VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 8 -Who are you-
Action58 −アナタ−
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<to be continues>
見捨てるか―――?救うか―――?
二者択一。
簡単だ、ただどちらかを選べばいい。
ディータを見捨てて自分を取るか、ディータを取って自分を捨てるか―――
そのどちらかだ。
「俺は・・・・」
早く答えを―――
こたえを―――
コタエ―――
(・・・・ぐ・・・・・)
出ない―――言葉が出ない。
単純な質問だ、すっぱり決めればいい。
自分自身、今までの生き方に疑問を挟まなかった。
即時即決で物事を決めて、ただ自分のやりたいようにやって来た。
その選択に一片の後悔も感じていない。
自分がただ、やりたいと願う事を純然たる意思で決定してきたんだ。
なのに―――何故決められない?
「・・・どうした?何故黙る」
「・・・俺は・・・・・」
空調が完備されている格納庫内なのに、身体が気持ち悪いほど熱い。
強張った身体は震えて、照明が眩いのに目の前が暗い。
胸が窮屈に締め付けられて、カイは知らず大きく喘いだ。
―――・・・・いいじゃないか、別に―――
ディータ=リーベライ、女。
タラークの敵対国の国民だとか、女は敵だとかいう認識はもうどうでもいい。
生まれ故郷に愛着はあるが、その方針に従うつもりは無い。
故郷で感じていた疑念は、この船ではっきりとした否定になった。
男だとか,女だとかは些細な事。
ただ、自分が好きになれるか、なれないかなのだと―――
・・・・悔しいが、認めよう。
ディータは良い奴だ。
自分を慕ってくれるのは嬉しいし、最初から味方で居てくれたのに正直救われた面もある。
傍にいて鬱陶しいと思ってもいるが、同時に居ないと変に物足りなくなる。
弁当は美味かったし、時折感じる女の面に気持ちが浮ついた事もあった。
男とは違う女の身体に、訳が分からない身体の熱さや喜びを覚えた。
今もこうして協力してくれたり、拉致されても大人しいのは自分を信じているからだろう。
それは分かっている。
でも―――
―――それでも、あいつは海賊なんだ・・・・・
―――それを・・・・許せるのか?―――
その場にいる全員が心ならずも見続けていた。
中央メインモニター、コンソール通信画面、音声通信ライン―――
カイの声が、カイの姿が、カイの苦渋が手に取るように伝わってくる。
ここ、メインブリッジで―――
「・・・・よろしいのですか?」
艦長席の傍らで、ブザムは厳しい眼差しで画面を見つめている。
モニターに映し出している背景に、蛮型が並んでいるのが見える。
カイとラバットがどこで対決しているのかは、一目見て分かった。
そのまま保安クルーを差し向ける事は充分可能だ。
それをしなかったのはマグノの命令――――だけではない。
初出撃時、カイの海賊への反発を間近で耳にした。
あれから二ヶ月余りが過ぎたが、カイ自身答えそのものは出していた。
海賊にはならない――――
マグノ海賊団の証たるカードを返上し、カイは自らの道を選んだ。
でもそれでも――――割り切れないモノはあるのだろう。
人間なのだから―――
映像の中央で苦悩するカイの気持ちは痛いほど分かる。
副長としてであるならば、この対決は早急に食い止めるべきである。
人質はクル―の一員であり、大切な自分の部下だ。
ましてディータはヴァンドレッドを形成するパイロットの一人。
失うには痛く、こんな誘拐騒動を引き起こしたラバットもまた許してはおけない。
しかし、一人の人間としてでなら―――
ブザムは自分で自分を叱責する。
つまらない感傷だと―――不必要な気持ちだと。
久しく忘れていた制御出来ない何かが、ブザムに停戦命令を出させずにいた。
マグノに答えを求めるのは卑怯だとは思う。
この時ほど自分にまだ残っていた甘さを恨んだ事は無い。
マグノはブザムをそっと見つめ、小さく呟いた。
「・・・・好きにさせておやり」
カイは戦っている―――
必死で、精一杯足掻いている。
それは何の為か?
そして誰の為か―――――
「・・・・・・・・悪いね、BC」
「いえ・・・・お頭の思うままに。
私はクルー達の対応にあたります」
この放送はまぎれもなく、クルー達に大きな波紋をもたらす。
良くも、悪くも―――
お頭への全面的な補佐とクルー達の安全を確保するのが、副長としての仕事だ。
男そのものに―――カイに不満を持つクルー達はまだまだ多い。
混乱が起きる前に、各持ち場のチーフへの説明とクルー達全員の対処に早急に取り掛かる必要があった。
ブザムは自席につき、対処に取り掛かるがてらモニターを見る。
(・・・・お前には借りがある。
お前にかかる火の粉は私が引き受けよう。
だから――――お前はお前の戦いをしろ)
マグノもブザムも、ただ結末を見つめる。
それは―――
マグノ海賊団首脳とも言える二人でも、己が心までは見えてはいなかった。
ディータ―――彼女は生きていく為に他人から略奪した。
直接ディータが手を下していなくても、仲間である限り間接的には実行したも同然だ。
それを許してもいいのか―――?
