VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 8 -Who are you-






Action43 −接触−




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 ――いいか?よーく、その軽い頭に自分の役割を叩き込んでおけよ――
















 あの人は与えてくれた。

自分の為すべき役割を―――

少女は自分なりに顔を引き締めて、一語一句を胸に収めようとする。
















――お前が一番適任だ―――
















 頼りにされている。

あの人がここまで自分を必要としてくれたのは、初めてだった。

だから、応える。

自分に出来る精一杯で頑張る。

ミッションで芽生えた自立心を胸に、ディータは静かに行動を開始した―――
















「・・・・えーと、確かこっちの方に歩いて行って・・・・」


 右往左往しながら、ディータは広い艦内を歩き回る。

傍らには誰もおらず、通路を一人で歩いている。

現在位置はニルヴァーナ下部、つまりは旧海賊母艦側である。

通路に関しての把握は全てではないが、日常生活に支障は無い程度に覚えている。

記憶と案内図を頼りに、ディータは必死で迷わないようにしていた。

目的は今回のターゲット・ラバット――

商売終了後、姿を消したラバットをディータは目撃情報を頼りにその足取りを追っている。


「・・・宇宙人さん。ディータ、頑張るから!」


 誰も居ない通路に、ディータの明るい掛け声は幅広く木霊した。
















『お前の役割は聞き込みだ』


 二時間前、ブリッジ直線通路にて――

他メイア・ジュラ・ドゥエロ・バートと共に、ディータは説明を聞いている。

いよいよ自分の番とあって、ディータは気分を高揚させていた。


『俺と青髪であいつを徹底的に監視する。
金髪と黒髪はあいつの船を調べる。
お前は直接あいつと会って話せ』

『ディ、ディータがお店屋さんと!?』


 目をまん丸にして、ディータは自分の役割に驚愕する。

カイはカイで何気ない言葉に違和感を覚えて、問い返す。


『なんだ、そのお店屋ってのは?』

『え・・・・・?
だってだって宇宙人さん、さっきあの人商売するって言ってたから』

『・・・・お前は人の名前を覚えられないのか?
しかも呼び方がなんか親しげだし』


 悪いか良いかはともかくとして、ディータは常に男を呼ぶ時に名前を使わない。

では嫌っているのかと言えばそうではなく、呼称にしても可愛らしい。

今まで本当の意味で出会った男はラバットを除けば三人。

その三人にしても、カイには宇宙人さん、ドゥエロはお医者さん、バートは運転手さんと呼んでいる。

ディータなりに親しみを込めて呼んでいるのだろうが、カイには理解し難い感性だった。


『お前な・・・・・・俺もそうだが、ちゃんと名前で呼べよ。
前から気になってたけど、俺が一番変な呼び方じゃねえか。
お前の法則に従えば、俺はパイロットさんとかじゃねえのか?
何で宇宙人なんだよ?』

