VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 8 -Who are you-
Action56 −意表−
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<to be continues>
その日、マグノ海賊団に衝撃が走った―――
艦内全域放送にて繰り広げられている男達のやり取り。
平和な日常が突然食い破られて、女達の誰もが仕事の手を止めて映像を見つめている。
予期せぬ映像とその内容。
驚愕に満ちた場面に、苛烈な熱気を孕んで男達は戦っていた。
これには映像を流した張本人も驚いた。
「ちょ、ちょっ!?あれ、これ、えーと・・・・」
ニルヴァーナ・第二会議室。
艦内のスタッフ同士が情報交換をしあう場所―――
使用許可の必要の無いこの部屋は、主にイベントクルーが使用していた。
イベントクルーの仕事とは、その名の通りイベントを行う事に尽きる。
月数回の割合で小規模に、年に何回かの割合で大規模にイベントを行っていた。
殺伐とした海賊家業に潤いを与える任務―――
海賊業に直接関係は無いといえばそれまでだろう。
事実レジクルーやパイロット、キッチンスタッフやエステクルーと比較してもその貢献度は低い。
仲間の心のケアが目的とはいえ、遊びと言ってしまればそれまでかもしれない。
しかし、本人達はこの仕事に誇りときちんとした自覚を持っていた。
与えられた仕事をこなすのは当たり前。
むしろ、それ以上の働き振りを見せるのが有能たる証である。
その点、イベントクルーは非常に優秀なスタッフだった。
常日頃周囲にアンテナを立て、盛り沢山のイベント企画を考える。
例え平凡な生活が続いても、何か面白みがあれば彼女達の鋭敏なアンテナにチェックがかかる。
小さな事を大きく、大きな事をより大きくが、彼女達の優秀さだろう。
ただ欠点を挙げると―――
彼女達は、少々優秀すぎた。
「これよ!」
イベントクルーを統括するリーダーは一言で言い切った。
小柄な体格で切れ目のある容貌が人気の彼女だが、今日は燃えに燃えていた。
その興味の対象はパイウェイ。
正確には、パイウェイがもたらした情報提供だった。
曰く―――修羅場が起きているとの事。
それが色々な意味でクルー達の話題を攫っているカイと、本日訪問した謎の男の二人だと言うのだ。
こんな面白い――――もとい、大変な事態を無視してはバチが当たる。
リーダーはパイウェイの要請を一発で許可した。
すぐさま全クルーを総動員し、指揮を取る。
目的は格納庫の撮影と内部取材。
本人達に声をかけるのもどうかと思うので内密に、である。
幸運にも格納庫には管理・保安の意味を含めて、監視カメラが設営されている。
普通不必要な代物だが、あの格納庫にはカイの機体が保管されているのだ。
カイへの不振もそうだが、カイはそもそもマグノ海賊団入りを拒否した男。
セキュリティの意味を含めても、カメラの設置は当然と言えた。
そのシステムを利用しての最大活用である。
考えられない行動力で事を押し進め、いよいよその現場を全艦に流した。
その結果――――全てが覆された。
持ち込んだ当事者のパイウェイには悪い意味で。
持ち込まれた責任者のリーダーには良い意味で、あった。
カイは今もラバットと対決を続けている。
その会話内容たるや、船内を揺さぶる程の大騒動になりえる。
ディータが人質に取られ、その犯人は得意げに何かを語っている。
カイはカイで一進一退を繰り返しながらも、情報のやり取りに夢中になっている。
事態はどう転ぶか検討もつかない。
リーダーは心が沸き立つのを抑えきれずにいた。
「いい、皆!この放送はこの船の命運がかかっているわ!
絶対ミスのないよう、完璧に撮影を行うのよ!」
やる気満々だった。
その意気は実に仕事熱心だと賛辞も出来るが、彼女のやる気はどこまでも自己満足だった。
さらに厄介なのはイベントクルーには不可欠な心意気なので、その場にいる誰も否定出来ないと言う事である。
「でも、チーフ・・・・こんなの放送していいんですか?
