VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 8 -Who are you-






Action44 −遊戯−




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 たまに思う。

どうしてこう、器用に生きられないのかと・・・・?

確かに決めたのは自分である。

自分自身で決断し、自分自身のみで生きて行こうと今も頑張っている。

つまらない見栄だとは思う。

くだらない意地だとも思う。

どうしようもないカッコつけなのは自覚している。

・・・でも、自分の選んだ道に後悔はなかった。

自分だけは捨てられない―――

何だかんだ言っても―――――そんな自分が好きなのかもしれない。


「・・・・で、そんな汗だくになっているんだね」

「・・・ほっとけ」


 マグノ海賊団兵装管理施設・レジシステム。

戦闘前及び海賊本来の職務における最重要管理を任されているのが、ここレジであった。

言い換えれば、平穏な日常ではその役割は極端に少なくなる。

例えば持ち場を取り仕切るチーフ、ここでは店長と呼ばれる人物が来客相手にゲームが出来るくらいだ。


「エレベータを使えばここまで一瞬じゃないか。
お前さんも頑固と言うか、意地っぱりというか・・・・二枚チェンジ」

「うっさいな、お前も!緊急事態だったんだよ。
そこまで考えは回らねえ。
もうくたくただよ・・・三枚チェンジ」


 カイがここを訪れたのはほぼ偶然だった。

機関室を飛び出して当てもないまま駆け出している内に、この付近に来たのである。

打算が働いたのは、近くにレジがあると分かってからだ。

メイアは恐らく―――いや、確実に追ってくる。

この艦内における地理の利は向こう側にある。

生真面目な性格からして、きっと艦内に至る全ての通路を把握しているだろう。

闇雲に逃げても捕まるのがオチだ。

そう判断しメイアがおいそれと立ち寄らない場所を考慮して、ここへと潜り込んで来た。

ここならガスコーニュがいるので、メイアも易々と怒鳴り込めない。

責任や規則には厳しいメイアだからこそ、敷居の高い場所でもある。

そして何よりガスコーニュは――――自分の不幸を面白がる。

恐怖から艦内を全力疾走して疲れ果てたカイは、渋々ここを滞在場所とした。


「メイアに追われてるんだって?
何したんだい、今度は・・・・・+10ポイント」

「な、何をって―――
冷静に考えてみれば、あいつがあんなに怒る事でもないんだけどな・・・・+20ポイント」

「あんたにその気がなくても、メイアにとっては気分を害する事かもしれないよ。
不真面目なあんたと真面目なあの娘じゃね・・・・+20ポイント」

「堅苦しいだけだよ、あいつは。
ま、今回は色々頼りにはしているけど・・・・・・うーん・・・・+30ポイント」


 ここへ訪れて、ガスコーニュとカイは対面した。

思えばこうして話をするのは漂流以降で、久しぶりだった。

ホフヌング受け渡しの際にも話はしたが、あくまで連絡事項のみ。

その後は戦いなどが重なって、カイは落ち着いた時間も満足に取れなかった。

それを言うなら今でもそうなのだが、一時的に休息するくらいは大丈夫だった。

突然の珍客にガスコーニュは仕事の手を止めて、カイを迎え入れる。

―――そして今、二人は真剣勝負をしていた。


「おやおや、強気だね・・・・・・負けたら大損害だよ」

「男に二言はねえ!
お前こそ、やけに強気じゃねえか」

「ふふん、アタシの手札を見て度肝を抜くあんたの顔が目に浮かぶよ」

「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ・・・・
で、どうすんだよ。勝負か?降りるのか?」

「誰が。+50」

「うぐぐ・・・・・・」


 種目はポーカー。

カードゲームではお馴染みだが、ガスコーニュはこのゲームを好んでいる。

趣味の一環で常にトランプを携帯しており、休憩時間相手を見つけては勝負を誘う。

もっともガスコーニュの勝負強さはクルー内でも評判で、今では自ら相手をしようとする者はいない。

不満に思っていた矢先に登場したのがカイである。

カイはカイで育ての親マーカスからルールは教わっており、相手も何度かさせられていた。

もともと勝負事は好きな性質である。

仕事も少なく暇に任せたガスコーニュに誘われ、カイは対面に座ってトランプを手に奮闘していた。


「どうするんだい?このまま勝負でもいいよ」

「上等だ。俺も+50で勝負と行こうじゃねえか」


 ここでのポーカー勝負によるルールは至って簡単。