奪われた人間が笑って済ませる筈が無い。
悔しかっただろう、苦しんだだろう、悲しんだだろう。
奪った量だって些細な規模ではない。
マグノ海賊団の組織力や武力を考えても、相当の数をこなした筈だ。
あの時、万事を迎えて出航したイカヅチはタラーク軍部の決戦兵器だった。
それこそ莫大な資金や資材を投入し、物資を膨大に蓄えていた。
それを根こそぎ奪おうとしたのだ―――
しかも、良心の呵責など微塵も無い。
カイはこの目ではっきりと見ている。
船内にいた男に銃を突きつけていた彼女達―――
略奪を試みようとするマグノ海賊団の誰もが皆、自ら生き生きと奪っていたではないか―――
自分達が生きるためだったら何をしてもいいのか?
同じ境遇の同胞達を救ってもいたと、かつてガスコーニュは言っていた。
マグノにとって海賊への道は苦渋の決断だったと、ブザムは言っていた。
では、許されるのか?
自分が死に追い詰められていれば、人を救えば―――理由を持てば許されるのか?
そんな連中を――――助ける価値はあるのか?
自分を捨ててまで・・・・・・・
「――――カイよ、これは悩む事じゃねえと思うぜ」
「・・・何だと?」
うっすらと、カイは顔を上げた。
その目には力がなく、迷いが見え隠れしている。
そんなカイの心中を察するかのように、ラバットは優しいまでに穏やかに言った。
「俺はタラークも、メジェールも知っている。その風習は独特で有名だ。
ここにいる沢山の女達に、お前は度重なる苦渋を味わされた。違うか?」
「・・・・・・」
その通りだ―――
苦々しさを持って、レジ店長ガスコーニュは大きく息を吐いた。
兵装整備を終えて、一息ついていた時に急遽放映された対決場面―――
他のレジクルー達と同様に、ガスコーニュは天井に設置されているモニターを見ている。
(・・・痛い所をついてくるね)
カイが追い詰められているのが分かりながらも、口出しは出来ない。
カイを本当に悩めているのが、他ならぬ自分達だ。
自分もその一員である事を暗澹たる思いで認める。
「・・・て、店長。これ―――」
「修羅場ってるんだろ。
あいつが影でこそこそやってたのも、ラバットとかいうあの男を怪しんでたからさ」
副店長と同等の位置にいる茶髪の女の子が、心配そうにしている。
カイとは随分仲良くなっていた娘だ。
苦しんでいる様子を見るのが忍びないのだろう。
「・・・あいつも不器用だね。
素直にディータを見捨てても、あいつには何の問題もないってのに」
「店長っ!?」
「・・・・・ちょっと性質の悪いジョークだったね。ごめんよ」
「い、いえ、わたしのほうこそ、その・・・・」
ガスコーニュに大声を上げた自分にむしろ驚いているのか、女の子は口元を押さえている。
静かな表情でガスコーニュはその子を見つめ、周りを見る。
他のレジクル−達も状況を静観し、騒ぎ立ててはいない。
彼女達の頭のどこか片隅に、カイを信じる気持ちがあるのだろう。
不安に思っているのも本当だ。
カイがディータを見捨てて、自分を取る選択肢も十分ありえる。
カイは決して―――仲間ではないのだから。
嫌われ者だ。
自分一人の意思で戦い続けて、マグノ海賊団を拒否し続けている。
(・・・・カイ、アタシはあんたを買ってるよ)
否定する者が多い、それは確かだ。
されど、目の前に居る女の子のように受け入れている者だっている。
誰もが利口にはなれない。
しかし――――誰もが愚かでもないのだ。
「・・・店長、わたし―――」
「いつでも味方でいてやりな。
多分、それが一番あいつに出来る事だよ」
「・・・・はい」
女の子の心を読み取って、ガスコーニュは優しく言葉を手向けた。
彼女達もまた、見守るしか出来ない―――
この二ヶ月。
つまらない価値観に振り回されて、この船に居る女達は自分を冷遇した。
何度も,何度も―――
共に戦う意思など彼女達はありはしないだろう。
それは望んでも決して叶わない。
捕らえられた少女ディータにしても、何度も足を引っ張られている。
なら―――ー助ける価値はあるのか?
「俺としてはお前に来て欲しい。でも,無理強いはしねえ。
嫌がる人間を強制しても、互いに信頼関係は結べねえからな。
お前が自分で選べばいい。
―――その代わり、取引は不成立とさせてもらうがな」
(・・・・・俺は・・・・・・)
ラバットが気に入らない、だから拒絶する。
なのにどうして―――ディータを見捨てられない?
ディータは味方だ、それは間違いない。
でも――――海賊だ。
海賊は認めない、そう思っていたのではなかったのか?
なら―――
――――俺は――――
―――――――――俺は―――――
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「・・・・これで分かっただろう」
声が遠い―――
「最初から――――お前には何もなかったのさ」
カイは―――
自分が泣いているのにも気付いていなかった。
そう、彼はディータを―――
選ばなかったのだ。
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