VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 8 -Who are you-
Action57 −光明−
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裏をかけた―――その手応えは確かに感じられた。
飾り気も何も無いストレートな問いに、ラバットは明らかな動揺を一瞬表情に出した。
目的を知るのは困難。
この質疑応答の繰り返しにおいて、ラバットにその采配はあがっていた。
駆け引き上手は言うに及ばず、人間としての器や経験もラバットが上。
真っ向勝負で切りかかっても、簡単に捌かれて終わるだけだ。
そう考えて、カイは別の切り口から攻める。
この船に来た目的は後回し。
まずは、そもそもの原因であるラバット本人を知るべき―――
敵を知ることから、勝利への道が見えてくる。
嫌になるほど、この二ヶ月の激戦で思い知らせた現実だった。
詰問せず、そのまま答えを待つ―――
腕を組んだままカイは返答を待っていると、ラバットは苦々しく呟いた。
「・・・俺は地球の生まれだよ」
「地球って、あの!?」
「俺の知る地球は一つしかねえがな・・・・」
あまり言いたくは無かったのか、声に力が無い。
とはいえ、カイはそんな些細な事に気を回す余裕は無かった。
(地球―――確かばあさんの話だと、俺達の祖先の星だったよな。
こいつはそこにいた―――)
タラーク・メジェールも、元々は同じ星を故郷とする開拓の惑星である。
地球は往来する人類の繁栄の為に犠牲となり、自然体系は崩壊していた。
急増し続けた人類は他の動植物を駆逐してしまい、飽和を迎えてしまった。
このまま地球に永住するのは困難と考えた人類による窮策が、殖民船団による他の星への移住である。
タラーク・メジェールも殖民船団による発見で、それぞれの星に手が加えられた。
マグノの話を反芻し、カイは眉を潜める。
(・・・どう言う事だ?こいつはばあさんより若い。
ばあさんが若い頃ですら、地球は人が住める状況じゃなかった筈だ。
なのに、どうして―――)
ラバットが嘘をついている、とも考えられる。
本当の事を話している証拠は無く、今の言葉に確証だって無い。
思い付きではあるが自分の質問に不意を突かれて、嘘をついた可能性はある。
しかし、もし本当だとすると―――
(・・・・婆さんと話が合っていない。
もしラバットが正しいなら―――)
マグノ=ビバンが嘘をついた?―――馬鹿な。
それこそ意味は無い。
都合の悪い話なら、そもそも自分に聞かせなければいい。
嘘をつく必要なんてありはしない。
捕らえられたあの時、立場的にマグノが上だったのだから。
そうなると考えられるのは―――
(・・・空白の歴史。
ばあさんが旅立った後に、地球に何かがあった。
人類が生存出来る策を編み出して実行したって事か・・・?)
殖民船を宇宙に送り出し、その後残された人類が地球を救うべく行動した。
その結果人類は存続し、ラバットのような奴らが生まれた。
もしそうなら―――
(その策は・・・・星を救えるって事だ。
滅びかかった星もろとも改善できるやり方。それを知れば―――)
―――タラーク・メジェールを変えられる―――
胸が高鳴る。
思い掛けない情報に、カイは興奮を抑えきれない。
生まれ故郷のタラークも、女の星メジェールも、どこか気に入らなかった。
女を敵視する男、男を軽蔑する女―――
その両方にむかついた。
タラークを出る前は曖昧な気持ちだったか、この船にいてはっきりした。
間違えている、タラークもメジェールも。
そしてメイア達もきっと―――
もしかすると、ラバットから聞ける情報はその決定的な手掛かりになるかもしれない。
答えになるかもしれない。
生きる為に略奪を繰り返したマグノ海賊団に対して――――
正しかったのか?間違えているのか?
真実が見出せるかもしれない―――
「これで満足か、おい」
「・・・・ああ、いい事聞けたぜ」
カイは深く笑みを浮かべて、拳を握る。
これ以上聞くのは無理だ。
質問に対しての答えはあくまで一つ。
ラバットに最低限もう一つ情報を渡し、引き換えなければいけない。
それでも良かった。
次、決定的なモノを得られるのだからかまわない。
地球を救ったそのやり方を知る―――
狂った生態系の環境下で、それでも地球人はきちんと生きられたのだ。
地球人にとってまさに希望だったそのやり方を是が非でも聞き出す。
カイが質問を待っていると―――
「さ、俺が聞きたい事はこれで終わりだ。手間取らせたな」
「ちょっと待て、こら!!」
突然の打ち切り宣言に目を剥くカイ。
ようやく辿り着いた糸口を、あっさり切られてはたまらない。
抗議を口にするカイを、ラバットは不思議そうに聞き返す。
「おいおい、兄弟。お互いサシでのやり取りのはずだぜ?