手札チェンジは一回のみ、後は手札の強さを競うだけ。

その際ゲームをスリリングにする意味をこめて、自分のポイントを賭け合う。

互いにポイントを出し合い、払えなくなってもその場で負けが決まってしまう。

ポイントとはマグノ海賊団内で支給されるお金に匹敵する代価の事。

ガスコーニュは当然として、カイはというとマグノ海賊団一味ではない。

あくまで立場は自立しているのでポイントも何も無いのだが、ガスコーニュが代わりに支給した。

施しが嫌いなカイは拒否したのだが―――





『以前、レジで働いてくれた分さ。
半日だけだけど、立派な働きぶりだったよ』





 そう言われれば、カイも断る理由は無い。

第一、この船で今後生活していくにはポイントがどうしても必要となる。

その為の『何でも屋』設立だが、今のところお客さんは0。

ここでポイントを稼げるならば、願ったり叶ったりだった。


『勝負!』


 互いに睨み合い、持っていたカードを一斉に広げる――――


「エースとクイーンの2ペア」


 カイが持ち札を勝負の舞台へ投入する。


「キングのスリーカード」


 そして、ガスコーニュが対抗。

2ペアと3カード―――

札の強さはカイが上回ったが、この場合・・・・・・・


「くっそぉぉぉぉぉっ!
何でここでスリーカードなんだよ!!」

「アタシに聞かれてもね・・・・・・
とりあえず、何を言おうとあんたの負けは負け」


 ポーカは手札そのものの強さも重要だが、布陣も大切となる。

この場合2ペアと3カードでは、布陣そのものの強さでガスコーニュが上回る。

あえなく、カイは賭けたポイントの全てを支払う事となった。


「・・・・・くううー、折角美味い飯が食えると思ったのに・・・・思ったのにぃぃ!!」

「男は言い訳しないんだろう?」

「と、当然だ。持ってけ、この野郎!」


 ポイントの受け渡し等は、コンピューターを通して行われる。

マグノ海賊団一員が持つデータプレートにて操作可能なのだが、カイは持っていない。

その為審判役を務める副店長候補の茶色い髪の女の子が、その操作を行った。

カイとはレジ見習の時に先輩を務め、予備ドレッド出撃にてホーミングミサイルを搭載したあの女の子である。


「またカイの負け。
・・・・・もういい加減止めたら?
うちの店長、すっごく強いんだから」


 今だ仲違いの激しい関係なのだが、少なくともカイはレジクルーとは比較的仲良くしていた。

カイがガスコーニュお気に入りという事もある。

仕事を共にし、仲間を助けた雄姿を間近で見たクルー達にとってカイはもう一員に近い。


「やだ。勝つまで止めない。
負けを取り返さないと、俺は明日から生きていけん」

「・・・・ひ、必死な意見ね・・・・・」


 再勝負とばかりにカードを手にするカイに、ガスコーニュは朴杖を突きながら、


「まあ、アタシは別にかまわないけど・・・・いいのかい?
あの男を放っておいても―――」

「そ、それはそうなんだが・・・・・」


 カイとて遊んでいられる状況ではない。

ラバットはまだこの船にいて、今もどこかで行動している。

企みも判明しておらず、何をするか分からない状態なのだ。

一刻も早く突き止めて、船の安全を確保しなければいけない。


「カイはどうしてあの男をそんなに警戒してるの?」


 ポイント転送作業を完了させ、茶髪の女の子はカイを見る。

同感と、話を聞いていた他クルーも話に乗ってくる。

店長が暇なら、クルー達も暇なのである。


「結構評判いいよ、あの人。商品も無料でくれたっていうし」

「話上手で相手をしていて楽しいんだって」

「女の子の扱いを心得ているって感じよね。
優しいし、気遣いもしてくれるみたいだから」


 どうやら、ラバットの商売時の様子が噂になって広まっているらしい。

仕事中のクルー達にも伝わっているのだから、相当の評判のようだ。

話半分でも中傷の類は欠片も無く、まず間違いなく受け入れられつつある。

その男の正体を掴むまでは内密行動の件は関係者以外秘密で、事情を話すわけにもいかない。

かといって、気分的には面白くない。

陰口を叩くのは性に合わないので、カイはつまらなさそうに言う。


「たく、尻軽な連中だな。俺らが船にいるだけでいつもわーわー言ってるくせに」

「おや?ひがんでいるのかい」

「な・め・ん・な!
女ってのは本っっっっ当に分からねえって言ってんだ」


 共同生活が始まった時はおろか、船内で捕まった時さえ嫌な顔をされた。

最初なぞ話すら聞いてもくれなかったのだ。

二ヶ月経っている今でも、半数以上には敬遠や無視をされている。

比べて、同じ男なのにあっさり女達に好かれているラバット。

