VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 9 -A beautiful female pirate-






Action27 −不協和音−




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 浮かれていた気分が一瞬で吹き飛んだ。

晴々とした空が霞んで見え、その時初めて空が青い事に気付いた。

ソラと出逢った風景―――

思い出に重なる広々とした世界が広がっているのに、心には苦みが残る。

洗い流せもしない泥。

活気が溢れる人々の喧騒ですら、耳障りに思えて仕方がなかった。

ジンジンと痛む手の平。

人ごみの中にメイアは消えていき、二度とその姿を見せなかった。

探し回ったが見つかる様子はなく、時間も迫ってきたので戻る事にした。

仕事熱心な彼女の事だ。

自分を置き去りにして、さっさと職務に戻ったのかもしれない。

ほんの僅かな希望を抱いて、カイは足取り重く歩いていた。


(……何が悪かったんだ、一体……?)


 胸の中で渦巻くのは純粋な疑問だった。

例えば自分が何か悪口、もしくは手出ししたのならまだ分かる。

自分の責任なので、誠心誠意謝るしかない。

しかし今回は―――全く理由が分からない。

喧嘩には当然両者のどちらか、あるいは両方共に原因があって発生する。

その原因がはっきり言って、さっぱり分からなかった。

途中まではそれなりにうまくやれていた筈だ。

嫌がっている様子は特に無く、会話も普通に出来た。

自惚れかも知れないが、今後も仲良くやっていけるのではないかと思っていた。


なのに―――


(……様子が変わったのは歌、か……)


 あの歌を聴いてから、メイアは豹変した―――何故?

疑問は消えない。

相手が最初から自分を心の底から嫌っているのだとすれば、まだ納得出来る。

そうではなかった筈だ。

とするとあの歌しかないのだが、歌の何が悪かったのか理解出来ない。

別にメイアや女を批判する歌ではない。

タラークには軍歌やメジェールを貶める曲が幾つもある。

カイもお国柄その歌を耳にしてはいるが、好きではない。

相手を批判する歌なんて歌いたくもなければ、軍人でもない自分に軍歌なんて似合わない。

メイアに聞かせたあの歌は―――いのちの唄。

夢と現の狭間―――幻想の世界で耳にした安らぎの音色。

大気間内の熱電子地獄で、この曲にどれほど勇気付けられたか……


(俺が音痴だから?……んな事で怒ったりしないか。
むしろあいつ、この歌知ってたような素振りを……)


 心の中でハーモニーを奏でる。





―――I see trees of green, red roses too
I see them broom for me and you
And I think to myself, what a wonderful world―――





―――I see skies of blue, and clouds of white
The bright blessed day, the dark sacred night
And I think to myself, what a wonderful world―――





―――The Colors of the rainbows so pretty in the sky
Are also on the faces of people going by
I see friends shaking hands, saying how do you do
They're really saying, I love you―――





―――I hear babies cry, I watch them grow.
They'll learn much more than I'll ever grow―――





And I think to myself―――what a wonderful world





I think to myself―――

 
最後の一小節。















"what a wonderful world"









 





 







(……俺にこの曲を聞かせてくれたのは……)


 夢の中で出逢った白いワンピースを着た女。

この歌を口ずさむ時、あの人はいつも微笑んでいた。

思い出そうとする度に霞みがかって消えるが、優しかったのは覚えている。




 
『彼女は貴方を守り―――今度こそ逝きました』





 全てを託して―――ソラが言っていた。

最後の最後、安心して去っていったのだと。

カイは眼帯が巻かれている右目を押さえる。

奇跡なんて信じる柄ではないけど―――

カイは思う。





自分と引き換えに・・・・・・俺を救ってくれた。





 最後の最後まで何処の誰かは分からなかった。

あの女性が自分に何を託したのかは分からない。

でも少なくとも―――女を泣かせている今の自分では駄目だ。

あの人にそれこそ笑われてしまう。


「そうだな・・・・・・くよくよしてる場合じゃねえ」


 歌に何かの理由があるとするなら、この歌について調べればいい。

仮にメイアが知っているのだとすると、当然この歌はメジェールで歌われていた事になる。

人気のある曲だったのかも知れない。

そんな曲を自分が知っている事実は不明だが、それこそ夢の中の女性を疑わなければいけない。

命の恩人への無意味な詮索はやりたくない。

例え―――もう二度と会えないのだとしても。


「そうなると、誰かに聞くのは早いか。
幸い、メジェールに深いばばあが約一名いるな」


 マグノは第一世代。

それこそ、メジェール誕生時から国の行く末を見守ってきた人間だ。

思慮深く、好奇心豊かなあの老婆なら知っているかもしれない。

メイアの過去を探るようで虫が好かないが、今のこの訳の分からない状況よりはましだ。


「・・・・・・一旦合流するか。あいつも行ってるかもしれないし。
見物はまた後にしよう」


 気を引き締め直したカイは、悠々と街中を駆け上がっていった。

目指すは発着台。

その近くにある、アンパトスのシンボルへ―――









 