大問題になるんじゃ・・・・」
問題にならない方がおかしい。
映像の内容は個人で対処できる範疇を大きく超えており、艦内全体に関わっている。
仲間の一人が危険に晒されており、その命運を握る鍵がマグノ海賊団の問題児なのだ。
クルーの一人の指摘を、チーフは自信ありげに看破してのける。
「大丈夫!この放送に問題があれば、とっくの昔にストップがかかってるわ。
考えてもみて?
保安クルーが急行してないでしょ?」
『あ・・・・』
その時初めて気付き、ブリッジクルー達は目を丸くする。
パイウェイの情報提供により放映が開始されて、もう十分以上になる。
もしも重大な事態だと上が見ていれば、船の安全を守る保安クルーが現場に向かっている筈である。
それでなくても、マグノやブザムが黙っている訳が無い。
その気配がないという事は――――静観しているのだ。
この事態を、この成り行きを、この事実を―――
チーフとて、マグノやブザムが何を考えているのかは分からない。
もしかすると、何か考えがあってこの放映を見守っているのかもしれない。
それならそれで別にいい。
放映を続けられる―――それだけでチーフには充分だった。
「さっ!持ち場について、皆!
一部始終取り逃さないようにね」
『はい!』
話し合いが終わり、会議室よりクルー達が出て行く。
チーフである彼女を除き、他の女性達はそれぞれの自分の担当区域がある。
モニター管理及び編集をチーフが請け負って、責任者としての仕事を全うするのだ。
会議室にパイウェイと二人残った彼女は、備品チェックを行う。
「・・・ディータ、大丈夫かな・・・」
面白がっての行為が、思わぬ事件に発展していた。
男と女の三角関係だけならまだしも、人命がかかった本当の修羅場なのだ。
興奮は既に冷めており、友人を心配する気持ちがにわかに膨れ上がっていく。
幼い心を曇らせるパイウェイを見て、チーフは大丈夫と肩を叩いた。
「その為にカイが頑張ってるんだから。
絶対にあんな男にいい様にされないわよ」
その言葉に何の疑いも無い。
本当の本気で、カイが何とかしてくれると信じている。
その信頼の確かさに、パイウェイは目を見張った。
「チーフは信じてるんだ・・・・あいつのこと」
「もちっ!あんないい奴、そういないわよ。
わたしにとっちゃ、何で皆がカイを悪く言うのかわかんないもん。
ちょっと皆の態度にゃむかついてたしね、最近」
チーフは結果主義者である。
自分の見たまま,感じたままを信じて,疑う真似はしない。
他人と自分の感性をきちんと胸に収められない者に、この職業は務まらない。
大勢の仲間を楽しませるのがイベントクルーたる使命なのだ。
物事をきちんと冷静に観察して、その側面・本質・裏側を徹底追求する。
彼女は成るべくしてチーフに昇格し、そのチーフとしての心構えがカイを肯定する。
簡単に言えば彼女は―――
「そう考えれば、この放送はカイのイメージアップに繋がるかも!
