VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 9 -A beautiful female pirate-






Action28 −儀式−




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 アンパトスの長を務めるファニータ。

彼女が塔の中で待っていると聞き、マグノ達と合流したカイは早速向かう。

メイアが帰っていないのが気掛かりだったが、私情を交える訳にもいかない。

大局的に見れば職務半ばで放棄したメイアに非があるが、それでもカイにしこりは残っている。

これから会う相手も楽しいお喋りに興じるような人間でもなく、カイの気分はすぐれなかった。

マグノを先頭に気乗りしない様子で歩くカイだが、ふと隣を見て怪訝な顔をする。


「どうしたんだ、ブザム。何処見てんだ?」


 礼儀のなってない気安い呼び方だが、今更なのでブザムも何も言わない。

それどころか正面に立つ高き塔とはかけ離れた方角に、ブザムは視線を送っていた。

毎日を厳格なる姿勢で臨んでいるブザムが気をそらす事は珍しい。

興味が湧いたカイはひょいと顔を向けて、同じ方角を見る。





「・・・・・・旗?」

「国旗だ。
恐らく・・・・・・何かをモチーフにしているのだろう」





 珍しく曖昧な表現で、ブザムは言葉を濁した。

普通なら怪訝に思って尋ね返すが、カイもソレを見れば納得せざるを得ない。

塔の傍に真っ直ぐに立っている鉄柱―――

その鉄柱の天辺に、旗が強い風に押されて揺れていた。

アンパトスはその大部分が水で覆われているとはいえ、一つの国を形成している。

国旗があっても別に不思議でも何でもないが、二人に強い違和感を与えているのは肝心のマークだった。

大よそ平和や安泰の意味とは程遠い、S字型の奇妙な形。

オレンジ色を背景とする黒塗りされた蛇を連想させる、ケバケバしい印象を与える国旗だった。


「・・・・・・どういうのを手本にすれば、あんなのができるんだ?
誰がどう見ても気持ち悪いと思うんだが」

「同感だ。しかし―――彼らなりの主張があるのかもしれない」


 強い疑惑を表に出して、ブザムは思案にふける。

今までの判断材料を一つ一つ頭に思い浮かべて、カイもこの星についてを考える。





自分をムーニャと呼ぶファニータ。
不気味なほどの歓待をしてくれる従者達。
町の人達の活気の良さ。
国全体を包んでいる明るい雰囲気。





 町の喧騒に浮かれていた先程とは違って、今のカイはメイアの事で気分はすっかり盛り下がっている。

不幸中の幸いとでも言うべきか、そのお陰で客観的にアンパトスを観察出来た。


(俺がこの星を救った・・・・・・からじゃないな。この妙な歓迎は・・・・・・
もっと、こいつらにとって重要な意味があるんだ。ムーニャとかいうのには・・・・・・)


 もしかすると、もう既に深みにはまっているのかもしれない。

楽観視していると、後に引けなくなりそうだった。

心の中に漂っていた浮ついた気分は吹き飛び、心中が引き締まった。

ブザムもそれ以上何も言わず、マグノの後へとついていく。

カイも足を運びながら、慎重に事を構える踏ん切りを新たにする。


(青髪もそうだが、金髪も気になる。
あいつ等うまくやってるんだろうな・・・・・・
くそー、何か胸騒ぎがする)


