VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 8 -Who are you-
Action16 −追従−
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「・・・くすん・・・・・」
つんと鼻の奥が詰まる。
目元が熱くなり、激しい衝動が胸の内から湧き上がってくる。
出来る事なら、このまま身を任せたい。
荒げる熱に身体をそのままにして喚き出したい。
そう――泣きたい。
片隅でうずくまりながら、ディータ=リーベライは一人落ち込んでいた。
「・・・・宇宙人さん・・・・」
船から姿を消して二日。
当たり前だが、船の何処を捜してもいなかった。
敵と共に飛び出して姿を消してしまった人――
彼が何を考え、どのような行動をしたかは後で知った。
全てが終わったその後で――
何も手伝えず、何も出来ずに事は終わっていた。
船の危機を、自分達の危機を全て救ってカイはいなくなってしまったのだ。
事情を知った当初は嬉しかった。
また助けてくれたのだと、皆を救ってくれたのだと。
ただ純粋に嬉しく、カイを誇らしく思った。
こんなすごい人が自分と同じ船にいる。
自分と共に生活をし、自分とこれからも旅を続けてくれる。
とても誇らしかった。
カイがいる限り、自分達は大丈夫だ。
きっとどんな危険も彼が取り除いてくれる。
どんなピンチも颯爽と解決し、平和をもたらせてくれる。
カイ=ピュアウインド――
明るい笑顔が似合うあの人は、本当にヒーローだ。
自分達全員を助け、支えてくれる宇宙人だ。
予感は月日が経つ毎に確信となり、確信は核心となった。
宇宙人の存在に憧れ、信じ続けたあの日々は幻では終わらなかった。
仲間の誰もが馬鹿にしていた自分の偶像―
いる筈がないと一笑された宇宙人――
いたのだ。
この世界に、この宇宙に―
カイ=ピュアウインドという存在が。
ディータは思う。
カイと自分との出会いはきっと運命だったのだと――
「・・・・・・」
ディータの頭が垂れる。
船から飛び出して一日。
ディータはカイは生きていると信じて疑わなかった。
死ぬ訳がない。
自分の信じる宇宙人が、悪い宇宙人にやられる筈がない。
きっと、自分では到底出来ない何らかの手で生き残っている。
悪い宇宙人を全部倒して、何処かで悠々と生きているに違いない。
ディータは疑わなかった。
また近い内にきっと出会える――
元気な姿で再会出来て、カイは笑顔を向けてくれるに違いない。
ディータはその日を想像し、彼のいない寂しさを埋めていた。
今度会ったときはどうしよう?
ありがとう――
感謝の言葉。
ごめんね――
お詫びの言葉。
すごいね――
賞賛の言葉。
考えば考える程心は躍り、その日が一日でも早く来る事を願って止まなかった。
会ったその時はあの人の胸に飛び込もう――
嫌がるとは思う。
『ひっつくんじゃねえっ!』
嫌そうなカイの顔が脳裏でぶれ、その度にくすっと笑ったものだった。
嫌がられてもいい。
絶対に抱きつこう、あの人の胸の中に飛び込むんだ。
何度でも飽きないカイの感触。
そして、温もり――
自信満々なカイの顔を見て、自分もまた安心出来る。
早く会いたいな――
ディータの思いは尽きる事無く、感じられる時間のまま募っていった。
そして―――ついにその日が来た。
今日という、切実していた日。
再会への兆しが――
宇宙中継基地・ミッション。
カイがいる可能性が高いとされている基地で、内部調査を命じられた。
ディータは一も二もなくリーダーへの立候補をした。
自分が一番に会うんだ――
リーダーやお頭達は何やら案じているようだが、心配する事なんて何もない。
カイは無事で、あの中で元気でいる。
目の前の大きな建物の中でいて、独りで頑張っているだろう。
だからこそ、リーダーになる。
リーダーなら一番にカイに会えるから。
カイに最初に会って、カイに飛び込めるから――
その時はちょっと泣いちゃうかも知れないけど、カイなら許してくれる。
会いに行こう、カイに――
そう思い、ディータはリーダーへの志願を行った。
会えると信じていたから。
カイに出会えれば、如何なる危険があっても取り除いてくれる。
仲間に、自分に安心を与えてくれる。
皆ミッションに行く事に警戒はしているけど、カイがいるなら安心だ。
そう、信じていた。
なのに・・・・・・
「・・・・・ぐすん・・・」
ディータは先程のやり取りを思い出す。
『・・・どういうつもりよ、一体』
ミシェール。
ディータと同期の新人パイロットで、所属も同時期だった女の子。
年はディータと同じだが、顔立ちは凛々しく大人びて見える。
ディータと共に出撃をしているが、仲の良さは普通だった。
マグノ海賊団でははみ出し者に近いディータだが、ミシェール本人にもいい感情は持たれていない。
そんな彼女から呼び出しを受けたのはついさっき。
閉じ込められて困惑していたディータを無理やり隅に引っ張ってきたのだ。
『ど、どうって・・・・』
何?と聞く前に、キッとした瞳で睨まれるディータ。
『仮にもチームリ−ダーでしょう!
なのに、ずっと足引っ張ってばかりじゃない!