うんうん、やる気出てきたわ。
絶対皆に認められるようにしなきゃね」
―――カイが大好きなのだ、心から。
一緒に仕事をして、日夜彼の戦いを観察し続けて、自然と好意を持てた。
その気持ちにすら疑問をもたなかった。
むしろ、この自分の心の流れは当たり前だと思った。
虚構でも物語でもなく、現実で―――
カイはドラマティックに生きているのだから。
『・・・俺は真面目に聞いたんだけどよ』
会議室のモニターに、彼女の求める男の声が流れた。
「俺は真面目だぜ」
苛立ったカイの声に、ラバットの気軽な声が被さる。
情報交換を開始して三十分余り。
話し合いは平行線が続いていた―――
「それで強引に入船して、わざわざ人質まで取ってこの騒ぎかよ。
割にあわねえなんてもんじゃねえぞ、おい。
俺が目的なら最初からそういえばいいだろう。
第一,何で俺なんだよ?」
「俺は質問に答えたぜ」
「ちっ・・・・」
質疑応答は平等に―――ルールである。
ラバットを正面から見つめるが、特に嘘を言ってないように見える。
と、なればさっきの言葉も本当だという事。
この男は―――本当に俺を求めている。
問い質すのは後にして、カイは身構えつつ尋ねた。
「・・・・で、聞きたい事は?」
「お前の使ってた兵器の概要。
ペークシスエネルギーを使っているのは分かるが、あんな使い方は見た事がねえ。
その中身を知りてえ」
カイは俯いて考える。
新型兵器の詳細を知られることは、兵器開発に利用されるという事。
ホフヌングはその発想こそ奇抜だが、開発そのものは実はそう難しくない。
ようするにペークシス成分を武器に内蔵して、その発動条件を入力すればいい。
エネルギーのコントロールさえ見誤らなければ、同等とまでがいかないが製作は可能だ。
それに――――
カイは先程閲覧したディスクを思い出す。
あの内容が本当なら――――ホフヌングはニル・ヴァーナすら消せる。
条件さえ満たせば―――
「どうした?まさか知らねえって事はねえだろう」
惚けられる相手じゃない。
質問に質問は返せない。
こうなれば、ラバットがホフヌングの本質に気付かないように願うだけだ。
「・・・・あんたの言った通り、あの兵器はペークシスを利用している。
さっき説明したが、この船が誕生したのはペークシスが原因だ。
その現象からヒントを得て、この兵器を考えた。
エネルギーを形にも出来るペークシスなら、その性質も変えられるって考えてな」
「ほう・・・・」
カイが開発したホフヌングは、ようするに小型のペークシスを乗せているのと変わらない。
どんなエネルギも変換し、自由自在に利用出来る。
この意味するところは大きい。
ペークシスの内在するエネルギーはほぼ無限。
使えば使うほど消費される事は無く、そのエネルギーを引き出して扱える。
その分不安定なのが欠点といえば欠点で、パルフェを悩ませる原因となっている。
「暴発する危険性はあったんだが、思いがけずうまくいったんだ。
その成果は・・・・あんただって目にしただろう」
ペークシスが自由自在に扱えるなら、極論すればあの融合化現象や機体のヴァージョンアップも人間がやれる事になる。
当然、そんな事は出来もしない。
なのにカイの機体の兵器として組み込んだ結果、予想以上にバランスが良かった。
完璧に、カイの言う事を聞いたと断言していい。
何故安定して使えたのか―――?
その理由は実は開発者のカイでも分からない。
説明を終えると、ラバットは視線を落とす。
「・・・・なるほど、これで確定か・・・・」
「?確定・・・?何のこと―――とっと!」
(あ、危ねえ・・・・)
ドキドキする心臓に深呼吸して、カイは口を押さえる。
下手な質問は足元をすくわれる。
こう何度も失態を繰り返しては意味が無い。
このままだと貴重な情報だけ持っていかれて、こちらは何も得られないまま終わる。
冗談ではない。
何としても次はこっちから攻めなければ―――
慎重にカイは思考を張り巡らせる。
今日は今まで生きて来た分以上考え続けて、頭が麻痺しそうなほど疲弊している。
今までできなかった頭脳戦を、今日は数年に匹敵する経験量を積んでいるだろう。
嬉しいような空しいような気分だが、そうも言ってられない。
(あいつの予想を超える質問をしないと・・・・うーん・・・・
っ!こんなのはどうよ・・・・?)
カイはにっと笑って、顔を上げる。
不敵な眼差しでラバットを見上げ、カイは口にした。
「・・・あんたはどこの生まれだ?」
初めて―――ラバットの表情が変わった。
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