VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 8 -Who are you-






Action55 −目当て−




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 思えば、全ての始まりはここからだった。

夢を叶える為に家を出て、船に乗って二ヶ月余り―――

アレイク中将はその後どうなったのだろうか?

考えても詮無き事だが、ふと思い出してカイは苦笑いを浮かべる。

始まり―――

特別になりたいと、宇宙一になりたいと願い、憧れて、この扉の前に立った。

蛮型格納庫―――

イカヅチ主戦力の蛮型の数々が眠っており、自分の愛機も保管されている。

メイア・ジュラ・ディータの改良ドレッドも安置されており、この格納庫も随分手を加えられた。

船内でもっとも使用頻度が高いのは、監房の自室とここだろう。

ここに―――ディータとラバットがいる。


「・・・・・・」


 奴の目的はもう明らかだった。

わざわざ逃走先をここに定めたのは、当然理由があるからだろう。

危険度の増す行動を取り、不可解な逃走劇に人質の拿捕。

リスクばかりしかないこの行動に不可解なモノを感じていたが、一気にその疑問は晴れた。

全てはここだった。

ラバット、あの男の目的は一つ―――


「ホフヌングか。くそ」


 気付いてしかるべきだった。

まさか人型兵器やドレッドに興味が湧いた訳もあるまい。

あのラバット(もしくはウータン)が繰り出した人型兵器は、自分のそれを上回っていた。

正面から対決したからこそ、その性能は肌で感じ取れる。

耐久力はこちらが上かもしれないが、機動力・攻撃力はあちらが上。

武装の豊富さは言うに及ばず、圧倒的な火力で攻められた。

新型兵器ホフヌングがあったからこそ退けられたが、次に戦えばどうなるかは分からない。

戦い方としては雑だったと思う。

武力を行使するやり方は悪くは無いが、長期戦には非常に不向きだ。

そう考えると、ウータンが乗っていたという話は嘘ではないのかもしれない。


「・・・裏をかけるかどうか、だな」


 修羅場での経験や知識量の高さでは勝てない。

あの体つきから考えると、肉弾戦に持ち込むのもあまり良い手とはいえない。

それに、人質も取られている。

とりあえず相手の出方を確かめて、対策を練るしかない。


「戦略以前の問題だな・・・・青髪からも連絡ねえし」


 通信機で応答を確認したが、返事が無い。

策を与えたのだが,何か不備でも起きたのだろうか?

