VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 8 -Who are you-
Action48 −未麗−
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二人はその後すっかり意気投合したのか、話も弾んでいる。
話題は多岐に及び、ディータが中心になって質問をしては答えを得ている形だった。
『じゃあ、お店屋さんはずっと一人でやってるんだ。
寂しくないの・・・・?』
『相棒が一人いるからな、そいつとうまくやってるよ。
ま、気軽なもんさ』
『そっか・・・じゃあディータもお友達になってあげる!』
『おっと、いいのかい?本気にしちまうぜ』
『宇宙人さんのお友達はディータのお友達だもん』
話を交えていく内に、ラバットもすっかり緊張を解いていた。
突然声を掛けられた時は身構えたものだが、目の前の少女に悪意は全然ない。
本当に興味本位、外の世界に憧れて質問に来たのだろう。
この少女を通せば、話が早そうだった。
ラバットはその後少し世間話に付き合い、突然今思い出したかのように話題を変える。
『そういや、この船の主動力はペークシスなのかい?
機材もさることながら、船の型式も古いみたいだが』
控え室からでも、ニルヴァーナ機関部に保管されているペークシスは見られる。
隣の部屋の大きなガラス越しを覗けば、それは充分可能だ。
あえて尋ねたのは、自分があくまで客人である立場を尊重する為だった。
下手に勘ぐれば、即座に疑いがかかる。
際立つ細心さに、メイアはカイが柄にも無く慎重に事を構えているのが分かった。
恐らく肌で感じたのだろう。
ラバットと言う男の異質性を―――
『そうよ。
あんたにもらったパーツをこれからテストしてみるとこ。
良かったら見てく?』
『おー、そいつはありがたいね。興味があったんだ。
俺が売った商品がお役に立てればいいんだが』
パルフェが先導し、そのまま別室へと向かう。
ラバットもその後に続き、ディータが残された所でメイアは耳打ちする。
(どうだ、あの男は?)
直接的な印象だけでは全体像が見えてこない。
少しでも多くの手掛かりを得るために、メイアはディータが感じた印象を聞いてみる。
(そんなに悪い人じゃないかなって思いました。
すっごく話し易くて、ディータに気を使ってくれたし・・・)
二人の様子を見ている限りでは、確かに悪い印象は与えない。
むしろカイの方が、初対面での印象が悪かった。
横柄で口も悪く、喧嘩腰な態度で我を振り回していた感じがする。
メイアは小声で、
(・・・とにかく、相手には気を許すな。
あくまでお前の役割は情報収集だ。
相手に感情を抱くと、まともな思考が働かないからな)
(は、はい!)
慌てて頷くディータに、メイアも表情を落ち着ける。
今日のディータは少なくとも失態は犯していない。
彼女なりに懸命に頑張り、聞き込みもスムーズにこなしていた。
ディータにすれば本当にただの世間話に過ぎなかったかもしれないが、相手により多くの言葉を引き出させたのは事実。
後はカイに伝え、検証させればいい。
(・・・それよりリーダー、宇宙人さんはどこに行ったんですか?
リーダーと一緒だったんじゃ・・・・)
聞かれた途端、メイアは表情を険しくする。
ディータがビクリと身体を震わせるのもかまわず、メイアは冷淡に言い放った。
(・・・さあな、私は知らん)
(で、でも・・・・)
(私は、知らない。いいな?)
(ラ、ラジャー!)
そう答えるしかなかった。
本当は気になって仕方が無いのだが、好奇心より恐怖が勝った。
下手に聞けば余計に怒られそうなので、ディータは身を引く。
常日頃の仕事ぶりに注意されるディータにとって、メイアの説教は心身共にきつい。
メイアは中空を仰ぎ見て嘆息し、ディータを振り返る。
(・・・そろそろ行こう。怪しまれる。
それと奴がいる前では、私の事はメイアと呼べ)
(わ、分かりました!頑張ります!)
