VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 8 -Who are you-
Action33 −助手−
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ニル・ヴァーナ下部・外来出入り口――
射出口と内部を結ぶ通路の通用門の役割を果たす扉。
通常使用されない扉なのだが、今日この日に至って初使用される事となった。
ニル・ヴァーナ船出以来の初来客―――ラバットを迎え入れる為である。
「何だ、この連中は・・・・」
ブリッジでの交渉が終わって一時間。
ラバット船がドッグに納められたとの連絡が入り、カイは一路この場所へと訪れている。
そんなカイの目の前には、大勢の女性陣が大挙して詰め合っていた。
「・・・ようやく来たか、カイ」
「うわ、汗びっしょりじゃないか」
いち早くカイに気付いたバートとドゥエロが、交互に言葉を重ねて来る。
多くの女達に遠慮しているのか、二人は壁際にもたれかかっていた。
正式にセキュリティレベルを与えられ、クルー入りを果たしたとはいえ、彼らの立場は弱い。
男と女の軋轢は簡単に解消される訳も無い。
孤立無援なのは、何もカイだけではないのだ。
カイは落ち着いた足取りながらも息を切らせて、二人の元へと歩く。
「しょうがねえだろう。この船、どんだけ広いと思ってんだよ。
走ってくるだけでも一苦労なんだぞ」
二人とは違い、カイはマグノ海賊団を脱退した。
いや、初めから所属を拒んだと言ってもいい。
当然船内のあらゆる権限は剥奪され、カイは捕虜以前に逆戻りした。
セキュリティ万全のエリアは当然立ち入り禁止。
エレベーター使用も出来ず、カイはまた非常階段を利用して降りて来たのだ。
「応急処置がされていたとはいえ、君の怪我はひどい。
無理をしない方がいい。
特に腕の傷は無理をするとすぐに開く」
話し合いの後、カイはドゥエロに診察と治療を施してもらっている。
流石に一流の知識と腕の持ち主であるドゥエロの処置により、カイは元気を取り戻した。
メジェールの進んだ医療技術も手伝って、負傷も跡は残らない。
以前メイアの重傷すら完治せしめた技術である。
ガラスで傷つけた怪我とはいえ、二日もすれば完全に治るとの事だった。
だが、それはあくまで安静にしていればの話。
表面こそ癒されたものの、無理をすればまた開いてしまう。
刻限も迫っているとあって、落ち着いた治療も出来なかったのが痛かった。
「お頭や副長さんの申し出を断るお前が悪いんだろう。
折角許可もらえるってのに、意地張っちゃってさ・・・」
「うるせえ、ばあさんやブザムに認めてもらっても意味ねえんだよ」
ブザムやマグノは決して愚か者でも、愚鈍者でもない。
乗船当時から何度も仲間の命を助け、船の危機を救ったカイをきちんと評価している。
カイが他クルーとの諍いを抱えているとはいえ、カイがこの船一番の功労者なのは最早明らかなのだ。
本当なら早い時分にも、カイは受け入れられてもいい筈だった。
もしも正式なマグノ海賊団一員なら、今頃はチームリーダーを任されても不思議は無い。
たった二ヶ月でのリーダー候補選出は異例の人事で立身出世だが、不適切ではない。
ないのだが、カイはクルー入りを拒んでいる。
それに何より船内の女性陣との確執が根深い。
その為ミッションより戻ったカイに、マグノは船内設備使用の権限を与える申し出をした。
使用可能とはいえクルーの居る場所への立ち入りは禁じられたままの不完全な権限だが、受理すれば少なくともエレベーターは使用出来る。
ようするに本当の客人扱いとされる事となるのである。
なのに―――
『んなのいらねえ』
肝心のカイが一言で否定し、その話も立ち消えしてしまった。
「分かんないねえ・・・・
僕だったら喜んで承諾するのに。
またお前、仲間外れにされるぞ。今も仲間外れになってるけど」
馬鹿な奴と言外で述べているが、悪意の色は無い。
カイの身を案じての裏返しであった。
存外な言葉ながらにバートの表情から真意を感じ取り、カイも清々した口調で言う。
「いいんだよ、それで」
「いいって、おいおい・・・・」
「俺は初めっから嫌われ者だからな。
無理にあいつらの中に入っても険悪になるだけさ。
