VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 8 -Who are you-
Action42 −密会−
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ある意味意外で、ある意味当然の人物。
暗闇の中より現れた人物を見て、バ−ネットは銃を下ろした。
敵ではない者に銃は向けられない。
ましてや、それが自分の上司ともなれば反逆罪で罰せられてしまう。
ラバット艦の裏側に身を潜めながら、バーネットはじっと見つめる。
突如訪れたブザムの動向を――
(・・・・ちょっと、バーネット。
どうして副長がここにいるのよ)
露出した素肌を突付き、小声でジュラが尋ねる。
バーネットは視線を外さないまま、そっと返答した。
(・・・あたしらと同じ目的でしょ。
あの男の素性を調べに来たのよ)
考えてみればおかしい事は無い。
ラバットの身元が不明なのは最初からであり、歓迎して迎え入れた人物ではない。
表面的には衝突しなくても、互いが互いを疑っている。
カイが内々に調査しているのと同じように、ブザムも内密で調べているのだ。
恐らく、クルーの誰にも秘密で――
(ふーん、じゃあカイと同じ目的なんだ)
(当然よ。船の安全を守りたいのはあいつだけじゃないわ。
副長なら即行動を起こして不思議じゃない)
敵に回せば恐ろしいが、味方なら心強い。
ブザムの副長としての辣腕ぶりは、クルーの誰もが認めている。
肝心な局面でヘマをやらかしたりは到底しないだろう。
見つめる最中、ブザムは船の点検を行っているようだった。
一つ一つ目視して、危険が無いかどうかを確かめている。
(・・・このままロックも解除してくれると助かるんだけど)
心の内で期待しつつ、今後どうするべきかをバーネットは考える。
ラバットではないのだし、隠れる必要も無い。
堂々と姿を見せても、事態が悪化する事はありえない。
ただ問題はその相手がブザムだという部分だった。
他の誰かならともかく、規律に厳しいブザムが今の自分達を見れば追及されるだろう。
ここで何をしているのか?
頼まれてやったと言えば、誰に頼まれた?と尋ねられる。
ジュラもそうだが、バーネットも口が上手くはない。
下手な誤魔化しは即看破されて、泥沼に陥ってしまいそうだった。
カイが中心人物だと言えばそれで済むのだが―――
(・・・・このまま隠れていた方がいいよね、バーネット?)
(え・・・?)
驚いた顔で見つめるバーネットに、ジュラはきょとんとした顔で言う。
(だって見つかったら、カイがこっそり調査しているのがばれるじゃない。
あいつは気にしないだろうけど、それはちょっとね・・・・)
あのジュラが相手を気遣っている―――
しかもその対象がカイなのだ。
バーネットは驚愕の色を隠せないでいた。
無論、バーネットも内心では同意見ではある。
協力すると約束した以上、何はどうあれカイは仲間だ。
仲間を裏切る真似は絶対出来ない。
ここで隠れて、ブザムに気付かれないままでいた方がいい。
人情的な面でバーネットも賛成だったが、ジュラがまさか同じ考えだとは思わなかった。
ジュラは男であれ女であれ、選り好みが激しい。
好きな人はとことん好きになれるのだが、反面なかなか他人に打ち解けない困った性格がある。
なまじ容姿に恵まれたせいもあるのだろう。
誰よりも特別でありたいと思うがゆえに、他人を見下ろしてしまうのだ。
そんな彼女が、一定の個人に誠意を見せている。
ジュラとの付き合いは数年程度だが、これほど短期間で心を許した人物は自分以外そういない。
本人にも自覚は無いのかもしれないが、その兆候は確実に出て来ている。
その変化を歓迎すべきかどうかは別にしても―――
(ディータは元々ああだけど・・・・メイアもそう。
あいつに感化されて来ているのかな・・・)
以前よりあった疑問だが、結局その答えは出ていない。
バーネットは首を振って、雑念を払った。
何だかんだ言ったところで、自分も仲間入りしてしまっている。
ジュラにどう言っても説得力は無い。
ジュラの意見に無言で肯定して、バーネットは引き続きブザムの観察を行う。
「・・・・・」
無駄口一つ叩かず、ブザムは船への出入り口へと歩み寄る。
ジュラとバーネットが立ち止まった付近――
自動扉のロックによる進入禁止ポイントで、ブザムも足を止めた。
二人はその場で調査を断念した。
ロックがかかっている以上、船内を調べる事は出来ない。
下手に操作を加えれば跡を残してしまい、後に痕跡を見破られてしまう。
ブザムとて、ここから先へは進むのは難しい筈だ。
そう思って見ていたのだが―――
(・・・・え・・・?)
