ＶＡＮＤＲＥＡＤ連載「Eternal Advance」




Chapter 8 -Who are you-






Action45 −搬入−

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「――――ねえ、ドゥエロ君」

「どうした、バート」


　何の物音もしない空間の中で―――

疲労が蓄積した声で、バートは重い口を開いた。


「・・・・僕達、何やっているのかな・・・・？」

「忘れたのか？
我々と女達は互いに手を結び、目的の為に邁進を―――」

「そうじゃなくて！」


　淡々と説明するドゥエロに我慢出来ず、バートは思わず立ち上がる。


「どうして僕達がカイの荷物を整理しなくちゃいけないのかって事だよ！」


　勢い余っての行動か、周囲にガラガラと何かが崩れる音が聞こえる。

八つ当たりじみた形で怒鳴りつけられたドゥエロだが、それでも表情は崩れない。

いつも通りのポーカーフェイスで、バートを横目で見る。


「カイに先程説明された筈だ。彼の言い分は一理ある。
あの男の身辺を調べるには有効な手立てだ。
バートもそれは理解している筈だ」

「まあ、引き受けたのは確かだけどさ・・・・・・・」


　バートは嘆息し、カイに聞かされた戦略内容を思い出す。
















――二時間前・ブリッジ直線路――
















『―――って事だ。話は大体分かったか？』

『うん、分かった！ディータに任せて！！』

『本当かよ・・・・何かへましたらすぐに言えよ。
で、次にバートにドゥエロ』


　やる気に満ちているディータに、不安を覚えるカイ。

それでも今説明した事項は、ディータが最適なのも確か。

戦略を説明して託した以上、後は信じるしかない。

余計な水を差すのはやめて、カイはドゥエロやバートの隣を歩く。


『ようやく僕達か。
随分話し込んでたみたいだけど、あの娘大丈夫なのか・・・・？』


　やり取りを横目で伺っていたのだろう。

信頼のない様子で尋ねるバートに、カイは小さく嘆息して答える。


『俺とかお前らじゃ逆に疑われるからな。
有力な情報を聞き出すには、相手に警戒されないようにしないといけない。
その点あいつだったら、疑えという方が無理だ。
考えてもみろよ―――』


　カイは苦笑して、


『共同生活始めた時から、あいつずっと俺らの所に来てたじゃねえか。
警戒も何もしないで、ずっとまとわりついて根掘り葉掘り聞いてよ・・・・
好奇心旺盛な奴だけど、別に俺達の弱点を知ろうとかじゃなかっただろう？』

『そ、それはまあ・・・・・』


　バートの記憶に新しいのは、ディータがカイにお弁当を持って来た事である。

美味しそうに食べるカイを純真に喜んでいたディータの横顔は、でも簡単に思い出せる。

好きでもなくただ懐柔に来たのなら、あんな表情は決して出来ない。

ディータの無垢なカイに向ける献身さは、同じ男のバートでも羨ましく感じられた。

ディータが殆ど毎日遊びに来ていたが、彼女に警戒心を抱かされた事は無い。

ドゥエロも同じく感じていたのか、


『あの男もこの船に滞在する以上、無茶は出来ない。
下手に行動を起こせば、我が身すら危ういのはあの男も承知している。
危害を加える必然性もない以上、聞き込み役にはうってつけだ』

『だろう？ま、後は聞き込みの結果次第だな。
どの程度の事を聞きだせるか・・・・・』


　その辺はもう祈るしかない。

カイも流石に全てを聞き出せるとは思っていない。

差し当たりの無い話で誤魔化される可能性だってある。

ディータがどれだけ頑張れるか―――

その結果から判断するしかなかった。


『で、僕達は何をすればいいんだい？』


　バ−トは興味津々で尋ねて来る。

他人にばかり気を取られている場合ではない。

カイに協力すると決めた以上、自分達に課せられた役割を第一優先で行う必要がある。

ドゥエロも無言でカイに目を向ける。

二人を交互に見渡して、カイは一つ頷いて口を開く。


『青髪と俺は監視、金髪と黒髪は船の調査、赤髪はラバット本人の聞き込み。
これで外堀は埋められると思う。
お前らには別の可能性を追ってもらう』

『別の可能性って？』


　怪訝な顔で聞いてくるバートに、カイは概略を説明する。


『あのおっさんは何か企んでいる。それは間違いない。
となると、調べなければいけないのは次の二つだ。
まず、あいつの正体―――
つまりあいつが何処の誰で、どんな奴か？
まず、これを突き止めなければいけない』


　頷く二人に、カイは人差し指を立てる。


『そしてもう一つ―――あいつの企みだ。
これは大体、見当がつく』

『わ、分かるのかよ！？』


　元々ラバットの企みを調べる為に始めた作戦である。

検討がついているなら、わざわざ調べる必要も無い。

バートの口からその疑問が滑り出す前に、カイはまあまあとバートを抑える。


『おおまかだ、おおまか。
ちょっと考えたら分かるだろう？
わざわざあんな強引なやり口で、この船に乗ってこようってんだぜ？
物見遊山で来る訳ねえ。
なら、何が狙いなのかは絞れるだろう？』

