VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 9 -A beautiful female pirate-






Action13 −主従−




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 無事にやり遂げた、その充実感が浸透する。

身を焦がし―――心を焼いて、目の前の障害に挑んだ。

機体が無事に動いたのは僥倖だったと言える。

苦しんでいたのは搭乗した自分だけではない。

理不尽な命令を忠実に実行し、大気の摩擦に自分の機体は全身隅々に至るまで焼かれた。

耐熱処理はされていても、大気摩擦による発火は度が過ぎている。

ブースターが暴発を起こしても不思議ではなかった。

素直に嬉しく思った。

何から何までいちかばちかの賭けであり、無謀なる連続酷使。

耐え抜いてくれた自分の相棒に労わりと感謝の気持ちを乗せて、機体を停止させた。

限界なんてとうの昔に超えている。

敵は無事倒せたかどうかを確認したいが、網膜まで赤黒く染まっている。

口からざらついた血漿を零し、目をゆっくりと閉じる。

操縦桿が溶けた皮膚に張り付いて取れないのが、不思議と笑いを誘う。

ここで眠れば、炭化しかけている自分は死ぬかもしれない。


(・・・あー、疲れた)


 本当に、馬鹿馬鹿しい。

我ながら無茶苦茶、あんまりにも張り切り過ぎてしまった。

星は大丈夫だろうか?

連中は首尾よく敵を倒しただろうか?


(・・・皆・・・)


 敵を倒せたかどうかは不明だが、後は皆が上手くやってくれるだろう。

出来ればその後自分を回収して、ドゥエロの所へ運んでくれるのを願いたい。

それは信頼の証。

後始末を、背中を預けられる者達がいるからこそ、最後まで戦い抜ける。

命だって賭けられる。

心強く、支えられている実感が力を与えてくれる。

世話ばかり焼かせる連中だよな、たくよ・・・・

最後まで悪態を吐きつつも、眠りに浸したその表情は苦く微笑んでいた。










 




 









少年は大人になった。










 




 









 研究は無事認められ、助手も出来た。

研究費用は大幅に増えて、研究テーマは多岐に渡る。

時空螺旋転移論は改善に改善を加えられて、実験段階へと移される。

この世に正義は無いと知った。

子供心に憧れていた英雄への願望は消えたが、憧憬は今も胸に宿っている。

実験の成功は正義の証明。

今押し進めている理論が現実化すれば、人間は更なる進化を迎えられるだろう。

可能性を信じ、諦める事を知らない。

妻も娶らず、ただ理論の完成を急いだ。

与えられた機会を逃さず、自分の命がある内に完成させたかった。

それが父を助ける道だと信じていたから。

愚直に―――今でもあいつを信じて愚かにも救おうとしているたった一人の親を助けたかったから。

あいつは間違えていると、救えないのだと証明したかった。

ゆえに、少年は気付かなかった。

そんな自分もまた―――手の平の上に過ぎない事に。





少年が全てを知った時には・・・・





・・・・父は死んでいた。



 
 

 幼い頃正義感の強い父から受け継いだ意思。

ヒーローになるべくして、その手に掲げた十手。

夢の全てが―――鎖された。





 少年が―――30歳・・・を迎えた頃である。




 





















 




 