(べ、別に頑張る事ではないが・・・・・)
一度や二度は仕方が無いが、何度もリーダーと呼ばれるのはまずい。
ラバットが下手に勘付いて身分を不審に思われれば、着替えまでした意味が無かった。
そのまま別室へと歩き、メイアはふと足を止めて、
『・・・成長したな、ディータ』
『え・・・?今、何か言いました?』
『・・・・何でもない』
――メイアをそんな風にした誰かさん――
パルフェの言葉が、メイアの中でいつまでも響いていた。
ペークシス・プラグマは厳重に保管されていた。
ガラス越しに見えるその姿は光に包まれており、船に力強いエネルギーを送っている。
タラーク軍母艦イカヅチに存在していた結晶体―――
さまざまな奇跡を起こした光の宝石は、今は静かに眠りに就いていた。
『これがそうよ。うちのペークシス君』
『・・・・・・・』
入室を促した後、パルフェがラバットにペークシスを見せた。
もっとも収められている保管庫への入室は許可できない。
触れる事は許されず、ただ見るだけ。
ラバットにそこまでの信用が無い以上、これは当然の処置だった。
ラバットも無理強いはしない。
そのまま促されるままにペークシスを見つめ―――
『・・・・・?』
最初に気付いたのはメイアだった。
隙一つ見せなかった男が―――
『・・・・自我が・・・・目覚めている・・・・』
―――顔が青ざめていた。
顔色は蒼白で、口元は震えている。
額からは汗が零れ、茫然自失といった佇まいで凝視し続けていた。
何か反応があるかも、とは思っていた。
ここへ来た目的がペークシスなのはすぐ分かった。
だからこそ始終監視していたのだが、まさかこれほどの反応を見せるとは思わなかった。
それに、何か気になる事を言っていた―――
(・・・自我・・・・?)
メイアもペークシスを見る。
ディータが変と言っていたが、自分でもそう思う。
エネルギーを乗せた光を放っているのは確かだが、その光に眩さが無い。
精細さにも欠けており、無機質な感じしかしない。
今のペークシスは、照明が少し強く光っているだけにしか見えない。
もっと乱暴な言い方をすれば、メイアにはただ光っているだけだとしか思えなかった。
以前見た時はもっと違っていた。
その光には麗しさがあり、見つめる者を惹き込む魅惑さがあった。
変質してしまったペークシス―――
衰えた結晶体に、この男は何を見たのだろうか?
メイアは固唾を飲んで見守る。
『・・・・精霊が・・・・聖霊に・・・・
自己・・自律・・・・・・・?いや、そりゃあ・・・・・でも・・・・
あの兵・・・・とすると・・・あいつ・・・・』
思い悩む様子で、何か独り言を口にしているラバット。
考え込む様子は今まで以上に真剣で、その雰囲気に圧倒される。
これがこの男の本質―――
メイアは今、その底に在りし男の素顔を目にした。
ラバットは不意にメイアの隣―――ディータをちらりと見て、
『このペークシス・・・・どこで見つけたんだ?』
パルフェやメイアに聞かなかったのは、素直に答えるからだと思ってだろう。
実際、ディータは何でもない事のように答えた。
『宇宙人さんの乗ってたお船だよ』
(・・・・上手い言い方だ・・・・)
考えて発言した訳ではないだろうが、メイアは内心感心する。
答えに嘘は無いが、簡易的だからこそ余分な情報が無い。
船が合体してとか、タラークの船を攻めて見つけたなどと言えばややこしくなる。
ディータの答えを聞いて、ラバットは真面目な顔で考え込む。
『あいつか・・・・
となると――――予想以上にとんでもねえ奴なのかもな』
『え、え、宇宙人さんの事・・・・?』
聞き耳を立ててか、ディータはそのまま反芻する。
『いや、何でもねえよ。
ところでもう一つ質問があるんだが、あいつの持ってた――――』
『ちょっと!何よ、これ!?』
突然響き渡った叫び声の主は―――
『パルフェが?』
『ああ、そして気を取られた瞬間―――』
口篭もるメイアの声を、カイが引き継いだ。
『あいつが赤髪を攫って逃げたって事か。
っち、厄介な事になりやがった・・・・・』
カイは舌打ちした。
<to be continues>
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