VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 8 -Who are you-
Action26 −獣機−
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まるで流れる星のようだ――
目にした誰もがそう思った。
蛮型新兵器・ホフヌング、荘厳な弓より放たれた矢が宇宙を一筋の線を走らせる。
壮麗に彩られた紅の光は優しく、それでいて無慈悲に全てを貫いた。
「ふう・・・・」
初射的を終えて、カイは瞳を閉じる。
今までは敵をただ真っ直ぐに切払えば良かった。
それで良いのだと、それが戦いなのだと思い込んでいた。
だが、戦いとはそんな奇麗に終わるものではなかった――
刈り取りとの戦は、カイの戦いに対する絵空事を微塵に切り裂いた。
タラークで空想していた光景とは及びもつかない醜さ。
過酷で予想もし得ない、混沌たる戦況模様。
ここに来て、カイは思い知った。
これは戦いではない。
戦争なのだと――
命など容易く消し飛ぶ戦争を、今自分が行っているのだと。
たった二ヶ月余りだが、カイは修羅場も何度も目の辺りにしている。
カッコ良さや奇麗事等吹き飛ぶ最中、カイは無我夢中でもがき続けた。
理不尽な現実に抵抗し続けて来た。
現実は甘くないのだと思い知りながらも、カイは納得出来なかったのだ。
諦めない――
何に対してか分からぬまま、カイは今日も戦いに挑む。
「狙いは甘かったが、的中はしたからいいか」
コックピット内で、カイは一息吐いて光景を見つめる。
ラバット機で蛮型到着を待つ間、戦況を観察し続けてきた。
味方の様子、敵の様子。
その背景――
激戦における最中、客観的に観察出来る時間を手に入れられたのは不幸中の幸いだった。
カイは落ち着いて状況を見つめ、ふと気づいた。
何故数にも戦力的にも上回るマグノ海賊団がこうも苦戦を強いられているのか、を。
そして狙いを定めて射的――
カイ機に襲い掛かった敵三機はいとも簡単に消失。
貫通した矢は光を消し去る事はなく、敵機背後へと流れ続ける。
ミッションを取り囲む小惑星群へ。
小惑星に偽装したミッション警備システムへと――
「これでもう援軍は呼べないだろう、お前ら」
ミッション軍が優位に立てたのは、機体数を減らしても増援を呼べたゆえである。
倒しても倒しても増え続ければ、パイロットがいかに優秀でも疲労する。
疲労困憊した兵士は隙や油断が生まれてしまう。
有人機と無人機の違いは短期戦と長期戦の不利益に分かれる為だ。
今までの戦争を通じ、カイもその事は学んでいる。
その為に、カイは狙いを敵拠点である警備システムを破壊した。
でも――
カイは俯く。
敵を壊滅させる手段はもっと簡単だ。
ミッション本体を攻撃すればいい――
指令を出しているのがミッションなのだから、ミッションそのものを破壊すれば敵は停止する。
マリオネットは人形使いがいてこそ見事な動きを見せる。
セキュリティメカである戦闘ユニットを操るのがミッションならば、ミッションそのものを落とせばいい。
自分が開発した新兵器の威力は自分が一番知っている。
やろうと思えば出来たのだが――
(・・・自分のまいた種だもんな・・・・)
肝心のミッション内にはメイア達が閉じ込められている。
その原因を作り出したのは他ならぬ自分だ。
自分の責任を有耶無耶にして吹き飛ばす真似は出来なかった。
それが例え敵か味方か分からない者達でも――
いや、分からないからこそカイには出来なかった。
嘆息して、カイは前を見つめる。
「光矢、装填!」
インパクトのある声を張りあげると同時に、蛮型は光の弓を構え直す。
白色の弦が輝きを放ち、右腕の蒼き光が共鳴する。
二色の光が弓を引き絞ると、紅の光が生まれ呼応する。
白き光が力を生み、蒼き光が形を生み、紅き光が軌跡を生む。
敵機が気づいて集団で襲い掛かるが、既に遅すぎた。
「1、2、3・・・・ホフヌング、発射!!」
右手が瞬時に手を離すと、引き絞られた光は直線に宇宙を走る。
解き放たれた光の矢は襲い掛かって来た敵機に突き刺さり、周りを巻き込んで爆発した。
消滅した機体は凡そ十機――
紅の華が宇宙を咲かす中、カイは次なる行動に移る。
「三秒であんなもんか・・・」
操縦桿を手に、カイは素早く操作を行う。