自分勝手な行動ばっかりして』
『で、でもディータは宇宙人さんを・・・・』
『いい加減にして!』
弱気な声をあげるディータに、きつい口調でミシェールは遮った。
クールな顔をしてはいるが、全身からは怒りが漂っているように見える。
事実、ミシェールの言葉は辛辣だった。
『何かあったら宇宙人、宇宙人・・・・
リーダーはあんたなのよ!
今回の事にしてもそう!
考えなしに追いかけたりするから、こんな罠に嵌ったんじゃない!
少しは責任感じてる!?』
少し、語弊はある。
床の血を追う事を決めたのはディータではない。
一存で決められた訳ではなく、全体の意思をメイアが決定して行動したに過ぎない。
そういう意味ではディータを責めるのはお門違いだろう。
が――
ミシェールもまた、間違ってはいない。
ディータも気づいてはいる。
だからこそ、落ち込んでしまう――
『どうせリーダーになったのも、あの男が絡んでいるからでしょう?
自分の私情で動くリーダーなんて最低よ!
命令に従わなければいけない私達はいい迷惑だわ!』
『・・・・・・・・』
言い返せなかった。
ディータは俯いて、身体を震わせる事しかできなかった。
声を出せば、泣き声しか出そうになかったから――
そんなディータを目にして、憤りも収まったのかミシェールは嘆息して言う。
『とにかく、何とかしてもらいたいわ。
私達だけじゃどうにもならないし・・・・・
もしディータが何もしないんなら、悪いけど私達は全員チームから外させて貰う。
メイアに指示を求めるから』
閉鎖的な状況で、何も出来ず歯痒いのはミシェールも同じ。
何も出来ないから、リーダーに何とかしてもらう。
その責任を負っているからこそ、リーダーはリーダーたりえる。
今のディータにその資格はないと、ミシェールは断じた。
『・・・・もうちょっとしっかりしてよね・・・・』
別れ際の言葉が痛かった。
ミシェールが離れていくのは分かっても、ディータはその場にじっと佇んでいた。
「宇宙人さん・・・・・」
座り込んだまま、ディータは手元をぎゅっと握る。
皆が困っている――
ミシェールに指摘されなくても、周りを見ればすぐ分かる。
どうすればいいのかも分からず、ただ困っている。
不安になっている――
分かってはいるが、自分ではどうしようも出来ない。
出来ないのだ。
やりたくない訳でも、やらない訳でもない。
どうしてあんなに酷い事を言うのだろう?
心の何処かでそう思いながらも、ミシェールの言葉は胸に痛かった。
『リーダーはあんたなのよ!』
重かった――
言葉の意味が、責められる意味が分かるだけに重かった。
失敗は自分だけに留まらない。
何か間違いをすれば、他の皆にまで迷惑を及ぼすのだ。
今までは失敗しても、誰かが何とかしてくれた。
自分は新人だから、下っ端だから。
何より、弱いから――
自分よりも強い人が何とかしてくれる。
そう思っていたから、今まで戦ってこれたのだ。
『自分の私情で動くリーダーなんて最低よ!』
今は違う。
失敗すれば、自分だけの責任では済まない。
笑って誤魔化す事は出来ない。
誰かに頼る事も許されない。
何かあれば、自分の部下にまで迷惑をかけてしまう。
何もかもが自分一人では許されない。
当たり前だった。
それがリーダー、人の上に立つ存在。
自分一人が自覚してなかったのだ・・・・・
『お前にリーダーはまだ早い。
意気は買うが、気持ち一つで行える程軽くはない』
メイアの忠告が今になって身に染みる。
カイを助けたいという気持ちも、重圧に潰されて消えてしまいそうだった。
心の底から落ち込んでいた。
ここに来たのは、助けたかったから――
いつもいつも助けてくれる人。
大丈夫だって励ましてくれる人。
笑顔でどんな事でも乗り越えられる強い人――
その人を助けたくて、会いたくてここまで来た。
そして――
もう大丈夫だよって言いたかった。
私だって頼りになるんだよって胸を張りたかった。
そうすれば、あの人はきっと私を頼ってくれる。
傍に居させてくれる――
あの人は強いから、いつも独りぼっちでいる。
独りが怖くないから。
独りで何でも出来る人だから。
私なんて、傍に居なくいても平気な人だから。
だから―――――
――役に立ちたかったのに――
「・・・ぐす・・・・うぐぅ・・・・」
堪えられなかった。
たまらなく自分が惨めで、小さい人間に思えた。
カイが自分を頼りにはしないのも分かる気がした。
何時も邪険にされるのも、自分が弱いからかもしれない。
自分という存在が足手まといだから、カイは――
『・・・ディータ・・・・』
「え・・・・あ・・・ロボットさん・・・」
頬を濡らしたまま顔をあげるディータの前を、ピョロが浮かんでいた。
ディータは慌てて涙を拭こうとして、ふと違和感を覚える。
ピョロの胴体。
小型モニターのあるその胴体の画面は通常顔の機能があり、真ん丸な目が映っている。
その筈なのだが・・・・・
――画面には何も映っていなかった――
『・・・・カイは・・・ディータをきらってないよ・・・』
「え?え?ロボット・・・さん?」
ピョロの発する声。
機械的な音質のピョロの声が今、まぎれもなく幼い女の子の声を出した。
<to be continues>
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