 とはいえ、ディータ達は文字通り機上の人。

通信手段はあるが、今この場で行うのは得策ではない。

沸き上がる不安を抑えて、カイは塔の中へと向かっていった―――















 天高く昇り行く塔。

その中で、ファニータと二人の従者は待ち構えていた。


「此処こそが・・・・・・聖なる道へと続く神殿です」


 聖なる道―――それは巨大な螺旋階段であった。

最上まで続くであろうその階段は見上げんばかりに雄大で、下からでは頂上がまるで見えない。

一人や二人の為に建設されたのではないのだろう。

そして中央にある階段の真ん前には―――1枚の石碑が鎮座している。

神殿と称するに相応しい存在感を見せる石碑。

刻まれているのは、旗に記されていた不気味な模様だった。


「我らが神、ムーニャ。
そう・・・・・・貴方を迎える為に建てられた聖なる神殿なのです」


 熱い眼差しを向けられて、マグノの背後にいたカイは顔を引き攣らせる。

やはりおかしい。

ファニータもそうだが、傍に控える従者二人も自分に対して純朴な視線を送っている。

無上の信頼、疑いのない熱愛―――

今までタラークやマグノ海賊団、出会った人達に差別的な扱いを受けて育ってきた。

嫌われるのが当たり前の人生。

忌み嫌われ、冷遇されてこれまでを生きてきた。

そういう意味で、アンパトスの人たちが向けてくれる親愛の気持ちは嬉しいとは思う。

本来は、もっと喜んでいいはずだ。

なのに――――感じるのは居た堪れない拒否反応だった。

彼らが自分に向ける気持ちは、友情とかではない。

熱に浮かされているような、妄想じみた好意を感じる。


「あのさあ・・・・・・」


 例えば嫌われているのなら、別に喧嘩腰に攻めてもいい。

無礼な態度を取っても、特に何の罪悪感も感じない。

しかし―――こういう相手にはどう言えばいいのだろうか?

言い様のない困惑を感じつつ、カイは言葉を選ぶ。


「船の中でも聞いたんだが、そのムーニャってのは俺の事?」

「はい、そうです」


 一瞬の逡巡もない、完璧な返答。

カイはうっと一歩下がりつつ、必死で頭を働かせる。


「話に聞いた所によると―――ムーニャってのは、お前等の祖先をこのアンパトスへ導いた奴をそう呼んでいる。
この星の礎となっている救いの主―――
お前等の祖先の話だと、そいつは再びこの星にお前らを救いに来る。
――――で、お前らはソレが俺だとふんだ。
ここまでは間違えてないよな?」

「わたくしがお話した通りです、ムーニャ」


 何をどう言えばいいのか悩みながら、カイは思い切った疑問をぶつける。


「そうなるとさ―――
この星にお前らの祖先連れて来た奴と、この星を救う奴ってのは別人になる筈だろ?
人間そこまで長生き出来ないんだし」

「それは違います」


 穏やかな笑みを絶やさないファニータ。

丁寧な態度を崩さないまま、ゆっくりと前へ出てファニータは話す。


「わたくし達にとって、ムーニャは不変の存在。
幾千幾万の年月が流れようと、変わりません」


 それこそが貴方だと言わんばかりの、自信に満ちた声。

慈愛すら感じられる包容力のある言葉に、通常の人は手を伸ばしてしまいそうになる。

前もって警戒していなければ、カイも危なかった。

カイは全力で両手を前に出して、勢いよく振る。


「やっぱり俺じゃないって、それ!俺があんたらを助けたのは偶然だ。
もし仮に本当にそんなのがいるんだとしても―――多分、別口だ」


 困り果てるカイ。

嫌がってもいいのだが、彼女達の気持ちは異常なほどに強い。


「アタシからも、質問させてもらっていいかい?」

「・・・・・・どうぞ」


 黙りこむカイに代わって、マグノがのっそりと杖をつく。

鷹揚な態度で望む彼女の口から、厳かな声で質問が下った。


「この坊やを必要としているのは分かった。
で、お前さん達はこの坊やに・・・・・ムーニャとやらに何を望んでいるんだい?
御礼を言って、はい終わり―――ではないようだけど」


