VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 9 -A beautiful female pirate-
Action37 −異邦人−
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<to be continues>
騒音と人々の喧騒が反響する塔内で、二人の女性は睨み合っている。
上っ面の穏便さは完全に消えており、互いの我を剥き出しにしていた。
アンパトスの代表者・ファニータ。
マグノ海賊団お頭・マグノ。
言葉は既に言い尽くし、自己の思いは全て相手にぶつけた。
目の前の敵の信念を打ち崩し、理念を打倒する。
決して繋がる事の無い主張はまるでこの塔内のように、反響して消えていくのみだった。
ファニータはマグノを受け入れず、マグノはファニータを認めない。
どちらが正しいか間違えているかは、その場に居る誰にも判断出来ない。
傍らに居る従者も、背後に控えるブザムも口を挟めない。
心の全てを吐き出してしまった以上、出来るのはただ相手を見つめるだけ。
時間はただ過ぎていった……
時の経過は両者の釣り合いに微妙な変化をもたらしていく。
滅びを望む者と、滅びを否定する者。
アンパトス海上都市は浸水後、破滅を迎える。
ファニータや国民達の一切が死に絶えるが、彼女達は何も気にしない。
恐怖も絶望も無いまま、喜びを持って死んでいく。
一方のマグノはそうはいかない。
時間が過ぎれば彼女達の滅びに巻き込まれ、惑星の外で戦う仲間達に残酷な結果をもたらしてしまう。
彼女はそれを決して容認できない。
で、ある限り――
「……お頭」
「――ああ、分かってるよ」
このままじっと、何時までも居るわけにはいかない。
しかし――どうすればいい?
彼女達は聞く耳を持たない。
どれほど頑なに訴えかけても、彼女達は耳をかそうともしない。
カイは捕らえられたままである限り、脱出も出来ない。
彼を見捨てる選択肢など存在しない。
このまま永久に睨み合っても、一方的に不利になっていくだけだ。
今頃懸命に戦っているであろうバート達も気になる。
一刻も早くこの状況を何とかしなければいけない。
しかし、言葉はもう言い尽くした。
彼女達を変えるのはもう無理だろう。
生まれ持った宿命を、悲劇的な結末を、彼女達自身が望んでいるのなら変える事など不可能だ。
メジェールで言うなら、男に対する絶対的拒否感を否定するに等しい。
国という枠組みの常識を変えるのは並大抵ではない。
こうしてファニータの前に居ると言うのに、その距離はかけ隔てなく遠い。
もうこれ以上は――
「……仕方ないね……」
「何が仕方ないんだよ、ばあさん」
「ム、ムーニャ!?」
「カイ!?」
――酷い有様だった。
疲労と痛みで顔色は悪く、泥だらけ。
黒のシャツから覗ける両腕に巻かれた包帯は汚れており、赤黒く染まっている。
怪我の酷い身体を鞭打って走ってきたのか、汗びっしょりだった。
ファニータにとっては神。
マグノにとっては仲間の一人である少年。
カイはふら付いた足取りで、濡れた床を踏み入れて塔内へと歩いてくる。
「カイ、お前は――」
「やばかったところを青髪に助けてもらった。
すまねえ、土壇場でドジっちまって」
簡潔な説明で、ブザムに今までの経緯を悟った。
話し合いに注意を向けている自分達に隠れ、メイアがカイを助けるべく動いたのだろう。
メイアの行動力と技能なら可能だ。
ファニータは驚愕の眼差しで、マグノは安堵した様子でカイを見る。
これで人質は取り返せた。
最早この地に留まる理由もない。
ファニータ達の利点は完全に消えたのだ。
「――傷は大丈夫か?」
「平気、平気。今までもっと手酷くやられた事だってあるし。
それに――」
ピチャッと派手に水音を立てて、カイはファニータへと歩み寄る。
そのまま途中マグノの隣で足を止め、苦笑いを浮かべた。
「――あんたの一喝、良い気付けになったぜ。なかなか耳に痛かった」
「おやおや、盗み聞きとは感心しないね」
「あんたの声がでかすぎるんだよ。あの世にまで届いたぜ」
それで充分だった。
詳細を聞かずとも、お互いに起きた出来事は理解し合える。
ボロボロになったカイに、浸水に濡れたマグノ。
自らを賭けて戦い抜いた者達の身体が教えてくれる。
「……ばあさん、あいつは俺に任せてくれ」
カイを前に厳しい顔付きでいるファニ−タから目を背けず、カイは言う。
マグノはカイを横目で見ながら、同じく表情を厳しくする。
「……お前さんがそこまでする義理はないと思うけどね」
カイが何をしようとしているのかは分からない。
ただ――半端で済ますつもりはないだろう。
いつだってそうなのだ。
最後の最後まで、納得出来ない事には頷かない。
放り出すような真似はしない。
