ヴァンドレッド

ＶＡＮＤＲＥＡＤ連載「Eternal Advance」

Chapter 8 -Who are you-

Action25 －流星－

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『パルフェ～、いるか？』

『ん・・・？あ、カイ』

　その日、機関部は比較的暇であった。

船内のシステムも正常で、機関部チーフのパルフェはやる事もなく機材を弄っていた所だった。

自分のデスクから向き直るパルフェに、訪れたカイは機関室に入るなり言った。

『ちょっと専門家のお前に相談があるんだよ』

　にっと笑って言うカイに、パルフェは不思議そうな顔を見せる。

「ヴァンガードには興味はあるけど、まだ詳しくないよ、私」

　専門家と言われて、パルフェは謙虚なしにそう言う。

マグノ海賊団の、メジェールの主要戦闘機はドレッドである。

蛮型は敵国のタラークの最新主力兵器で、メジェールでの開発は行われていない。

複雑な経緯でカイが参戦するようになった頃から、パルフェもエンジニアとして勉強はしている。

が、まだ専門知識として応用するには至ってはいなかった。

パルフェの答えに、カイは首を振る。

『お前の専門はあれだろう？あれについて聞きたいんだよ』

『へ・・・・？』

　カイが指差す先――

ニル・ヴァーナの動力部ペークシス・プラズマが青白く光っている。

「へえ、カイあの子に興味があるんだ」

　パルフェは幼い頃より機械類が好きで、勉強に勉強を重ねている。

趣味と仕事が完全に一致しており、充実した海賊生活を送っているが彼女には一つ不満が会った。

自分の嗜好を共有出来る者がいない――

知識量はマグノ海賊団随一だが、それゆえに語り合える仲間がいない。

パルフェが期待するのも無理はなかった。

対するカイは―――パルフェの期待以上だった。

「新しい兵器を思いついたんだ。あれを使った奴をな・・・
実用可能かどうか聞きたい」

「ええっ！？」

　全ては、この時から始まった――

　それは顕著に存在を示していた――

深遠なる闇を纏いし宇宙を背景に、青緑色の光を全身に浮かび上がらせている。

光は大きなアーチを描き、蛮型の身の丈を遥かに超える大きさで綺麗な弧に沿っている。

SP蛮型新遠距離兵器・ホフヌング――

凛々しくも雄大なその兵器を携えて、カイ機は敵と相対していた。

「あれがカイの開発した新兵器か・・・・」

　中央モニターに映し出されている弓を目にして、ブザムは独り言のように呟く。

ホフヌングに関して、ブザムは何ら関与していない。

カイが新兵器開発に乗り出していたのは事実として知っていたが、その程度である。

どのような武器か、概要そのものはまるで知らない。

目にしたのもこれが初めてだが、新兵器はブザムの予想を軽く凌駕した。

常に冷静さを失わないブザムでさえ、目を奪われんばかりの驚き様である。

他クルー達は今が戦闘中である事も忘れて、データ観測を行っていた。

「今までにないタイプです。
カイ機が常に携帯している武器である事には間違いないと思われるのですが・・・」

　困惑気味に、アマローネがコンソールを見ながら述べる。

新型と銘しているが、背中に担いでいる二十徳ナイフが変形したのは全員目にしている。

二十徳ナイフはカイ機唯一にして最大の武器であるのは周知の事実。

ならば、ホフヌングは二十徳ナイフの新しい変形のヴァリエーション。

つまりは改良型となるのでは、とアマローネがデータ上より推測した意見だった。

にも関わらず曖昧なのは、アマローネにも自分の推測に引っ掛かる面がある為に他ならない。

　ベルヴェデールもコンソールを目視して、自分なりの観測データを明らかにした。

「カイ機の持つ武器より、今までのブレードタイプにはないエネルギーを感知。
武器を覆う光はエネルギーの粒子である事が判明しました」

「肉眼で見える程の高出力か・・・」

　二人の報告を聞き、ブザムは考え込む。

カイ機の新型兵器・ホフヌング――

その全容を推測するには、手掛かりが少なすぎた。

ブザムも一通りの軍事知識や兵器には流通しているが、目にしている武器は規格外であった。

そこまで考えて,ふとブザムは先程のマグノの言葉を思い出す。

出現した武器を目にしたマグノが口にした単語は――

「あれは弓だね」

「・・・弓、ですか？」

　訝しげな顔をしてブザムが尋ねると、マグノは静かな表情で頷く。

「殖民船時代より遥か昔に使用された武器さね。
今のメジェールじゃ教科書にしかない大昔の工品さ。
タラークではどうだか知らないけどね・・・」

　どこか懐かしそうに、マグノは遠い目をして語る。

「あれが・・・・」

　前置きして、ブザムはマグノを仰ぎ見て続ける。

「本来、獣を狩る目的で考案された武器と聞きます。
離れた距離にいる敵を、矢と言う武器を放って仕留めると」

　弓は旧時代、まだ地球から殖民船が船出する以前に使用された武器である。

タラーク・メジェール創生期の第一世代であるマグノは弓矢そのものを目聞きしているものの、若い世代は想像もつかない。

そもそも昨今の世、遠い敵を仕留める武器は？と聞かれれば誰もが銃と答える。

メイア達の持つリングガンに始まり、科学技術が発達した今日では銃がポピュラーで使い勝手もいい。

弓はミッションと同じく、時代の流れに流されて消えてしまった幻の武器なのだ。

タラークもメジェールも、存在そのものすら伝わってはいない。

