VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 8 -Who are you-
Action49 −出遅れ−
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「パルフェ!青髪!!無事かっ!?」
息せき切って、カイは機関部へ駆け込んだ。
旧海賊母船側にあるレジから、旧イカヅチ側にある機関部までの距離―――
エレベーターを使えば一直線だが、徒歩となるとかなり時間もかかる。
事情を聞きつけたカイは遅まきながら駆けつけたのだが、事態は既に進行した後だった。
「私もパルフェも無事だ。何もされてはいない」
「一瞬だったもんね」
二人はそう言って、安心させるように顔を向ける。
カイは安堵の息を吐いたが、安心してもいられない。
何しろこの場には、本当はもう一人いる筈だったのだから―――
「大体話は分かった。
あの野郎が赤髪を攫った原因がそれか」
厳しい顔で疑問をぶつけるカイに、パルフェは神妙に手に持っていた物を見せる。
ラバットにもらった専用パーツ―――
パルフェは表情を厳しくして、手前のパソコンに解析データを表示させる。
「このパーツはペークシスのエネルギーを効率良く高めてくれるモノ―――
あの男がそう言ってたし、あたしも疑わなかった。
見た事あったし、少し弄ってみてその効果も本物だって分かったから」
「でも・・・欠点があったと?」
パルフェが頷く。
「エネルギー循環率を一定に操作する機能が欠落してるわ。
こんなの使ったら、船内のエネルギーが暴走してペークシス君に負担がかかっちゃう」
「では、この船が危なかったのか!?」
さすがに黙ってられず、メイアは身を乗り出して聞き込む。
慌ててパルフェは違う違うと首を振る。
「そ、そこまで悪質なもんじゃないよ!
せいぜい、暴発して船が停まるだけ。
ま、それでもペークシス君はダメージ大きいし、しばらく身動きも取れなくなっちゃう。
迂闊だったわ、ほんと・・・・・
もう少しで使っちゃう所だった」
功を奏したのは、パルフェが事前に解析を念入りに行ったお陰だった。
そうまでしなければ微々たる欠点により気付かず、損害を被っていたかもしれない。
「・・・ほんと、ごめんカイ。あたしがちゃんとしてれば・・・」
顔を俯かせて、落ち込んだ声でパルフェは謝罪する。
機械類に関しては人一倍愛着があるがゆえに、手にした時点で気付けなかった事を悔やんでいるのだろう。
カイは少し見つめ、パルフェの肩を叩いた。
「未然に防げただけでも良しとしようぜ。
取り付けて暴発する前に食い止められたんだからよ。
赤髪に関しては、お前のせいじゃない。
この馬鹿のせいだ」
メイアが肩を震わせる。
普段は反論の一つや二つ飛ばすのだが、今回ばかりは否定できない。
油断していたのは事実なのだ。
「・・・・・すまない。見過ごしたのは私が―――」
「って、おいおい。真剣に取るな、真剣に。
冗談だ、冗談。
お前の責任でもねえよ、こんなもん」
「しかし・・・・・」
「それを言うなら、俺だって油断してフラフラしてたじゃねえか。
まだ勝負がついた訳じゃねえ。
最悪を回避する為に、俺らが頑張らないといけないんだろう」
元気付けるように、気軽に笑ってカイはそう言った。
責任が誰にあるのかなど、実際問題カイにはどうでもよかった。
反省会は後でも出来る。
カイに励まされて少しは元気が出たのか、パルフェはうんと言って顔を上げる。
「・・・・ありがと、カイ。欠陥パーツをいち早く見破れたのはあんたのお陰よ」
カイの助言が無ければ、そのまま取り付けていた。
何しろ外面はおろか、簡単な検査では分かり様の無い欠落なのだ。
機関長のパルフェでもそうそう察知は出来ない。
きっとそのまま搭載し、結果船に大きな被害を出していた。
疑いを持っていたカイだからこその僥倖である。
「れ、礼なんぞいらねえよ。
・・・・ま、俺の寝床が吹き飛んでも困るからな」
変な所で意地になるカイがおかしく、パルフェはこみ上げる笑いを抑えきれない。
何時の間にか、陰鬱な気分も消えていた。
カイは欠陥パーツを手に取って、不敵な顔で握り締めた。
「とりあえず、これでもうあいつは言い逃れ出来ない。
こんなやばい物掴ませた上に、赤髪まで攫ったんだ。
こっちも遠慮する必要はねえ。取り押さえるぞ」
遠回りな行動を繰り返していたのは、ラバットが敵か味方かの判断が出来なかったからだ。
仲間を集めて戦略を練り、外堀を埋める作業に没頭した。
なかなか証拠も揃えられず歯痒い気持ちだったが、ようやくこれで本格的に行動に移せる。
すなわち、ラバットを取り押さえて情報を引き出す―――
「ならば、話し込んでいる暇は無い。相手はディータを人質に取っているんだ。
急いでお頭に連絡を―――!」
「ちょっと待った。その前に算段つけておこうぜ」
通信機を取り出すメイアを、カイが押さえる。
こんな時に冷静なカイが、メイアはひどく不愉快だった。
あの時―――
パルフェが声を上げて注意がそれた瞬間、ラバットは突如いなくなった。
その場にいたディータごと―――
欠陥である事を知られたのだと、逸早く勘付いたのは明白である。
でなければ、こんな誘拐まがいの行動は起こさない。
逆を言えば、相手はもう自分達に取り繕う必要がなくなった事を意味する。
敵に回った相手が、人質の身を考慮するかどうかは怪しい。
「悠長に話し込んでいる場合じゃないだろう。
こうしている間にもディータが危ないんだ」
「―――さっきかららしくねえな、お前。ちょっと落ち着けよ。
普段の冷静なお前はどうした?」
指摘は正しいが、聞き入れられない。
自分の部下が危険に晒されているのだ。
メイアは顔を上げて、カイを睨み付けた。
焦燥するメイアを間近で見て、カイは深々と溜息をついた。
「・・・責任感じてるんだろ、お前」
「わ、私は・・・・」
「さっきも言っただろうが。誰の責任でもねえ。
誰かが悪いってんなら、この作戦を仕切る俺だろう?
