VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 9 -A beautiful female pirate-
Action12 −醜悪−
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<to be continues>
ジュラ=ベーシル=エルデン。
ドレッドチームサブリーダーであり、マグノ海賊団随一のプロポーションを誇る女性。
妖艶な美貌と絹のような金髪が彼女の誇りであり、美にはプライドすら持っていた。
タラークの男は心底毛嫌いしている彼女だが、真に敬遠させる理由に男特有の暑苦しさがある。
醜い存在に生きる価値もないとすら考えていた。
生まれつき恵まれた容姿が強烈なプライドを生み出して、他人を卑下してしまう。
欲しいものは絶対に手に入れて、その為ならいかなる裏技もいとわない。
天才以下・凡人以上の才能レベル、非凡な美しさを手にしている女性。
マグノ海賊団内には彼女以上の地位と実力を持つ人間はいるが、ジュラ本人に羨望や尊敬を与えた女性はいない。
これまで、ジュラはあらゆる意味で今まで負けた事はなかった。
一時は苦渋は味わった・・・・が、それでも彼女自身に敗北は刻まれていない。
そして―――
―――彼女は見た。
・・・声も出なかった。
呼吸も止まっており、瞳はただ一点に注がれている。
モニターに映し出される人型兵器。
機体は立ちはだかる敵を蹴散らして、霧散させた。
壊滅寸前だった敵は燐粉を浴びたかのように、青白く光を放ち散っていく。
仄かな雪化粧―――
舞台となった大気は膨大なエネルギーに波紋が広がり、星そのものを震わせている。
星を覆う大気の粒子は一粒一粒光を帯びて、サファイアのように星が輝いていた。
戦場だった大気は膨大なエネルギーに波紋が広がり、星そのものを震わせている。
「・・・・・・」
宇宙へ駆け上がる機体―――
純白に輝く大気から飛び立ち、その姿を見せる。
敵を殲滅した機体は激しい戦闘の名残を鼓舞するかのように、全身を真っ赤に染めていた。
ジュラは息を飲んで見つめる。
真っ直ぐに飛翔し、宇宙へと身を躍らせた機体。
背に広がる黄金色の翼―――
錯覚なのは頭の片隅で分かっている。
純金より眩く、宝石よりはるかに美しい翼はそう見えているだけだ。
ブースターの噴射と大気の成分、背中に装着されたホフヌングの残影―――
付加的な要素が形成し、視覚に反映させているだけだろう。
実際、機体はぼろぼろだった。
真空の空間でなければ、濃厚な噴煙をあげていてもおかしくはない。
全身は焼き爛れ、破損個所からは無骨な部品が顔を覗かせている。
最早力も失ったのか、四肢は力なく垂れ下がっていた。
例え勝利を収めても、汚らして無様だった。
優雅には程遠く、大よそ勝利がもたらす気品さは欠片もない。
「・・・・な―――」
あれは男だ。
暑苦しい、上品さなど持ち合わせてもいない低劣な存在。
悪い奴ではないと分かっていても、男である以上は醜い。
「―――何で」
美しいと思ったのか――――?
惑星を守り、命懸けで救った戦士の命の輝き。
死力を尽くし、底の知れない意志の強さを見せた男に、勝利の女神が微笑んだ。
いやむしろ―――微笑みを向けさせた。
仲間を助け、他人を救い―――自らも生き残る。
宇宙へ力強く羽ばたくその姿に―――
見惚れた・・・・・の?
「・・じゃ・・・じゃあ・・・・」
これは・・・・?
録画映像を見る。
頼み込んでブリッジより転送させた、戦いの一部始終を撮影した記録。
カイ機とジュラ機が生み出したヴァンドレッド・ジュラ。
一風変わった能力を見せた機体、その外見を―――知ってしまった。
醜かった。
信頼して疑わなかった美麗さは全て幻だった。
合体して得られる美しさなんて在りはしなかった。
虫がいい想像だった。
真実の姿を知り、ジュラは愕然となる。
何がいけなかったのか?
ヴァンドレッド・ディータは人型の巨人で、力強いデザインだ。
ヴァンドレッド・メイアは白亜の鳥で、優美さとしなやかさを兼ね備えている。
何故自分が合体すれば、こんなに醜くなってしまうのか?
その原因はカイだと考えるのに時間がかからなかった。
合体する際の搭乗者に要因があるのなら、絶対にカイに決まっている。
美しさの要素が必要だと言うのなら、男のカイに原因がある。
そう思っていた・・・・・その期待を――――
カイは裏切った。
例え一瞬でも―――キレイだと。
目を奪われて、惹かれた心は元には戻らない。
戦士の輝きに照らされた胸の奥は・・・・濁っていた。
「あ・・・あ・・・・」
見えてしまった―――
己が浅ましさ。
他人を見下ろし続け、侮り続けた毎日。
自分の美を信じて疑わなかったその我が身が―――
こんなにも、醜い。
合体がここまで醜悪になったのは・・・・自分のせい。
自分の心が、映し出されたからだ。
「ち・・・ちがう、違う!
・・・そんなの・・・そんなの・・・・」
力なく呟いて、曇った瞳と歪んだ笑みを浮かべて首を振る。
違う、そんな筈はない。
カイより劣っている筈がない。
あれは男ではないか。
男が女より美しいなんて―――
何故、ありえないと言える?
脳裏に浮かんだのは、肯定する意思とは裏腹の拒絶。
己が心で感じ取ってしまった・・・強い疑問。
自分でさっき思っていたじゃないか。
カイは―――
「やめて・・・・やめて!!」
ジュラ=ベーシル=エルデンより・・・・綺麗だと。
醜いのは自分だと―――
「やめてぇぇぇぇぇっ!!!!」
コックピットの中で、ジュラは泣き崩れた。
お疲れ様と言うつもりだった。
戦いが終わればいつ声をかけて、今日の成果を話し合う。
それが日課でもあり、楽しかった。
その大切な一時を・・・・・心から大切な人が―――
(・・・・・)
彼女は腰のホルスターに手をやる。
握り締められた重厚な感触――――
重々しく激鉄を鳴らし、彼女はニル・ヴァーナへと機体を走らせた。
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