 惑星アンパトスの海上都市、その中央には巨大な塔が建造されている。

真ん中をそのまま刳り貫いた円柱型で、見上げんばかりの高さを有している。

ゴツゴツとした色で染め上げているのが不気味さを誘い、人民を見下ろしているような傲慢さを漂わせていた。

小型船が上陸したのは、その傍の発着台。

幸いにして目印が巨大である為、カイは迷う事無く戻ってくる事が出来た。

塔の傍まで走っていくと、人影が見える。

落ち着いた佇まいのブザムに、法衣姿で杖をついているマグノ。

居るのが二人・・だと知り、カイは露骨に肩を落とした。


(・・・・・・もしやとは思ってたけど、やっぱ戻ってないか。
何処行ったんだ、あの馬鹿・・・・・・)


 気になるが、今更引き返す訳にもいかない。

火傷の後遺症で痛む身体を引き摺って、カイは二人の下へと駆け寄った。

同じような違和感は互いに感じていたのだろう。

カイの顔を見るなり、ブザムは辺りを見渡しながら尋ねた。


「メイアはどうした?」


 出かけた際には共に行き、帰ってくれば一人しかいない。

もっともな質問である。

カイは困ったような顔をして、視線を逸らす。


「知らねえよ、あんなイジケ虫」


 そこまで言い募って、嘆息した。


「・・・・・・なんてシカトできたら、どんなにいいか。
女心ってのは本当に分からん」

「また喧嘩したのかい、あんた達?
こりない子達だね・・・・・・」


 そう言って、呆れた顔をするマグノ。

共同生活を始めて、早二ヶ月半。

男と女の間で、一番激しくやりやっていたのがカイとメイアの二人だった。


「喧嘩なんかしてねえよ!?
あいつが何か勝手に怒って、勝手にどっか飛び出していったんだよ」

「メイアが一人で?
余程の事情が無い限り、職務を放棄する真似はしない筈だが」


 仕事には厳しいブザムだが、人間的な評価もきちんと心得ていた。

仕事の出来は確かに重要だが、それに取り組む姿勢も大切にしている。

メイアは若くして幹部の一人となっているのは、彼女にドレッド操縦の才能があるからだけではない。

ブザムの詰問と遠回しな批判に、カイは顔をしかめる。


「何でもかんでも俺の責任にするな、こら。
俺はただあいつに歌を歌っただけだ」

「歌?」

「まあ聞け。こういう歌だ・・・・・・」


 すうっと深く息を吸って、カイは歌う。

自然を・・・・・・世界を・・・・・・宇宙を・・・・・・生命を愛する気持ち。

秘められた思いを音色に乗せて、カイは二人に聞かせた――――





「・・・・・・『この素晴らしき世界』」

「え・・・・・?」

「お前さんが今歌った曲の名前だよ。
驚いたね、坊やの口からその歌が聞けるとは思わなかったよ・・・・・・」


 心から感嘆しているのか、マグノはまじまじとカイを見つめている。

驚きと賞賛が見え隠れする表情に、カイは照れた顔を浮かべる。


「やっぱ、ばあさんは知ってたか。
この歌ってメジェールでは流行の曲だったりする?」

「さてね・・・・・・アタシはそういう流行ものに興味は無かったからね。
ただ、この曲は―――」


 マグノはどこか懐かしそうな顔をする。


「アンタの祖先―――地球の曲だよ」

「地球の・・・・・・?」

「地球からメジェールに伝わった歌さね。別に珍しくもないよ。
特別に贔屓されていた歌じゃない」

「そっか・・・・・・」


 地球で歌われていた曲。

少し期待は持てたが、どうやら的外れだったらしい。

ガッカリするカイだが、マグノは逆のようだ。


「お前さん、どうしてその歌を知ってるんだい?
まさか、タラークで歌われていたんじゃないんだろう」

(・・・・・・ちっ)


 鋭い指摘に、ひっそり舌打ちする。

夢の話をしてもいいが、絶対に話が横道にそれてしまう。

カイは必死で思考を働かせる。


「昔、ちょいと聞いた事があるんだ。何処でだか覚えてないけど。
この歌って青髪も知ってるんだよな?」


 曖昧に答えて、聞きたい事を尋ねる。

瞬間的な話題の転換にマグノは、


「さてね・・・・・・
ただ、お前さんは悪くないよ。お前さんはね」

「?どういう事だ―――お、おい?」


 不意に―――髪に触れられる感触。


「・・・・・・本当に優しい子だね、カイは」

「ばあ・・・・・・さん?」


 頭を撫でられているのだと・・・・・・ようやく分かった。


「・・・・・・無理強いはしないよ。
でも、出来れば―――あの娘の傍にいてやっておくれ」

「ばあさん・・・・・・」 


 少し躊躇う素振りを見せて――――

ガシっと、カイは頭に載せられた手を力強く掴んだ。


「頼まれるまでもねえよ。
あんな無愛想な女に付き合えるのは、俺ぐらいだろ。
これぐらいで退いたりはしねえよ」


 どうせ、元から嫌われている身。

今更一つや二つ諍いの種をまいたところで、これ以上の悪化は無い。

何が原因で、どうしてこうなったのかは今でも分からない。

対策は今も考えもつかないが、このままには絶対にしない。

微笑みを交わす二人に遠目から見守っていたブザムは、苦笑いを浮かべながら言った。


「そろそろ時間です、お頭」


 





 








『――――0。オペレーション・スタート』





 遠い空の彼方より、星が真紅・・に輝いた。






































































<to be continues>

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