お前は何でもかんでも背負いすぎだ」
「・・・・・・・」
ずばずばとした物言いでメイアに話し、カイは苦笑いを浮かべる。
「赤髪だって、最近はしっかりしてきてるじゃねえか。
とっ捕まって、ただ泣いて縮こまるタマじゃねえよ」
「・・・・?それはディータが何かすると・・・?」
「さーて、その辺は分からん。
ただ、黙って連れ去られたってのはどうも腑に落ちねえ
。
悲鳴上げるなり抵抗するなり、何らかのアクションは起こすもんじゃねえ普通?」
言われて、メイアとパルフェは顔を見合わせる。
カイの言う通りだった。
突然押さえ込まれて強引に連れ去られたのなら、抵抗の一つや二つはするだろう。
メイアやパルフェに油断があったとしても、気付けなかったというのはおかしい。
「第一、赤髪に危害加えてどうするんだ?
俺達の怒りを煽っても、あいつに得があるとは全く思えないぞ。
安全に取り扱ってこそ、人質ってのは価値があるもんだと思うんだけど」
「・・・・・・」
メイアは思っていたより自分の頭に血が上っていたのを恥じた。
カイの指摘は、どれもこれも理に適っている。
指摘されたのがカイなのが微妙に気に入らないが、そんな考えにまで及べない自分に冷静が無いのを何より感じた。
メイアは深呼吸を一つして、心を落ち着かせる。
「何か目的があるんだろ、きっと・・・・・
とにかく向こうが行動を起こしたんだ。こっちも戦略を練り直そう。
・・・俺もちょっと甘かった」
その時、メイアは初めて気付いた。
言動こそ冷静かつ客観的だが、表情や仕草がそれを裏切っている。
焦りや苛立ちが顔に僅かに出ており、動作もよく見れば挙動不審だった。
小刻みに身体を揺らしたり、手足をあてもなくブラブラさせている。
本当は一刻も早く駆けつけたいのだろう―――
今までのカイを思い出せば当たり前だった。
机の上で考え事をしたり、後ろに立って見守るタイプではない。
自分から行動を起こさないと気が済まない男なのだ。
安全な場所で静観や、他人を見守るといった消極的な姿勢は我慢出来ない。
今回は頭脳面で頑張ってはいるが、それも船を思ってのこと。
いつだって落ち着きが無いこの男の面倒をいつも見ていたのは私だった――
メイアは小さく息を吐き、ほんの少し表情を柔らかくする。
当のカイはそんな自分にも気付かず、ただひたすらに行動に移した。
「とにかく、作戦を変更しよう。今度こそ間違いを起こせば終わりだ。
パルフェはばあさんとブザムに状況報告。このパーツ持って、事情説明頼んだ。
金髪と黒髪、ドゥエロ達にも教えておいてくれ。
連中の成果を知りたかったが、時間がねえ。
連中はそのまま待機って言っておいてくれ」
「待機?そんなんで―――」
いいの?とパルフェが聞く前に、メイアが補足する。
「彼らがいるのは船内保管庫とあの男の船。
うまくいけば、先回りが出来る」
「皆、そんなとこにいるんだ。
ふーん、なるほどね・・・・」
ラバットの目的が逃走なり強奪なりするには、その場所を経由する必要がある。
保管庫には貴重な物資が収められており、船を押さえれば外へは逃げられない。
行動制限するには、この二つを押さえておく必要がある。
「で、青髪。お前にはやってもらいたい事がある」
「私に?」
「ああ、お前なら迅速にやってくれそうだからな。
ちょいと耳貸せよ」
「・・・だから、何故こっそりする必要が―――」
「それが醍醐味だって言ってんだろう。
いいか?まず・・・・」
渋々耳を貸すメイアに、カイはひそひそと耳元から伝える。
時間にして一分にも満たず―――
二人は互いに離れて、顔を向け合った。
「・・・・なるほど。それは妙手だな。
しかし、効果はあるのか?」
少しメイアが不安そうに尋ねるが、カイは自信満々で肯定した。
「俺は一緒にいたからな。効果は覿面だと思うぜ。
これであいつは赤髪は解放するしかない。
立場は対等ってわけだ」
カイから聞いた戦略を、脳内で反芻してメイアは熟考する。
やり方は多少変則的だが、カイの言った事が本当ならディータは解放される。
その為には、一秒でも早く私がやり遂げなければいけない。
メイアはそう考えて、
「お前はどうする?他にも何か手を考えているのか」
「俺?俺がやる事はもうとっくに決まってるよ。
こうなった以上―――」
カイはバシっと己が拳を叩く。
「あいつと直接対決あるのみだ」
その顔は、いつになく厳しく険しかった―――
<to be continues>
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