VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 8 -Who are you-
Action24 −出現−
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攻防戦は続く――
黄色い三角形のシンプルな型をした戦闘ユニット・セキュリティメカは、次第にその数を減らしてはいた。
優れた機能と腕を持つドレッドチームの奮戦ゆえの結果である。
ミッション側もミッション側で負けていない。
機体の減少に比例して、ミッションは新しい機体を排出している。
戦力ではマグノ海賊団側が、総機体数ではミッション側が一歩リードしている。
両者互いに引かずに戦い続けているが、両者には決定的な違いがあった。
無人機と有人機。
消耗戦におけるこの差は大きい――
「戦闘ユニット、十機撃墜。ドレッドに被害なし」
「ミッション、ユニット射出。およそ二十機です」
概況を逐一伝える二人のブリッジクルー、アマローネとベルヴェデール。
善戦かと思えば変わらず。
繰り返しの報告が続き、ブリッジ内は息苦しい空気が蔓延していた。
この旅における戦いは勝利以外にありえない。
勝利し続ける事が当たり前で、敗北は即全滅を意味する。
神経質になるのは当然だが、重い雰囲気を孕んでいるのには変わりは無い。
『どうするんです!?一旦逃げますか?』
「駄目だ。現状維持だよ」
戦闘勃発により、ニル・ヴァーナ操舵を勤めるバートはナビゲーション席にいた。
空間に取り込まれている状態でのバートは船の目となり、外部状況を的確に把握出来る。
戦闘中の母船管理の役割と、船の情報源となるバートの任務は重い。
戦闘中は常に休む事を許されず、バートはナビゲーション席内でリアルモニターしていた。
そのバートの目からしても、戦況は良いとも悪いとも言えない。
いい加減戦いには少しずつ慣れては来たが、目の前で死闘が繰り広げられている感覚はどうしても恐怖を呼ぶ。
生来臆病なバートには過酷な勤めだった。
静かな声でバートの言葉を否定するマグノだが、その心境は理解している。
泣きそうな顔をするバートに、少し表情を和らげて答えた。
「皆、頑張っているんだ。
辛いだろうけど、もう少し頑張っておくれ」
『はあ〜、了解っす・・・』
親身に出られると、強くは出れない。
バートは渋々了承し、自分の仕事に戻ろうとする。
そのまま通信を切る姿勢に入り、バートはふと思い出したようにマグノに顔を向ける。
『あ、あの・・・・聞きたい事が』
「何だい?逃げるのは却下だよ」
『もう言いませんよ!
あの・・・・な、何か連絡とかありました?』
言い出し辛そうに聞いてくるバートに、マグノは法衣の下で顔を覗かせる。
「?誰からのだい?」
『い、いえ、その・・・・カイの事なんですけど・・・』
口をもごもごさせて、バートは言葉尻を小さくする。
カイの名が出た瞬間、マグノはバートが何を聞きたいのかを察する。
少しの間押し黙り、瞑目してマグノは言葉を漏らす。
「・・・・まだ連絡はついてないよ・・・・」
『そ、そうっすか・・・・・すいません、変な事聞いて。
ではバート=ガルサス、任務に戻ります!』
大仰な敬礼をして、バートはそのまま通信回線を閉じた。
口調は明るく何も気にしていない様子だが、マグノの目は誤魔化せない。
連絡付かずと言った時、バートの表情が一瞬翳ったのを――
マグノは嘆息し、そのままブリッジを見回す。
艦長席の傍らで指示を行っているブザム。
ドレッドチームと連絡を取り合うエズラに、戦況把握に従事しているアマローネ達。
目の前に真剣になっているが、どこか焦りが見えた。
客観的に見れば、何が彼女達を駆り立てているのかが分かる。
予期しなかった戦闘に仲間の遭難。
カイの事はともかくとしても、メイア達の行方不明が皆に不安の影を落としている。
副長であるブザムはそれに加えて、戦いの苦戦ぶりが神経を尖らせているのだろう。
今戦っている敵は刈り取りではない。
本来戦わずしてよい相手と戦わされ、余計な物資を使わされているのだ。
部下も被害に遭い、物資は手に入らず、少なからず痛手を被る羽目になった。
今回ミッション探索の総指揮の立場であるブザムは、強く責任を感じている。
ブリッジの重苦しい雰囲気を和ませるのに、自ら口を出すのは逆効果だろう。
お頭である自分が下手に励ましをかければ、逆に重圧になってしまう。
全ては、もう、起こりえてしまったのだから――
戦場からの轟音やクルー達のやり取りで騒がしいブリッジだが、マグノには奇妙な沈黙に感じられてならない。
息苦しさに思わずマグノは顔を歪めた時、
「新たな機影、確認。
・・・・デ、デリ機に接舷しています!?」
「何だって!?」
アマローネの戸惑い混じりの報告に、マグノは驚愕の表情を浮かべる。
新たな船の出現もさることながら、接舷という言葉が引っ掛かった。
攻撃されたのならまだ分かるが、何故デリ機が正体不明の船とのドッキングを行っているのか?
マグノの疑問を代理するように、ブザムが命令を飛ばす。
「モニターに出せ。エズラはガスコーニュに連絡を」
『ラジャー!』
二人の行動は早かった――
ブリッジ中央モニターにデリ機周辺の様子が映し出され、デリ機に通信が繋がる。
「ガスコーニュ、無事か!?応答しろ!」
ブリッジクルーの誰もが見ても、映し出された船の映像に心当たりはない。
タラーク・メジェール、今までの刈り取りにもない型の船――
トラブル続きという事もあり、ブザムはその船が敵である可能性を考慮し、連絡を取る。
「何だい、BC。そんな大声を出して・・・・
アタシはこの通りピンピンしているよ」
危機感を募らせる皆に対し、返って来た声は気楽そのものだった。
ブザムは内心安堵するが、次に生まれたのは疑惑だった。
「今ドッキングしているその船は何だ?