男としての器の違いか、女の男を見る目がおかしいのか―――

昔からそうだが、今でもカイは女という存在が理解出来ない。

疲れた顔で悩んでいるカイを、ガスコーニュはしばし眺めて口を開く。


「・・・・ま、確かに評判はいいみたいだけどね。
表面上は、だけど」

「?どういう事だよ」


 ガスコーニュは口に咥えている長楊枝の先端を、そのままカイにぴっと突き付ける。


「あんたはまだまだ表面上でしか見てないってこと。
前にも言ったけど、視野を大きく持って物事を見つめないと駄目さ」

「・・・個とかより全とかって言ってたあれか?」

「覚えているじゃないか。つまり、そういう事」


 メイアと喧嘩し、パイロットを辞めた当時―――

ガスコーニュの下で働いていたカイは諭された事があった。

今でも印象的で、その言葉でカイは側面ばかり見ていた自分に気付いた。

思えば、戦いの際に常に戦略を組み上げる思考を持てたのもその時からかもしれない。

猪突猛進だった戦い方に幅ができ、女についてを考えさせられた。

逆を言えば――――だからこそ女を知ろうとし、女がより分からなくなったとも言える。

ガスコーニュは続けた。


「お前さんが思っているほど、女は馬鹿でも単純でもないよ。
もうちょっと信じてあげな」

「うーん・・・・・」


 ラバットにあっさりなびいた女達に腹を立てたのは事実。

でも一方で――――信じている女達もいる。

自分に好意を向けてくれる者もまたいる。

好意を向ける女――――脳内で一人あっさり連想出来た。

カイはあの娘の能天気な笑顔を思い出し、苦笑してしまう。


「・・・そういや、何か静かだと思ったらディータがいないね」

「うがっ!?」

「・・・?」

「な、何でもない何でもない!!」


 頭の中を読まれたのか、と激しく動揺するカイ。

幸いガスコーニュは気付いていない様子なので、カイは呼吸を整えて取り繕う。


「あいつは別の所で仕事中。
・・・・・まあ・・・ぼけっとしてるけど馬鹿じゃねえから、そろそろ行動に移ってるだろうな」

「?何の話だい?
メイアの事といい、あんた何か企んでいるんじゃないだろうね」


 ガスコーニュにもカイは事情は説明していない。

メイアに追われている事情は伝えても、その背景までは教えなかったのだ。

作戦は常に秘密裏に―――

今回の戦略に必須となる条件だった。


「青髪は別にして、赤髪は重要な役割を担ってもらっているだけさ。
とびっきりのな」


 カイはにっと笑って視線を向ける。


「あいつには特別な才能がある。
俺も最近気付いたんだが」

「才能・・・・あの娘が?」


 ディータは新人で、しかもクル−の間で評判は良くない事は知っている。

能力の有無で他人を卑下はしないガスコーニュだが、それでもディータが欠点の多い娘である事は認めざるをえない。

能力不足は、ディータが他の皆に良い印象を与えていない原因のまぎれもない一つだ。

そんなディータに――――カイは才能があると言う。

耳を傾けるガスコーニュに、カイは断言する。


「ああ、立派な才能だぜ。
俺やあんた―――あのばあさんにだって持っていない」


カイはそのまま頭の後ろに腕を組み、そっと見上げる。


「あいつは大丈夫。
むしろ大変なのは・・・・・・」


 心底楽しげにくっくと笑って、
















「バートとドゥエロの方さ。
ひぃひぃ言っている様子が目に浮かぶよ」
















 ガスコーニュや他のクルー達は声もなく、ただカイを見つめていた。

そこへ―――





「・・・・ん?通信機・・・・?」





 カイは椅子から立ち上がって、仕舞っていた通信機を取り出す。

騒ぎでバタバタしたが、何だかんだ言ってちゃんと携帯している。

カイはそのまま点滅している通信機のボタンを押した。





『カイッ!!』
















 ―――魂が―――――凍りついたー―――
















『うわっ、青髪!?
ちょ、ちょっと待て。待ってください!
穏便に話を・・・・・!!』


『それどころじゃない!
ディータが・・・・・・・ディータが!!』


「な、なんだよ・・・・・?
あいつがどうした・・・・・?』




























『―――――――!』




































『・・・・・・・・え!?』

































<to be continues>

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