 無茶と無理は違う。

無理だと思えば心身は重くなる。

無理だと思わないからこそ、無茶は無茶として意義が成り立つ。

とはいえ、戦い過ぎた。

身体は最早悲鳴を上げるのもやめて、激痛も感じなくなった。

目覚めの欲求は消えていき、意思はただ眠りを求めている。

このまま何もかも投げ出して、今はただ眠りたかった。

昏々と身を委ねて―――


















 音色を耳にする。


















 透明で―――優しい歌声。

涼やかに響く音楽はとても心地良く、誘われるように耳を澄ます。

知らず、口に出して唄っていた。


「I see trees of green, red roses too」


 記憶にない歌詞。

意味も分からない言葉だが、空虚な記憶にしっかりと刻まれていく。

もう決して―――忘れる事はないだろう。


「I see them broom for me and you」


 誰が歌っているかは分からない。

脳裏に描かれた人影は露のように、儚く零れていく。

でも―――消えそうだった意識は引き戻されていった。


「I see skies of blue, and clouds of white」


 人への賛歌、世界への祈り。

生命への願いをこめられて・・・・この歌は唄われる。


「The bright blessed day, the dark sacred night」


 甘美な眠りの欲求は意識は急速に冷えて、再び意識の手綱を握る。


「And I think to myself―――」


 吐いていた弱音を遮断する。

簡単に眠る事なぞ許されない。

頑張って頑張って頑張り抜いて―――きっと辿り着くのだから。

だから最後にたった一言。



 

















"what a wonderful world"ありがとう



 

















 悠久なる草原の大地。

果てしない地平線の先より紺碧の空が広がり、純白の雲が穏やかに流れている。

自然の潤いに包まれた心地良い風を浴びて、カイは目を覚ました。


「・・・・・ここは・・・・?」


 身体を起こす。

周りを見渡すと、草原が広がっていた。

自分が何処に居るのかを認識出来ず、カイは目をぱちくりする。


「何か歌が聞こえて・・・うとうとしてたのに、眠れなくて―――
気が付いたらここにいた、と」


 身体を見るが、異常はない。

ボロボロになった筈のジャケットを着こなし、黒のTシャツが覗いている。

漆黒のジーンズは汚れもなく、履き心地は抜群だった。

怪我もなければ、火傷の一つもない。


「・・・確か、俺・・・・刈り取りと戦って、星がやばそうだってんで突っ込んだ。
ホフヌングを使って――――
何度目かのよく分からん夢を見て、歌が聞こえて・・・・って、夢!?」


 なるほど、納得出来る。

認識が妙にはっきりしているのは変だが、夢そのものがそもそも現実味がない。

考えてみれば当然だった。

こんな風景は見た事―――なかっただろうか?