 マグノの指摘に、カイは気付く。

この熱烈な歓迎には、もっと大きな意味がある。

マグノの鋭い問いに、ファニータはそれでも態度を変えない。


「わたくし達は何も欲してはおりません。
我々の身体も心も―――その魂もムーニャだけのモノ。
ムーニャが望むままに、我々はただ差し出すのみです」

差し出す・・・・
・・・・・あなた達はそのムーニャに何を求められている」


 話が妙な方向へずれてきている。

不穏な気配を察したのか、ブザムはマグノを守るように背後に立つ。

ファニータはそっと胸に手を触れる。

当たり前のように収められた――――無表情な仮面を。


「ムーニャは、スパイラルコードを必要としています」

「す、ぱ・・・・・・すぱいらるこぉど?何だそれ」


 またもや出てきた聞き慣れない単語に、カイは頭を悩ませた。

今日一日で不思議な世界に足を踏み入れてしまったように、現実感のなさが脳内を駆け巡る。

ただ唯一―――ブザムだけがその意味に気付いた。

そして・・・・・・気付いたからこそ、顔を青ざめる。





「・・・・・・脊髄・・・・・・か?」















「・・・・・・は?」















 一瞬――――理解出来なかった。

空白の時間。

カイは歯の根が合わないように、ガチガチと鳴らす。


「せ、せ、脊髄って――――脊髄って言ったのか、今!?」


 ここまで動揺するのも、変だとは思う。

しかしながら―――常軌を逸脱している。

ブザムも流石に戦慄しているのか、唇を強くかみ締めている。


「あの石碑や国旗、聖なる道と呼ぶあの階段を見ろ。
――――似ていないか・・・・・・?」

「あ――――っ!?」


 S字型に螺旋。

医学知識がないカイでも、人間の背中についてくらいは想像がつく。

つまり、そうつまりは――――

彼女達はムーニャと呼ぶ存在に差し出すつもりなのだ。



自分の脊髄を・・・・・・



「ば――――馬鹿じゃねえのか!
何でんなもん、そいつは欲しがってるんだよ!
人の臓器なんか欲しがる奴いな――――!?」


 ・・・・・・本当か?


心の何処かで冷静な声が呟く。




本当に居ないのか・・・・・・・・





知っている―――

唯一つ、その狂気を欲している者を。


「まさか・・・・・・この星にお前らを導いた奴らって・・・・・・」





「・・・・・・ふふ、何を仰っているんですか」





 初めて――ー初めて声に出して笑うファニータ。

息が乱れているのを感じる。

馬鹿な―――こいつは敵じゃない。

今まで戦ってきた連中と比べれば、脆弱すぎる。

それこそ拳一発で倒せるだろう。

なのに、





 ファニータは言う。とても純真な顔で――――















貴方じゃないですか・・・・・・・・・、ムーニャは」


 ――――微笑み。

その表情はとても無邪気で・・・・・・優しかった。

優しくて、優しくて・・・・・・だからこそ、その顔はとても―――

俺は・・・・・・俺は・・・・・・



「―――!」


 心の奥から沸き上がる吐き気。

分かった、完全に分かった。



こいつらは俺を――――崇拝・・している。





愛しているから、欲する。

愛しているから、与える。

何の躊躇いもなく、何の迷いもなくー―――



カイは踵を返した。


やばい、やば過ぎる。

この星に来た時点で、後に引けなくなっていた。

とっくの昔に――――彼女達の狂気の檻に入れられている。

全身を駆けめくる危機感に、カイは我を忘れて駆け出して―――





 星を救ったのは自分。





 ―――気付いてしまう。





 偶然とはいえ、彼女達が求めるムーニャの条件を満たしてしまった事になる。

それは、仕方ないと諦める事が出来る。

――――それだけの事だ。

星を救って、敵を退ける。

言ってみれば、もう終わった事だ。

その為だけに・・・・・・彼女達はここまでの気持ちを見せるものだろうか?





塔に入る前に列挙した疑問点をもう一度挙げてみる。





待ち望んでいたと言うファニータ。
尋常な信頼を寄せてくる従者達。
海上都市全体を包む明るい雰囲気。
人々の喜びに満ちた喧騒。
異様な模様を象徴する国旗。
巨大な塔に、聖なる道と称する螺旋階段。
国旗と同じ模様を刻んだ石碑。





 恐ろしいほどに、準備を整えていた事になる。

1日や2日どころの騒ぎではない。

国中をあげて、アンパトスの全ての人々がムーニャと呼ぶ存在を待ち望んでいたのだ。















そんな存在を―――ただ帰す・・・・だろうか?


















瞬間―――

 















「お・・・・・・わあああああああああああああああああああああっっっ!!!!」








 





 







 床は消失・・し、押し寄せる果てしない落下感にカイは気を失った。






































































<to be continues>

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