VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 8 -Who are you-
Action32 −入船−
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<to be continues>
「相手に弱みを握られるなど・・・・恥ずかしいとは思わないのか、お前は」
「だから仕方なかったんだって!」
トラブル続きの今日一日。
行方不明だったカイは無事帰艦し、ミッションでのトラブルも解決した。
刈り取り襲撃もなく、一件落着を迎えようとしていた矢先である。
ブリッジ内で、メイアはカイと揉めに揉めていた。
「何が仕方が無いんだ!
ただでさえお前達男の扱いに困っているのに、不安の種を増やしてどうする」
「それを目の前で俺に言うか、お前!?」
「お前に遠慮なぞ必要ない」
「うわー、言いやがったなこの女。
大体、物資に構ってる余裕なんて無かったんだよ。
俺が早いとこ出撃しなかったら、お前等だってやばかっただろうが」
「お前が仕掛けた罠で身動きが取れなかったからな」
「うぐ・・・・」
経緯はあれど、ラバットの乗船を許可したマグノ海賊団一行。
商談成立に気を良くしたラバットは、早速とばかりに船をこちらに向かわせている。
間も無く接舷の後、ニル・ヴァーナ搭乗となる。
勿論歓迎客ではなく、不本意での招き入れなのは言うまでも無い。
「別にそんなに怒る事じゃないだろ。
ようするに、あいつが何も問題起こさなかったらいいんだろう。
この船に住む訳じゃなし」
「これ以上男が増えられても困る。
ただでさえ、厄介な者がいるんだ」
「・・・どうしてそこで俺を見るかな」
「自覚が無いとは重傷だな」
「お前だって問題起こしてるだろうが!
足引っ張るわ、怪我するわ、肝心なとこで役立たずなくせに」
「む・・・
だ、だからと言ってお前と比較されるのは心外だ。
第一今はそんな話をしていない!」
「うわ、誤魔化しやがった。
自覚が無いのは重傷だな」
「わ・・・私の真似をするな!」
波乱前の一騒動――
そんな言葉が一番似合う形で、カイとメイアは口論を繰り広げていた。
原因は当然ラバット。
素性の知れない者を船内に入れる原因となったカイを、メイアが責任追及した事から始まる。
互いに引かずに口喧嘩しているように見えるが、殆どメイアが一方的に突っ掛っていた。
「どうするつもりだ。
あの男が何か目的があって、我々に近づこうとしているのは明白だ」
「どうするったってな・・・・今更拒否も出来んし。
何よりあいつに預けた物資がないと、いい加減俺が餓死するし」
「クルー入りを拒否したのはお前だろう」
「海賊の仲間入りしてたまるか。俺はまだ納得した訳じゃねえ。
―――って、そんな話をしている時じゃねえな。
あいつをどうするかだよな。う〜ん・・・・・・
そうだ!」
「何か策でも思い付いたのか?」
何やら楽しげな顔をするカイに、メイアは組んでいる腕を解いて見つめる。
カイがこういう顔をする時、いつも何か発想を閃いている。
数度に渡る戦場を共にして、メイアには何となくだが分かって来ていた。
「ああ、これならばっちりだぜ。
お前、ちょっと耳かせ」
「?な、何故お前に・・・」
「何故もなにも話が出来ねえじゃねえか」
「普通に話せばいいだろう。何故耳打ちする必要がある」
当たり前の疑問に、当然の如くカイが答える。
「はあ〜、お前は本当に男ってのが分かってねえな」
「か、関係があるのかそれは!?」
「あるに決まってるだろう!
企み事ってのはこっそりやって、後で皆をびっくりさせてやるのが醍醐味なんじゃねえか。
男の世界じゃ基本だぞ」
カイの堂々たる発言に、メイアは声も出ない。
馬鹿馬鹿しさの極みだが、それが男だと言われると男を知らないメイアに反論の余地は無い。
反応に戸惑っているのはメイアだけではない。
「・・・そうなの、ドクター?」
「・・・いや、私も初耳だ」
こっそり尋ねるバーネットに、珍しく返答に詰まるドゥエロ。
周りの動揺を他所に、カイはメイアの肩に手をかける。
「とにかく、ちょっと来い」
「こ、こら!何処へ連れて・・・・!?」
メイアの華奢な腰に手を回し、カイは片手でぎゅっと抱き締める。
そのまま抱きかかえたかと思うと、強引にブリッジの片隅まで運んで行った。
メイアは必死で抵抗するが、思ったより強い力に逆らえない。
何より―――
(・・・あ・・・・)
間近に見えるカイの横顔。
力強い腕の感触に、身体越しに伝わる温かさ。
身近に迫られたのは一度や二度ではないが、こうして意識をするのは―――
「ここなら聞こえないな・・・・って、どうしたお前?」
「え・・・?あっ!?
