VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 8 -Who are you-
Action27 −欠落−
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<to be continues>
『そろそろいいか・・・』
男は呟く。
ミッションが繰り出す戦闘ユニットの群れと統制された戦闘機チームとの戦闘。
両者引かぬ戦いに、新しい局面が訪れたのである。
戦陣から離れ、安全圏に避難していた一隻の船。
持ち主の名前を取ってラバット船と呼ばれたその機体で、戦況を見つめつづける男。
男は何者にも感じ取れない暗き眼差しで、一点を見つめる。
男とは正反対の輝きを纏う黄金の機体――
たった一機の人型兵器が現実を覆し、一気に味方を攻勢へと持っていった。
機体を狩り出しているパイロットは、男の顔見知りだった。
一見青臭さと未熟さを感じさせる十代の少年。
されど男は少年と共に行動し、自分の認識が甘かった事を痛感する。
知れば知るほど、見えてくる少年の層。
それでいて底が全く見えず、練り上げられた造詣が見えてくる。
見かけには無い何か――
計り知れない器は、男に興味と脅威を与えた。
暗く静かなコックピットにて、男は腕を組む。
思案し、視野を向ける先にあるのは――
「たっぷり暴れて来い。今日はご馳走だ」
男は片目の眼帯を紅に光らせた。
「左腕、損傷。損害軽微。動作に問題なしか・・・」
データに照らされた機体状況を見つめ、カイは険しい顔をする。
戦いは勝利へと近づきつつある。
ミッション側の要・警備システムは破壊し、敵側は拠点を失ったも同然である。
補給路を失った軍はドレッドチームに押され、その数を減らしていく。
後は充分なエネルギーを充填した矢を放てば、セキュリティメカ軍団は壊滅。
―――の筈であった。
「どういう事だ・・・?何でてめえが俺を攻撃する!」
予想だにしない攻撃に、カイは咄嗟に反応出来なかった。
残存するセキュリティメカからならば、苦も無く回避出来た。
問題なのはカイを撃ったのが―――――敵側からではない事。
「答えろ、おっさん!
場合によっちゃ容赦しねえぞ、てめえ!」
威勢のいい啖呵とは裏腹に、カイは混迷を深めていた。
訳が分からない。
確かに付き合いは短く、今日ついさっき出会ったばかりの他人だ。
つるんでいたのも数時間、こちらは助けられてばかりだった。
自分の事は詳しく話さず、相手の素性も聞かなかった。
表面上の関係でしかないと言えば頷くしかない。
絶大な信頼を寄せていたと言えば嘘になる。
だからといって――
「誤射か?
でもあんな距離から俺に当たる可能性なんぞ・・・・」
状況から考えて、カイを狙って攻撃したとしか思えない。
セキュリティメカを攻撃したのなら、反対側を狙う筈だ。
カイ機が今居るのはニル・ヴァーナ正面。
狙いを定めなければ、まず当たらないポイントである。
カイは唇をかみ締め、通信回線を開こうとする。
「どういうつもりだって聞いてんだ、答えろ!
何で通信を遮断するんだ、てめえ!!」
カイ機の遥か向かい側――
入り乱れる戦場において、ただ唯一カイ機に対するように向かい合う機体。
先程まで居た船の前に立つ人型兵器――
二ヶ月余りで少しは育まれた感性が、未成熟ながらにも伝える。
明確な敵意を――
「・・・・本気かよ・・・・」
タラーク軍主力兵器・蛮型とは異色な機体。
人型ではあるが、カタゴリーや規格からして別物の戦闘兵器である。
近距離専用の蛮型にはない、数々の砲撃装備。
重装備に身を固めながらも、バランスの取れている重量タイプ。
ラバットが乗っているのかは分からない。
ただ、カイは知っている。
ラバット船に乗っている人間は一人だけ。
その船より機体が出て来た以上、黒きボディの死神に乗りし者は―――
「・・・そうかよ。あくまで、俺と戦いたい訳か・・・」
黒い人型兵器は戦闘ユニットを気にもしていない。
じっと黙って、カイ機との戦闘を望んでいる。
何がどうなっているのかは分からない。
得体の知れない男なのは確かで、風体だって怪しい。
言動も謎めいていて、行動だって悪党そのものだ。
だけど、だけど―――
「・・・・・・・・・」
操縦桿を持つ手は、震えていた――
「・・・・あめえな。ここは戦場だぜ・・・」
モニターに映る蛮型を見つめ、男は冷酷に言い放った。
気づいた時には遅かった。
一瞬の逡巡、一秒に満たない迷い。
目の前から目を離した瞬間、それは行動を起こしていた。
「!?しまっ・・・・!」
外部状況を観察するレーダーより、警告が表示される。
カイはそれには目もくれず、前方を凝視していた。
敵機体に搭載されているミサイルポット、ツインキャノン、エネルギーポットにレーザーカスタム。
多一戦において抜群の威力を発揮する遠距離兵器の数々が火を噴いた。
一斉に――
「何だ、あの撃ち方!?」
全身に装備された必殺の武器が、急速接近してくる。
狙いはカイ機一機――
たった一体の蛮型を堕とすのに、充分どころの話ではない。
仮に数十機でも楽に壊滅出来る弾数と威力である。
もしも全弾着弾すれば、ヴァージョンアップしたSP蛮型と言えど大破どころか消滅する。
その証拠に、SP蛮型の警備センサーがレッドランプを点滅する。
「恨みでもあんのか、あいつ!?」
カイ機一体に異常過ぎる集中乱雨である。
刈り取りならまだしも、相手は有人機である。
倒すにしても冷酷にして慈悲の無い攻撃に、カイは肝を冷やした。
「正気かよ、くそう!」
大多数のミサイルやレーザーの雨が押し寄せてくる。
カイは慌てて回避行動に移ろうとし――その操縦桿を止める。
(俺が逃げたら・・・・)
操縦桿を固く握り締め、手は汗ばんでいく。
カイはごくりと唾を飲む、顔を苦渋に満たす。
(・・・俺が逃げたら・・・・後ろは・・・・)
カイが今居る場所―――
もしもその場を離れれば、カイの居た空間をすり抜けて攻撃は背後へと向かう。
後ろにいる船、ニルヴァーナへと――
(くっ・・・大丈・・・ニル・ヴァー・・シールド・・・でも・・当た・・・ただじゃ・・)
攻撃は急加速で来襲している。
入り乱される思考は散り散りとなり、形を為さない。
フル回転する頭は情報を切り替えて、最善の選択を選ぼうとする。
最善。
自分にとっての最善は――
自分が助かる事?
