VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 8 -Who are you-
Action50 −各所−
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融合戦艦ニル・ヴァーナ―――
実質上マグノ海賊団が占有しているこの船だが、クルーが一般的に立ち入れない区域がある。
古参メンバーであり、上級幹部にしか立ち入ることを許されない場所。
それがここ、ブリーフィング・ルームだった―――
「―――やはりあの男、何かあります」
「ふむ・・・・・」
中央にクリスタル・モニターが鎮座しているこの部屋で、現在居有しているのは二人。
マグノ海賊団1と2。
マグノ=ビバンとブザム=A=カレッサの二人だけであった。
重大な議題の話し合いとあって、他クルー達にも厳密の会議の真っ最中だった。
「船を調べて見ましたが、タラーク・メジェールにはないタイプです。
使われている技術も高く、高性能。
本人と接触し会話を試みましたが、大した情報は得られませんでした」
きびきびと、マグノに報告をするブザム。
議題の内容は今も船内に滞在する一人の男について―――
先程のゲートでのやり取りを嘘偽りなく、全て事細かにマグノに伝えていた。
「申し訳ありません、船内の調査は断念せざるをえませんでした。
ラバットに見つかった以上、強行する訳もいかず―――」
「いいさ・・・手間をかけさせたね、B.C」
「恐縮です」
ラバットとの交渉を終えて、マグノも黙って静観した訳ではない。
船内に見知らぬ男の滞在を許した以上、その責任がある。
カイは助けられたそうだが、だからといってすぐに信用は出来ない。
実際に接触し、マグノはラバットへの疑いを強めた。
飄々とした態度を取っていたが、所詮上っ面―――
油断すれば襲い掛かってくる蛇のような狡猾さを、あの男ラバットは持っていた。
取引は正当性があったが、だからこそ疑念を感じる。
マグノはブザムに調査を命じ、ラバットの身辺を探らせた。
他クルーには一切内密に―――である。
下手に艦内を動揺させる訳もいかず、ラバットが黒か白かも判断出来なかったからだ。
迂闊な行動は事態を悪化させる可能性がある。
その点ブザムは単独で高い能力を秘めており、あらゆる技能性を持つ。
たった一人でも百人・千人に匹敵する才の持ち主だった。
「なかなか正体を見せないね・・・・
商売も真っ当で、好評だったって言うじゃないか」
「監視していましたが、怪しい点は特にありませんでした。
クルー達との間にトラブルも起きていません」
レストルームで行われた商売。
カイとメイアは堂々と―――
そして、ブザムは内々にその様子を監査していた。
勿論ラバットはおろか、クルー達にさえ気付かれないように。
「その後商売を終えて自身の船に戻り、補充。
接触後は気取られぬように、そのまま別れてきました」
ゲートで別れた時、そのまま後を追いかけても良かった。
しかし、船を調べていた姿を見られたのだ。
怪しまれぬようにしたが、ラバットも警戒を強めるだろう。
そのまま深追いする事はデメリットでしかない。
その為ブザムはラバットと距離を取り、マグノの元へ一時報告に向かった。
ブザムから話を聞き終えて、マグノは思考を張り巡らせる。
100歳を超える老齢だが、頭の冴えは鈍ってはいない。
「・・・・怪しい点が何も無いってのが余計に気になるね。
本当にまッ白な人間でも、叩けば不審な点の一つや二つ出てくるもんさね」
「同感です。
意図的に隠そうとしているのか、あえて自然なままで擬態を繰り返しているのか・・・・
正直、掴み所が無いように思えます」
ラバット―――宇宙を回って商売を生計にしている男。
ただそう論評するには、不明な点が多すぎる。
かといって監視を行っても、その全体像は見えてこない。
危険性は無いようだが、放っておくには厄介な男―――
手強い相手に、マグノやブザムも対処に難航していた。
「・・・・ラバット、か・・・」
考えあぐねたマグノは、懐に手を入れてすっと取り出す。
綺麗に縁取られた神秘的な模様で覆われているカードの束―――
副長として傍に仕えているブザムは、そのカードがタロットカードである事は知っていた。
尼僧として心も身体も覆っているマグノの趣味の一環で、未来の行く末を占いで見定める事がある。
無論、占いの結果のみで行動を左右はしない。
占いは常に未決定であり、結果が本当に生じるまで極めて不確かだ。
そんな占いに自分だけならいざ知らず、部下の命運まで決定する愚を彼女は犯さない。
されど―――未来を決める指針の一つにもなりえる。
人に時代の流れの先を知る手段は無い。
未来は知らないからこそ不安であり、希望でもある。
そんな人と言う生物に先を知る術として与えられたのが占いだった。