カイ機は手早くホフヌングを構えて、瞬時に弦を目一杯引き絞った。
「1・・・・連射!!」
構え、矢を生み出し、引き絞る。
その一連動作を三度繰り返すと、矢は瞬時に三連となり放たれる。
放物線を描いて敵陣に襲い掛かる三つの矢に、敵機は回避する間もなく突き刺さって消滅した。
が――
「一秒だと一機が限界――
しかも連射すると狙いがかなり甘い。
くそ、練習する必要があるな・・・・」
毒つく間にも、敵は次から次へと襲い掛かって来る。
増援を呼ぶ事は出来ずとも、敵はまだまだ数が多い。
迎撃すればいいのだが、ホフヌングは――
カイはちっと舌打ちして、通信回線を全域に広げて叫ぶ。
「連中はこれ以上は増えねえ。集中攻撃をかけろ!」
連絡先はドレッドチーム――
カイの声を聞き、一同はようやく我に帰った。
其れほどまでに、カイの戦いぶりには仰天していたのである。
新兵器の奇抜さ、その破壊力――
チームを指揮している補佐パイロットが、代表してカイに通信を返した。
『で、ですが、お待ちください。
貴方のその兵器ならば、私達が手を下さずとも・・・」
画面に映し出されているのは、黒い髪を結っている少女。
自分より年下にしか見えない温和な表情を無垢に向けるパイロットに、カイは苦々しい顔で言った。
「リミットエネルギーを装填するには時間がかかるんだ。
敵の数が多いと、対処しきれない」
『りみっと・・・えねるぎー?』
小首を傾げる少女に、カイは慌てて叫ぶ。
「後で説明するから、こっちの援護を頼む!
敵攻撃が集中すると、ホフヌングをぶっ放す事もできねえ」
『りょ、了解致しました!皆さん、カイさんを援護して下さい』
補佐パイロットの命令を聞きつけてか、ドレッドチームが攻撃を再開する。
頼もしいチームにカイは口元を緩めて、表情は引き締める。
「くそっ!?こんなに時間がかかるとは!」
カイは歯噛みする。
想定はしていたが、予想以上にエネルギー充填に時間がかかっていた。
警備システムを破壊した時は約五秒。
セキュリティメカを十機以上まとめて破壊した時には三秒かかった。
たかが数秒、されど数秒――
より高出力を生み出すには、エネルギー収束する為の時間が必要となる。
カイはコックピット内で歯噛みした。
『ふーん、それが弓矢って言うんだ・・・・』
『遠距離兵器を考えていて、ピーンと来たんだ。
うまくいけば使い勝手のいい武器になる』
機関室の控え部屋にて、カイとパルフェの二人が向かい合う。
共に暇な時間を割いての話し合いなので、のんびりと相談し合う事が出来ていた。
『出来ない事もないよ。カイの言った新兵器』
『本当か!?さっすがパルフェ、頼りになるぜ』
身を乗り出さんばかりに喜ぶカイに、パルフェは微笑んで頷いた。
『ようするにこういう事でしょう?
その弓矢って言う武器を、ヴァンガードの兵器として応用する。
弓は本来装備している二十徳ナイフを改造して作る。
そして――』
パルフェは顔を上げて、カイを見る。
その瞳に興奮の色を浮かべて――
『矢はペークシスプラズマのエネルギーを固形化する。
右腕と弓にペークシスの結晶を貼り付けるのはいい考えだわ。
エネルギー物質が同じなら、固形化したエネルギーそのものを掴める可能性もあるもん』
カイの立案した新兵器の概要。
その全容を聞いたパルフェは驚愕に身を奮わせた。
カイは現存するペークシスプラズマを利用して、兵器開発を構築したのである。
ペークシスは通常精製すれば成長出来る物質である。
たった一欠けらでもきちんとしたやり方で練成すれば、莫大なエネルギーを温存する結晶体を生み出す事が可能である。
カイはペークシスの仕組みを理解して、弓矢という形での兵器を考え付いたのである。
元来ペークシスを利用した兵器構造は、メジェールでもタラークでも開発は進んではいる。
があくまでエネルギーを利用した構築であり、兵器そのものに運用する等と考える者はいなかった。
理由は簡単で、ペークシスはまだまだ謎の多い未知なる物質だからである。
ただのエネルギー物質と考えるには不可解な謎が多く、利用するには危険過ぎる。
誰もが恐れて、なかなか一歩前進出来ないでいた領域である。
そんな禁断の領域に、カイは踏み込もうとしているのだ。
パルフェもエンジニアとしての知識はあり、その危険性も知っている。
「でも全部うまくいけば、だよ?