『・・・・で、でも宇宙人さんは宇宙人さんだもん!
宇宙人さんはディータにとって一人だけだから・・・・』


 ディータにとって宇宙人はカイ一人だった。

異星人とのファーストコンタクト―――

ディータはカイを宇宙人と呼ぶのも、ようやく巡り会えた憧れそのものだったからだ。

そして今はより特別に声に乗せて呼んでいる―――

ディータにとっては、例えマグノでも譲れない大切な呼び方なのだ。

そう言われては、カイも表立って非難は出来ない。

困り果てたように頭を掻いていると、話を聞いていたのかメイアが嘆息して、


『・・・・人を髪の色で呼ぶお前に、名前がどうだの言う権利は無いと思うのだが?』

『ぐ・・・・』


 何も言い返せないカイ。

ディータは男の名前を覚えないのではなく、親しみを込めて色々な呼称を用いる。

言ってみれば、友達相手に呼ぶあだ名に近い。

対してカイがメイア達を名前で呼ばないのは、実は特に理由も何もなかったりする。

特にイカヅチで実際に話をした面々には今でも名前を呼ばず、髪の色で呼び掛けている始末だ。

流石にニル・ヴァーナ誕生後に出会った人達は名前で呼ぶが、メイア達はそのまま。

どちらが失礼なのかは言うまでも無かった。

カイは気まずげに視線を漂わせて、おもむろにコホンと咳払いする。


『それでだな―――』

『強引に話を戻すところに苦しさを感じるわね』

『ほっとけ、こんちくしょう!』


 ふふんと鼻で笑うバーネットを一睨みして、カイは気持ちを切り替える。

いつまでも雑談している状況ではない。

ブリッジに着けば、ラバットがマグノと本格的に交渉に入る。

それまでに戦略を実行する準備を整えなければいけない。


『続けるぞ。
俺と青髪は監視するが、ずっとって訳にはいかねえ。
俺達二人がいる限り、あいつは行動を起こし辛くなるからな。
だから何時になるかは分からないが、一時的に身を離す。
お前はその隙にあいつに接近しろ』

『う、うん・・・・・ディータ、頑張るよ!』

『・・・頑張るのはいいけど、お前ちゃんと聞く内容理解しているよな?
まさかとは思うけど、「この船に何しに来たの?」とかストレートに聞くなよ』

『えっ?!だ、駄目なの・・・・?』

『誰がそんなのに正直に答えるか、あほ!
・・・・人選誤ったかな、やっぱ・・・・』


 のほほんとした顔をしているディータに、カイは頭を抱える。


『何度も言うけど、気付かれたら終わりなんだ。
あの親父が尻尾を出してくれないと、得る物も得られない。
お前の聞き込みは、そういう意味で非常に重要なんだ』

『そ、そうなんだ・・・・・・
で、でもどうしたらいいかな・・・?』


 ディータに交渉術のスキルはない。

パイロットとしても半人前であり、マグノ海賊団に入団して間もない彼女に経験も無い。

ブザムやマグノのような手腕や話術を期待するのは無理があった。

カイもその辺は承知している。


『・・・別にかしこまる事はねえんだよ』 


 むしろ―――


『お前はお前らしくやりゃあいいんだ。
そうすりゃあ、かなりいい情報が聞きだせるぜ』


 カイはあくまで、ディータを信じている。

それを裏付けるかのように、カイは何の迷いも無い笑みを浮かべてディータに耳打ちした。
















「あ、いた!お店屋さん、お店屋さーーーーん!!」

「ん?
おっと、可愛らしいお客さんだな」


 着艦させたゲート内部から出て来たラバットに、元気良く手を振って駆け寄るディータ。

表面の明るさとは裏腹に、その心は緊張に震えていた。


(・・・・えとえと、宇宙人さんに教えてもらったように・・・・)


 胸に手を当ててすーはーと深呼吸する。

突然深呼吸など奇妙なものだが、愛らしく見えてしまうのはディータゆえの特権だろう。

ラバットも目を細めて、ディータの様子を見つめている。

その目に敵意や警戒はないところを見ると、害意のない存在だと初見で判断はしたようだ。


「どうしたんだい、お嬢ちゃん?追加注文だったら大歓迎だぜ」

「えーとね・・・・」


 愛想良く話し掛けて来るラバットを目にし、ディータは先程のカイの忠告を思い出す。





――あいつの言葉に惑わされるな。耳を貸すな。
シカトして話し掛けろ――





 ディータはぎゅっと拳を握り締めて、努めて明るい口調で話し掛ける。


「ちょっとね・・・・・・・お店屋さんとお話したいの」

「ほう・・・・お嬢さんはディータってのかい。 俺に話ってのはなんだい?」


 表面は明るく、言葉静かに問い掛けるラバット。

そんなラバットを見上げて―――
















――情報を探ろうとするな。後でお前の話を聞いて、俺が全部判断する。
お前はお前の聞きたい事を聞け―――





――聞きたい事?――





――お前の得意分野だろうが。あれを聞けばいいんだ――
















「ディータね・・・・・・」
















――キメ台詞だけ伝授してやる。
いいか?あいつに向かって・・・・・・―――
















「男と女について、知りたいの」


 やんわり頬を染めて、ディータは恥かしそうにラバットにそう言った。

































<to be continues>

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