傷付いた身体を引き摺ってでも、前へ進もうとする。
何かの為に、誰かの為に――
「仮にも、俺を神様扱いしてくれたんだ。
そこまで見込まれたんなら、応えるのが筋ってもんだろ」
「では――我々の宣託に従って頂けるのですね」
話を聞いていたのか、ファニータは歓喜に瞳を潤ませる。
今まで頑なに拒否されたムーニャ本人より、肯定の意を戴けたのだ。
長年の祈願が成就されるその時を待ち望んでいた彼女にとって、人生で最高の瞬間に相違ない。
カイは穏やかに微笑んで、
「ああ、あんた達の言うムーニャとやらになろう。
この星――そして、星に住む人々を俺が救ってやる。
勿論、あんただってその中の一人さ」
「ああ、ムーニャ――」
恍惚に身を振るわせるファニータ。
共の二人も予言の成就がいよいよとあって、期待に満ちた眼差しでカイを見つめている。
ヒトではなく、それ以上の存在に畏敬を抱いて――
一度は怯えてしまったファニータ達のその目。
カイは真っ直ぐに正面から受け止めて、見つめ返した。
「あんた達は俺の為なら命だって捧げてくれるんだよな?」
彼女達が捧げる贄は己が脊髄。
脊髄を奪われて生きられる人間など居ない。
それが分かっていてもファニータは、
「勿論で御座います。我々はその為に月日を重ねて参りました」
「そっか……殊勝な心がけだな。
たださ、確認しておきたい事があるんだ」
「何でしょう? 何なりと申してください」
「あんた達を疑う訳じゃないんだけどさ……本当にいいんだよな?
死ぬんだぞ」
「先程も申しましたが、我々は――」
「くどいようだけど、もう一度だけ確認するぞ」
ファニータの言葉を遮って、カイは一歩前に出る。
表情を引き締めて、ただじっと目の前を見据えて――
「本当に怖くないんだな?」
それは最終確認にして、警告。
彼女達の覚悟を確かめる為の、最初にして最後の問い。
今までの質問や問い掛けとは比重が違う。
カイの真剣な様子にファニータも心得てか、その場に跪いた。
「――貴方様の為に、この命がありました。
迷う者は誰一人おりません」
崇められた者からすれば、その敬虔さにて喜びを禁じえないだろう。
彼女は心から本気で、カイの為に命を捧げようとしている。
生まれ持った宿命を恨む事無く、ただ甘受する為に――
カイは静かに膝を折って祷りを捧げるファニータに歩み寄り、優しく肩を抱いた。
「あんたのその気持ち、嬉しく思う。ありがとう……
疑ってすまなかった」
「いいえ。この身も心も貴方の為にこそあります」
「そっか、じゃあ――」
肩に手を回し、そのままゆっくりと膝を掴む。
「俺と一緒に行こう、ファニータ」
「え……あっ!?」
彼女を両手で抱き、落ち着いた動作で抱える。
突然の挙動に一同が声もかけられないで居る中、カイはお姫様のようにファニータを抱えて塔の外へと出て行った。
其処には――
「こ、これは……?」
「あんた達の星を救った俺の機体さ」
塔の前に鎮座する一体の機体。
かつては黄金色に輝いていた表層は、見るも無残に灰色で染まっている。
装甲は完全に剥がされており、主武装の一切が取り除かれている。
SP蛮型と名付けられた人型の機体も――最早兵器としての役目を終えていた。
目の前にあるのは人の形をした、ただの乗り物だった。
だが、それでも――発進だけは出来る。
(……サンキューな)
急ピッチで使用だけは可能にしてくれた専属エンジニア。
機体を搬出し、塔の前へ準備してくれたレジの店長。
彼女達に連絡を取り、舞台設定を整えてくれたパートナー。
心の中で御礼を言って、コックピットをスライドさせ、彼女を抱えたまま機体に飛び乗った。
「ム、ムーニャ!? これはどういう――」
カイの行動の全てが全く分からない。
彼の行動を止める者が居ないのも、理解できないゆえの恐れでもあった。
塔内を歩いていた国民も、上陸したブザムやマグノも、ただ成り行きを唖然と見つめるしか出来ない。
おろおろとするファニータに、カイは口元を歪める。
「この機体――俺の相棒なんだけど、この前の戦いで派手に焼きついたんだ。
お陰で装甲はボロボロ」
「あの、ムーニャ……?」
訴えかける視線を向けるファニータをしっかりと胸元に抱き、カイはコックピットを閉じる。
そのまま発進準備を整えて、操縦桿をしっかりと握り締める。
「さて、ここで問題。
装甲も何も無い丸裸の機体が――――
大気圏に突入すればどうなるでしょう?」
「――――っ!?」
初めて――――顔色を変えた。
カイは心の中で暗い満足感を覚えて、にっと笑う。
「しょ、正気ですか!?」
「いやー、まさかあんたからそんな言葉を聞けるとは思わなかったな。
勿論――――大マジだよ!!」
白い軌跡を描いて――蛮型は大空に舞い上がった。
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