万が一失敗したら、使うあんただって只じゃすまないよ」
カイの兵器立案は机上の空論である。
弓矢に関してはカイに聞き理解はしたが、兵器概要に関しては正直完成するかどうかも怪しい。
万が一ペークシスが暴発すれば、使い手のカイが巻き込まれる。
パルフェの真剣な顔に、カイも真剣に答えた。
「覚悟の上だ。今後も戦いはまだまだ続く。
今までの戦い方じゃ、相棒に迷惑ばかりかけちまうからな。
あらゆる状況に耐えうる為にも、新兵器は必要だ」
カイの答えに、パルフェは好感を持った。
自分の為のみではなく、蛮型に真摯な思いを向けている。
機械としてではなく、一人の相棒として信頼を寄せているからこそ兵器開発を行う。
その姿勢に、パルフェは改めてカイを見直した。
「・・・・そっか・・・分かった。協力するよ。
私なりにも考えはあるから、頑張ってみる」
「そっか、サンキューな。
ペークシスをこの船で一番知っているのはお前だからな。
協力を得られなかったら、こいつの完成は無理だからな」
嬉しそうにカイが語ると、パルフェは照れくさそうに身を捩る。
「えへへ・・お礼は完成してからでいいよ。
でもよく考え付いたよね、こんなの。
弓矢もそうだけど、ペークシスについて知ってたの?」
パルフェは弓矢に関しては全く知らなかった。
カイから解説を聞いて、何となく想像出来る位である。
ましてやペークシスの構造まで、どうしてカイは知っていたのだろうか?
パルフェの疑問に、カイも怪訝な顔を向ける。
「俺も弓矢は何処で知ったのか分からん。
どっかで見たような気はするんだけどな・・・
ペークシスに関しては、この船で分かったんだけど」
「この船で?実際に見て理解したの?」
パルフェの声に、カイは頷く。
「ほら、この船ってそもそも俺らとお前らの船が合体して出来ただろう?
その時ペークシスが勝手に動いて形を変えてたじゃねえか。
あれ見て思ったんだよ。
ひょっとしたら、ペークシスは環境に適応する能力があるんじゃないかって」
「つまり、状況に応じて変化出来るって事?」
「そうそう。実際光ったりとか、崩れたりとかもしただろう?
俺らの相棒もパワーアップしたしよ。
ペークシスプラズマは結晶だけでなく、ある程度自由自在に変応するんじゃないかって思ったんだよ」
この旅が始まったのもペークシスが切欠だった。
船への変化から暴走、機体のヴァージョンアップにエネルギー反応の有無。
未知的要素が満載だが、逆に言えば何時如何なる応用も可能かもしれない。
カイは前向きな考えでペークシスに接しようとしているのだ。
「ペークシスが自らで増殖するってのは、ようするに自身を結晶化出来るって事だろう?
なら、エネルギーそのものを固形化して発射する事も可能な筈だ。
言ってみれば、水と同じだな。
水は氷にもなり、液体にもなり、水蒸気にもなる。
同じようにエネルギーを流し、固形化し、光とする。
ペークシスエネルギーは船そのものを変化させる程の力があるなら、兵器利用すればかなりの威力が見込める」
カイの説明に、パルフェは声も出なかった。
常識を超えた発想。
奇想天外で、誰も思いつかないような理論――
うまくいくかどうかの問題ではない。
この発想は大馬鹿か、もしくは――
「全く・・・今回ばかりは赤髪に感謝だぜ」
「へ?ディ、ディータの事?」
いきなりな名前を持ち出して、カイは苦笑する。
「そうそう、あの馬鹿が持ち出したペイントガンを見て思い付いたんだ」
ペイントガンと聞いて、パルフェはますます訳が分からなくなる。
ペイントガンと今説明したペークシス兵器が結び付かない。
パルフェの疑問を察してか、カイは人差し指を立てる。
「そんな悩む事じゃない。簡単だよ」
カイはにっと笑って言った。
「ペイントガンは―――」
――着弾――
「がっ!?」
激しい振動に、カイは仰け反る。
慌てて情報センサーを見ると、ミサイル攻撃された事を知った。
「攻撃された!?何処から・・・・・
!あ、あれは・・・・!?」
カイが見つめる先――
攻防戦を繰り広げる戦地にて、一体の機体が堂々たる姿で立っている。
「何だと――!?」
今まで共にいたラバット船――
その前を、ラバット船を守るかのように異様な武装を施した人型兵器が浮かんでいた。
愕然とした心地で、カイは悟る。
あの機体は―――――自分を殺す気だと――――
<to be continues>
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