あるとしても、知識分野にしか登場はしないだろう。

ブジッリクルーの一人エズラも知らなかった様子で、興味津々な顔をしている。

「その弓をカイちゃんが作ったんですね。
凄いわ・・・・物知りなのね、カイちゃんは」

　おっとりとした仕草で、エズラはしきりに感心する。

幻となった武器を蘇らせたカイ。

エズラは素直に感嘆しているが、ブザムは逆に疑わしげな顔をしている。

「・・・カイはどうして知っていたのでしょうか・・？」

　カイはタラーク三等民出の初心者パイロット。

ほんの二ヶ月前までは下級市民として、平凡以下の生活を営んでいたに過ぎない。

殖民船時代生まれの第一世代であるマグノでも、うっすらとしか知らない。

教養も知識も何もないカイに、弓を知り得る筈がないのだ。

艦長席に座るマグノはモニターを見上げ、ぽつりと言葉を零す。

「・・・あの子も分からないのかもしれないよ、ＢＣ」

「・・・・・・」

　哀しげな口調に、ブザムも沈痛に俯く。

常日頃冷静沈着で何事にも厳しいブザムだが、鬼ではない。

記憶喪失者であり、天涯孤独の身の上―

親もおらず、友人もなく、思い出に浸れる過去もない。

カイは何も頼りに出来る者がない。

本当の意味で孤独なのはカイなのかもしれない――

自分でも分からない知識が利用出来るのは、必ずしも得ばかりとは限らない。

カイにとっては得体の知れない知識なのだ。

その気持ちを思うと,ブザムも不憫さを拭えない。

「・・・・もしもあれが弓だとすると不自然な部分があるね」

「っと、言いますと？」

　湿っぽくなった空気を察してか、マグノは話を切り替える。

ブザムが聞き返すと、マグノはモニターを見つめて続きを話す。

「BCの言う通り、弓には矢が必要なんだよ。
弓と矢が揃って敵を仕留めるんだからね。
あんな大きな弓に合う矢が見当たらないね」

　襲い来る敵を前に、ホフヌングを手に迎撃態勢に入っているカイ機。

手にする輝く弓に、マグノの指摘通り矢が見当たらない。

蛮型を軽く超える巨大な弓の矢となると、その大きさもかなりのものになるだろう。

その肝心の矢をカイ機は装備していなかった。

さらに――

「弓に弦も張っていない。
あれじゃあ仮に矢があっても射る事は出来ないよ。
どうする気かね・・・・」

　思案に暮れるマグノ。

他クルーは弓そのものを見た事もないので、ピンと来ない。

矢を射的するのに必要な弦――

距離が離れれば離れる程矢は威力を必要とし、俊敏性を必要とする。

その為弓には矢を引き絞る為に必要な弦が必要とされる。

新型兵器ホフヌングにはそれもない。

疑問点ばかりが重なるカイの兵器に、結局動向を見守る事しか出来そうにない。

ブリッジが静まり返る中、アマローネは声を張り上げる。

「敵機三機、ヴァンガードに急速接近！」

　戦いが始まる――

「来やがったな・・・」

　コックピットにて、情報計器が敵の存在を捉えていた。

モニター表示に敵の映像が明瞭に映り、進行方向が示される。

近づいて来るのは三機、進路は真正面――

敵は一目散にカイ機へと目標を定めている。

このままでは一分もかからずに、敵は攻撃を仕掛けてくるだろう。

むざむざ敵の射程距離まで接近を許す必要はない。

「攻撃パターンはビームとミサイル。ドレッドと大差はないな。
へへん、甘いぜてめえら」

　カイは頭上に手を伸ばし、操縦桿脇にある操作パネルに手を伸ばす。

そのまま素早く操作を行ったかと思うと、外部モニターの表示が切り替わる。

蛮型周辺の映像が一気に広範囲になり、狙いを定めるターゲットポイントが表示された。

「俺のホフヌングの射程距離は半端じゃないんだぜ」

　ポイントは絞られて、カイの命令に従ってターゲットを固定する。

カイは操縦桿上に親指を乗せる。

今までのカイ機にはないボタン――

にやっと笑って、カイは目標に視点を向ける。

「じゃあな、雑魚ども」

　ホフヌングと名付けられた弓はその光を増す。

光は帯と成して全体を覆い、光を輝きへと変える。

輝きは弓の末端に収束し、一筋の光を生み出した。

それはまるで閃光のような眩さを持つ糸――

まさに光の弦であった。

同時に、カイ機の右腕もまた閃光を放つ。

空色の蒼さを秘めた光は球体となり、右腕を優しく包み込む。

光にコーティングされた腕はそのままがっしりと、弓の弦を掴んだ。

そう・・・・

光をいとも簡単に掴んだのである。

そのまま腕は光の糸を引き絞り、大きく弧を描く。

その瞬間腕を覆う蒼い光は流れるように腕から離れ、弦へと移り行く。

瞬間、白い糸と蒼い腕は――

「ホフヌング第一射・・・・」

―融合し―

――麗しき紅き矢となりて――

「いけぇぇぇぇっ！！」

　放たれた―――

光は、

―三機を消し飛ばし―

そして――

　「み、見たか、ウータン・・・・」

「う・・・うき、うき・・・・」

　ラバットは呆然自失。

傍らのウータンもまた顔に驚愕を張り付けて、何度も何度も頷く。

彼ら二人が見たもの、それは――

「こいつは・・・・」

　赤き光に貫かれた小惑星群消失の光景――

ラバットは光景を目の辺りにして、

「・・・どうやら俺は・・・とんでもねえお宝に巡り会えた様だな・・」

　含みのある笑みを浮かべた。

＜to　be　continues＞

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