VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 8 -Who are you-
Action59 −ダレ−
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<to be continues>
人類が万物の霊長としての地位を獲得した時、人は争いを止めた。
やがて平和は慢性し、人類の敵は人類となった。
過ぎた技術は大地を滅ぼし、自然が人類の敵となる。
恐るべき脅威に人類は手をあぐね、未開の大地を求めて宇宙へ駆り出し、新しい未来を築き上げた―――
英雄―――
科学が発達し、人が人として望む平穏を手に入れて、その存在は消え失せてしまった。
「俺が・・・空っぽ・・・・」
声は儚い幻のように空気に溶けて消えていく。
冷たい汗は頬を伝い、手も足も力を失って垂れ下がる。
ラバットが口を開く―――
「万人に通じる真実は無い。
そしてお前には―――何も無い。
モノは考える、身体は動く。
ただそれだけの――――価値の無い人形だ」
ニンギョウ――――
ありえない、そんな筈は無い。
何を言うんだ、この男は―――
心は頑なに拒否しているのに、反抗する意思すら見せようとしない。
カイはその場から一歩も動かず、ただラバットを睨んでいる。
「人間ってのは、心の奥に自分を飼ってる。
てめえと言う存在がこの世に生まれた時に刻まれる」
ラバットは中空を見上げる。
「そいつは恥かしがり屋なんだ。
子供の理屈、大人の常識、物事の理、概念の善悪―――
あらゆるモンに隠れて見えなくなっちまう。
でも―――」
小さく、それでいてはっきりとラバットは言い切った。
「―――そいつは自分の味方なんだ。
ダチ以上に、恋人以上に自分を分かってくれる。
そいつの前じゃ、丸裸になっちまうのさ」
我―――
人が人として呼ばれる、己がのみ与えられる称号。
魂とも呼べる、生命の全てに脈づく命。
自分の―――己。
「お前の中には、肝心のそいつがいない。
善悪の判断すら出来ない赤ん坊―――
ぼろっちい、クズ鉄以下のガラクタさ」、
嘲るのでもなく罵詈雑言でもない、冷徹な宣告。
カイと言う名の存在の全てが、今――――否定された。
幼い頃の記憶は無い。
親が誰で、どんな場所で生まれ育ったのかまるで知らない。
友人と呼べる友人はおらず、ただ傷だらけの身体で身を横たえていた。
濃厚なタール臭と悪臭に満ちたゴミに穢れた、薄暗い道端―――
泥にまみれた身を汚染せしめる血。
血液が乾いて付着し、鈍痛が繰り返し襲い掛かってくる。
前身が赤黒く染まり、頭の中は真っ白。
ぼんやりとする意識の中、俺はただ倒れていた―――
もしも―――あの時。
アレイクが自分を拾ってくれなかったら、ずっと臥したままだっただろうか?
誰にも気付かれず、誰の記憶にも残らず―――ただ朽ちていくだけ。
文字通り、コワれたニンギョウで――――
(・・・・ガラクタ・・・・でも、でも!
それでも俺は―――)
夢がある―――誰にも負けない大きな夢が。
―――本当に?
本当にそれは、俺の―――俺だけの夢なのか?
自分が心から発した、本当の願いだったのか?
そもそも―――
何故英雄になりたいと思った?
「言葉も理想も現実も―――」
心をなぞるように、ラバットの言葉はカイに浸透する。
ラバットの言っている事は単なる憶測。
今、この事態に何の関係もない戯言だ。
そう思う。
思っているのに・・・・・・・
何故、否定しない?
何故、俺は―――――選ぼうとしない。
海賊が正しいと思った事は一度だって無い。
自分のこれまでに疑問を挟んだ事も無い。
俺が選ぶのは―――――
――――――。
(・・・なんで・・・・・・)
―――――――――――――――――――。
(・・・なんで・・・・・・・・・)
――――――――――――――――――――――――――――。
(・・・何も・・・・・・何も出て・・・・こねえんだ・・・・・・)
ポタ、ポタ―――
カイは溢れる涙を抑えられず、透明な雫が床に零れ落ちていた。
分かって、いた―――
本当は、分かっていた―――――
俺には、何も無い。
あいつらが正しいのか、自分は正しいのか――――それだって分かっていない。
分かっていた・・・・・
俺はただ――――
自分が正しいと、思いたかっただけ――――
正しいから――――英雄でいられる。
英雄になれる。
そんな―――――思い込みにすがっていただけ。
自分の生き方なんてないのだと――――
夢なんて無いのだと。
「・・・・取引は不成立だな」
泣いて俯いているカイを見て、ラバットは静かに言い放った。
カイは何も語らない―――
ただ、涙をこぼしているだけだった。
ラバットは一瞥して嘆息し―――
「・・・・じゃあな、お嬢ちゃん。
恨むなら、この救い様のない馬鹿を恨みな」
ガチャッ
「――――っ!?」
その音が何か勘付いた瞬間―――
冷たい銃口がディータに向けられ――――無慈悲に発射された。
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