どうしたもこうしたもない!」
ようやく降ろされて、メイアは一瞬で距離を取る。
いつもの彼女らしくない狼狽ぶりで、傍目から見ても一目瞭然だった。
「こ、今後、私にこのような真似をすれば、お前の眉間を撃ち抜く」
「物騒なもん、かまえんな!?」
ほんのりと頬を赤くして、透き通るような繊細な指に填められた指輪を向けるメイア。
慌ててカイは両手を挙げつつも、メイアに歩み寄る。
「お前が抵抗するから悪いんだろう。したい話も出来ねえじゃねえか」
「何故こそこそする必要がある。
何か考えがあるのなら、お頭や副長に・・・・」
「だから男のロマンってのが・・・・ああ、もうどうでもいい!
早くしねえとあいつが来ちまう」
カイはそのまま何の遠慮もなしに、メイアに頬を寄せる。
文字通り顔を付き合わす状態でメイアは慌てて離れようとするが、カイにガッシリ掴まれる。
(ほんでだな・・・・)
(こ、こら!
このままでは、私までお前の企みに乗ったみたいに見えるではないか!)
(まあ、聞けって)
小声で話し掛けるカイに、小声で返すメイア。
普通の声で話せば疑われもしないのだが、思わず付き合ってしまう辺りに彼女の生真面目さが出ている。
とは言え、以前の二人の関係にはありえない光景―――
ほんの少し近づければ触れられる距離にいても、メイアはカイに嫌悪や不快は感じられない。
空気のように透明で、心に何の抵抗感もなく受け入れられていた。
メイア本人にも、カイ自身にもその自覚はないが―――
(ようするに、お前はあいつがこの船で何か問題を起こすのではないかと思ってるんだろう?)
(それもあるが・・・
あの男、我々かもしくはお前について何か調べようとしている風に見える)
(調べるだって?)
メイアは表情を厳しくする。
(でなければ、入船にこだわりはしないだろう。
お頭はあれほど拒否していたんだ。
下手をすれば敵として認識される危険性もあった。
敵対すれば、我々には勝てない事も知っていた筈だ)
(つまり―――あいつの目的はこの船?)
(もしくは船内にある何か、だな。
この船はお前達男の軍船と我々の船が融合して出来た、特殊な経緯を持つ。
構造その他も例にない。
あの男が興味を持っても不思議ではない)
ニル・ヴァーナはペークシスの暴走により生まれた船。
船同士が融合するなどと言う、この世の常識からはみ出した超常的現象で誕生したのである。
ラバットがこの宇宙を数多に旅する者であれ、ニル・ヴァーナに多大な興味を寄せるのは無理からぬ事だった。
メイアの推論に、カイも考え込む。
(インチキ臭いおっさんだからな。
何を企んでいても不思議はねえけど)
(そういうお前はあの男と行動を共にしたのだろう?
奴について何か聞かなかったのか)
(いや、特には何も)
あっけらかんとしたカイに、メイアは深々と溜息を吐いた。
(どうしてそうお前は呑気なんだ。
人を助ける人間が、必ずしも善人ばかりとは限らないんだ。
何か目的があってお前を助けたのかもしれない。
行動を共にしたのなら、その立場を利用して情報を聞き出すべきだった)
今度はカイが溜息を吐いた。
(お前は・・・・いや、お前等はそれだから駄目なんだよ)
(?何がだ。私の言っている事は、身を守る上で当たり前の事だ)
平然と答えるメイアに、カイは鋭い視線を向ける。
(人の善意を疑う事がか?)
(そ、それは・・・・)
息を呑むメイア。
カイは小声ながらに、強い声で語る。
(俺はごめんだね。いちいち他人を疑うなんぞ。
お前ら海賊はそういう事してるから、後ろめたい生き方しか出来ないんだよ)
(―――!訂正しろ、カイ!
私はともかく、マグノ海賊団への侮辱は許さない)
(侮辱される生き方してるからだろう。
とにかく、俺はごめんだ。
それにお前だって嫌だろう?)
(何がだ!)
(いきり立つなよ。
相手の事根掘り葉掘り聞くって事は、相手の過去を聞くって事だぞ。
お前、自分の過去をペラペラ話せるか?
自分の詮索されて黙ってられるか?)
(・・・っ・・・)
人に聞かれたくない過去―――
それは誰よりメイアが背負っている荷物だった。
重く、己が身体を縛り付ける呪縛。
マグノ海賊団ドレッドリーダーとしての生き方を歩んでいる今でも、その鎖は断ち切れていない。
生と死の狭間で、それは嫌と言うほど思い知らされた――
(結局ラバットが何者なのか知らない。
入船拒否も出来ない以上、前向きに考えていくしかない)
(それはそうだが・・・・どうする気だ?)
気を取り直して、カイにメイアは耳を傾ける。
その言葉を聞いて、劇的にカイは表情を変えた。
まるで待ってましたと言わんばかりに、カイはにんまり笑って唇を寄せる。
(簡単だ。俺とお前で、あいつの監視をするんだよ)
(わ、私とお前で!?
し、しかしそのくらい奴は予想しているだろう。
尻尾を出すとは思えない)
(ふふふ・・・安心しろ、青髪。
俺にいい考えがある。
あいつ言ってただろう?この船で商売したいって)
(?確かにそうは言ってたが・・・・それが何だ?)
(うむ、結論から先に言うと――)
メイアにびしっと指を突きつける。
(お前、今日から俺のアシスタントになれ)
こうして、ニルヴァーナ初の客人が訪れようとしていた。
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