女をかばう事?
傷つく事?
何もしない事?
(・・・俺・・・俺・・は・・・)
仲間じゃない。
味方でもない。
マグノ達は、敵。
海賊行為は、認めない。
今見捨てれば――
(・・甘さを・・・捨てれば・・・)
「おおおおおおおおおおおおっ!!」
構えていたホフヌングより、矢が放たれる。
敵殲滅を狙っていた矢はエネルギーを纏いて、標的に突き刺さる。
破裂する矢と攻撃の渦――
膨大な爆発は砲撃を巻き込み、レーザーを撹乱させて、ミサイルを相殺した。
「ってやっちまった!?」
決別する心とは裏腹の身体の反応。
何時も何処でも出てしまう反射的な行動に、カイはげんなりとした。
「俺って一体・・・・」
何だかんだ言っても庇ってしまう。
意味の無い事だと知りながら、それでもやってしまう。
うんざりするが、繰り返してしまうのだ。
「ま、いいか。んな事よりも、問題はあの親父だ」
腕まくりをして、カイはきっとモニターを見据える。
「飯奢ってくれたから遠慮してたが、いい加減むかついてきた。
こうなったら相手してやるぜぇ・・・・ぇぇぇぇぇえええええええっ!?」
カイは我が目を疑った。
攻撃を止められたと安堵していたのだが、とんでもない。
危機は全く去ってはいなかった。
人型兵器は次から次へとミサイル類を撃ち、カイ目掛けて発射していた。
まるで撃つのを楽しむかのように、全兵器を放出し続けている。
その数、先程の数倍以上――
「そこまでやるか、あのくそ親父ぃぃぃ!?」
ホフヌングは発射したてで余分なエネルギーは無い。
嵐のような爆撃を迎撃するには五秒以上は確実に必要となる。
迷っている暇も無い。
カイはホフヌングを停止させ、弓からランス形態へと切り替える。
ペークシス粒子が覆う槍が輝きを放ち、命の鼓動を漲らせる。
カイはそのまま前進特攻し、攻撃の渦に飛び込んだ。
「おらおらおらっ!ととっ!?わったった!?」
ミサイルを弾き飛ばし、砲撃を貫き、盾でレーザーを防ぐ。
情報センサを最大限活用して、ランスを振り回す。
細長い光の槍は怒涛の攻撃を防御するが、次から次へと攻撃は押し寄せてくる。
あくまでもカイ個人を撃墜するつもりなのか、集中的に狙われていた。
「うぐっ、ぐっ!?がっ、ちっ!」
槍の軌道がぶれ、ミサイルやレーザーが着弾する。
数十防いでも、数百発くれば意味が無い。
例え遮っても、ミサイルや砲弾は爆発して余波をくらう。
何とか背後に攻撃が向かうのは防げているが、蛮型に無数の傷が生まれる。
同期しているカイも同じ――
「はあ・・・は・・・・・はあ・・・・」
服が破れ、血が滲む。
腕に巻かれた包帯は紅に染まり、雫を垂らして床に零れる。
全身が裂傷に覆われ、カイの表情は苦痛に歪む。
「ぐぞ、この・・・まま・・・じゃ!やば・・・い!?」
攻撃が突破されるのは時間の問題。
カイは歯を食いしばり、耐えるしかなかった。
(考えろ・・・考えろ・・・・
こんな連続攻撃、長くは続かない。
でもこのままじゃ俺がもたない・・・
そうだ!)
「ブースト、最大噴射・・・・・・!」
ランスを横薙ぎすると同時に、背中より膨大なエネルギーが噴出される。
熱い噴射はカイ機を背後へと急加速させた。
「ランス解除・・・・・・・・!!」
見る見る内に攻撃の嵐から遠ざかり、カイ機は後ろに進む。
手に取る槍は形を失って、元の形態に戻っていく。
多種多様な攻撃の群れはカイを追いかける。
そして辿りつきしは――
「ホフヌング、起動!!!」
―母船・ニルヴァーナ―
カイ機はそのままニル・ヴァーナの頭上に加速し、そのまま着地する。
槍は完全に消えて、手にしは白き光を放つ弓――
「気に入らない色なら」
光より生まれた弦は一本の糸となり、腕より蒼き光が束ねられる。
「好きな色を塗ればいい」
攻撃は迫りくる――
「波長が違うなら」
ホフヌング。
弓矢にして――
「同調させればいい」
エネルギーを塗り替える兵器――
「これで終わりだ、くそ親父!!」
ニル・ヴァーナより生まれた光は瞬時に黄金色の矢となり、放たれる。
その威力、通常の優に数十倍――
金色の矢はミサイル群をあっけなく消失させて、人型兵器へと向かい――
すぐ横をすり抜けていった――
「・・・・へ、本当にあめえな。あの野郎・・・」
男―ラバット―は、きょとんとしている相棒の無事なる機体を見て笑みを浮かべた。
安堵と温かみを乗せて――
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