ばあさんやブザムが頭ごなしに命令しても、連中の心までは変わりはしねえよ」
最初から、旅の始まりからそうだった。
マグノが故郷を救う決断をし、捕虜であるカイ達と共に旅をすると決めた時から―――
女は男を疎んじ、男は女を敬遠した。
命令や言葉だけの主張は何も意味を為さない。
相手の心まで変えられない事を、カイはこの二ヶ月で思い知っている。
嫌になるほど味わされたのだ。
カイの言葉には重みと、ほんの少しの空しさがあった。
「ドゥエロ君・・・・」
どう言えばいいのか分からず、バートは同期の天才に助けを求める。
「・・・彼個人が決めた事だ。
我々が如何こう言える事ではない」
「・・・・そ、そりゃあまあそうだけどさ・・・」
客観的なドゥエロの意見に、バートはどこか納得いかない様子だった。
ドゥエロはそんな悩むバートを目視し、興味深い顔を向ける。
他人を思い遣る気持ち――
カイのようにではなく、バートはバートなりの形でカイを案じている。
いずれカイとバート、二人が身分や考えを超えて本当の友人になる日も来るかも知れない。
まだまだ切れかけの糸だが、紡ぐ役目に自分が担うのも面白い。
ドゥエロは心半ばに思いを馳せていた。
「で、それはそれとして―――」
カイは周りを見ながら言う。
「何なんだ、この女どもの群れは。
何でこんな一杯集まってやがるんだよ」
賑わう女性陣を見ると、それぞれ服装が違う。
各仕事場のクルー達が詰め掛けて集まっているのだろう。
総員とまでは言わないにしろ、かなりの人数がこの場に存在している。
「お前が世話になったと言う男を見に来たようだ。
歓迎はしていないにしろ、初めての余所者だからな」
背筋良く立って、ドゥエロがカイに説明する。
「そういや今まで他の星の奴等に会った事なかったもんな・・・」
思い出されるのは砂に包まれた惑星。
物資の供給と星に住む人達との情報交換を期待して上陸すると、そこは敵の罠だった。
期待は裏切られ、無残に血を抜かれて殺された人達への憐憫のみを胸に立ち去った。
あの時の記憶は今も鮮明に残っている。
それだけ、他者との出会いは彼女達には嬉しい。
男である事で嫌悪や畏怖は大きいだろうが、顔くらいは見ておきたい。
まだまだ続く旅の真ん中で、ささやかな交差点でも少しは気はまぎれる。
連日の戦いに精神的にも疲弊はしている事もあって、彼女達の足を運ばせたのだろう。
「暇な奴らだな、たくよ・・・・
俺が帰ってきた時はシカトしたくせに」
自分への女達の態度は予想出来ても、この落差は不満だった。
ふんっと鼻を鳴らすと、背後からぎゅっと襟首を引っ張られる。
「文句言わないの。
あたしらが渋々迎えてあげたじゃない」
「ぐげっ!?
いきなり何しやがる、黒髪!」
首だけ器用に背後に傾けると、呆れた顔をしてバーネットが立っていた。
背後には仲良くジュラが連れ添っている。
「口では何だかんだ言っても、ジュラの事気にしてるのね。
そんなに寂しいなら相手くらいしてあげるのに。
合体するって約束するなら」
「何でお前限定なんだよ!?
というか、お前まだ合体にこだわってたのか・・・」
嫌そうな口調だが、表情に柔らかさが浮かぶカイ。
考えてみれば、ジュラに合体を迫られるのは久しぶりだった。
砂の惑星での出来事以来、メイア負傷時での確執もあってきちんと話せていない。
今まで通り接してくるジュラが、カイには少し嬉しかった。
「当然よ。ディータやメイアには負けないんだから。
何かあんた、最近二人と仲いいみたいだし」
「は?」
少し拗ねた顔をするジュラの言葉に、呆気に取られるカイ。
横でバーネットが同意するように頷いて、
「さっきのブリッジでの密談、随分楽しそうだったじゃない。
ミッションから帰って来たら、ディータにも笑いかけてたし。
あんた、二人が嫌いだったんじゃなかったの?」
「え、え〜と・・・・」
そんなつもりはなかった。
別に今後仲良くしようと決めた訳でもなければ、何か意思疎通があった訳でもない。
どこかこう、自然に話せるようになっていたのだ。
どうしてそうなったのかと聞かれても、カイは返答に詰まるしかない。
「そういえば、先程ディータがメイアを連れて何処かへ行ったな。
何か計画でも立てているのか?」
ドゥエロの静かな台詞に、カイははっとなって首を左右に振る。
「そうだ、赤髪と青髪はどうした!?