「・・・見た事あるような無いような・・・・
何か前に―――女の人に会ったような気がするんだが。
き、気のせいだよな。大体普通―――」


 空はあんなに―――蒼くない・・・・から。





「・・・・ここは、あなたの原風景・・・・」





「うおっ!?」


 突然間近に聞こえた声に、激しい勢いでカイは立ち上がる。

慌てて隣を向けば、そこには―――


「・・・命を繋いだようですね。ぎりぎりでしたが」


 透き通るような銀色の髪―――

高い位置でツインテールにし、豊かな髪をまとめている。

強い光を宿した深い青の双眸。

ぞっとするほど幻想的な美しさがそこにある―――

そんな少女が――――草原にちょこんと腰掛けているのが変に可愛らしかった。


「えーと・・・・・」


 訳も分からず、困惑するカイ。

勿論だが―――初対面である。

しかも、言っている意味がさっぱり分からない。

どう言えばいいのか悩んでいると、少女は不意にこちらを向く。

少女の薄紅色に彩られたフローラの唇より、楽器の音色のような美しい声が奏でられた。

ほんの少しの―――哀しみを込めて。


「彼女は貴方を守り―――今度こそ逝きました。
全てを託して、安心したのでしょう」

「かの・・・じょ?」


 カイは眉を潜めると、


「・・・覚えはおありでしょう?」

「・・・・・・」


 心当たりは無い。ないが―――


「・・・そっか・・・・・」


 少し、ほんの少し―――涙が零れた。

少女の言う人物なんて知らない。

ただ―――もう会えないのだと思うと、悲しみが湧き上がってくる。

自身の気付かぬ思いに困惑しながらも、カイはただ泣いた。









『彼女は貴方に守り―――今度こそ逝きました』









 顔も思い出せない人。

それでも・・・忘れない。決して―――

託された気持ちはしっかりと受け止めて、背負っていく。

カイは気持ちを新たにして、少女の隣に座った。


「・・・ありがとな」 

「?意味が分かりません」

「なんとなく」


 そのままぽふぽふと、少女の頭を撫でる。

ぼんやりとカイの撫でる手を見つめ、少女はその瞳を向ける。


「・・・まもなく、あなたは目覚めます」

「目覚め?ってことはやっぱりここは・・・」

「あなたがユメと呼ぶ世界。
――生と死の交差点、あなたが織り成す世界。
そして―――」


 長いロングスカートをふんわり揺らし、少女は立ち上がる。

そのまま、少女は瞑目する。


「――わたしとあのコはここで生まれました」

「あの・・・コ?生まれた?
えーと、もしもし。全然分からんのだけど」


 少女の存在とこの世界。

突然話される数々の事実に、カイは眩暈すら感じられた。

少女は目を瞑ったまま、口を開く。


「・・・あなたには選択肢があります」

「・・・俺の疑問は無視かよ、こら」


 睥睨するが、少女は取り合わない。



「一つ、修羅の道。
虚偽と断絶、果てしない憎悪と悪意に襲われる苦痛の毎日」



 カイは息を飲む。

冗談ではない凄みが、目の前の幼い少女から漂ってくる。



「一つ、至福の道。
真実と肯定、永遠なる安らぎと安心に満たされた毎日」



 そして、少女はこちらを向いた。





「どちらを選びますか?カイ・ピュアウインド」





「・・・・・」


 何故自分の名前を知っているのか?

そもそも、この質問に何の意味があるのだろうか。

カイは聞き返そうとして―――思い止まる。

蒼い瞳に映されたその瞳には・・・・とても厳しい。

真剣に、答えないといけない。

カイは顔を上げる。

そんなものは―――考えるまでも無かった。


「俺の道を行く」

「え・・・・?」


 大きな瞳をぱちくりとさせる少女に―――カイはくすぐったい感情を覚える。

やれやれと首を振る。


「当然だろう、誰かに選ばれて歩いてたまるか。
俺は俺で勝手にやっていくっての」


 見上げると、大空が見える。

タラークでは灰色だったが――――なるほど、蒼い空ってのも悪くない。

あるいは・・・これが本物かもしれない。


「あの女共や刈り取りの連中にだって、俺は左右されねえ。
邪魔する奴は誰であろうとぶっ潰す!
んで―――」


 清々しい気持ちで、カイは力強く拳を振り上げる。


「守ると決めた奴は守るさ」


 いつだって自由にやってきた。

旅を通じて色々な価値観を知り、多くの考えに巡り合った。

何が正しくて、何が間違えているかは今でも分からない。

海賊への答えも出していない。

だからこそ、立ち止まってなどいられない。


「やる事多いんだよ、俺は。
幸せにするって約束しちまったし、助けるって言っちまった奴もいる。
刈り取りの連中もぶっ飛ばさないといけないし、むかつく現実を跳ね除けないといけねえ。
そうそう、これから惑星にだって降りるんだった!?」


 カイは無邪気に笑った。


「いい加減あの人様を馬鹿にしまくる女共に、男のカッコ良さってのを教えてやらねえとな。
セキュリティ0なんかして御免なさいって、土下座させてくれるわ!がはははははは!!」