占いは不安定だが、決して当たらないと断定も出来ない。
特にマグノの占いは本人の資質からか、占った結末が大なり小なり的を得ていた事がある。
数ある占いの中でマグノが好んだのが、このタロット占いだった。
ブザムはこうしたマグノの習慣に口を挟まず、マグノの占いを静視する。
カード占いでは一般的なタロットだが、結果そのものは比較的簡単に出る。
ルーム内の机の上にカードが置かれ、マグノはその一枚をめくる。
「・・・・隠者のカード。探求、好奇心、謎解きし者―――」
選ばれた一枚のカードを手にして、マグノはその意味を示す。
探求者―――
ラバットの存在を意味する証として、カードが示した答えはそれだった。
ブザムは現実主義者である。
結果と過程に意味を求めても、科学的な根拠を第一とする。
奇跡や非現実的事象は取るに足らぬと切り捨てる性質だが、この旅を通じてその認識も変わりつつあった。
何しろ、常識では説明できない出来事ばかりがこの旅で何度も起きている―――
「・・・あの男、この船に何かを探りに来たと?」
「―――と、アタシは見ているけどね。
ただ、あの男はとんでもなく狡猾で頭のいい男だ。
船内で下手な行動は起こさない筈さね」
「確かに目立った動きもありません。が―――
今後も周到に探りを入れてくる可能性は高いと思えます。
一刻も早い退艦通告を出すべきです」
危険性のある因子を捨てて、安全性を図る。
ラバットさえ居なくなれば、船内は再び平穏に戻るだろう。
どの道、共に歩む事のない人間だ。
強制的に追い払った所で、マグノ海賊団としては痛くも痒くもない。
現実的で、一番安全なやり方だろう。
今までそうしなかったのは、ひとえにラバットという男に興味があったからだ。
正確に言えばラバットが持っているであろう何か、だが。
船の安全と自らの興味――
どちらに天秤を傾けるかは、言わずと知れている。
「・・・・刻限は今日までにすべきだね。その後早急にお帰り願おう。
B.Cは監視を続行しておくれ。深入りはしなくていい」
「了解。それともう一つ、カイの事なのですが―――」
「ああ、聞いたよ。あの子もやるじゃないか。
メイアとすっかり仲良くなってさ・・・・」
何か別に行動を起こしているのは勘付いている。
本来規定外に相当する行為で注意しなければいけないのだが、カイはマグノ海賊団ではない。
立場的に微妙な位置にもあり、何よりマグノ本人が黙認していた。
カイのしでかした事をむしろ喜んでいるマグノに、ブザムも嘆息するしかない。
「搦め手から攻めているようですが、いかが致しましょう?
私から直接言い渡しましょうか」
別々に行動する事はメリットもあるが、デメリットも同じく存在する。
一方に不手際があれば、もう一方も被害を被るのだ。
マグノの命令で動いているブザムも足枷になれば、船の存続問題にすらなるかもしれない。
ブザムの危惧を、マグノは微笑んで首を振る。
「命令を聞くようなタマじゃないよ、あの坊やは。
かまわないから、もう少しやらせておやり」
「しかし―――」
「あの子がこの船に不利益になるような真似はしない。
それはあんたも理解しているだろう、B.C」
「はい」
ルールを越える自発的行動にはどうかと思っても、行動そのものに疑念は挟まない。
海賊への反感はまだあるようだが、女への反感は微塵も無い。
ブザムもその辺は承知しているからこそ、こうしてマグノに伺いを立てている。
少しでも疑念があるなら、マグノにいちいち尋ねずともカイを糾弾している。
副長たるブザムにはそれほどの権限がある。
マグノはふふっと笑って、手元に置いている杖を撫でる。
「でも、あの子もまだまだ青臭い所があるからねぇ・・・・・
B.Cが心配する気持ちも分かるさね。
少し見ておいてくれるかい?」
「・・・了解」
小さく苦笑しブザムは頷いて、姿勢を正す。
報告も済み、会議も締めくくりの流れにある。
いつまでも話し込む訳にもいかないので、ブザムはマグノに断って退出しようとする。
そこへ―――
『お頭、ご報告したい事があります!』
『パルフェ?どうしたんだい、そんなに慌てて・・・・』
その知らせは―――
「・・・・動き出したか。思っていたより早いな」
「ど、どうするドゥエロ君!?」
「決まっている。やる事は―――」
――船内に――
「―――やる事は一つよ、ジュラ」
「どうするつもりなの、バーネット?」
「任せて。私に考えが―――」
―――波紋を投げかける。
「―――考えがあるんだ。
嬢ちゃんには悪いが、俺にちょっと付き合ってもらうぜ」
「お店屋さん、どうして―――」
その全てを―――
「―――どうして一人で立ち向かうんだ、カイ」
「・・・あいつは借りがあるからさ」
―――巻き込んで。
<to be continues>
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