はひどく単純だが、実行は本当に難しい。

内部構造が脆いという考えもあくまでピロシキ型に基づいて、だ。

構造を守る為の特別な仕掛けも用意されている可能性だってある。

内部が安全かどうかすら分かったものではない。

ユリ型に格納されている無人兵器が暴れだす事だってある。

ドレッドの通常兵器も通じないかもしれない。

更に言うなら――

内部を破壊してユリ型を鎮圧すれば、内部にいる二人もただではすまない。

楽観的な発想と安易な主観に頼った戦略。

無事ですむとは――彼女達も思っていなかった。

出来る事をする。

勝算は低くても、現状で出来る最善であるならば行動に移す。

守りたいから。

勝ち抜いていきたいから。

戦う事を止めない。

戦うのを諦める事も、しない。

したくはない。

もっと、生きたいと願うから――



『座標50・8・28です』

「――え?」

『――後は御自由に』


 重なる無機質な声。

送信先は不明。

ニル・ヴァーナからの通信なら、きちんと通信先を明記する筈。

二人はモニター越しに顔を見合わせる。


「い――今の、誰?」

「う、うーん、もしかしたら……」

「もしかしたら?」

「う、ううん! 何でもない!」


 怪訝な顔をするジュラに、ディータは慌てて首を振る。


(ありがとう、ソラちゃん)


 心の中で、温かい気持ちに満たされながら。















 それは自然に選べたカードだった。

霞んでいた景色が地平線の彼方まで開けたかのように――

バート=ガルサスは己の意思で決断した。


「僕は逃げない――行くぞ、ニル・ヴァーナ!」


 彼には珍しく、熱を孕んだ声。

彼の熱い眼差しの先にあるのは、紅の光を放つユリ型だった。

赤と青の機体が飛び込んだのはつい先程。

不思議と、何の疑問もわかなかった。

流れるように消えていった二機を見ていると、高揚すら覚えた。

走行する彼女達の機体の背が語り掛けてくるようだった。

――来い。

これが勝利の道。

我が身と心を賭して、彼女達は戦いに望んだ。

バートはしかとその雄姿を胸に刻み、両手を固く握る。

自動起動を始めたニルヴァーナは、たったそれだけで停止した。

停止していた全回線が復帰し、システムも全回復。

ニル・ヴァーナの操舵手として、バートは再びその権利を得られた。

権利を剥奪される理由も分からなければ、取り戻せた原因も判別出来ない。

別にどうでも良かった。

戦うべき道は目の前にある。

二人が示してくれた勝利へと、今こそ立ち向かっていく。

バートは目を逸らさずに、正面からニル・ヴァーナを特攻させた。


『ちょ、ちょっと! どうする気!?』

『待ってよ! 今進むのは危険よ』


 アマローネとベルヴェデールは仲良くハミングする。

バートが何をしようとしているのか、一瞬で分かったのだろう。

真っ直ぐに針路を取れば、向かう先は明白だ。

ハラハラした様子で突っ掛る二人の横にモニターが開き、


『……ユリ型内部への針路、確認しました。どうぞ』


 淡々と促すクマの縫い包み。

バートは小さく頷くのみで、むしろ背後が仰天していた。


『セルまで何やってるのよ!』

『無茶はカイ一人で充分よ!』

『あの人だってわたしには必要ない』

『誰がそんな事聞いてるのよ!』

『早く止めて!』

『お頭代理の命令は絶対だから』


 二人の猛反発に、まだ幼さの残る少女の声が遮る。

牽引ビームに反発していたニル・ヴァーナが急激な針路変更を行う。

結果多大な負荷がかかっていた抑圧が一気に解放されて、ニルヴァーナは超高速でユリ型へ突撃する。

紅の奔流を突き進む蒼き光。

積層型のシールドを張った船は弾丸のように加速していく。


「僕達は負けない!」


 一筋の矢となりて――


「絶対諦めない!」


――ただ真っ直ぐに――


「これで終わりよ!」



 想いの螺旋は形と為りて――ユリ型を貫いた。
























































<to be continues>







小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。

お名前をお願いします  

e-mail

HomePage






読んだ作品の総合評価
A(とてもよかった)
B(よかった)
C(ふつう)
D(あまりよくなかった)
E(よくなかった)
F(わからない)


よろしければ感想をお願いします



その他、メッセージがあればぜひ!


     










[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ]