VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 8 -Who are you-
Action46 −自慢−
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一分一秒が歯痒い。
足の気だるさも荒げる肺の悲鳴も無視して、カイはただ駆ける―――
「事情を一から説明してくれ!
何でそうなったのか、全く分からん!」
挨拶もそこそこにレジから飛び出して、カイは元来た通路を走っていた。
肩で息をしながら、耳元に通信機を当てている。
今日もらったばかりの新品が、こうもいきなり役に立つとは思わなかった。
『私も少し混乱している・・・・』
切羽詰った様子で、通信気の向こうから声が飛び込む。
今日だけの相棒、メイア。
彼女のここまで慌てた声を聞くのは初めてかもしれない。
不謹慎だが妙にそれが可笑しくて、カイはそれで少しは落ち着いた。
『まさか機関室でとはな・・・・』
『・・・・私はどこぞの逃げ足の速い男を一人、捕まえる為だったのだがな』
「お、お前も根に持つな・・・・・・
大体あれはお前の誤解であって、別に―――」
『・・・別に私に言い訳はしなくていい。
お前が誰とどうしようが、私には関係はない』
突き放したい物言いなのは以前も今も変わらない。
―――なのに、何故か怒っているように聞こえるのはどうしてだろう?
通信機付属の小型モニターで見える表情にも、どこか不機嫌なオーラが漂っているように思える。
「そ、それで、機関室で何があったんだ?
お前の話だと・・・・」
『・・・・最初から説明した方がいいな。
まずお前を追って私がパルフェの元へ向かって―――』
『・・・・それでカイは飛び出して行ったのか』
『あははは、慌てて出て行ったよ。
よっぽど怖かったんだね、メイアが』
『やめてくれ・・・・・原因は全てあの男だ』
カイが出て行って十分も経たずにメイアが飛び込んできたのは、パルフェもびっくりだった。
距離的に考えて常識ではありえない速さだが、それだけ腹立だしかったのだろう。
カイがいないと分かった途端、その場にへたり込んだのにも驚いた。
とにかく事情を説明する為、パルフェはコーヒーを入れてメイアを椅子に座らせた。
『ちょっと悪ふざけしただけだよ。何にも危害なんて加えられていないから』
『・・・・パルフェがそういうなら、私もこれ以上問題にはしないが・・・・』
落ち着いて事情を聞かされ、渋々メイアは矛を収めた。
チームを任されるだけあって、メイアは冷静に物事を考えられる女性である。
感情的に物事を押し進めるカイとは違い、瑣末な事にいつまでも心は乱されない。
カップを傾けてコーヒーを口に含み、ブラックの苦味を楽しむ。
ふと前を見ると、パルフェが興味深そうにメイアを見ていた。
『な、何だ、そんなじろじろと・・・・?』
『ごめん、ごめん。ただ――――
メイアって本当、変わったなって思って』
何を指摘しているのかが分かり、カップを乱暴にテーブルに置く。
『・・・・誤解がないように言っておくが、私は好き好んでこんな服を着てはいない。
あの男に付き合ってやっているだけだ』
『でも、着ているよね?しっかりと』
『だ、だからそれは・・・・・!』
刺のある声が飛び出しそうになるのを、パルフェの穏やかな声が遮る。
『そもそもメイアが誰かの言う事を聞くって珍しいよ。
お頭や副長とかでもそうだけどさ、こう―――
いつも自分の姿勢は貫いていたじゃない、誰に対しても』
『・・・・・・・』
本当である。
例えマグノやブザムが何を言おうと、本質的な面でメイアは耳を傾けなかった。
言ってみれば本人の内面――――心の内である。
他者との馴れ合いを拒み、孤立して生きる事が強さを磨く原点であるという考え―――
メイアが普段パイロットスーツに身を包んでいるのも、パイロットだからと言う理由だけではない。
『お頭とかずっと心配してたみたいだし・・・・・
私、前からもったいないなって思ってたんだよ』
『な、何をだ?』
困惑するメイアを、パルフェは温かみのある眼差しで見つめる。
『メイアって皆に好かれているのに、友達とかいなかったみたいだから。
プライベートでメイアが遊んでいる所、見た事無かったし。
いっつも仕事だ何だって断ってたじゃない』
『・・・・それは・・・・・』
旅が始まってからではない。
マグノ海賊団に所属してからでも、メイアに友人と呼べる友人はいない。
確かにマグノ海賊団メンバーはメイアにとって大切な仲間だ。
上司であるマグノやブザム・ガスコーニュは尊敬しているし、同僚とは対等に付き合っている。
でも――――本当の意味で心を許しあえる人はいない。
誰かが悪いのではない。
何よりそれは・・・・・メイアは望んだ事だから。
『皆さ、遠慮したんだと思う。
とっつき難いとか言うより・・・・メイアが望んでいないみたいだから。
本人が嫌がれば意味ないもんね、そんなの。
嫌われたくないから、無理に近付かない。
結果――――誰も近づけず、近付かなくなった』
『・・・・・・・・・・』
メイアはただ俯く事しか出来ない。
パルフェの言葉に偽りは無い。
ただそれが―――――少し心苦しかった。
どうしてだろう・・・・・・?
孤立した生き方が最上だと信じて疑わなかったのに。
『・・・・考えてみれば、あたしらって皆そうだよね。
メジェールから追い出されて行き場無くして、ここに来て・・・・・
仲間だー同志だーっていう感じで一緒に生きて来たけど・・・・・・
皆、深く他人に干渉しようとはしなかった。
お頭やガスコさんだってそうだったし・・・・・』
少し静かになり―――メイアは静かに顔を上げる。
『・・・・私個人の意見だが・・・・
他人にはあまり立ち入るべきではないと思う。
相手を知ろうとする事は・・・・・相手の心に触れるという事だ。
深入りする事は・・・・・相手の心を抉る事にもなる。
お頭やガスコさんも気を遣ってくれていた。
本当の思い遣りとはそういったものだと思う・・・・』
相手を知るという行為は、相手の内面を見るという事である。
人にとって内面は、自分そのものでもある。
自分が好きな人間ならともかく、人は誰でも自分を愛せはしない。
哀しいが―――人には醜さや歪みもまた抱えている。
善悪―――矛盾した思い。
他人との共存を望む人もいれば、孤立を望む人もいる。
千差万別である限り、他人に深入りする行為は万人に受け入れられるとは決して言えない。
マグノ海賊団は特に環境の被害者や時代の悪しき流れに傷付いた人が多い。
不干渉を原則とするのは、むしろ当然かもしれない。
『・・・・メイアの言う事も分かるよ。
あたしだって友達少ないし、この子達とずっと一緒に遊んでたから』
テーブルの上に置いてあったパーツを手に、パルフェは笑う。
そのまま玩ぶようにパーツを弄り、テーブルに置いた。
『でも、メイアだけじゃなくて・・・・最近ちょっとずつ変わってきてるよね、皆』
『え・・・・・・?』
分かってるでしょう?と前置きして、パルフェはメイアを覗き込む。
『メイアをそんな風にした誰かさんのせいで』
『・・・・・・・・・』
黙りこんだメイアをそのままに、パルフェは続ける。
『不っ思議だよねー、本当に。
たった二ヶ月ちょっとで、面白いくらいかき回してくれたもん。
あたしらにずかずか入り込んで来てさ・・・・・
不干渉なあたし達を無視しまくりだよ』
・・・・心当たりなんて数え切れない。
文句を言おうが拒絶しようが、遠慮なく関わってきた。
言いたい事を言って、やりたい事をやっている。
子供のように我が侭だと思えば、大人のような行動力を見せる時もある。
不干渉なんて言葉は世界で一番似合わないだろう―――
『喧嘩もよくするし、言い争いも絶えない。
悪い事は悪いって言うあの性格もすごいわ。
なんせあたしらに―――マグノ海賊団相手に、海賊はよくないって言うんだよ?
人の物を奪うなんて最低だって。
当たり前だけど―――――
その当たり前にあたし達気付いてたかな・・・・?』
『・・・・・・・』
お頭であるマグノも反論は出来なかった。
海賊になったその背景は確かに複雑だ。
海賊にならなければ、今この世にいない人間も沢山いるだろう。
人の物を奪わなければ生きてはいけなかった。
それを知らずにただ悪いというのは、ひどく独善的だ。
でも―――――当たり前。
そう、当たり前なのだ。
人の物を奪うのは良くない事。
子供にだって理解は出来る。
『何が正しくて何が間違えているかなんて分からないけど・・・・・
あたしは結構歓迎してるよ、今を。
はっきり言っちゃうと―――』
メイアを正面から見据えて、
『今のメイア――――あたしは好きだな』
『パ、パルフェ・・・・!?』
パルフェはすっかり冷めてしまったコーヒーを口に運び、戸惑うメイアに面白そうに言う。
『ディータも何か明るくなったし、ジュラやバーネットも少し丸くなった感じだし。
まだ旅は続くけど、皆どんな風になるんだろう。
あたし、ちょっと楽しみにしてるんだ』
本当ににこにこした笑顔で、パルフェは楽しそうにしている。
何か言い返そうとして―――何も出ない自分に気付いた。
そういえば・・・・・・・・
自分を見下ろしてみる。
スカートを穿いたのは――――――何年ぶりだろう?
『・・・・・パルフェも・・・・少し変わったよ』
『え、そ、そうかな・・・・!?』
『・・・ああ』
目元緩やかに、メイアはカップを傾けた。
『そこへ、あの男とディータがやって来た―――』
「二人揃って、か・・・・」
カイは引き続き、耳を傾けた。
<to be continues>
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