俺はもう聞きたい事はねえんだ。
お前だけ聞き出すのは筋が通らねえだろう」
(・・・・こいつ)
嘘だ―――カイは睨む。
本当はまだ俺に聞きたい事はあったはずだ。
終わらせるには、あまりに突然すぎる。
質問少ししか無いのなら、こんな律儀な情報交換の必要性も無い。
さっきの質問だ―――きっと、あれが何かまずかったんだ。
逆に、カイはこのラバットの態度ではっきりと理解する。
(・・・・地球生まれなのは間違いなく本当。
そして、地球には何か重大な秘密がある―――こいつはそれを知っている。
それを俺に質問されるのを恐れたんだ―――!)
見事にかわされてしまった。
これでもう、聞き出す事は不可能に近い。
後は――――
カイは息を呑む。
力ずくで聞き出すしか手は無い――――か。
「・・・・さてと。それじゃ取引と行くか」
「取引、だと?」
話が変わりそうな気配に、カイは一歩後退して身構える。
ラバットは立つ姿勢をそのままに、カイを睥睨する。
「なーに、話は簡単だ。俺はお前が欲しい。
俺と一緒に来い」
簡潔でいて、絶大な説得力のある言葉。
ラバットの目は真剣で、嘘偽りは全くなかった。
後ろにただ黙って聞いていたディータにもそれは感じられた。
(・・・・宇宙人さん・・・・・)
身動き取れない身体が歯痒い。
もしも身体が動かせるのなら、今直ぐにでも駆け寄って離さない。
声が出れば、絶対に駄目だと言えるのに―――
(・・・やだ、やだよ、宇宙人さん。
お別れなんて絶対の絶対に嫌!)
狂おしい感情が身体を動かす。
力をこめると、大きく実った胸の谷間にワイヤーが食い込む。
形の良い胸がワイヤーに沿って揺れて、鈍痛が押し寄せるが気にもかけない。
とにかく、今は――――
(・・・・宇宙人さん、宇宙人さん!!)
激情に零れた涙が頬を伝って、柔らかな太ももに染みを作る。
猿轡でうーうーとしか声を上げられず、手首に力を込めても肌を傷つけるだけだった。
力不足に悲しみと悔しさがこみ上げてくる。
すると―――
(・・・・あ・・・・)
何時の間にか、カイはこちらを見ていた。
必死で頑張っている自分を見て――――カイはフッと笑った。
単純な苦笑いだったのかもしれない。
でも――――とても温かい微笑みで・・・・・・
「断る」
カイはラバットを一瞥し、はっきりと言った。
ラバット本人は特に驚いた顔をせず、静かに問う。
「ほう、してその理由は?」
カイはけっと顔を背け、馬鹿馬鹿しいとばかりに言った。
「俺はお前が気に入らない。つるむ理由もねえ。
俺は俺で勝手にやらせてもらう」
カイはそう言いきり、そして内心嘆息する。
ラバットが気に入らないのは確かだが、同時に安全であるのも確かだ。
少なくともこの船よりは―――
敵は外だけじゃない。
船内に居る女達は自分を嫌っているのが殆どで、居心地だって悪い。
日増しに強くなってくる敵を相手に、こんな環境ではやってられない。
その点、ラバットが味方になると頼もしい。
腹の立つ男ではあるが、人を騙したりする類ではない。
この男の傍に居れば学ぶ事も多いだろうし、夢への近道にもなるかもしれない。
戦いばかりしなければいけないこんな窮屈な場所に居る理由は無い。
ラバットだって、自分を引き込むのに何か理由はあるのだろう。
もしかしたら利用されるだけかもしれない。
ならば、自分だって利用すればいい。
利害関係は、時に友情や愛情より強い時だってある。
断った理由ははっきりいって曖昧で、何となくだ。
でもあえて理由をつけるなら――――
(・・・・うわ、分かり易い奴。たくよ・・・)
嬉しそうに目を輝かせるディータに、カイはアホらしくなる。
引きずられたばかりだ、あの馬鹿には。
いい加減見捨てればいいものだとは思うのだが――――
「・・・・そーか、まあそういうとは思ってた。
だから、嬢ちゃんに来て貰ったんだからな」
「―――!?お、お前まさか・・・・・!」
胸がざわめく。
この意味不明な人質に逃走劇。
リスクを増やすだけの馬鹿げた行為だと思ってたが――――甘かった。
カイはようやく気付くが、もう遅い―――
「・・・この嬢ちゃんとお前を交換、でどうだ?
お前さえ一緒に来るなら、この嬢ちゃんの安全は保障しよう。
でもそれでも嫌だってんなら、この取引は不成立。
嬢ちゃんはどうなってもいい――――と、俺は判断させてもらう」
その意味する所は――――
額から汗を流し、息苦しさに胸をきつく押さえる。
「ま、この嬢ちゃんだって海賊だ。
見捨てても、お前には問題ねえだろうがな」
「おまえ――――!!」
「・・・・事実だろう?
嬢ちゃんだって、他人を犠牲にして生きて来た人間なんだぜ。
そんな存在を、お前は、許せるのか?」
「・・・・・・・・・」
カイゾクヲタスケルノカ――――?
身動き取れずにいると、ラバットが厳かに発した。
「さあ――――どうする。
見捨てるか―――?救うか―――?」
テーゼー―――
<to be continues>
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