お前ら、一緒には来なかったのか!?」
ジュラとバーネットは顔を見合わせる。
「途中で分かれたわよ。
あんたに頼まれた準備をするって」
「着替えとか何とか言ってたけど・・・・あんた、また何か企んでいるの?
ジュラにも教えなさいよ」
仲間外れなのが気に入らないのか、ジュラがカイに詰め寄る。
「そうよねー、あのメイアを仲間に引き入れたのが気にかかるわ。
本人かなり嫌がってたけど、計画に加わってるみたいだし。
何だったら協力してもいいわよ」
言葉こそ素っ気無いが、表情が明らかに裏切っている。
むしろ仲間に入れろとばかりに、バーネットはじっとカイに視線をぶつけていた。
うげっと顔を歪めるカイは、ふと背後の気配に気づいて振り向く。
「・・・・・・・・ふ〜ん・・・」
「・・・・・・・・ふむ・・・・」
「何だ、お前らまで!?
何が言いたいんだ、こら!」
何やら肯き合う男二人にカイは怒鳴り声を上げると、
「いや、お前のどこが気に入られているのかなって・・・」
ジュラをちらりと一瞥し、バートが嘆息する。
「・・・君はもう少し自分の評価を改めたほうがいいな・・・」
同じくバーネットを横目で見て、ドゥエロが感心する。
「だから何が言いたいんだ!?」
また肯き合う男二人に、カイは訳も分からず地団太を踏む。
っと―――
「ほら、宇宙人さんが待ってるよ」
「ディ、ディータ・・・・やはり私はこういうのは・・・・」
「駄目だよぉ!
大丈夫、すっごく似合っているから!!」
何やら揉め合いながら近づいてくる女性二人の声。
カイはぱっと顔を上げて、姿勢を正した。
誰がこっちに来たのかはすぐに分かる。
声もさる事ながら、周囲の反応が如実に教えてくれた。
賑わっていた一同が全員声もなく、唖然とした顔で一点を見ている。
表情には陶酔―――
まるで輝ける宝石を見るかのように、全員が目を奪われていた。
中にはウットリしている者や頬を紅潮させている者もいる。
近づいて来る人影に誰もが左右に分けて、その人物に道を作る。
開かれた道筋は遠目からでも、その存在を浮かび上がらせた――
「宇宙人さん、お待たせ!
どう?すっごい綺麗でしょう」
にこにこ笑顔でディータが、カイの前に一人押し出す・・・・
「あっ!?う・・・・」
カイはあんぐり口を開けたまま、目の前の女性を見つめる。
深い青の双眸。ぴんと通った鼻筋。薄い唇――
困惑と羞恥に柔らかな頬を薄い紅色に染め、白い指先を重ね合わせる。
何より特筆すべきなのは、その服装だった。
フォーマルな白いブラウスは、スレンダーな身体付きにぴったり似合っている。
対称的な胸の黒リボンも鮮やかで、その存在感を明確にしていた。
腰元より伸びるロングスカートは着慣れないのか、しきりにもじもじ足を擦り合わせている。
それが何より魅力を引き立たせる事も知らずに・・・
絶世と言う名の冠が似合う美女―――
そんな女性を見るカイの視線に耐え切れなくなったのか、女性は言った。
「・・・・な、何を見ているんだ。
その・・・・何か言ってくれないと、反応に困る・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・へ、変か?
ど、どうして皆、私をじっと見るんだ・・・?
・・・・だ、だから、私はあれほど反対し―――!」
「え〜と・・・お前、ちょっと待って」
女性の肩にぽんと手を置き、カイは周囲に視線を向ける。
全員が全員意識を奪われたような顔をしているのを見て――
「皆の集、一応言っておくけど・・・・・」
ようやく意識を取り戻したのか、カイはこほんと咳払いする。
そして固まっている周囲一同を一瞥し、言った。
「青髪だからな、こいつ」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・』
『えええええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!!!!!』
その頃―――
―――予兆が―――
―――見え始めていた。
<to be continues>
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