一体何をしている」
『次から次へと忙しないね・・・・・
ま、あんたらしいけどさ』
映像の向こうで苦笑し、ガスコーニュは話を切り出す。
『大丈夫、何も問題はないさ。
今来ているお客さんは誰かと聞かれてもね・・・・
アタシも知らないんだから、答えようがないよ』
「?言っている意味が分からない。
先程任務の途中で帰艦した事と関係はあるのか?」
戦いの最中にも関わらず,ガスコーニュは一度ニル・ヴァーナへと戻って来ている。
咎めたブザムにもガスコーニュは何も言わず、また飛び出して行った。
そして今、また何かをしでかしている――
ガスコーニュへの信頼の厚さゆえ目を瞑っていたが、さすがに限度がある。
憤然とするブザムに、ガスコーニュが余裕を持って答えた。
『説明するより見てもらった方が早い。
・・・そっちの準備はいいかい?』
中央モニターの向こう側で、ガスコーニュは顔を横に向けて誰かと話す。
応答があったのか、ガスコーニュはしきりに頷きながら手元を操作している。
やり取りが聞こえないブザムやブリッジクルー達は、半ば呆然と見送るしかなかった。
やがて話も終えたのか、ガスコーニュは再び正面を向く。
「お頭、それにBC。もう大丈夫です。
メイア達の事も、目の前の敵も、全部片付きます」
自信による満面の笑みに、ブザムは何を言っているのかと表情を険しくする。
何ともならないから、今の現状があるのではないのか?
不信なブザムとは逆に、マグノにはピンと来た様だ。
それまでの重い顔付きが嘘のように晴れ渡る。
ゆっくり艦長席に身を沈めて、マグノは穏やかに口を開いた。
「・・・相変わらずいいタイミングで来てくれるね、あの坊やは」
「!?で、では・・・?」
マグノの言葉にブザムも合点がいき、表情を変える。
本人は自覚していないようだが、険しい顔つきが薄れ、血色も良くなっていた。
マグノもガスコーニュも微笑んだまま、何も答えない。
二人の笑顔を交互に見つめ、ブザムは息を吐く。
「ガスコーニュ、お前も人が悪い・・・・黙っていたな。
いや、あの男が黙っていろと言ったのだな」
『ふふ・・・・』
そこへ、声が飛び込む。
暗い雰囲気を吹き飛ばすかのような、ベルヴェデールの弾んだ声が――
「デリ機よりヴァンガード一機、射出。
カイ機です!!」
声に導かれるように、一同はモニターを見つめた。
「やっぱり落ち着くよな、こいつの中は」
ラバット船から乗り次いで、ようやく出撃したカイ機。
通称SP蛮型と呼ばれる黄金の機体は、宇宙において輝くようにその存在を鼓舞している。
情報ライン、外部モニター、センサー系統異常なし――
鳥型戦闘時の破損は完璧に修復されており、計器類も回復。
整備も良好で、カイはコックピット内から言葉無き感謝をした。
無理な自分の頼みを快く引き受けてくれた二人。
デリ機に乗り込んで機体を一目見て、二人が万全に仕上げてくれた事が分かった。
「お前らの期待は裏切らないぜ。パルフェ、ガスコーニュ」
口にして、カイは力強い瞳を前に向ける。
日にちにして数日程度だが、随分離れていた感じのあるコックピット。
何時の間に定着したのだろう――
戦いを前にして落ち着いている自分が不思議だった。
これまでの二ヶ月間、泣き、怒り、笑い、悲しんだ場所。
辛い事や苦しい事もあり、その度にここで乗り越えて来た。
そして今、またここへ帰って来た。
自分の居場所――
人生におけるほんの短い間だが、そう呼べる場所になっていた。
カイはふと後ろを振り返る。
見えるは腰掛けるシートに無骨な鉄の壁。
思うは己の後ろにありし一つの舟――
戻らぬと心に決めておきながら、彼女達の前にいる。
疎まれていると知りながら、守るように敵に対している。
見つめていても懐かしさはわかない。
カイは思う。
今ここにいる充実を、いずれあの舟でも感じられるようになるのだろうか?
居るだけで身も心も安らぐ場所になるのだろうか?
今はまだ、分からない。
分からないからこそ、戦う――
「さーて・・・・いっちょやってやるかっ!」
カイの意気込みに応えるように、計器類が点滅する。
モニターには前方の様子が映し出され、幾つかの機体が遠くから向かってくるのが見えた。
飛び出して来たSP蛮型を敵と定めたのだ。
カイは操縦桿を握り締め、表情を引き締める。
「いい機会だ。
刈り取り連中と戦う前の実験台にさせてもらうぜ」
蛮型による望遠で見ても、ぼんやりとしか見えない程の敵との距離。
従来のブレードタイプでは決して届かない。
近距離戦に持って行かなくてはいけない為、いつもなら敵陣に斬り込んでいる。
今までなら――
「・・・新型・・・・・・」
眼前をきっと見据える。
「・・・遠距離兵器・・・」
背中の盾型が光り、二十徳ナイフが変形し――
「『ホフヌング』・・・・起動!」
――瞬間――
――目を奪われた――
「・・・何・・・あれ・・・・」
見ていたアマローネが呆然と言葉を紡ぐ。
見えない訳ではない。
目に収めても、理解不能な光景だった。
誰もが息を呑んで見つめる中、マグノが口を開く。
信じられないという顔をして――
「・・・・・・あれは・・・・」
SP蛮型新兵器『ホフヌング』。
それは――
「・・・弓・・・?」
光に包まれた凛々しき弓であった。
<to be continues>
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