 そう言えば―――最近笑ってもなかった気がする。

最近、悩んだりする事も多かった。

それだけ色々あったという事だろうが―――重々しい使命感や夢への拘りが消えていく気がする。

心を空っぽに―――

そう考える事自体、空っぽでもなんでもない。

自然体でいい・・・・・自分のやりたいようにやろう。

カイは心から笑い声を上げられた。


「宇宙一の英雄になりたいし、ソラの向こうにも行く。
例えその先にあるのが修羅でも何でも、かまってられねえんだ」


 力強く語り、言葉を締めくくる。

答えになっていないといえばそれまでだが、知った事ではない。

解答は常に、自分の内に存在する。

見えなくなる事もあるが―――消える事は決してない。

少女は・・・・・そっと目を閉じて表情を和らげる。


「それが・・・あなたの生き方なのですね」

「まあな。変えられる程、器用じゃない」


 肩の力を抜き、少女は柔らかな顔を浮かべる。


「・・・そんなあなただから、わたしは生まれました」


 少女はそっと手をかざす。

掌の上に突如光が灯り、仄かな輝きが生まれる。










「・・・蒼きKachinaカチナ・・・白きAsdiwalアスディワル・・・・朱きAsgayaアスガヤ・・・」










 少女はそっと呟く。


「・・・彼女達はあなたの剣であり、翼であり、盾。
では、わたしは・・・あなたにとって何でしょう・・・」

「え・・・?」


 カイはそのまま顔を下ろすと、少女は顔を俯かせていた。


「・・・名前もない。心もない。ただ生まれただけ・・・・」


 声はやがて―――


「・・・元来、わたしたちは任意に結合と分離を繰り返す存在。
この次元の宇宙へ辿り着き―――わたしとあのコは分離した。
宇宙を―――探査する為に」


  ―――冷たく濁っていく。


「・・・人は力を求め、争い、淘汰する。
わたしはここで人の醜さを知り―――」


 カイはとりあえず腰を下ろす。


「あのコは―――今も人に隔離されている。
力を利用する、ただそれだけの為に」


 この少女が何者なのか知らない。


「・・・貴方がいなければ、あのコは怪物となっていた。
あなたに触れて、わたしと反応をして・・・・あのコは負の意識に触れずにすんだ」


 何処の誰なのか――――心当たりもない。


「・・・でも、わたしは・・・あのコと戦わなければいけない。
わたしは・・・許せない。人を許せない・・・・」


 でも―――


「・・・わたしには、わかりません。
何故あなたはあそこまで・・・・
みんな、あなたをあんなに―――あっ」


 カイはそのまま少女を抱き締めた。





「とりあえずよく分からんが―――泣くな」

「あ・・・・」





 そのとき―――少女は自分が泣いている事を知った。


「そいつが大切なんだろう?なら、大事にしてやれよ。
戦う事なんてねえ」

「でも・・・あのコは貴方の敵で、地きゅ―――」

「もう何も言うな」


 少女の口を、大きな掌が包む。

何かを口にしそう・・・・・・・になっていたが、遮られて少女も口を閉ざす。

感触は―――とても温かい。

少女の重みと温もりを感じて、カイはしっかりと抱き上げる。


「お前、俺と来いよ」

「・・・カイ・・・」

「お前が誰か知らんが、一人ぼっちなんだろ?
一緒に仲良くやろうぜ」


「・・あ・・・あ・・・・・」 


 何かを言葉にしたいが、震えて声が出ない。


「光栄に思うように。お前は今日から、俺のパートナー・・・はいるな。
相棒・・・もいる。
おし!助手に任命する」


 歯の根が合わず、熱いものが目に浮かんでくる。


「へへ、ラバットの奴羨ましがるぞ。
ウータンはいい奴だけど、人間じゃないからな。
そのてん、俺にはこーんな可愛いお前が助手になるんだからよ」


 次から次へと伝う涙に―――嬉しさだけが宿る。

懸命に何度も少女は頷く。


「よしよし。えーと・・・そういや、お前名前は?」

「・・・わたしには・・・ありません・・・・」

「ない?」

「はい。『わたし』にはありません。
ただ、認識名はあります。ペークシ―――」

「待った。俺が直々に名前を付けてやろう」


 問答無用で、少女の口を塞ぐカイ。

大切な事・・・・を言いそうになっていたが、カイは閉ざしてしまう。

ここが夢だということも、少女が何者なのかも聞かない。

夢の産物でしかない―――そんな疑問も全く考えない。

そのまま必死で考え抜いて、ふと――――上を見る。










「・・・・ソラ。
お前の事を、今日からソラと呼ぶ」

「・・・・わたしの、なまえ・・・・」 

「ああ、そうだ」








 少女は心の中で何度も反芻し―――








「―――イエス、マスター。わたしは―――ソラです」








 ―――夢の風景を背に、少女は涙まじりの微笑みを見せた。















 
















































<to be continues>

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