懐から何かを取り出して、即座に細い指を当てるブザム。
遠目で薄暗いとあってバーネットもよく見えないが、ブザムが手にしているのはデータプレートだった。
膨大な情報を保有し、外部入力による情報操作を可能とする機械――
ブザムは出入り口のセキュリティシステムとコードを用いて繋ぎ、手早い操作を行っていた。
(まさか・・・解除出来るの!?)
ブザムの表情に何の変化も無い。
焦りも無ければ動揺もなく、冷静にプレートの操作を続けている。
難航しているようには見えず、むしろ簡単にロック解除を行っているようだった。
(・・・すごい・・・副長・・・)
まさか外部からのロック解除を出来るとは思わず、バーネットは暗がりから感嘆の声を漏らしそうになった。
マグノ海賊団をまとめあげて、マグノの手助けを随時行う補佐的役目。
陰に隠れているようでも、その雑務でさえ余念ない仕事振りを発揮している。
そんなブザムのスキルの一つを見せ付けられて、バーネットは副長の底知れなさに身震いする。
考えている間にもブザムは作業を続けて、やがてプレートから手を離して解除を―――
「これはこれは、思い掛けないお客さんがいたもんだ」
(・・・・・なっ!?)
身を乗り出しそうになるのを、慌てて引っ込める。
ブザムの背後の暗闇から聞こえた野太い声は、まさしく―――
「商売に精を出していると思ったが・・・?」
「思っていたより好評でね、あっという間に売り切れだ。
在庫取りに来たんだが・・・・
まさかいい女の出迎えがあるとは意外だったな」
飄々と、暗がりよりどっしりとラバットが出て来る。
真意の程は定かではないが、見付かってしまったのには変わりは無い。
脇で見ている二人はハラハラものだった。
(ちょ、ちょっと!まずいんじゃないの、これ!?)
(そ、そうだけど・・・あたしらじゃ口出せないわよ!?)
ここに居るのは、仲間の誰にも秘密にしている。
カイが厳密に言い渡した事であり、作戦成功に必須だと厳命したのだ。
身内の誰かにばらせば、そのまま広まってしまう可能性がある。
噂に戸を立てるのは不可能であり、内緒事にすればするほど興味を掻き立ててしまう。
加えて、ラバット本人まで居るのだ。
ここで出て行けば、自分達は船を調べていましたと公言するのと変わらない。
二人は固唾を飲んで見守るしかなかった・・・・
「で、調べ物は済んだのかい?」
周囲の動揺を尻目に、気楽な調子で尋ねるラバット。
内密で自分の調査をされていたのにもかかわらず、その口振りは軽い。
「変わった船だな、これは・・・・
博識ではないが、今までに見た事の無いタイプだ。
カイと戦ったあの戦闘機同様にな」
半ば感心しているようで、詰問口調なブザム。
姿を見られても、その表情に何の動揺も感情も無い。
佇まいも平然としており、整った顔立ちに一糸の乱れも無かった。
ラバットはしばしブザムを見つめ、表情を深くして歩み寄る。
「船に興味があるのかい?
それとも・・・・俺に、かな?」
恐れの知らない足取りで間近に接近し、ブザムの顔を覗き込む。
息がかかる距離にまで顔を近づけられて、それでもブザムは顔色一つ変えない。
すました表情のまま、口を開いた。
「・・・尋ねれば、答えてもらえるのかな?」
「女に興味を持たれて喜ばねえ男はいねえよ。
ましてやあんた程の美人なら・・・・大歓迎さ」
ふっと笑って、そのままブザムの顎を掴んで持ち上げる。
女性の扱いは心得ているのか、強引に見えるその仕草も力強くそれでいて自然に見えてしまう。
暗がりの中で身を寄せ合う大人の男と女――
二人の顔はゆっくりと近付いて・・・・・
(わ、わっ!?何よ、何この展開!?)