俺の連絡だから無視しているわけでもないだろうし―――

仲間の危機に感情論を持ち込む女ではない事はよく知っている。

役割に没頭しているのだろうが、それにしても返答が無いのは一体―――


「・・・・考えていても仕方がねえな。よし!」


 カイはぐっと気を引き締めて、扉を開ける。


始まりはここ―――





『よし、これでお前は今日から俺の相棒だ!!』





そして――――終焉も。















「来たか、兄弟。待ってたぜ」















 重々しく扉が開かれて―――

一歩中へ踏み入れると、格納庫の中央に男は立っていた。

ずっしりとした体格に、重厚な威厳を漂わせる歴戦の戦士。

奇妙な衣装を身にまとって、男は大柄な笑みを浮かべて待っていた。


「・・・やってくれたな、おっさん。赤髪はどこだ?」


 カイは厳しい顔で、対決に臨む。

照明をつけたのか周りは白色に明るく染まっており、全体が見渡せる。


「焦るなよ、兄弟。俺は女には紳士的な男なんだぜ?
ちゃんと、丁重に取り扱っているさ」


 ラバットは態度を変えないまま、背後を顎でしゃくる。

首を傾けてその方向を見ると、柱に縛られているディータが見える。

随分大人しいと思えば、口に猿轡をかまされていた。

黒い綱はワイヤーだろう、完全に身動きを封じられていた。

駆け寄りたいが、下手に動けばどうなるか分からない。

何事もないか一瞥すると、ディータは自分を見て目を細める。

ディータの気持ちは痛いほど伝わってくる。

自分が来たのが純粋に嬉しいのだろう。

何とも無いから、とこくこく頷くディータに我知らず安堵する。

大丈夫と予想する事と実際に見るのとでは違う。

あの様子では,本当に何もされていない。

怪我もしていないところを見ると、危害を加えられず大人しく従ったに違いない。


「・・・・あいつに手を出さなかったのは素直に誉めてやるよ。
怪我でもされたら立場が無いんでね」

「当然だろう、あの娘は俺も気に入ってんだ。
なにせ、この船での初めての友達なんでな」


 白々しいと、カイは内心舌打ちする。

強引に攫って縛り付けているくせに、何が友人だ。

とはいえ、文句を言うのはまだ早い。

丁重に扱っているとはいえ,それは今だけだ。

今後のやり方次第で事態がどう転ぶか、楽観は出来ない。


(・・・・・時間を稼ぐか)


 メイアさえうまくいけば何とかなる。

向こうは、自分ひとりが切り札を握っているのだと錯覚している。

その優位性を利用して、時間を稼ぐしかない。


「・・・いい加減、腹を割って話そうじゃねえか。
この船に来た目的は何だ?何、企んでいる?」

「がっつくなよ。有意義な話し合いとしゃれ込もうじゃねえか」


 ホイホイと話をはぐらかせるラバットに、カイは睨みつけて追求する。


「あんたが何の見返りもなしに、俺に好意的になるとも考えにくい。
この船に来たのも、それが目的だったんじゃねえか?」


 ホフヌングについては触れない。

直接的な交渉は、ただ取引を円滑に進めるだけ。

回りくどく話していかなければ、全てを握られて終わりだ。


「・・・ほう、随分察しがいいな。
どうだ、兄弟。あの時の続きといこうか」

「あの時?」


 覚えが無い。

不振な顔をするカイに、ラバットは円満な態度で話しかける。


「情報交換さ。ミッションでやっただろう?
一質問につき、一つ答えを提供する。その繰り返しよ。
ま、等価交換だな」

「・・・・・・・」


 なるほど、確かにミッションで紹介しあった時に行ったやり取りだ。

情報の提供を交互に行えれば、平等にチャンスを掴める。

カイとしては願ったり叶ったりで、時間も稼げて文句のつけようも無い。

ただ―――


「何でそんな事するんだ?人質盾にすればすむ話じゃねえか」


 だからこその人質である。

相手に不利な立場を強いて、有効的に目的を達成する。

人道的な面を無視すれば、これほど活用出来る手立ては無い。

等価交換は立場が平等だからこその交渉だ。


「おいおい、それじゃあまるで俺が悪党じゃねえか」

「いや、思いっきりそうだし」

「きっつい奴だな、お前も。
――――なーに、無理やり聞き出す事でもないんでね。
下手に嘘をつかれるより、この方がお前の口は軽そうだ」


(・・・くそっ)