『人・船・物―――そのどれか』


　話を聞き入っていたドゥエロが、即座に解答を導き出す。

カイは口元を緩めて、大きく頷いた。


『多分、そのどれかだと思う。
―――というより、そうとしか考えられない。
問題はそのどれかなんだけど・・・・・』


　カイは思案げな顔をしたまま、ブリッジへの通路を歩き続ける。　


『まず「人」はない。
あいつは俺がタラークの出であるのを知っている。
タラークを知っているみたいだから、女達はメジェールの出であるのもすぐ分かるだろう。
正体なんか一瞬で分かる以上、向こうが気にする理由はない。
まさか刈り取りするじゃあるまいし』

『じゃあ残りは船と物か・・・』

『そ。
この船に――――あるいは蛮型やドレッドに興味がわいた。
もしくはこの船の中にある何かを奪うつもりなのか？
それが判明すれば未然に防げると思う』　　


　カイの推論を頭の中で吟味して、ドゥエロは異議を唱える。


『漠然としすぎているな・・・・下調べだけでは埒があかない。
どうするつもりだ？』

『それがお前らの仕事だよ』


　にっと笑って、カイは続ける。


『船内にある中で、最重要なモノだけ調べればいいんだ。
考えられる範囲では物資に戦闘機―――後はペークシス。
蛮型やドレッドはガスコーニュが、ペークシスはパルフェが管理している。
じゃ、お前らの調べなきゃいけないのは分かるな？』

『おいおい、まさか・・・・・・・
こ、この船の中にある物資を全部調べろとか言う気か！？』


　ニル・ヴァーナ船内で生活している人数は約１５０名+３名。

大所帯を抱える以上、必要とされる物資は膨大となるのは当たり前。

それに物資とは、何も食料のみとか限らない。

生活用品に衣料品・機体存続用の部品などなど、数え上げればきりが無い。

二人で全て調べていたら、作戦はおろか下手をすればこの旅が終わってしまう。

バートが激昂するのも無理は無い。

勢い込んで反論を口にするバートの頭を、カイは殴った。


『そんな訳ねえだろう！
お前らに調べて欲しいのは、今日搬入される物資だ』

『・・・・ミッションで手に入れた品か？』


　ドゥエロの問いをカイは肯定して、


『念の為だけどな。
普通に分け前としてくれるならいいんだけど、何かあったらやばい。
話し合いが終わって搬入されたら、お前等二人で調べてくれるか？
それで何かあればすぐ知らせてくれ。
どんな些細な事でもいい』


　とにかく、何が何でも手掛かりを手に入れたい。

ミッションで手に入れた物資の数々はカイ本人が集めた物も多いが、完全に網羅していない。

もしも危険な物が混入されていたり、後に悪影響を及ぼしそうな品があれば即時撤去する必要がある。


『どっちにしても大変そうだな・・・・・』


　物資を調べるとなると、当然肉体労働である。

しかも一つ一つ見ていくとなれば、手間のかかる作業だろう。

弁舌は得意だが体力に自信の無いバートは、露骨に嫌そうな顔をする。

バートは普段から特に努力が苦手としている。

手間暇かけて尚も報われなさそうな作業など、考えただけで嫌になった。

カイはバートの返答を聞き、そのままドゥエロに視線を向ける。


『ふーん・・・・・ドゥエロはどうよ？』

『・・・私は別にかまわん』


　実にあっさりとした答えだった。

事実、ドゥエロに不満は無い。

協力すると決めた以上、協力はする。

カイの説明を聞き自分の中で納得も出来たので、文句などありようもない。

ドゥエロに肯定されると、バートも立場が無くなる。


『・・・・ド、ドゥエロ君はオッケーなのか！？』

『カイが示唆する可能性は高くは無い。
が、調べてみる価値はある』

『そ、そっか・・・・うーん・・・・』


　それでも悩むバートに、カイは露骨に溜息を吐く。


『別に嫌ならいいぞ。他の奴に頼むから』

『ほ、他の奴って誰だよ！？
ここにいる面子以外で君が頼める奴なんて――――』


　いない、と言う前にカイは何気なく、


『アマローネ達とか、レジの連中とかかな。
無理そうだったら、パイロット連中の誰かでもいいさ』

『えええっ！？
い、何時の間にそんな仲良く・・・・・』


　すらすら挙げて行く候補者達に、バートは戦慄に似た感情を覚える。

カイは嘘は言っていない。

ただ話を広めると戦略的な効果が薄くなる事や、頼んで引き受けてくれるかは全く別問題なのだと言う事を口にしていないだけだった。

そんな裏事情を知らないバートは、焦ったように言う。


『わ、分かった！引き受ける、引き受けるから！！』


　ここで断れば、仲間外れになってしまう。

孤独の恐怖に覚えたバートは渋々承諾した。





『よしよし、じゃあ頼んだぜ。
危険物その他見つかったら、すぐに報告するように』


　こうして作戦は本格的に始まった―――





　「・・・で、結局何にもないじゃん。
食料とか部品とか何かごちゃごちゃしているけど、そんなに大したのは・・・・」　

「―――いや、そうでもない」


　バートの言葉を遮って、ドゥエロは言う。


「・・・・カイの目の付け所は正しかった。
ミッションで手に入れたというこの品、思わぬ形で役に立ちそうだ」

「ど、どういう事だい・・・？」


　訝しげに尋ねるバートに、ドゥエロは何かを企むかのごとく怪しく笑みを浮かべた。

＜to　be　continues＞

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