(・・・ふ、副長・・・・)
故意ではないにしろ、覗き見をしているのに変わりはない。
男と女が唇を寄せ合う光景は、ジュラにもバーネットにも初めてであった。
本来なら嫌悪すべき姿である。
メジェールで生きて来た女性にとって、男はゴミ以下の生き物である。
ましてや女性にとって接吻は気持ちへの睦みであり、純然で無垢な想いへの証。
男に唇を許す事は、己が身を汚すのと同義である。
(・・・・・・・・)
(・・・・・・・・)
―――なのだが、二人は目を離せずにいた。
小声で揉め合っていたのに、今は無言。
ただ純粋に――――胸の鼓動を抑えていた。
(・・・・男・・・・・)
ジュラは夢想に耽る―――
男に興味が出ていたのは、つい最近だった。
いや男に、という表現は少し違う。
ジュラが興味を示しているのは、男は男でもたった一人であり個人だった。
無邪気に夢を語っている少年の顔を思い浮かべる―――
(・・・・男と女でも、その・・・・
あ、あんな事出来るのかしら・・・・?)
バーネットもバーネットで、自問自答を繰り返している。
余程混乱しているのか、肌艶のいい頬に赤みが差していた。
手出しする訳にもいかず、さりとて目も反らせられない。
心身が芯から熱くなり、沸き上がる興奮に頭が真っ白になる。
二人は自ずと食い入るように、その光景を凝視していた。
やがて二つの影は一つに重なり―――
「・・・・っと!?危ない危ない・・・・」
触れ合う寸前、ラバットは身体を強張らせて身を離した。
(・・・・・・・)
どうして?の疑問と、よかった・・・の安堵。
迫ったのはラバットなのに、本人から身を引いた。
バーネットは息を吐いて改めて身を潜め、状況を観察する。
ブザムが何かをしたのかと見るが、特に変わった感じは無い。
ただ悠然とした態度で、ラバットに視線を向けていた。
「・・・もういいのかな?」
それどころか、艶やかに笑みを浮かべてラバットに相対する。
怯える様子も無い毅然とした姿勢に、バーネットもジュラも安心したように胸を撫で下ろした。
「お近づきになりたい所だが・・・・あんたは止めておこう。
俺の勘がやばいって警告してるんでな・・・・」
ラバットは断言する。
「あんたは――――やばそうだ」
降参とばかりに両手を挙げるラバットに、ブザムは何も言わず静かに笑みを零している。
両者共に友好的な態度を取っているが、それはあくまで表面上でだけ。
ラバットもラバットで、ブザムに何か感じ入るモノがあるのかそれ以上近づかない。
表情こそ軽薄のままだが、頬をつたう冷たい汗は拭えずにいる。
暗闇の中で向かい会う両者―――
互いにそのまま無言で、闇を背景に佇んでいた。
問い質す事も無ければ、弁解すべき言葉も無い。
二人は何も言わず――――
―――踵を返した。
(・・・・ほ・・・・)
二人の間に何があったのかは分からない。
表面には見えない意思の疎通でもあったのか、互いに何も言えずにいたのか―――
見ているだけのバーネットには、到底分かりようの無い世界がそこにあった。
二人の間の緊張感より解放されて、安堵の吐息。
そのままゲートを出て行く二人の背を見つめて―――
(・・・・え・・・?)
一瞬。
(・・・・気のせい・・・・よね・・・?)
ブザムがこちらを見て微笑んだかに見えたのだが―――
・・・気のせいだろう。
確認の為一瞥するが、ブザムは気付いた様子もなくラバットと共に出て行く。
数分間注意に注意をし、本当に出て行ったのかを確認。
用心を重ねて、バーネットは船の陰から身体を起こす。
(・・・・何か雲行きが怪しくなってきたわね・・・・)
露出した肌に付いた埃を払って―――
(・・・・あんたが肝心なんだからね。
うまくやんなさいよ、ディータ・・・・)
<to be continues>
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