 向こうが変に対等に接してくれば、誤魔化しづらい。

別に嘘をついてもいいのだが――――それはカイ本人が許さない。

例えばディータを人質にして情報を強引に引き出そうとすれば、別に嘘でもなんでもつける。

相手がルールを侵してきているのだ、取り繕う必要も無い。

ただこのように対等な取引を向けられると―――こっちが悪者のような気分を味わされてしまう。

自分の心理を見抜かれている事を知り、カイは苦々しく毒づいた。

ラバットはカイの様子から不本意ながらも申し出を受理した事を知り、にっと笑って答えた。


「じゃ、先ずは俺から答えようか。
お前の言う通り、俺はこの船に目的があって来た。
言っておくが、荷物を渡そうとしたのも本当だからな」

「・・・それは分かってる。荷物に不備は無かったからな」


 これは半分嘘である。

本当に不備が無かったのかどうかは、ドゥエロやバートに確認していない。

多分そうだろうと考えての言葉だった。


「それより、俺の質問にちゃんと答えてねえぞ。
何しに来たんだよ、はぐらかすな!」


目的があって・・・・・・、だ。ちゃんと答えているじゃねえか。
じゃ、次は俺からの質問だ」

「・・・こ、この野郎・・・・」


 言葉尻を取られて、カイは歯軋りする。

まったく、話術の上手さには到底勝てそうも無い。

―――本当はそのまま抗議しても通るのだが、その点カイは律儀だった。

ラバットは表情を硬くして、じっとカイを見る。


「・・・お前は・・・・・」


 次の言葉がカイの胸を貫いた。















本当にタラークで生まれたのか・・・・・・・・・・・・・?」















「は?」


 理解不能な質問だった。

何を聞きたいのか,さっぱり分からない。

言葉の裏を探ろうとするが、裏など全然見えない。

カイは疑問符を浮かべながらもそうだ、と言った。


「親は知らねえが、育ての親はいる。
怪我してた所を拾われて、育てられた」

「拾われた?タラークで?」

「そうだけど・・・・・なんだ、疑り深い奴だな。
何かおかしいところでもあるのか?」

「いや・・・・・・なるほど、拾われたか・・・・
つまり、それ以前の記憶が無いんだな」

「・・・・ああ」


 質問を重ねられて答える義務は無いが、相手はもう察している。

さっきのラバットのように質疑応答の権利を主張してもいいが、恐らく無駄だろう。

次に質問するのは、たぶん別だ。


「次,俺の番だぞ。この船に来た目的を話せ」


 今度ははぐらかされないぞ、と睨みを利かせる。

カイの質問に、ラバットはまたもあっさり答える。


「手に入れたいモノがあったんだ」

「手に入れたいモノ?何だと、それ」

「質問は一回につき一つだぜ」


(あああああ、もう!このおっさんは・・・・・!)


 遠回しにしか答えないラバットに、カイは地団太を踏む。

これでは結局さっぱり分からない。

全く話が進まない交渉に苛々するが、ラバットの言い分はもっともだった。


「で、質問その2。
この船のペークシスに最初に接触したのはお前だな。
その経緯とその後の現象を詳しく話してくれ」

「お、お前なんでそこまで―――!?」


 知っている筈が無い。

ペークシスに関しての情報はラバットには教えていないし、その必要も無かった。

この船の融合も、ヴァンドレッドも、何一つ話してなどいない。

なのにどうして―――ー

ディータか他の誰かにでも聞いたのだろうか?

疑問は湧きあがるが、聞いたらそれが質問になってしまう。

カイは渋々イカヅチに乗ってからの経過を説明した。

ペークシスに接触したのは自分が初めてなのかどうかは、よく分からないので保留する。

実際、ペークシスが暴走した時の記憶はひどく曖昧だった。

全て話し終えると、ラバットはひどく驚いた顔を見せた。


「ふーむ・・・・船の融合に合体、か・・・・・こいつは予想を遥かに超えてるな。

禁断の果実、か・・・・・

美味そうだが、手を出すと厄介かもしれんな」

「―――おい。一人で盛りあがんな」


 ラバットが何を言っているのかさっぱりだった。

だが、もうこれだけは明らかだ。

ラバットは、貴重な情報を幾つも有している―――

思わぬ展開だが、この情報交換は進め方次第で今後の旅の行方を左右するかもしれない。

カイは気を引き締める。


「おっさんだけ満足されても困る。次はちゃんと答えろよ。
この船で手に入れたいモノはなんだ?」

 今度はぐらかされたら―――

ぐぐっと身を乗り出すカイにラバットは―――指を突きつけた。

至極あっさりと、彼は言う。 





お前・・だよ」






 絡まった糸が解けていく―――









 


 






















   















































<to be continues>

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